古雪椿は勇者である   作:メレク

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みーちゃん誕生日おめでとう!うちは本編更新だけですが...ごめんね

ところで、1話のサブタイわかった人いますかね?自分とかぶりやすいとは思いますが...


36話 照らす月に導かれ

「...いい天気だなー」

 

くぐもった声が俺の耳に響く。

 

「なんですか?」

「...ひとりごと」

「紛らわしいですから、抑えてくださいね」

 

後ろのひなたに言われるも、喋るなと言われた方が喋りたくなるものだろう。

 

「ぁー...」

 

 

 

 

 

あの後。体が急激に壊れ、一人で立てない体になった。声もがらがら、自由に動くのはミサンガのついた左手だけだ。

 

起きてからすぐ動けたのは、自分のことを顧みなかったからなのか、それとも力を与えてきてくれた彼女の置き土産か。

 

今は車椅子で生活している。戦衣を常に纏っているため車椅子に乗った幽霊みたいなやつということで病院で有名だ。怖がられてるお陰で、この世界で行った悪行についてで責められることはないのでありがたい。

 

「よく、生きてたわね」

「千景さん、検査は?」

「終わったわ。私は七人御先しか使ってないし、そこまで精神ダメージもない」

「...よかったな」

「こっちの台詞よ」

 

普通に歩いている千景は、やれやれといった風にため息をついた。

 

「...乃木さんが外に出た貴方を助けに行かなかったら、溺れて死んでたんだから」

「溺れたのは自分でも覚えてるよ。よく生きてたよな...振り返ると、絶対死んでだと思う」

「...なんて?」

「ですよねー、長い言葉なんて聞き取れませんよねー」

 

樹をならってスケッチブックは購入済み。手早く文字を書き込んで見せつける。

 

「そうね...生きててくれて、本当によかったわ。詳しくはまだ知らないけど、上里さんが何かしようとしてたのも止めてくれたんでしょう?」

「はい♪それはもう颯爽と」

「それで、自分がこうなってたら仕方ないわね...」

「あの時は平気だったんだよ」

「傷の治りが早すぎて本当に精霊かと思いました」

「精霊云々はあの場で適当にでっちあげただけだから...」

「なんの話?」

「なんでも」

 

庭に出ると、太陽が必要以上に光を放っていた。からっとした天気なので、風が吹けば丁度良い気温だろう。

 

「ちょ、無理しないで!」

「しますよ!皆さん!」

「杏さん!」

「伊予島さん、起きたのね」

 

後ろから俺達の元に来たのは安芸さんの忠告を無視する杏だった。

 

「よ、杏」

「椿さん...」

「気にするな、すぐ治る」

「千景さんは」

「私はほとんど完治してるわ。伊予島さんは...左腕?」

「はい、前に進化体から傷つけられたところがまた動き難くなってて...」

「はーい!じゃあ検査いくよー!」

「ま、待ってください!あの、皆さん!タマっち先輩は?真鈴さんに聞いても答えてくれなくて...」

 

咄嗟に二人の瞳が揺れる。杏はそれに気づかない。

 

俺はスケッチブックに文字を書く。

 

『若葉、ユウ、球子はまだ起きてない。特別室にいる』

「っ、そんな...」

 

高位精霊を強引に降ろしたと言われた球子。

 

高嶋友奈が消えてから未だに起きないユウ。

 

戦闘終了後、溺れてた俺を助けてくれた若葉。

 

三人はまだ、眠っている。

 

 

 

 

 

あれから二日が経った。ひなたに無理やり体を洗われたり、千景とオセロしたり、杏と片手ずつ使って本を読んだり、一人黙々と作業したり、何でもないような生活が続いている。

 

全員が、空回りしてるような。

 

「よっ...と。この調子なら二日もせずに全快かな。強化してくれた春信さん様々だぜ...ほんと」

 

ぎこちなく歩いていたのを椅子に座ることで安定させ、辛うじて動くようになった右手でリンゴを持って、左手で果物ナイフを動かす。結果として少し歪なリンゴを作り出す。

 

(そろそろか...)

 

あとどのくらいこの世界に留まれるのか。数日の範囲には既に入っている。

 

(文章は左手だと汚いし、手紙みたいなのを書くより直接言いたいし...)

 

いざ別れの場で言えることなんて少ないかもしれないが、それでもちゃんと俺の口から言葉を伝えたかった。

 

「だから、起きてくれ」

 

切り終えたリンゴを皿に乗せて、左手を若葉の左手に重ねる。

 

「助けてくれたお礼を、直接言わせてくれよ。頼むよ......」

 

この世界ではもう泣かないだろうと思っていた。だが、頭が最悪のケースを勝手に考えて涙が溢れる。

 

「若葉...球子、ユウ...!」

 

その日、俺が自分の病室に戻るよう言われるまで、何かが変わることはなかった。

 

 

 

 

 

だから。

 

 

 

 

 

「タマ...ふっかーつ!!」

「球子、病室では静かに」

「でも他の皆はどうなったかなー...あ、椿君!」

 

次の日、開けた病室の先でさも当たり前の様に全員が起きてたのを見て、驚きやら嬉しさやらでまた涙が出てきた。

 

「っ...お前らぁ!!」

「うおっと!?」

「つ、椿!?」

「ぎゅー!」

 

 

 

 

 

検査が終われば、暗い気持ちは全部消えていた。

 

球子が降ろした八岐大蛇、若葉が降ろした大天狗は強力な精霊だったものの、肉体、精神共に定期検診だけで済むとのこと。包帯が多いのは痛々しいが、それでもまだマシなんだそうだ。

 

『どうだ!タマも強いだろう?』

『...あぁ。凄いよ』

 

ユウの後遺症はほとんどなかった。本人は「助けてくれたんだ...」と言うだけで、でもなんとなくわかった。

 

全員の検査が終わった夕方には、七人が寮に帰っていた。一つの道を皆で歩く。

 

「助けてくれたって聞いたよ」

「外に飛び出してなかなか帰ってこなければ不安にもなるさ。まさか海に落ちてるとは思わなかったが...」

「水浸しの若葉と椿を見たときはおっタマげたぞ」

「タマっち先輩もすぐ倒れちゃったしね...」

「でもでも、皆こうしていられた!大変なことはあったけど...」

「そうね。勇者システムは回収、これから私達に出来ることは少ないでしょうけど」

「いいえ。これから復興です。やるべきことは沢山ありますよ...でも、力を合わせれば」

「ひなた...そうだな。私達にやれることもきっとある。ここから新しいスタートだ」

「じゃあ、こんなのはどうかな_______」

 

勇者部が依頼の解決方法を相談するように、日常の会話を過ごす。道は続く。

 

(...あぁ)

 

こうして笑う彼女達を見れて、よかった。

 

(これなら...安心して行けるな)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「椿君、どうしたの?こんな夜遅くに...」

 

もう夜中という時間に、私達は椿さんの部屋に来ていた。七人入るには小さめな部屋。

 

「...お別れの時間だからさ。朝まで持ちそうになくて」

『!?』

 

椿さんが部屋の明かりを消すと、月明かりと、淡く光る椿さんが私達を照らした。

 

「お、お別れ...?」

「ま、待てよ椿!?急すぎるだろ!?」

「そうです!まだ準備が!」

「体が光ってるのに気づいたのさっきなんだし仕方ないだろ...」

「せ、せめてあと一日、待ってもらえませんか...?」

「俺が滞在時間を弄れるなら、そうしてもよかったんだけどさぁ...ここに来たのは俺の力じゃないし。それにそんなことしてると、いつまでも帰るのに踏ん切りつかなさそうだし」

 

椿さんが一人一人を見る。

 

「...半年とちょっと一緒に過ごして、ずっと過ごしてきた人生と天秤にかけて比べなきゃいけないくらいには、ここの生活は楽しかった。喧嘩もいざこざもあったけど...言葉だけじゃ伝えられない、かけがえない大切なものだった。本当にありがとう」

「椿...私からも礼を言わせてくれ。私達と共に戦ってくれてありがとう」

「そうだぞ!椿は仲間だもんな!」

「...古雪君」

「いや、うん。言いたいことがあるってのも分かるけどな...」

「...別に、なんでもないわ」

「お別れは悲しいけど...椿君が帰れるならよかったよ!」

「ユウ...」

 

私と椿さんの目が合ったとき、椿さんの目が見開いた。

 

「ってひなた!?なにも泣かなくたって!?」

「泣きもしますよ!!私だけ止まらないのが恥ずかしいから言いますけどね!絶対皆さんだって涙抑えてるんですからね!!!」

「ちょ、ひなた!?」

「ひなちゃんダメ!椿君帰りにくくなっちゃうから!!」

「いいんです!!こんなに突然帰ります報告なんてする人!困っちゃえばいいんですよ!!」

「ひ、ひなた...そうだよな」

 

私の、今にも叫んでしまいそうな心を隠すための大声にわざわざ反応してくれた彼は、私をそっと抱きしめてくれた。

 

「許してくれ...って言える立場じゃないか。せめて笑ってくれ。俺がいなくなってからも笑って、楽しく皆と過ごしてくれ。離れてても繋がってる。遠くから祈ってるから」

「......ずるいです」

 

そう囁かれて、断れるわけがない。

 

「...貴方がそれを望むなら」

「つ、椿...ひなたに近すぎなんじゃないか?」

「あ、悪い」

「若葉もくっつけばいいだろ!!」

「ちょ、球子!?」

「杏も千景もドーン!」

「わわっ!」

「きゃっ」

「タマちゃんも私もドドーン!!」

「ちょっと、お前らっ!?」

 

おしくらまんじゅうの様にぎゅうぎゅうにされて、でもそれが凄く好きで。好きな人達に囲まれる幸せを、味わえなかった筈の幸せを心から受け入れる。

 

「あ、逃げるな椿!」

「逃げるわ!?俺は男だぞ!?」

「さ、最後なんですし、良いじゃないですか!ひなたさん写真を!」

「...はい!お任せください!!!」

 

いつも忍ばせているカメラを握るころには、椿さんの光は月明かりより明るかった。

 

「...流石に無理かな」

「椿君っ...!」

「伝えたい事だけ伝えるぞ。俺に渡したいものでもあれば乃木家に受け継がせろよ」

「わ、私か...?」

「お前の子孫と仲良くしてるからな。あとは俺が消えたあとそこの引き出し開けること。さっきまで必死にやってた、ちょっとしたプレゼントだ」

 

声が薄れていく。彼が光る。

 

「椿さん!!」

「じゃあ...またな」

 

駆け出す。光を抱きしめる。定めた唇に唇を触れさせる。

 

「んっ!?」

「ーーっ!!!」

 

熱を移すように、二度とこの感触を忘れないよう押しつける。強く、強く。

 

私の想いが届いて欲しいと願って。

 

(...ありがとうございます。未来の勇者様)

 

視界が白く消えた後には、泡になって消えた。私はそのまま床に倒れる。

 

「ひ、ひなたっ!?大丈夫か!?」

「キ、キキキキキッ!?」

「杏落ち着け!」

「...上里さん平気?」

「ありがとうございます、千景さん。平気ですよ」

 

目元の涙を拭って、一つ気合いを入れた。

 

「さ!椿さんのプレゼント見てみましょう!」

「ひなちゃん...そうだね。この引き出しかな...?」

 

机にある小さな引き出し。開けると______

 

『俺も貰ったとき嬉しかったからさ』

 

「...ミサンガかしら?」

「六種類ありますね」

「この色...それぞれの髪の色か?」

 

『俺が残せる繋がりの証だ』

 

どこかから、そんな声が聞こえて__________

 

「...皆さんどれがいいかせーので指差しません?」

「お、いいぞ!」

『せーの!』

 

指差したのは、それぞれが別のだった。

 

「...まぁ、そうよね」

「あぁ。それぞれの色で作ってくれたのだから...」

「...椿君の気持ちが入ったものなんだよね」

「...よし!どうだ杏?」

「うん、似合ってるよ。タマっち先輩らしい」

「...忘れませんよ、椿さん」

 

なんとなく見上げた星空で、月が輝いていた。

 

 

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