古雪椿は勇者である   作:メレク

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十四話 消えた意識

椿...ごめん__________

 

誰かの謝る声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

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「ん...」

 

目を開けると知らない天井で、月明かりが見える。

 

「どこだここ...」

 

体を起こすと左手にいくつものケーブルが繋がっていた。

 

「なんだこれ...っ!!!」

 

ようやく意識が戻ってくる。バーテックスの攻撃から風を守って俺は__________

 

「風は...皆、戦いは!?」

「...椿?」

「へ?」

 

誰もいないと思ってた部屋には、夏凜がいた。真横過ぎて気づかなかった彼女が、俺の姿を見るなり涙を流す。

 

「え、夏凜?」

「バカァ!!バカバカ!!」

「ぐふっ...」

 

腹にタックルされ変な声が出る。

 

「夏凜、きついって」

「バカ...どれだけ心配したと思ってんのよ...」

 

涙声でそう言う夏凜の頭を撫でる。

 

「...ごめん」

「......いいわよ」

 

話を聞くと、ここは病院で、俺は意識を失ってから半日近くたっていたらしい。

 

それからすぐに医者が来て精密検査が始まった。夏凜は「みんなに伝えにいく」とだけ言って消え、俺は病院内の各所を回って検査を受けさせられた。

 

スマホも手元に無いため連絡手段もなく、一通りの検査をされ、気づいた時には朝方だった。

 

「これで一通りの検査は終了です。結果しだいで退院となりますが、最低でも今日一日は入院してください」

「あの、費用は...」

「全て大赦が持ちます」

「あ、ありがとうございます」

 

有無を言わさぬ医者の態度に戸惑うものの、なんとか検査は終了したらしい。

 

「とは言われても、俺の病室どこかな...」

 

初めて訪れた病院でいきなり解放されても、病室がどこなのかまるでわからない。ふらふらしてると、黄色い髪が見えた。

 

「風、お疲れー」

「......は?」

 

何故か片方の目に眼帯を着けている彼女は、こっちを見るやその目を幽霊を見たかのように見開いた。

 

「って、友奈も樹も、なんだみんないるじゃんか」

「...椿先輩?」

「どうしたみんなして...って、風?」

 

近寄っていくと、同じように近寄って来た風が頬をつついては自分の頬をつねっていた。

 

「風?」

「椿...椿!!」

「うわっ...とと」

「生きてる...生きてる!!」

「そりゃ生きてるわな」

 

普段のお姉ちゃんっぽく振る舞っているのはどこへいったのか、子供の様に泣きじゃくる風の頭を撫でた。他の面々も涙をこぼしてたり満面の笑みを浮かべてたり「よかったぁー!!」と騒いでいる。

 

「...思ったより心配かけたみたいだな。ごめん」

「ぐすっ...ホントよ!あたしたちの中でこんなに気を失ってたのあんただけなんだからね!」

「風、悪かったから俺で涙拭かないでくれ」

「満開して疲れたんでしょ。風は目、樹は声にそれが出て、椿は意識にでたってだけよ」

 

さっきので満足してたのか、遠めから夏凜が言ってくる。手柄を欲しがっていた彼女にとって満開は__________

 

「は?満開?」

『え?』

「...いや、なんでもない。ちょっと疲れてるだけだ。悪いな」

「情けないぞ、それでも男か」

「さっきまで俺の為に泣いてた風はどこへ...」

「あ、あれは別に!」

「まぁともかく。今朝だろ?昼まで寝かせてくれ...今日は入院確定らしいからさ」

「元気になったら、パーティーしましょうね!」

 

友奈は手元に握っていたお菓子袋を向けてくる。今から食べるつもりだったのか、少し封が開いていた。

 

「...わかったよ」

 

場所を病室の職員に訪ねて、無事部屋に入って、ベッドに座って__________眠れるわけがなかった。

 

「銀。起きてくれ銀」

 

俺の意識が無いのにも関わらず、勇者として活動していたら答えはただひとつ。

 

「おい、銀!」

 

銀からの反応は、一切なかった。

 

 

 

 

 

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「ホントに無事でよかった...」

「私が言ったでしょ」

「実物見るまで不安でさ...」

 

最後の部員の無事が確認できて喜ぶ風に私が突っ込む。

 

一番早く検査が終わった私は、椿の病室で目覚めるのを待っていた。その後目覚めて検査に出る椿を見送ってからその事を他のメンバーに伝えたが、どうやらあまり信じられてはいなかったようだ。

 

お菓子パーティーの準備は済ませているあたり、流石という他ないけど。

 

「あ、携帯どうしよ」

「私が置いてくるわよ。病人は安静にしてなさい」

「あんたも病人でしょうが。今日は全員入院なんだし」

 

12体のバーテックスは全て殲滅し、勇者としてのお役目は終わった。私は大赦から派遣された勇者の為例外だが、残りは勇者アプリを無くしたスマホを代替機として使う。

 

そのスマホは先程風宛てに届いて、後は椿に渡すだけだった。

 

「はっはーん...まさか寝込みを襲いに...」

「泣きじゃくってたあんたとは違うのよ!」

「うぐ...」

「夏凜ちゃんが風先輩を押してる...!」

「珍しいわね」

「じゃ、行ってくるわね」

「夏凜ちゃん、椿先輩によろしく!」

「スマホ置いてくるだけで話してくるわけじゃないわ」

 

私も泣いたし抱きつきもしたが、誰にも見られていない。顔を赤くしないよう最大の努力をしながら病室に向かった。

 

「椿ー?」

「夏凜!?丁度いいところに来てくれた...電話しようかと思ってたんだ」

 

椿は寝ると言った割にはベッドに座っているだけで、スマホを握っていた。

 

「どうかした?」

「...非常に言いにくいんだけどさ」

「??」

「俺、ちょっと戦いの記憶が飛んでて...」

「はぁ!?」

「夏凜、良ければ教えてくれないか?あいつらに言うと心配かけそうだからさ」

 

その何気ない言葉は、私の胸に刺さった。

 

「...私だったらいいの?私も心配してたのに......」

「!!」

 

さっきとは別の意味で涙がこぼれそうだった。

 

(兄貴の話も、人に初めてしたのに...)

 

「いやそういう意味じゃなくて!!ごめん、配慮が足りてなかった...」

「.......いいのよ。私が悲観的になっちゃっただけだから」

「そう言われてもな...取り繕ってるだけに聞こえて当然なんだけど、俺は夏凜のこと...ああもう!」

「はぅっ」

 

突然抱き締められて変な声を出してしまった。

 

「夏凜が家族のことを打ち明けてくれたみたいに、俺も夏凜を頼りたいと思ったんだよ!心配されてたのは知ってたけど、ついさっきのみんなより落ち着いてそうだったから!」

「椿...」

「傷つけたなら謝る!だから...許してくれないか」

「...ずるいわよ。そんな風に言われたら」

 

がばっと椿を引き剥がした。

 

「わざとじゃないことくらい分かってる。私も悪かったわ...」

「...ごめん、ありがとう」

「それで、戦ってた時の話?どこから覚えてないの」

「...風を庇った辺りから、かな」

「わかった。私の見た範囲だと...」

 

 

 

 

 

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バーテックスに対して危機に陥った時、風、俺、樹と続いて満開を遂げ、普通のバーテックス二体を撃退、合体バーテックスに封印の儀を施す。

 

合体バーテックスの御霊は宇宙に出現し、大きさも桁違いだったが、満開した東郷につれられ、最後は友奈が満開して終止符を打った。封印していた俺は敵が消えた途端に気絶。今に至る________というのが、事の顛末らしい。

 

「何か質問は?」

「あー...何で風は眼帯してたんだ?」

「勇者になって戦ってきた疲労がここにきて出ただけ。視力が落ちてるんだって。樹も今声が出せない状況よ」

「そうか...夏凜は大丈夫か?」

「えぇ...」

 

用意した椅子に座った夏凜は少し悔しそうだった。

 

「手柄が無くて悔しいのか?」

「結構率直に聞くじゃない...そうよ。一人だけ満開しないで、何も出来なかった...」

「俺はその悔しさが分からない。手柄を立てたいとは思ってないし、というか途中から記憶ないし。でも一つ言えるのは...夏凜も無事でよかった」

「っ...」

「前も言ったけど、もう夏凜も大切な仲間だからな。下手に突っ込んだりしなかっただけよかったよ」

「あんたの話聞いてると、私がバカみたいね...ありがとう」

「どういたしまして」

 

そのあと二、三どうでもいい話をして。

 

「あ、そうそう。バーテックスは全て討伐し終わったから勇者アプリは回収、スマホを大赦に渡せってさ。これ代替機」

「え...一回くらいなら間違えましたですむよな」

「は?」

「いやほら、もしかしたら残存とかいるかもしれないから...もう少し持っててもいいか?」

「...悪用されたらたまんないわよ」

「そんなことしないけど...」

「まぁ、後で風に渡して。その時までに必要そうなデータは移しときなさい」

「はーい...」

「じゃあ私戻るから」

 

夏凜が部屋から出て、窓の外を見る。だいぶ時間が経ったようで太陽が見えていた。

 

(...銀も、遊んだ後一日寝てた時もあるから、大丈夫だよな?)

 

今、彼女との繋がりである勇者装束を離したくない。これを手放したら、彼女もどこかへ消えてしまいそうで__________

 

「銀...早く起きてくれ。それでパーティーしよう。これからも...」


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