古雪椿は勇者である   作:メレク

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ゆゆゆい編 2話

「椿さんどうぞ」

「おーサンキュー」

 

人の増えた勇者部には色んな依頼が舞い込むようになった。確認しやすいようパソコンで纏めてる椿に、須美ちゃんがお茶を持っていく。

 

「...美味しい。ほんと、須美ちゃんのお茶には敵わねぇな...」

「そんなことないですよ」

「いやほんとよ?真似てやったはずなのにここまで美味しく淹れられなかったし...どうなってんだろ」

「わっしーの愛なんよ~」

「そのっち!?」

「私はつっきー先輩の肩揉んであげるね~」

「ありがと...もうちょい強くしてもいいぞ」

「これ以上強く出来ないです~」

「じゃあ園子そっち。椿さん、アタシもやりますよ」

「銀ちゃんも来てたのか。ありがとなー...あ、そこ」

「はいっ!!」

 

右肩をちっちゃなアタシに、左肩を園子ちゃんに揉まれ、惚けた顔を晒してる椿。

 

(...なんだろう、無性にイラッとくるな)

 

「こりゃまた随分幸せそうな顔してますな」

「雪花?」

「小学生組と椿さんは仲良しだね」

「昔は寧ろ怖がられてたんだけどね...」

「え、そなの?信じられない」

「アタシと椿が幼なじみなのは知ってるっしょ?それで、小学生組が来たとき抱きしめちゃったんだよね」

 

その理由が、死んだアタシのことを思い出しての行動だってのは前に椿本人から聞いたけど、真実は言わないでおく。

 

「椿からしたら、『幼なじみの過去の姿』だけど、ちっちゃなアタシからすれば、『見知らぬ男』なわけで...」

「なるほどねぇ。椿さんがそんな冷静じゃなくなったってのも不思議な話だけど納得。私の時代なら事案だわ」

 

さらっと怖いことを言った雪花は、顎に指を当てて続けた。

 

「でも、そんな出会いからよく仲良くなったよね。私が来る頃にはもう仲良くなってなかった?」

「そうだな~、やっぱりあの時かな?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

私達は突然、異世界へ飛ばされた。

 

もうすぐ遠足だった筈の298年ではなく、301年の夏に私達を召喚したのは、別世界の神樹様だという。造反神という神樹様内部に発生した敵を抑え、特殊結界として生まれた四国の領土を取り戻す。

 

元から世界を救うためのお役目だし、驚きもしたけど友達がいるから大丈夫。そう思っていた_______

 

「銀、大丈夫?」

「須美は心配しすぎだって。確かにびっくりしたしちょっと怖かったけど...」

 

勇者として呼び出された存在には先客がいた。私達より三年過ぎた世界から来たという勇者部の方々。私達もそこに所属している。

 

そこには、私、そのっち、銀のそれぞれの未来の姿があった。そのっちは園子先輩と仲良く出来ているみたいだけど、私は東郷さん______結城友奈さんと会話している彼女___のことが、自分の未来の姿だと今一実感出来なかった。

 

そして、銀は。

 

『...銀』

『ぇ、ちょ、あんた誰!』

『銀!!!』

 

何故か男性なのに勇者と化していた、古雪椿さん。銀の一つ上の幼なじみだったという方。

 

三つ年齢を重ねているので高校生となっている姿は、銀もすぐにはわからなかったみたいで。

 

『ちょっと!やめてください!!』

 

抱きしめてきた古雪さんを、銀は拒絶した。

 

その後すぐ銀先輩から止められて、古雪さん自身も土下座していたけれど、あの時の銀からすれば怖かっただろう。

 

「でも、椿の未来の姿だって言われれば確かにそんな感じするし、結構身長も伸びて正当に進化してるみたいだし...」

「銀?」

「っ、おほん!まぁ、あんなに悲しそうな顔をさせる必要はなかったかなって...」

 

あの時あの人は、凄く辛そうに、苦しそうにしていた。

 

でも、私からすれば銀に近寄る怪しい人にしか見えない。

 

「アタシはアタシで三ノ輪じゃなくて乃木になってるし...」

「ミノさん、私のお嫁さんなんよ~」

「冗談はやめろよ園子!」

 

どっちにしても、大丈夫。三人ならなんだって_______

 

「...!!」

「え、なにこれ」

「わわわ~?」

 

気がついたら、辺りが薄暗かった。商店街を歩いていたからそんなことあり得ないのに。

 

「あ、まさか!?」

「ぁ...!!」

 

『今私達の領土はとても少なく、道の向こう側は敵地という場合もあります。人がいないのと、端末で確認すれば分かりますが、出かける際には注意してくださいね』

 

巫女と言っていたひなたさんの言葉を思い出す。

 

(もしかして私達...話してるのに夢中で!?)

 

「い、今から戻れば...」

「確か少しの間は戻れもしないんだろ!?バーテックスが来る前に勇者になっとけば...ってもう来た!」

「あっ...!」

 

『小さなバーテックスみたいなの』と言われた星屑を見て、端末を落としてしまう。

 

「須美!!!」

「わっしー!!!」

 

銀もそのっちも変身を始めてるけど、武器までは間に合いそうもない。

 

(嘘...こんな、ところで?)

 

人を食いちぎれそうな大きな口を開いた星屑が怖くて、私は目をぎゅっと閉じた。

 

聞き慣れない音が聞こえたのは、その時だった。

 

「...あれ?」

 

いつまでも何も起きなくて、少しずつ目を開ける。

 

目の前にいた筈の星屑は商店街の壁まで吹き飛んでいて、消えた。

 

「須美!!!大丈夫!?怪我はない!?」

「わっしー!!!」

「え、えぇ...」

 

端末を拾って変身を済ませる。

 

「でも、なんで私...」

 

少し遠くに見えた星屑は、何かに当たって消えた。

 

 

 

 

 

「無事か?三人とも」

「あ、貴方は」

 

右手に銃を握った、赤黒い勇者服を纏った人が、そこにいた。

 

「たまたま見かけたら危険区域の方まで歩いてるから心配したんだが...精霊バリアがあるとは聞いてるけど信用できるか分からんしな。なんともないようでよかった」

「古雪...さん......」

「ちょっと下がってて」

「わ、私達も手伝います!」

「大丈夫。ひなた曰く樹海化じゃなければそこまで強いのは出ないらしいし、星屑だけなら一人でやれるから」

 

そう言って、古雪さんは駆け出した。現れた星屑を全て一撃で倒していく。

 

「流石春信さん!急造にしちゃ良い銃だ!!」

「す、すげぇ...」

「逃げれるようになったらすぐ戻れ!」

 

いつの間にか左手にあった短刀で切り、銃を放ち、敵の注意を引き付けるような大立ち回りをしている。

 

「...よし!抜けれる!」

「つっきー先輩ー!!」

「気にせず行け行け!!」

 

元の明るさ、人混みに戻った商店街の隅で変身を解いてると、すぐに古雪さんが戻ってきた。

「三人とも怪我ないな?」

「「はい」」

「えっと、鷲尾ちゃんは?」

「だ、大丈夫です...ありがとうございました」

「いえいえ...寧ろ俺の方こそありがとな」

「椿さんがなんで謝るんです?」

「いや、俺の指示ちゃんと聞いてくれてさ。銀...いや、三ノ輪ちゃんのこと何も考えず身勝手な行動して、怖がらせちゃってたのに」

「そんな!」

「俺には謝ることしか出来ないから」

「...そんなこと、ないです......私の方こそ、ご迷惑かけて...」

 

気づいたら、視界がぼやけて目元が痛かった。涙を流していると気づいたのはその後だ。

 

「須美...」

「ごめんなさい...私はなにもされてないのに、銀がちょっと怖がっただけで敵視して...」

「それはしょうがないと言うか、友達を心配するなら知らない年上をの男なんて警戒して寧ろ正解というか...んー...よし」

 

肩に軽く手を置かれる。相手を見つめると、古雪さんは微笑んでいた。

 

「じゃあ互いにごめんなさいってことで。それで、仲良くしてくれると嬉しい。ダメ...かな?」

「ぐすっ...いえ」

「それじゃあもう終わりってことで。ほら泣き止んで、泣いてるより笑ってた方がずっといいよ。ね?」

「そうだぞ須美。笑顔笑顔!」

「わっしーにっこ~」

「...ありがとう、ございます...これからよろしくお願いします。椿さん」

「っ、おう!よろしく須美ちゃん!」

 

ぼやけた視界の向こうで笑顔になった椿さんは、また微妙な顔になった。

 

「それで...ぎ...三ノ輪さんも、ごめん!!もうあんなことはしないから許してほしい!」

「銀とか銀ちゃんとかでいいっすよ。アタシもチャラってことにしてください。助けてくださってありがとうございました!これからよろしくお願いしまっす!!」

「...わかった、よろしく銀ちゃん。乃木ちゃ」

「園子でいいんだぜ~。私は特に気にしてないよ~。ミノさんの幼なじみならすぐ仲良くなれると思ってたしね~」

「...園子ちゃんには、二年前の状態でも敵わんな」

「えへへ~」

「お話はお済みですか?」

『!?!?』

 

突然別の声がした方を向けば、ひなたさんと東郷さんがいた。

 

「ひなた、東郷、いつの間に...というか、なんでここが」

「巫女には、誰かが外に出るといった変化があった場合すぐわかるんです」

「め、目が笑って無いんですけど...」

「そんなことありませんよ。あれほど外に出ないよう気をつけてくださいと注意したのに出ていったことに怒ってなんか無いです。これっぽっちも♪」

「私もですよ。なんでまだ慣れてない須美ちゃん達が外に出る前に止められなかったんですか。なんて微塵も思ってないです」

「い、いやほら...まだ嫌われてると思ったらなかなか声かけにくくて...」

「椿さん?」

「古雪先輩?」

「わ、悪かったからそんな近寄らないでもねぇちょやめ...!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ってことがあったらしいよ。それから仲良くなってったのかな」 「へー」

 

『はじめは前に出すのも不安で守らなきゃって感じだったけど、今では頼りになる子達だよ。まぁ大体年下だし、同年齢でも守りたいって思いは変わらないけどなー』

 

椿が一昨日からから笑いながら言っていた言葉を思い出した。

 

(まぁ、仲良くなれて良かった良かった)

 

「随分幸せそうですね。古雪先輩」

「私達も揉んであげるよつっきー」

「いや東郷、園子、手はパソコン弄ってるからやらなくていいんだが」

「古雪先輩?」

「つっきー?」

「いやー急に手が重くてさぁ!二人にやってもらえるなんて幸せものだなぁ!!!」

 

「じゃあアタシも行くね」と軽い感じで雪花に別れを告げて、椿の前まで来た。

 

「椿、あたしもやってやるよ」

「銀...お前自分の握力把握してるんだよないたいいたいアイアンクローはダメ!!!」

「脳のコリをほぐしてやってるだけさ。四つも年下の子達にデレデレしてるロリコン脳をな」

「誰がロリコンだ!?」

「...あ、私今日はあがりまーす。お疲れさまでしたー」

「雪花!?助けてくれ雪花ぁぁぁぁぁ!?!?」

 

後日担任の先生から部室で騒ぎすぎないようにと苦情が来たのは、別に大した問題じゃないだろう。




椿の戦衣(ゆゆゆいver)

西暦から帰ってきた時点でぼろぼろだった戦衣を春信と椿で改修した状態。ほぼ戦衣の形に戻し、色が若草から変更されている(カラーイメージは黒椿)

装備は、以前から使っている短剣になった刀と、腰にマウントし始めた新型の銃(攻撃力は星屑を倒せる程度)

ということで2話目でした。椿の装備があまりにも酷いので改修。

二人の銀ちゃんがいるの、いいよなぁ...

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