ゆゆゆい編は古雪椿は勇者である 神世紀の章(結城友奈の章+勇者の章)、西暦の章(乃木若葉の章)の後の話となります。
また、原作となるアプリ、花結いのきらめき(通称ゆゆゆい)をある程度プレイしていることを推奨します。(一応やってなくても分かるようにはしたいと思っていますが)
以下の点にご注意の上お楽しみください。
スーツとタキシードの違いがよくわからないので、結局俺はスーツを選んだ。なかなかしないネクタイを結んで、鏡の前に立つ。
「椿さん準備出来ましたー?」
「あー雪花、丁度良い所に。チェック頼める...か......」
現勇者部のファッションリーダーたる秋原雪花を鏡越しに見て、俺は空いた口がふさがらなかった。
赤紫のドレスは本人の色気を最大限引き立たせ、大人の女としての印象が脳に刻み込まれる。
「オッケー...ってどしたんです?」
「い、いや...」
「あ、もしかして見惚れちゃいました?」
「っ...そうだよ、だからこっち見てくんな」
赤くなる顔を抑えられず、せめてもの反抗として顔をそらす。
「そ、そうですか...わ、私でそんなこと言うようじゃあ、他の人達見たら気絶するかもしれませんね」
「怖いこと言うな...あー、チェック頼む」
「はいはい。えーと...チェックなんていりませんよ」
「ちゃんと着れてたか...普段こんなの着ないから、少し不安でな」
「気持ちは分かりますけどね。とりあえず行きましょう」
「そうだな」
なるべく隣を直視しないよう心がけながら、俺達は部屋を出た。
(もう、一年か......)
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「今日の部活は?」
「ごみ拾いと幼稚園でやる人形劇の打ち合わせ」
「樹は?」
「レッスンないって」
「じゃあ乗ってくか?」
「元からそのつもりだったわよ」
下駄箱で靴を履いてバイクを動かしてくる。
「ヘルメットしましたねー?いきますよー」
「出発!」
他の人達を気にしながら道路まで出れば、基本は車がいない閑散とした道が続く_______筈だった。
「今日は随分多いなぁ...」
まるで去年までの通行量。こうした日は珍しい。
「なんかお祭りでもあったっけ?」
「ないと思うわよ?」
「だよな」
疑問は持ちつつもきっちり安全運転で讃州中学まで行けば、今日の活動に問題はでない。
「樹からメールだ...早く部室に来て。だって」
「そんな急がなくたってなんもないだろ...というかもうつくぞ」
四年目になる廊下を歩いて部室を開けた。
「部長、どうかしたか......」
ドアを開けた状態で俺は固まった。
部室には七人いた。友奈、東郷、樹、夏凜、園子、銀。
そして__________
「椿さんっ!!!」
「え!?なんでおまうぼわっ!!」
上里ひなた(いないはずの存在)からの熱烈なハグは俺を床に押し倒すのに十分だった。
「お久しぶりです!!また会えて嬉しいです!!!椿さん!!!」
ぽろぽろ涙を溢す彼女を見て、叩きつけられた衝撃はすぐに消えた。
「...俺も会えて嬉しいよ」
謎が頭の中を巡るものの、今だけは全てを忘れて彼女を抱きしめた。
「...あー、ひなたさん...」
「なんでしょう♪」
「そろそろ説明を始めて欲しいのですが...」
かれこれ再開から30分、俺の右腕をずっと抱いてるひなたに心音を聞かれないようしてるものの、ふにふにしてる柔らかい感触がそれを惑わせる。
(女子ってどうしてこうも...じゃなくて)
それに比例して、俺達を見てる勇者部部員の目から光が消えていっているのを感じた。
(流石に目の前でこんなの展開されたら誰だってやる気とか削がれるわなぁ...)
「ほらひなた!説明終わったらいくらでもくっついていいから!俺もそろそろ状況を知りたい!」
「言いましたね?約束ですよ?」
やっと離してくれたのを見計らって、銀が始めに口を開いた。
「それで椿、この人は?」
「あぁ、彼女は上里ひなた」
「え、上里家って大赦のツートップだったあの!?」
「しかも、300年前の巫女だよ」
「300年前!?」
「...それって」
「そう。俺が西暦時代に行った話はしたろ?その時一緒に生活してた一人だよ」
「あー!」
俺の話に出てきたのを思い出したのか、友奈が大きく声をあげる。
「ご紹介に預かりました、上里ひなたです。勇者部の皆さん、よろしくお願いいたしますね」
「ぶ、部長の犬吠埼樹です!よよろしくお願いします!!」
「おぉ!!見て夏凜!!樹が!!樹が初対面の人相手に一番早く自己紹介を!!!」
「はいはいわかったから...副部長の三好夏凜よ。よろしく」
「犬吠埼風よ!よろしくひなた!」
「はい。よろしくお願いします」
平和に自己紹介が始まったタイミングでひなたの隣を離れお茶の用意をする。俺の行動を察してか、東郷が隣に来た。
「ぼた餅とみた」
「正解です...ところで、何故西暦の巫女が勇者部に?」
「言えるのは、なんかしらの厄介ごとに巻き込まれたってことだろ。でも...大丈夫さ」
ひなたの存在を許容できるくらいには、異質な出来事には慣れてきた。それに________少なくとも俺は、一人じゃないから安心出来る。
「お前らがいてくれるからな」
「古雪先輩...」
「さて。お茶とぼた餅ですよーっと」
それぞれにぼた餅とお茶を配る。きっと話は長くなるだろうから。
「椿さん、ありがとうございます。それに...えーと」
「東郷美森です」
「ありがとうございます、東郷さん」
「自己紹介はどこまですんだ?」
「後は園ちゃんだけです!」
「...似てますね。本当に」
「俺もそう思うよ」
友奈を見るひなたが、誰の姿と重ねてるかなんて言う必要もなかった。容姿、性格、どれをとっても酷似している。
(酷似してるってだけなんだがな)
「私は乃木園子で~す。よろしくね~ひなタン」
「ひ、ひなタン...いえ、構いませんからそんな寂しそうな顔しないでください」
「ありがと~」
「それにしても...成る程、若葉ちゃんの子孫ですか。だから椿さん、ああいってたんですね」
「ん?あぁ。まぁな」
普段は服で隠してるサファイアのペンダントを見せると、ひなたは目を見開いて微笑んだ。
「それ、私達はまだ保管しはじめて半年程度ですが...随分綺麗に残りましたね」
「手入れもしてるが、見つけた時点でも綺麗だったぞ」
俺に渡したい物を乃木家に受け継がせることで、俺が受け取りやすくする。こうして300年の時を経て手に入れたペンダントは、俺の宝物だ。
「それで...自己紹介が済んだ所で、説明してもらえるか?何でお前が...西暦の巫女が、神世紀にいる?」
「お任せください。懇切丁寧に教えます」
お茶を一口すすったひなたは、「おほん」と前置きをする。
「まず始めに、ここは西暦でもなければ、皆さんがいた神世紀でもありません」
「え」
「正確言えば、神世紀ではあるのですが...あなた方の住む世界ではない。私達の時代のライトノベルでよくあった『異世界転生』ってやつですね」
「ちょ、ちょっと待って!?ここが異世界!?」
「はい」
夏凜が驚くのも当たり前で、俺も少なからず動揺した。異世界って感じがまるでしない。
「今日、どこかのタイミングで視界が白くなることがありませんでした?」
「あ、あったな...確かに」
「私も...」
昼過ぎに、視界が一瞬だけ白く瞬いたのを思い出す。特にシャッターが切られたわけでもなかったようだったが__________
「まさか...あれが異世界に来た合図だと?」
「はい。今のここは神世紀301年の夏に入ろうとしています。そして...平行世界に存在する神樹様の中の世界です」
「中の世界...特別に作られた空間...?」
以前、高嶋友奈と話したことを考慮すれば、あり得ない話じゃない。
神は己の意思でなら勇者であろうとなかろうと時空や空間を歪めて呼び出すことが出来る。平行世界に存在する神樹様が俺達を呼び寄せ、取り込んだとすれば。
「そんな馬鹿な...」
「端末を開いて見てください。かつての勇者システムがあるはずです」
「そんな...本当だ」
「じゃあ、これでまた戦えってこと...?」
「...落ち着け園子、友奈。大丈夫だから」
「つっきー...」
「椿先輩...」
少し震えた友奈と園子の肩を優しく叩き、目は風に向けた。ひとまず皆落ち着いているようで、特に何かしようともしてない。
「随分落ち着いてるわね、椿」
「一度過去に飛ばされたんだぜ?今さら異世界とか言われてもな...」
「凄い順応力...」
「それでひなた、俺達がここに呼び出された理由はなんなんだ?神の気まぐれってことはないだろ?」
「神樹様は土地神の集合体です。そのうちの一体、元々敵である天の神側にいて、こちらの味方をしてくれていた神様が反逆を起こしまして。今この世界の神樹様の中で嵐のように暴れています」
「はぁ...」
「つまりなんだ?喧嘩した...みたいな?」
「概ねその解釈で」
「神ってのは...」
人間上がりの神様(高嶋友奈)のような存在ばかりなら、こんなことにはならなかっただろう。
「神樹様からの独立を主張し始めた神...造反神は、独自の兵隊を作り出して神樹様の中を暴れています。もしここで神樹様がバラバラになってしまえば、その力を大きく失われる...それを防ぐ為、あなた達は勇者としてこの世界に特殊召喚されたんです」
(こっちの神樹様は、俺を勇者として判断したってことか...?)
ひなたの言葉が終わった直後、俺達のスマホから音がなった。
「っ」
「敵か?」
「はい。敵の姿は実際見てもらった方が早いかと。ちなみにここでは巫女も動けるので、貴方の帰りをお待ちしています。椿さん♪」
「...全員の帰りを待っててくれ」
俺のはこの世界に来る前から展開出来る戦衣のため、慣れた手つきで展開した。継ぎはぎの服は所々赤く、というか服らしい面積じゃない。
(...俺も戦える者として呼び出されたのなら、もうちょいなんとかならんかったのか...)
「ねーひなタン、私だけ変身出来ないみたいなんだけど...」
「園子さんは切り札として召喚されたので、しばらくは待機です」
「おー切り札かー。じゃあお留守番だね...私も帰りをお待ちしています。あなた☆」
「...俺以外にも言えよ。お前も」
「園子のぶんも、アタシが暴れてくるからな!」
そこからは、いつものようだった。光に飲まれ、広がる樹海。見える星屑。
「あれ、星屑ですよね...?」
「元は天の神側にいたってことは、バーテックスなんかの知識もあるってことだろ」
「なるほど!」
「にしても椿の服、ボロボロね」
「ほんとどうにかしてほしかったわ...武器もこれだけだし」
短刀を構え、逆手に握る。普通に持つと咄嗟に斧や長刀のリーチで振ってしまいそうなのが怖かった。
「さて、色々驚愕の事実がわかったところで...部長、勇者部はどう動く?」
「......別の世界でも、神様でも、困ってるなら助けるのが勇者部です!行きましょう!」
「うん!」
「了解」
各々の武器を構えて、部長の号令を待つ。見える敵は星屑ばかりで、今回は大して不安になることもないだろう。
「勇者部!出動です!」
「「おう!!」」
俺と銀が飛び出して、戦闘は始まった。
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この世界での初戦闘終了後、色々と分かったことがあった。
造反神を鎮めることが出来れば、無事元の世界に戻れること。
俺達が過ごしやすいよう四国を模倣して作られた世界は、高校や中学がそのままで、知人も分かる範囲では変化がないこと。
時間の流れがゆっくりで、元の世界に戻っても大した時間が流れておらず、この世界の記憶もなくなるだろうということ。
通常戦闘ならば、力を使っても精霊バリアを使ってもデメリットがなく、『過去の勇者』も最新鋭のシステムに変わっていること。
こうして始まった領土戦は、香川の一部以外は全て取られていた状況から、香川と愛媛の全てを奪還するほどになり。
勇者の数_______勇者部の部員も、一人、また一人と増えていった。
そして__________
「椿さん?」
「あぁ悪い」
西暦の北海道から来た雪花の声で、思考を現実まで引き戻す。今日はこの異世界に来てから一年が経ったということで、勇者部らしく記念パーティーをすることになった。
(規模とかドレスとか、いつも以上に張り切ってるところもあるけどな)
大赦の用意した施設の中央、大部屋につけば_______
「みーちゃん!とってもチャーミング!!」
「うたのんも素敵だよ」
諏訪の勇者。
「お、棗さん、スタイル良いですねー」
「雪花こそ...よく似合っている」
北海道と、沖縄の勇者。
「す、少し照れるな...」
「照れ顔若葉ちゃん!素敵です!!」
「私とぐんちゃんはお揃いなんだよ!見てみて!」
「た、高嶋さんっ!?」
「やるなーあいつら...杏、タマたちも撮ってもらうぞ!」
「あぁ、タマっち先輩待って!」
西暦の四国勇者。
「は、恥ずかしい...」
「何いってるのわっし~!!」
「そうだぞ須美、メチャクチャかわいい!」
小学生の神世紀勇者。
「懐かしいなぁ...アタシらあんなだったんだな」
「今でも仲良しなんよー!」
「須美ちゃん、よかったですね。東郷先輩」
「樹ちゃん...ありがとう」
「夏凜ちゃーん!はいジュース!!」
「ありがと友奈。風もグラス持ちなさい」
「おぉ、すまないねぇ夏凜君...」
「誰が夏凜君か!」
中学生、高校生の神世紀勇者。
二桁を迎えた勇者部部員が、思い思いにドレスで着飾っている。そんな場にいれる。それだけで俺は幸せだった。
「あ、椿さん!」
「ぁー...」
「あのー、椿先輩?」
「ん、悪い、見惚れてた。なにこの空間幸せすぎでしょ」
「あ、あはは...嬉しいです」
「椿、ボケッとしてるのもいい加減にしろっ」
銀に軽くチョップされて、顔が赤くなるのを自覚しながらごほんと咳をついた。
「じゃあ部長、よろしく」
「あ、はい...えーと...堅苦しいのはやめます。一周年おめでとうございます!これからもどうぞよろしくお願いします!!乾杯!!!」
『乾杯!!!』
グラスは高く掲げられ、照明の光を反射した。
というわけで、ある意味最大のリクエスト作品。ゆゆゆい時空の1話目でした。
原作との主な変更点としては、小学生組以外の学年が一つずつ上がってます。ゆゆゆ、のわゆ勢はこの作品の終了時点で学年が上がってますが、雪花と棗も同様です。
唯一矛盾ができてしまうのが歌野と水都ですが...若葉相手に敬語で喋るような奴でもありませんし、神様のパワーで年を一つとったみたいに脳内補完しといてくださると助かります。
それから、ゆゆゆい時空展開開始に伴いリクエストコーナーを作り直しました(ゆゆゆい時空でのリクエストを可能にしました)。今後新しいリクエストをする場合そちらにお願いします。ちなみに以前のリクエストコーナー採用率はこの話の投稿日までで約7割でした。
これまで頂いたリクエストの投稿は一切しないわけではなく、まだいくつか製作中なのでもう少しお待ち下さい。
長くなりましたがこの辺で。今後ともよろしくお願いします!