神世紀の方は霖之助さんからのリクエストです!ありがとうございます!
『ハグの日』
「待ぁぁてこらぁぁぁぁ!!!」
「こえぇよ!やめろよ!!!」
「友奈!!回り込め!」
「そーれっ!」
「うおっ!?」
「あぁ!」
「逃がすなぁ!!」
すんでの所でユウを避ける。頭をフル回転させながら逃走ルートを見つけ、体を酷使して杏と球子を回避した。
(ふざけんじゃねぇぞ!!)
『イベントが足りない』
始まりは、球子が言ったそんなしょうもないことだった。
『はぁ』
『もちょっと優しい反応してくれよ?』
『それで?』
『うむ!ここ数日あるのはバーテックス襲来だけだ!だからイベントが足りない!』
『はぁ』
『椿っ!!』
かなりの頻度で行われている、別にそんな強くないバーテックスの襲来を『日常的』として捉えるのは、果たして良いことなのか悪いことなのか。
『それでタマちゃん、どうするの?』
『よく聞いてくれた友奈!...まぁまだ何するかは決めてないんだが』
『決めてないんかい!』
『近くで面白い日はないか?』
『適当ね...』
千景がため息をつくのも納得だった。別に球子の提案を否定するつもりはないが、もう少し具体的な案を纏めてからいってほしい。
(ま、そんなことしてきたら球子らしくないか...)
『...少し先になりますが、8月9日はハグの日のようですね』
『ハグの日?』
『大切な人に大切と思ってることを証明する...つまりハグする日ですね』
『そのまんまだな』
『いいんです!若葉ちゃん!さぁハグしましょう!!ちょっと早いハグの日です!!!』
『あぁひなた...ちょっと暑い』
若葉をしっかり抱きしめるひなたと、暑苦しそうながらひなたを振りほどかない若葉。
(いつも通りかー)
『じゃあぐんちゃんもギューッ!!』
『た、たた高嶋さん!?』
『おおっ!なら今日はハグのイベントだな!杏!!』
『あとこのページだけー...』
『そう言ってタマが止まると思ったか!』
『うひゃぁ!』
唐突に始まったイベントは、特に変わったものでもなかった。というか何の日でなくてもこんな感じである。
(まぁ、これで球子が満足するならいいか...)
『はい!』
『どうしたユウ?』
『どうしたじゃないよ!椿君も!』
目の前で両手を開く彼女の意図がよくわからなかったが、なんとなく嫌な汗が一つ垂れた。
『...おい、まさか』
『椿君もハグしようよ~』
『あのなぁユウ。お前と俺は異性だし、そんな簡単に言うもんじゃないと思うんだが...』
『...椿君以外に簡単に言わないよ?』
『っ!』
一瞬頬を赤らめた彼女にドキッとするも、別種の恐怖で塗り替えられた。
『古雪君、高嶋さんのお願いを断るつもり?』
『ひゃひっ!?』
首筋にピタリとつけられた千景の指。爪を立てれば完全に切られる。
『どうなのかしら?』
『ぁ、あぁ...!!!』
『あ、逃げた!』
『追え追え!!!イベントらしくなってきたなぁ!タマらないぞ!!』
「はぁ...疲れた...」
追手は球子と杏、ユウに千景。若葉は不参加らしい。
(それでも、勇者四人ってきついけどな...)
友奈達とは違い普段から訓練をしてきた彼女達だ。生身の動きだけで考えれば彼女達の方が上。逃げるのも一苦労。
丸亀城にはいくつか空き教室がある。追手を確認して中に入り、そのまま床に座り込んだ。
「つっかれたー...」
仲の良いことは俺としても嬉しいが、あいつらにはもう少し自分達が美少女ってことを認識してほしい。可愛くて頭抱える。
(まぁでも、流石に申し訳なかったかな...?)
ユウからしてみれば、ただ仲良く遊びたいだけなのだ。他意はないだろう。
そう考えると自分が酷いことをしているように思えてきた。かといって、一度逃げてから行くというのも________
(...でも、そうだよな)
こんなに騒げる日常の大切さはよく知っている。俺に何かできるのであればしてあげたい。
「...よし。邪な気持ちは消して。あいつらと遊ぶことだけ考えるんだ...そうだ。俺は女。俺は女...」
若干危ない発言を繰り返しながら、潜伏していた教室から出る。
「あ」
「ぁ」
目の前にはひなたがいた。
「......聞いてた?」
「知りません。椿さんが女性だったなんて知りません」
「がっつり聞いていらっしゃった!嘘だから!暗示かけてただけだから!」
「椿さん...そんなに女の子になりたくて」
「違うっ!!」
「あー!見つけた!!」
大声で否定すれば見つかるのも当たり前で、ユウが抱きついてくる。香水とは違う優しい匂いが俺の鼻をくすぐる。
(お、落ち着け...逃げるな...)
「んっ...」
「あっ」
優しく、割れ物を扱うようにそっと手を回す。密着具合があがって彼女の温かさがよく分かる。
「つ、椿君!?」
「嫌ならどかしてくれ」
「...嫌じゃないよ!」
「うふふ...では私も」
「!?」
前と後ろから温もりが伝わってきて、若干しっとりした肌が触れ合う。
(これはダメだ。キャパオーバーだ。SOSだ)
いつまでもこうしていたい欲望が体の内から沸き上がってきて、体そのものがひくついてくる。
「んっ...」
「あんっ...」
(あ、あくまで俺はユウを悲しませないために...でもひなただけ剥がすのも...だがこれは...)
「あー!友奈!見つけたなら言ってくれよ!」
「タマちゃん、ごめんごめん」
すっと離れたユウの場所に球子が突っ込んでくる。ただ、前傾姿勢で突っ込んで来てくれたのでさっきより余裕が出来た。
「どーだ椿!」
「助かったよ球子...」
「?なんで感謝されてるんだ?」
「いや...ずっとそのままでいてくれ」
「な、なんか不気味だぞ...」
「やっぱり椿さん、女の子になりたいんじゃ」
「ひなた。その話はもういいんだ」
「えっ...」
「ほら球子が明らかに引いてるじゃんかぁ!」
それからは色々動いて_______結局、メインイベントはハグより女装大会になった。死にたくなった。
『爆発しろ』
「のどかだなぁー...」
風が穏やかで、暑くもなく寒くもない。何をするにしても最高な気分になれるような日だった。三連休の最終日を過ごすにはたまらない。
「たまにはこういうのもいいかも」
「だろ?...っと!」
流石に種類まで即把握というわけにはいかないが、意図も簡単に魚を釣り上げる辺り、裕翔が自分で言っていた『趣味は釣りです』というのは伊達ではないようだ。
「ここ一週間くらいがっつり寝るのも落ち着くことも少なかったからな...」
「それで高成績取れるから凄いよお前」
「睡眠時間削ってんだよー...」
「どうかしたん?勇者部で重い依頼でもあった?」
「そんなことはなかったけど部員がなー、聞いてくれよ」
「...あんま良い予感はしないけど、まぁ聞いてやろう」
釣竿を持つ手を揺らさないよう気をつけながら、俺は空を見上げた。
「実はさー、今週ずっと誰かが側にいたんだよね。
月曜は樹がカラオケ行きたいって言うから一緒に行ったんだけどな。いやまぁ歌声は勿論綺麗だしいくらでも聞きたくなるんだが、恋愛ソングばっか歌っててちょっとドキドキしたし、『そろそろ帰るか』って言うと『もうちょっとだけ...ダメですか?』って言うんだよ。断れるわけないのに。結局夜の10時くらいまでやっててバイクで送るとはいえ中学生が帰るのには危ない時間になっちゃったし。
火曜は東郷...今更だが後輩のこと詳しく言わなくても分かるよな?あいつが新作お菓子を味見してくれって言うから家まで行ったんだが、結局夕飯までご馳走になってな。ここまでならひたすら嬉しいだけなんだが風呂まで入れさせようとしてきて...断るの滅茶苦茶大変だった。
水曜は夏凜が自分の部屋の機械と剣を振る以外で体動かしたいって言うから色々遊べる所まで連れてったんだけど、1on1でバスケするにもシューティングゲーするにもちょっと近い気がしてな...体育会系の奴だし気にしてないんだろうけど、こっちは気にしちゃうわけで。かといって心底楽しんでそうなあいつに何か言うつもりもなれなくてさ。
木曜は部室で友奈と二人で幼稚園の子達に配る用の押し花作ってたんだが、俺が下手なの見てられなかったのか友奈が後ろから手を重ねて全工程教えてくれたんだよな。ありがたいけど甘い香りするし所々当たってるしってなって...いやこっちとしては良い思いしてるだけなんだが、なんだか善意で教えてくれてる友奈に申し訳なくて...罪悪感があってその日も全然眠れなかった。
金曜は流石に勉強しなきゃと思って部室でやってたんだがさ。そしたら暇してたっぽい園子が肩揉んできたり足の間に座ってきたりして。笑ってたけどこっちはそれどころじゃないんです!って感じだった。なんか園子はスキンシップというか、そういうのが多い気がするんだよなー。『えへへ~』って笑われると可愛さで何も言えなくなるし。
一昨日は風が買い物に付き合えってうるさくてな。ちょっとだけと思ったら服見だしちゃって。女子って何であんなに服見るんだろうな...可愛いのも綺麗のもあるが、俺に確認とらなくてもいいと思うんだ。センスもないし細かい違いなんてわかんないし。途中で帰るのも気まずくてずっとその日は外だった。
昨日は銀が新しく買ったっていうゲーム持ってきてさ。まぁ軽くぼこぼこにしてやった。ちか...ゲーマーの所でゲームやってた頃があったからな。銀には文句言われたけど。負ける度に『もう一回!もう一回!』ってせがまれて...しょうがないからもう一回、もう一回ってやってたら...気づいたら二人で寝てたわ。
とまぁ、こんな感じで先週忙しかったから、今日はゆっくりできて嬉しいわ」
「......」
「悪いな、ずっと喋っちゃってて」
隣を覗くと、裕翔は震えているだけだった。
「裕翔?」
「椿...嫌だったのか?」
「まさか。嫌なわけないだろ」
「...なぁ椿、お前」
「あ、引っ掛かった」
ようやく俺の一匹目がヒットし、竿を振り上げると上手く手元まで運べた。
「おっきめかな...ごめん裕翔、なんて?」
「...」
裕翔は見たこともない笑顔で告げてきた。
「死ね!!!!」
「なんで!?」