私_____秋原雪花は、人と深く関わることをしない。
日常で周りを疑ったり気にするなんてしたくないし、戦闘では連携する人もいない。誤解を恐れず言えば、人付き合いが嫌いなのだ。
別に話しかけられれば会話もするし、お役目もこなす。でも、あくまでそれは自分のため。深くは接しない。
『よろしくね!せっちゃん!』
『よろしく、秋原』
だから正直、呼び出された異世界にいた勇者(同僚)の第一印象は______苦手な部類だった。
「ん...んー!」
懐かしい夢を見た気がする。こっちに来たばかりのことを、少し。
(もう結構経ちますな~)
私と、同じタイミングで来た棗さんも来てからかれこれ半年以上経っているだろうか。この寮生活も慣れてきた。
「さて、そろそろ出かける準備をしますか」
手短に準備して行ったのはとあるマンション。インターホンを押すことなく鍵をさし、扉を開ける。
「来たよー」
「いらっしゃい。遅かったわね」
「え、時間通りじゃない?」
「嘘...ほんとだ」
「あれあれ?もしかして今か今かと待っててくれてた?」
「そ、そそそんなわけないでしょ!!」
予想通りに顔を赤くする夏凜をほっといてソファーに座る。
『これ、持ってなさい』
以前に渡された合鍵を忘れずに鞄にしまいこんだ。
『ここは人が来ることも多くはないわ。なにかしらのイベントは調理器具の多い風の家か園子の家でやることが多いから』
夏凜に私のことを多少話した時にくれたもの。人と関わることを少しだけ億劫に感じていると話したら、ここならよく一人になれるわ。とくれた。実際、夏凜自身がランニングだったりで留守にしてることも多い。
『まぁ、仲良くしたいって気持ちもあるわよ。でも無理にとは言えないから』
結城っちなんかは自分の世界を広げて、人の領域を覆ってくる。それを否定はしない。今ではそれが彼女の魅力だと知っているし、それが優しさだから。ただ、ガツガツこられて当時の私がちゃんと返せたわけでもなくて。
私の部屋にも気遣ってくる人達が来ることを気にしていたら、夏凜が声をかけてくれた。
『私は、そんな友奈や椿と会って、勇者部に入って、変われたんだけどね』
自分の間合いを測っていいと、その上で仲良くなりたいと、そんな話をこの部屋でした。
今では_______確かな心情の変化があった。
「あ、来たわね。はーい」
「到着...作ること自体は構わないけどさ、なんでこんな量?」
「私の冷蔵庫がそこまで入ってなかったのと、単に人数増加よ」
「?...あぁ、来てたのか雪花」
「お邪魔してます」
「別に俺の家じゃないし...ま、ちゃちゃっと準備しますかね」
「キッチン借りるぞー」と袋を持って入ってくる椿さんと、同じようにキッチンに入る夏凜。今日夏凜の家に来たのは、このご飯が目的だった。
「いやー、ありがたいよ」
「いいのよ。私もやりたくてやってることだし。椿も悪いわね。雪花のこと連絡してなくて」
「別に問題ない。ちょっと予定は変更するけどな」
園子がどんどん料理を覚えていってるのを見て、夏凜も料理の勉強をしたくなったらしい。今日のお昼を悩んでた私は味見役として抜擢された。椿さん自身は単に料理を教えるだけのつもりで来たみたいだけど。
「夏凜ー」
「なによ?」
「ちょいちょい」
「?」
素直に近寄ってくる彼女に、私は耳打ちした。
「私邪魔じゃない?二人で仲良く作って食べさせあえば良かったのに」
「なっ!?そんなことするわけないでしょ!!!」
「夏凜もう少し声抑えろよ。お隣さんいるかもしれないし」
「うるさい!!!」
椿さんに文句を言う彼女の顔は真っ赤っかだ。
「...寧ろいて。変に緊張して失敗しそうだから」
「私的には美味しいご飯が食べれるんで全然いいよ。寧ろご馳走さまです」
「...はぁ。じゃあ作ってくるから」
(青春だにゃ~)
キッチンに立って料理を始める二人を見て、窓の外を見る。綺麗な青空。
(...私のところにもこんな人達がいたら、違ってたのかな)
勇者部は眩しい。日溜まりのような場所で。
まさか、こんなに揺れるなんて思ってなかった。
「はは...」
自分でも掠れて聞こえないような声量で、私は笑った。
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「風に頼まなかったのか?」
「教えてくれるだろうけど、同じくらいからかってきそうだから選択肢から外したわ。東郷は今日友奈と出掛けてるって」
「成る程。須美ちゃんとかから教えて貰うのも気が引けると...」
「そ、そんなところよ」
「手元よく見て」
「心配しなくてももう出来たわよ」
「案外早いな。手順通りやれば弁当も作れるだろ」
料理作る所を見てアドバイスして欲しいと言われた理由は、園子が学校に弁当持ってきてるのを見て、同じように作ってみたくなったからと言われていた。今日の動きを見る限りちゃんとレシピがあれば問題なさそうだ(唐突に煮干しを入れようとしなければ)。
「お墨付きが貰えるなら問題なさそうね。さて、雪花、ご飯できたわよ」
ここから死角になる位置にいる雪花に夏凜が声をかけたが、返事がない。
「?」
「夏凜、テーブルに並べといてくれ」
キッチンから数歩歩くだけで雪花の姿がすぐわかる。
「どうした雪花、なんかあっ...た......」
「......」
眼鏡をかけたまま、彼女は眠っていた。
(暖かいもんな...そっか)
俺はどこか安堵していた。
俺は、彼女がこの世界に来た当時警戒されていたことを知っている。人の行動、態度はそれなりに見ているから、早く気がついた。
無垢な乙女にしかなれないはずの勇者に男として存在するだけで、一部の人からは警戒されて当然だと思っていたし、西暦に行ったばかりのことを思い出して勝手に懐かしんでいたのだが、俺だけでなく友奈や東郷にもどこか遠慮ぎみだったように感じた。
千景のように人付き合いが苦手というわけではないけど、どこか一線敷いているというか。当時はそれも仕方ないことだと思っていた。一人過去に飛ばされた本人なのだから気持ちは分かる。
かといって、ずっとそんな関係を続けていこうと思う性格ではなくて。
(北海道、北海道...)
極寒の大地、試される大地なんて話を授業で聞いたことのある北海道とはどんな場所だったのか。西暦にいたメンバーに聞いてみたり、杏と一緒に古本屋や図書館を巡って文献を漁っていった。
そして__________
『秋原、古波蔵、食べてってくれないか?』
同時期に来た棗も呼んで、小さな食事会を開いた。北海道ラーメン(文献に残っていた醤油味)と、沖縄そば。上手く故郷のものと似て作れたのか、二人とも驚いてくれた。
『まぁ、なんだ...俺からのお近づきの印ってことで』
自分で言うのも如何なものかと考えたが、その後壁が薄くなった気がしたから目的は達しただろう。
共に戦い、共に過ごして。
(......それが、こうなるとはな)
完全に隙を晒している雪花を見て、俺は嬉しかった。この場所は彼女が安心できる場所になったんだから。
「...雪花、雪花。起きてくれ」
「ん...あれ、なになに?もしかして寝込み襲われてます?」
「飯だよアホ」
(目覚めてすぐにそんな言葉が出るのか...なかなか起きなかったくせに)
少し驚きながらテーブルへ向かう俺と、ソファーから立ち上がってついてくる雪花。
「雪花はこっちね」
「ありがとー夏凜...おー!美味しそう!」
「と、当然よ!完成型勇者である私が作ったんだからね!!」
「良かったな夏凜」
「撫でるなー!」
ぽかぽか叩いてくる(割りと痛い)夏凜を宥めて席につく。
「椿さん料理も教え方もかなり上手いですもんねー。流石勇者部の女子力」
「ねぇ。俺男なんだけど。風にあげてくれないかなその称号」
部内で一番の料理上手みたいな扱いは、嬉しいけど好きじゃない。東郷や風だって上手いのだ。
「でも、こっちに来て一番美味しいのって、椿さんの作ってくれたラーメンですもん」
「...また作るよ。味噌も有名らしいな?」
「地方に寄りますけどね」
麺もスープも市販の物を使い、昔の記事に乗っていた作り方を元に味が似るようアレンジしただけだが、こうして喜んでくれるなら俺も嬉しい。
「楽しみにしてますよ」
「任せたまえ」
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勇者として集められた人達、勇者部には、色んな人がいる。面白かったり、優しかったり、気遣ってくれたり、柔らかな光を向けてくれたり。
そんな皆は、今では大切な勇者(仲間)である。
雪花は雪花で何か闇を抱えてそうなキャラですが、そんなところも好きです。夏凜との絡みが好きなのでそれをメインに書きました。いいよね。
あとちゃんと勇者部のツッコミ役をしてるの凄い。