そんな今回は旧リクエストの方からです。サブタイ通り。本編とは完全に違ったifですかね。
誰かこの設定引き継いで書いてくれないかなー...自分以外のが凄く読みたい。
とまぁそれは置いといて、楽しんで頂ければ。
「んっ...」
かつての約束を夢に見た。
「...雨か」
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「わぁー...おっきい」
小学校に入学する前の春休み。お父さんの仕事場が遠いので引っ越すことになった。近所の銀ちゃんと別れることが辛かったけど、また会おうねと約束した。
それで、僕は新しいお隣さんにお蕎麦を持っていくことになって_______隣の家を見たとき最初に出たのが、それだった。
お父さんより遥かに大きい門。瓦で覆われた塀。大きさと珍しさで僕は興味津々だった。
「す、すいませーん」
「はーい...あら、どうしたの?」
「と、隣に引っ越してきた古雪椿です。これ、よかったら...」
「まぁまぁ、良くできた子ね。ちょっと待ってて」
その場に残された僕は、見えた屋敷の中をきょろきょろ見ていた。
(やっぱりおっきいな...!!)
それは、今に思い返せば一目惚れだったんだと思う。
太陽の光を吸い込んで出来たようなキラキラした長い髪。
視たものを魅了する瞳。
爽やかな風が吹く中で、僕は彼女を見た。
「わっぷ!」
_____盛大に、何もない所でスッ転ぶ彼女を。
「あぁっ!?大丈夫!?」
「大丈夫だよ~。ありがとう」
僕と同じくらいの年齢に見えた彼女は、花が咲いたような笑顔を向けてきた。
「あれ、あれれ~?あなたはだ~れ?」
「っ...僕は古雪椿。隣に引っ越してきたんだ。君は...?」
「乃木園子です。よろしくね」
『乃木園子』という言葉は、僕の胸にしっかり入り込んだ。
それから、お隣さん_____園子との関係は始まった。
あだ名で『つっきー』と呼ばれるようになって、僕は『園ちゃん』と呼ぶようになった。
園ちゃんの部屋に招かれて遊ぶようになった。乃木家には昔の遊び道具なんかが沢山あって、お手玉やあやとりなんかして遊んだ。
逆に、園ちゃんを僕の家に招くこともあった。友達の間で流行ってたゲームがそこそこ上手かった僕は得意気にゲームを見せて、園ちゃんも楽しんでくれていた。
僕が小学二年生になった時、園ちゃんが通う小学校が分かった『神樹館小学校』という場所で、お金持ちが通う所だと聞いた。まぁ、だから何が変わったかって聞かれると、何も変わらなかった。元からお隣さんという関係でしかなかったんだから。
夏祭りに行った。園ちゃんにお付きの人がついてたけど、楽しめた。
雪合戦をした。園ちゃんの作った雪玉が思いの外固くてびっくりした。正直頭かちわれるかと思った。こっちはそんなことないように雪をかけるみたいなだけだった。
桜を見た。綺麗で、でも隣がそれ以上に綺麗だった。
そうして学年は上がって、僕は六年生、園ちゃんが五年生になった。この頃になると休日は大体どちらかの家で過ごすようになっていて、昼寝したりゲームしたり話したり。ずっと一緒にいるはずなのに話題が尽きることはなかった。
『園ちゃん学校の友達と遊ばないの?』
ただ、そういうことが少し恥ずかしくなってきた頃。照れを隠すようにそんなことを聞いた。僕はたまに学校の友達と遊ぶけど、園ちゃんが遊びに行くというのは滅多にない。
『私こんなだから、仲良くなれる子少ないんよ~』
たはは~と笑う彼女はいわゆる不思議ちゃん系だが、僕はそれ以上のことを沢山知っていた。
大赦という名家のお嬢様の立場に胡座をかかずに努力していること。
困ってる人がいたら助けていること。
もっと、もっと________
『僕はいつまでもいるよ』
恥ずかしさを抑えて言うと、いつかの笑顔で言ってくれた。
『ありがとう。つっきー』
それからしばらく、クリスマス会をした。サンタという存在は信じていなかったけど、園子は真逆だった。
『私ね~、サンタさんにもうお願いしたんだ』
『どんなお願いしたの?』
『...指輪』
『指輪?』
『結婚指輪だよ。つっきーと結婚するための...』
人差し指をくっつけて頬を赤らめる彼女に、僕は夢中だった。
『私のお家、男の人が来てくれないといけないらしいから...』
『行くよ。絶対。約束だ』
『っ!嬉しい!!つっきー大好き!!』
子供ながらにしたそんな約束は、忘れられることはなく。
だからこそ、『俺』を苦しめた。
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僕は中学一年生、園ちゃんは小学六年生になった。いきなり傷だらけになった彼女を見て驚いたけど、それが神樹様に選ばれた大切なお役目の結果だと知って応援するようになった。
神樹様の近くでお仕事ができるということは、そういうことだと教え込まれてきたから。
せめて彼女の手当てが出来るよう応急手当ての術を学んだ。わざと僕に手当てされるまで少し傷を放置したと言ってきた時は流石に怒った。
彼女は友達が出来たと喜んでいた。ミノサンとワッシーなる人物(人だよな...?)だ。園ちゃんのことを理解してくれる人が増えたのは嬉しかった。
毎日が楽しくて、幸せだった。後五年で結婚出来る年齢になって、一緒の指輪をはめられる。そう思って大切に飾っていた。
夏休みになってから、園ちゃんに会えなくなった。隣の家も通してくれなくなった。 お役目で大変な事があったらしくて、しばらくこっちには来ないでくれというもの。
『...園ちゃんに伝えてください。頑張って。待ってるから。って』
涙を殺して園ちゃんの両親に伝えた。
そして、秋口。
雨の中僕の家の前で待っていた園ちゃんの両親は、自分達の家に通してくれた。
会えるのかもと思うことはなかった。二人の顔が子供にも分かるくらい蒼白だったから。
「...君にだけは伝えなければならないと思ったんだ。ここから先のことは、絶対誰にも言わないでほしい」
「なんですか」
「......園子は大切なお役目立派に果たしてくれた」
そんな報告を聞きたくて座っているつもりなど欠片もないことを、この人は知らないのだろう。まだ動揺しているのかもしれない。
「ただね。その功績が大きすぎて...君とはもう、会えなくなってしまったんだ」
だから、心にノイズがかかった瞬間は『あぁ、それはお父さんも動揺するんだろうな』という納得で隠された。
「園子から話を聞いてね。これを...と」
渡されたのは、俺が持っているのと同じ指輪。
「君とはもう結婚出来ないから、返してくれ...だそうだ」
「...わかりました」
早々に立ち去ろうとする僕を見て、お母さんの方が慌てた。
「な、何か言うことある?この人でもすぐには会えない立場になってしまったけれど、言ってくれれば伝えるわよ?」
「......特にないです。ありがとうございました」
振り返ることなく家を出る。見送りはなかった。隣の家までついて、部屋について、鍵を閉めて、一息。
「はぁー...」
複雑な思いが絡まりあった重いため息だった。憎悪。後悔。切望。どんな言葉で表すのが適しているだろう。
「約束じゃ、なかったのかよ」
この部屋に二つ揃った指輪を掴む。その手を爪が食い込むばかりに握って、振り上げた。
「こんなもの...っ!!!」
鏡に見えた僕は泣いていて、振り上げた手をいつまでも動かさなかった。
「...」
どうしようもない結論が頭をよぎって、指輪を閉まった。無造作に、乱雑に。でも確かに。
(...確かに言っていたんだ。なら、やるに決まってる)
『な、何か言うことある?この人でもすぐには会えない立場になってしまったけれど、言ってくれれば伝えるわよ?』
つまり、立派な立場になれば会えるのだ。大赦のツートップ、乃木家をも越える権力さえ持てば。
俺の思いと乃木家の事情を知る人が他にいれば変わったかもしれない。だが、『かも』なんてものはない。
(...変えよう。僕...いや、俺自身を)
そこからは、怒濤の日々だった。
一人称を『僕』から『俺』に変えた_______彼女のいない世界を強く男らしく生き抜くんだと精神の奥から叩き込むために。
学校で習う以外で、神について、大赦についてありとあらゆることを学んだ______少しでも早く彼女の元にたどり着くために。
運動も血が滲む程努力した_______彼女の手をもう一度掴めるように。
体型、容姿は勿論、誰からにも人気になるように徹底した________彼女のような絶世の美女の隣に立つのに相応しい者となるように。
こうして生まれた古雪椿は、案外早く報われる。中学三年生、編入試験を先生の設問ミスの説明、誤答となる答えまで加えて満点で済ませた俺は、一つの部室へ。
「失礼する。勇者部はここであってるか?」
「あら、依頼かしら?」
「転校してきた古雪椿だ。今日は入部届けだけ提出しにきた」
「うちに...?悪いけど勇者部は」
「大赦から派遣されてきた勇者のサポート役でもか?犬吠埼風さん」
「っ!?あんた!?」
発生した『勇者』というお役目のサポート。同じ中学生にしか出来ないという近場での支援というわけで、俺が選ばれたらしい。大赦がスカウトしに来たのを知ったときは、無意識に口角が上がっていた。
(こいつらが成功すれば、俺の地位も上がる。勇者を踏み台にして、俺はより高い位置へのしあがる。犠牲はいくらでも構わない)
全ては、愛する彼女の為に。
「よろしく。勇者様」
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「そう、思ってたんだがなぁ」
「どうしたの?」
「...なんでもない」
踏み台にしようとしてた彼女達と絆を育み、あまつさえ大切な人、ひいては世界まで救ってくれたなんて過去の俺に言ったら、信じるだろうか。
(ねぇな)
即答してキッチンの方を見た。
「ふんふんふふーん」
今日は高校の卒業式。勇者部の皆には先に頼んでおいたお陰で、今は俺と彼女の二人だけ。制服にエプロンをつけた彼女が味噌汁を味見して「よしっ」と呟いた。
「つっきー、ご飯できたよ~」
「ありがとう。園子」
ちょくちょくご飯を作りに来てくれた彼女は、俺より料理が上手かった。
(周りから見えるスキルを追及すれば、料理は軽く作れればいらなかったからな...)
「それじゃあ...卒業おめでとう~!」
「...ありがとさん。乾杯」
「乾杯だぜ!」
色々変わった。世界も、周りも。
だから、俺達も変わるべきだと思った。
「なぁ園子」
「なにかな?」
「結婚してくれ」
ここまで作り上げてきた俺の性格は、昔ほど素直に言えなくなっていた。仮面を被って被って被りまくった結果は、無愛想にかつての指輪を渡すだけ。
『私の体が動かなくなった時...つっきーはもっと素敵な人を見つけて欲しかった。だから返したんだよ』
「それ...まだ持ってて...!!!」
「まぁ、なんだ...約束、だしな。俺も18になったし。園子が卒業するまでは婚約って形になると思うけ」
「つっきー!!!!」
「ぐぶっ」
瞬間移動した彼女は、いつの間にか俺の腰をがっしりホールドしていた。きついし痛い。
「嬉しいっ...嬉しいよぉ!つっきーの部屋漁っても指輪なかったし、もう言ってくれないとばっかり...!!」
「おい漁ったのか?」
「つっきー...つっきー...」
すりすりしてくる園子を見て、なんとも言えなかった。
「ふうっ...それじゃ、返事をきむぐっ!?」
再びの不意打ちは、唇だった。押しつけられているのは園子の唇。
「...ぷはっ」
「はっ!そ、園ちゃん何を!?」
「あ~、今も動揺すると園ちゃん呼びだね~」
「っ!?」
「嬉しいな~」
あの頃より綺麗な、あの頃より見惚れる笑顔で______いや、僕がずっとずっと愛していたいと思う笑顔で、彼女は告げた。
「私の返事はあの頃から変わらないよ...つっきー、大好きっ!!」