赤嶺友奈。造反神側の勇者として召喚されたという、謎の多い勇者だ。俺の知る友奈としては三人目で、容姿も二人ほどそっくりではないが似ている。
こちら側に召喚された棗を『お姉様』と呼び、バーテックスというより人と戦っていた存在だったと聞いている。春信さんに過去の文献を調べて貰ったが、その頃の大赦の検閲対象なのか、はたまたこの世界にあるデータを全て消したのか。どちらにせよ手がかりになるものは未だ見つかっていない。
バーテックス達に命令したり、特殊な精霊を使って精神攻撃をしてきたり、結城の友奈と一騎討ちしたり。
俺自身あいつと戦った時もあった。気迫を感じたし、実際俺が死にかけた。
そんな、因縁浅からぬ相手だ。
「...が、どうして俺の部屋にいるの?」
「勝負しに来たんだよ」
それなりに暑い日。微笑む赤嶺の思考を読み取ろうとするも、あまり成果は出ない。『あまり危険ではない』と思っていても、一応は敵対関係なのだ。
特に、こんな朝早くから来られても困る。
「勝負?」
「そう。例外である男の勇者...私が君を引き抜ければ、勇者の士気が落ちる。だから欲しいなって」
「...そっち側に行くことはないと思うぞ」
「ほんとかなぁ?」
「堕とすだけなら夏凜の方がちょろい」
(まぁ、堕とせても『友奈達を裏切らせる』のは絶対不可能だがな)
艶のある唇に指を当てる彼女の目を見つめる。本当なら、すぐに皆を呼んだ方が良いのかもしれないが__________
「...まぁいいや。今日は外にも出ないで新作ゲームやる予定だから、好きにしていいぞ」
「堕とせるものなら堕としてみろって感じだね...?」
「一応精神攻撃してくる精霊も耐えたじゃんか。あ、でも一時間くらい待っててくれ。隣の家で飯作ってくるから」
「隣?」
「気になるならそれも話してやるから待っとけ。親は今日朝から出かけるって言ってたから、大人しくしとけば俺の部屋に来ないからさ」
女子の前で着替えるのも気が引けたので、着替えを持って三ノ輪家に向かった。
「ただいま」
「お帰りなさい...これだと奥さんみたいだね。ご飯にする?お風呂にする?それとも...わ・た・し?」
「ゲームします」
俺が逃げることを考えてなかったのか、そこは変に信じられているのか。彼女は普通に部屋の本を読んでいた。
「というか、俺が言うのもあれだがいいのか?他人のゲーム...しかもRPG見てるのって暇だろ。なんなら出掛けてもいいけど」
「いいんだよ。貴方の方から『俺に付き合ってくれ』って言ってくれるようにするのが目的なんだから」
「...ほーん」
ちょっとこいつが驚けばいいなと思いつつゲームを起動する。彼女がそう言うなら別に俺は気にしない。
(...なんていうか、一応敵の筈なんだがなぁ)
造反神が分離した場合、この世界の神樹様は天の神に勝つ見込みが消える。そういう意味では、領土を全て取り返さなければならないし、絶対倒さなきゃいけない相手ではある。
だが、こいつ自身が悪いやつだと言われればそうでもない感じで_______こうして戦闘時じゃなければ、ある程度気も許してしまう。
(確か亜耶ちゃんもこいつが良い人だって言ってたな)
最も、彼女が人を否定する所なんて見たことも聞いたこともないけど。
「ゲーム始まったね。じゃあこっちも始めようか」
ちゃんとルールや制限を律儀に守ってるし__________
「んっ!?」
「ふふ...」
「あ、赤嶺!?」
「なにかな?」
「ち、ち、近い...」
「誘惑してるんだから、このくらい当然だよ」
床に座ってコントローラーを構えた俺の後ろに座り、腕をお腹に回してきた。足同士も触れ合い、顔が肩に乗っかってくる。
「普段沢山の女の子と過ごしてるとはいえ男の子相手なんだし、色仕掛けは有効だよね。どうかな?先輩や後輩の友奈よりあると思ってるけど」
「確認できる術なんて持ってませんから!!頼むから離れてくれ!!」
「やだよ。それじゃあ勝負にならないじゃん...ほら、聞こえる?私の心音」
ぎゅうっと腕に力がこもり、体がより後ろに持ってかれる。背中に当たるふにふにした感覚に無理やり意識が持ってかれて、桃みたいな匂いが精神を異常に切っていく。
「ほーらー?早くゲームやろうよ」
「ぅ...そ、そうだな」
真っ向からの誘惑に混乱してる頭が辛うじてゲームを進ませる。会話が全然入ってこない。
(...いや、このままならいけるぞ)
現状を打破する切り札を使うため、会話を進めていく。
「へー...内容自体は面白そうだね」
「だろ?」
「でも、貴方は頭に入ってるのかな~?」
「お、お前...友奈達と同じなら中学生だろ?よくやるよ...」
好きでもない奴にこんなに密着して(確かに効果は絶大だが)。というか襲われる危険があるとか考えないのだろうか。ぶっ飛ばせば関係ないって感じなのか。
「昔に比べたらマシだよ」
「ぇ...?」
「だって、今の貴方の仲間より好きになって貰わなきゃならないんだもの。私から好き好き~ってアピールするのは当たり前だよ?」
「み、耳元で話さないでくれ」
「あぁ、弱いの?それじゃあ...こういうのはどうかな?」
「うへぁ!?」
後半だけ耳元で囁かれて息が多分に混ざった声が響く。くすぐったさが体を動かす。
「ダメだよ逃げちゃ」
がっちり捕まれて逃げ場はない。すべすべの足が絡んできて理性を削り取っていく。
(よ、余裕ぶってても今のうちだ...)
「私と一緒に来てくれれば、これ以上のことしてあげるってひゃぁ!?」
背中からの声が震えるのを確認して、びっくりしながら口角をあげた。
「な、なにその化け物...」
「バーテックスと一緒に出てくるお前の台詞とは思えないな」
続行していたゲーム画面には、そのエリアのボスがいた。この作品、ボスが滅茶苦茶怖い上エリア攻略中に突然追いかけ回してくるのだ。バーテックスも怖いことは怖いが、見た目で言えばこっちの方が怖い。目玉っぽいのが沢山ついてるわ顔キモいわ。
「な、なんか近寄ってるよ...早く逃げて!」
「わかってるよ」
さっきよりプレイ速度を遅く、ゆっくりゆっくり逃げる俺。
「貴方、まさか...」
「お前を怖がらせるためにこれをやってるわけじゃないぞ。今日はじめからこれをやる予定だった。ボスの画像見た他の奴等が滅茶苦茶怖がって一人でやってって言われたこのゲームをなぁ!」
特に二人の友奈が怖がっていたので早いところ出してみたが、効果はあったようだ。
あえて行き止まりに逃げてからしばらく、カメラの視点を変えると目の前にボスがいた。
『gayyyy!!!』
「きゃぁ!!?」
「俺と一緒にプレイしてるともっと出てくるぜ!それでもまだ俺にうおっ!?」
「は、早くそれ倒して!!」
赤嶺がこれ以上にないくらい体をくっつけてきて、また変な声が漏れる。
「お、お前こそ離れろ!この部屋から出ればいい話だろ!?」
『ga、ga、gaaaaa!!!!』
「早くっ!」
「やめてくれよぉ!?」
こうして、俺が赤嶺に屈服するのが先か、赤嶺がゲームの怖さに逃げ出すのが先かの対決が始まった。
「きゃぁぁ!!」
「うわぁぁぁ!!」
「はぁ...はぁ...」
「はぁっ...はぁっ...はぁ」
既に対戦開始から数時間。夏の時期とはいえエアコンが効いてる涼しい部屋の筈なのに、俺達は汗だくで荒い息を吐いていた。
「赤嶺...一時休戦してくれ...飯作る...」
「...はい、どうぞ」
案外すんなり体を離してくれて、湿った肌と肌が音を立てて別れる。
後半の方は慣れてきたとはいえ、女子がずっとくっついてきてるのを耐えきれたなんて凄い。
(よくやった俺...ほんとよくやった...!!)
頭の悪そうな自画自賛を繰り返しながら、自分の部屋からキッチンまで出ていく。冷蔵庫を開けると、まともな思考をしてなかった俺の脳が少しずつ冷えていった。
「なんかつっかれた...一人でやってれば三倍は進んでそう」
無意識が料理のレシピを脳で作り、その材料を取っていく。
(どっかしらミスしやすそうだし慣れてる簡単なので...)
「何を作るのかな?」
「皆大好き焼きそば。火を扱うから今はやめてくれ。ちゃんとお前の分も作るしテレビ見てて良いから」
「わかった。私も疲れたよ...凄く怖かったし」
(じゃあ逃げればよかったのに...)
銀と作ったこともある得意料理の一つをパパっと作って皿に取り分ける。
「赤嶺ー、どんだけ食う?」
「じゃあちょっと多目で。でもいいの?勝手に沢山の食材使って」
「元から余ったやつは保存予定だから気にすんな。はいどうぞっと」
自分の分も並べて、席についた。手を合わせて「頂きます」の声がハモる。
「...ん、美味しい」
「よかったよかった。後はデザートでもあれば良かったが...アイス残ってたかな」
「...ねぇ」
「ん?」
「...流石にそこまで警戒されないと、私もやりにくいんだけどな」
こちらを見つめてくる赤嶺の考えてることが朝より分かったのは、一緒にゲームで騒いでたからか、それとも分かりやすい内容だからか。
「今日は拳を交えて戦うわけでもないんだし、別に警戒する必要なんかないだろ」
「ホントかな?」
「あぁ。あんだけ一緒に騒げば、少なくとも赤嶺が今日そんなことしないってくらいはわかるさ」
以前俺達が樹海で戦ってる隙をつき、巫女を襲ったこともある。だがそれはあくまで戦いの中での話だ。今日の目的はあくまで俺の引き抜き。彼女自身がそう宣言した以上、宣言を撤回しなければ警戒する必要も特にない。そういう奴だと俺は認識している。
彼女の時代で生きてきた頃の彼女のことなど分からない。だが、こうしてこの世界で戦い、過ごしてきた彼女は知っているから。
「だ、大体、あんだけくっついてればさっきの間でいくらでもやれただろ...」
極力思い出さないようにしながら頬をかく。赤嶺は少し目を開いて、笑った。
「ふふっ...そうかもしれないね」
「おう...っと、ご馳走様でした。アイス見てくるわ」
冷凍庫を中身を漁っても、アイスは見当たらない。冷蔵庫でもめぼしい物はなく、缶のみかんジュースくらいだった。
「ご馳走様でした」
「これしかなかったけど、飲むか?」
「ありがとう。折角だし頂くよ」
「了解。じゃあ皿洗ったら続きを...」
「ううん。続きもしない」
「帰るのか?」
「貴方がどうしてもあの状態で続きがしたいって言うなら考えるけど?」
「俺の心臓が持たないんで帰ってください」
「ひっどいな~。私も恥ずかしいの我慢してるのに」
「じゃあ隣で見てるとかあるだろ、選択肢なんていくらでも...」
缶を手で揺らしながら、赤嶺が玄関まで歩いていくのを見送る。
「誘惑が有効なのは分かったけど、とてもあの子達から出し抜けそうではないからね」
「そりゃな。まぁ、たまになら遊びに来ても歓迎するよ」
「ありがとう。じゃあ頑張ってね~」
「またな」
現れるのも突然だった彼女は、去るのもあっさりだった。
(...造反神側の勇者、か)
味方につけたいというのは、何も赤嶺だけが思ってることじゃない。
(いつか、そんな日がきたら...今日みたいなことも出来るかもな)
「...よし!皿洗ってゲームを続行...」
キッチンへ向かう俺を、インターホンが止める。
「はーい!...宅配か?」
ドアを開けた先には、結城の友奈がいた。
「友奈?どうしたんだ?」
「......ツバキセンパイ」
「?」
「コレ、ナンデスカ?」
若干声が普段と違う友奈が突きつけて来たのは、一枚の写真だった。キッチンで料理を作ってるだろう俺と、画面端に褐色のピースサインがうつっている。十中八九赤嶺だろう。
「いつの間に...」
「イツトッタンデスカ?」
「多分さっきだと思うぞ。というかいつのまにそんな写真が...」
「...サッキ、デスカ。サッキデートシテタンデスネ...イチャラブイチャラブ......」
「デート?」
友奈がスマホを叩くと、とあるメールの画面になった。添付画像がさっきので、内容文は_______
『椿君とイチャラブお家デート中♪意外と筋肉質でびっくりしちゃった☆ by赤嶺』
差出人は俺。つまり、俺のスマホを勝手に弄って赤嶺が送ったんだろう。
「キョウハゲームシテタンジャナインデスカ?」
「赤嶺が突然来てさ。一緒にゲームしてたって何事!?」
突然屋根の方から音がして見上げれば、空から銀が降りてきた。大きな音を立てて俺の隣に着地する。
「お前もうちょっと大人しく、いや人間らしくだな...」
「こんな画像送られて落ち着けるか!!!!午前中なにやってたのか全部吐いてもらうからな!!!」
「別にゲームしてただけで...」
「目をそらすな椿。それだけじゃないな?椿は隠し事がある時大体目を右上に向けるんだ」
「なっ!?」
「友奈手伝ってくれ。皆に来てもらってこいつに全部吐かす!!」
「ウン。イイヨ」
「ちょ、目が怖いよ?二人とも落ち着いて...」
「逮捕~」
「園子!?いつの間に!?」
「つっきーと私は手錠で繋がっちゃいました~...これで、ずっと離れられないね?」
「お前らうえっ!?引きずらないで!?」
「つっきー。私はずっと一緒だからね...もう勇者部以外の泥棒猫に奪わせない」
自宅に戻るだけなのに何故か連行とか拘束とか逮捕みたいな字面が頭の中から離れない。
「もうすぐ皆も来るからね~」
「え、なんで、た、助けてくれ赤嶺~!!!」
そのあと、気づいたら翌日だった。何があったかは覚えていない。
ただ、変に耳元がヒリヒリした。
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「...」
家のなかに戻っていく(連れ去られていく)彼を近くの家の屋根から見届ける。
(あれだと、今度会ったとき殺されそうだな...失策だったかも)
バカみたく叫んで、驚いて。確かに無理矢理さらうことも、瀕死にさせることも出来た。
少なくとも料理中に彼のスマホを持てたのだから、持ち去るなりすればよかった。勇者である以上手元に呼び出せる物だから効果は薄いかも知れないが、スマホそのものを壊せるかもしれないし、こちらにはない戦衣のデータを手に入れられたかもしれない。
それでも、実際やったのはメールを送っただけ。その理由は________
『あんだけ一緒に騒げば、少なくとも赤嶺が今日そんなことしないってくらいはわかるさ』
「......はぁ。今日は元から休暇だしね」
別に好きになったとか、情が移ったとかじゃない。樹海で会えば容赦はしない。そう思って、缶を開ける。口に含んだみかんジュースは、ひんやりしてて美味しかった。
(私にも私の目的がある...邪魔なら排除する。それだけだよ)
というけで赤嶺友奈登場回でした。しっかり書けてれば良いのですが。
今回椿達がプレイしていたゲームの参考にしたものは、メアリスケルターという物です。ナイトメアというボスがはじめて見たとき滅茶苦茶怖かった印象。