「これなんてどうです?」
「えー、こっちの方が良いんじゃないかな~?」
「ふ、二人とも...」
「っー...」
右を向くにも左を向くにも落ち着かない空間。というか頻繁に顔を動かすのも怪しい気がするが、一点を見るのも落ち着かない。正直帰りたい。
「椿さん、どっちが似合うと思います?」
「...どっちも似合うと思います」
「ダメですよつっきー先輩、よく見て」
「...恥ずかしいんだよ察してくれ......」
こぼれた愚痴は、誰にも認められることなく消え去った。
来週末に行くことが決まったプール。天候も今のところ良い感じで後は準備を進めるだけだったのだが、一つ問題が発生した。
別の時代から来た皆は基本大赦からの支給金で生活しており、必要以上の物は買わない。要は水着が無いのだ。
学校の授業で使ったスクール水着はあるものの、雪花(勇者部のファッションリーダー)に断固拒否されそれぞれ買いに行くことに。
というわけで、俺は小学生組の保護者役として駆り出されたわけだが__________
「あの、二人とも...」
「須美さんは大きな桃をお持ちだから、このくらい大人っぽいのでも...」
「いや、ここは清楚な感じを出していって...」
試着室で頬を赤らめる須美ちゃんと、暴走気味の二人。そして、度々評価を迫られる俺。
(はぁ...)
俺としては気まずいし出来ることならやめたいが、それ以前の問題がある。しっかり言うのも年長者としての役目だろう。
「二人ともいい加減にしろ」
「「うっ」」
「水着を楽しく選ぶのは良い。俺に聞いてくるのも...まぁ良い。でもな、着る本人である須美ちゃんの意見をちゃんと考慮してやれ。それが出来ないのであれば自分の水着だけ探しなさい」
須美ちゃんが実際二人の行為を認めているかは分からないが、一度ちゃんと口に出すことが大事だと判断した。
「...ごめんなさい」
「謝る相手が違うだろ」
「......ごめんねわっしー」
「すまん須美。ちょっと浮かれてた」
「う、ううん...いいの。私も二人に選んで貰うの...嬉しかったから」
「須美...!」
「わっしー!!」
「...なら、俺は何も言わない。好きに選びな」
「「はーい!!」」
しゅんとしてたのはどこへやら。勇者の時とさほど変わらない速度で水着を探していく二人。
「ふぅ...で、須美ちゃんは二人に選んで貰うとして、俺はいて良いのか?」
「...と、言いますと?」
「いや、試着したの評価されて良いのかってことよ。じろじろ見られるのも好きじゃないだろ?」
俺自身女性水着専用の店に長居するのが恥ずかしいのもあるが、こういうことは須美ちゃんのタイプじゃないことも知ってる。
「...あの、でしたら、も、勿論古雪さんのご迷惑でなければですけど......選んで、欲しいです」
「...わかったよ」
(反則だろそれは...ギャップすげぇ)
だから、水着姿で頬をさっきよりずっと赤くして、消え入るような声と甘えるような上目遣いを受けてしまえば、俺はドキドキしてる心を悟られないよう目をそらすことしか出来なかった。
「椿さん!須美のと一緒にアタシのも見つけてきました!似合ってるか見てください!!」
「...別に選ぶセンスがあるわけじゃないから、鵜呑みにするなよ」
「分かってます!」
「私も私も~」
「はいはい。順番な」
----------------
「キュピーン!」
「園子?どうしたのよ」
「そのっち達が何かつっきーと進展してるような電波を受信したんだよ!!」
「はぁ?」
園子の行動、というか言動とか発想とかは未だに読めない。
「にぼっしー!私達も水着買いに行こう!!」
「いや、私は去年のあるし...」
「ダメよ」
「うわびっくりしたぁ!?」
後ろからぬっと出てきたのは風。その後ろには樹もいる。
「服の流行は毎年変わるもの。水着もまたしかり。そんなんではダメなのよ夏凜」
「はぁ...」
「西暦組も買いに行った。友奈と東郷も二人で行った。あたしたちも行きましょうそうしましょう」
「わ、わかったから離して...!」
「つっきーには隠れて行って驚かそうねー」
「良いですね。園子さんに賛成です」
「まぁ、皆買うってのにアタシだけ同じのもなー。行くよ」
「胸がおっきくなったから買い換えるって理由が良かったけどな...」と呟く銀の声を聞いて、思わず肩を組みたくなった。
胸なんて剣を振るのに邪魔でしかないが、銀の言いたいこともわかってしまったから。
(実際、東郷はそうだものね...はぁ)
ため息は、どこかの誰かとシンクロした気がした。
「っ!警報!?」
「ったく、皆散り散りだって時に...行くわよ皆!」
「はーい!」
----------------
「まさか、目の前にいるとは思わなかったぞ」
「やっほー」
俺と小学生組の四人の前に現れたのは、赤嶺友奈だった。
「俺達が取り返した領土を再奪取しようって魂胆なら、カードが足り無いんじゃないか?」
辺りにバーテックスは見当たらない。赤嶺一人で立ち向かうには勇者の数が多すぎる。
「良いんだよ。今日は元から一騎討ちを申し込みに来たんだからね」
「......」
「そう睨まないで。この地域は確かにあなた達の場所。ここを賭けて私と貴方で戦いたいなって」
「...俺か」
「この間の貴方を見た限り、まだ何か隠してそうだからさ」
この間というのは、以前俺と一騎討ちして俺がやられた時か、一緒に遊んだことがそう感じさせる原因だったのか。
確かに以前の戦闘の俺は全力でなかった。いや、『全力を出せなかった』というのが正しいか。目的も勝利ではなく時間稼ぎだったから別に構わなかったけど。
「私が勝ったらこの土地を貰う。貴方が勝ったらこの土地の強化をするまで手出ししないと誓う。どうかな?悪い条件じゃないと思うんだけど」
『ここの地域を磐石な物にすれば、戦況はかなり有利になります』
数日前ひなたが言っていたことが脳裏をよぎる。解放した地域は巫女による結界強化を施すことで敵の進行をかなり抑えることが出来るらしい。進行自体あまりされないので恩恵を感じる機会は少ないが、彼女達が真剣にやっていることだ。大切なのだろう。
「...勝敗条件は?」
「どっちかの手が地面についたら負け」
「...わかった。やるか」
「待ってください古雪さん!わざわざ相手の策に乗るなんて」
「せめて他の皆が来て相談してからでも良いんじゃないですか?」
水着から勇者服に変身した須美ちゃんと銀ちゃんが言ってくるが、特に気にしなかった。
「断ったらバーテックスの群れがどっからか出てきそうだし、負けるつもりもないから平気だろ」
「言うね?勝つのが決定事項みたい」
「悪いがもう黒星を数えるつもりはないんでな...銀ちゃん、斧貸してくれるか?」
「え、はい。どうぞ」
二つの斧を受け取り、代わりに銃と刀を渡す。バリアがある以上どんな攻撃も衝撃を与えるだけだが、少なくとも銃は赤嶺相手に怯ませることも出来ない。
「古雪さん、何を...」
「?あぁそっか。知らないのか」
ちらりと赤嶺を見てから、斧を器用に振り回した。
この世界に来てからも特訓し続けた鉛つき木刀。つまりこいつを動かすための動きだ。銃も短剣もやってるが、一番はこいつ。
「俺の最初の武器は、こいつなんだよ」
夏凜が木刀二本で舞をするようにくるくる回転させ、右手に握られた斧を赤嶺に向けた。
「...ハッタリではないみたいだね」
「切り札は取っとくもんだろ?」
「いいよ。なら始めようか...戦いなら容赦しないからね」
「あぁ」
「よーい、スタート!」
赤嶺の合図で突っ込む。相手側も思考は同じようだ。
「行くぜぇぇ!!」
「勇者パンチ」
二振りの斧と右の拳がぶつかる。赤嶺の右腕を覆うアームカバーとの間で火花が散った。
「ふっ!」
「ぐっ!?」
そのまま左足を脇腹に叩きつけられ、体内にあった空気が口からこぼれる。バリアによって直接痛みはないが、衝撃はそのままくらうわけで。
(だがな...っ!)
吹っ飛ばされた俺は斧を地面に突き刺して減衰し、着地。
「まともに入ったと思ったんだけどな」
「今まで散々血を流したりしてきたんだ。このくらいわめく程じゃない」
後ろの方から小学生組の声が聞こえるが、何を言ってるかまでは判別出来ない。というか、気にしてない。
「その余裕はどこまで持つかな?」
「さてさて、どうでしょうね」
赤嶺の拳を斧で防ぐ。
彼女は友奈達と同じように腕や足での高速攻撃に強みがある。一撃一撃が軽いというわけでもないが、構えておけば怖くない。
(どっちかと言えば...)
ほぼ同時に飛んできた膝は、加速させた思考がなんとか判断して体を捻って回避した。
よく練習を共にする夏凜、手合わせする若葉と違って、赤嶺は足も出る。剣を下から切り上げる攻撃とよく似た足攻撃は、実際動くまでのタイムラグが剣をそこまで移動させるより少ない。ノーモーションの攻撃は判断が遅れる危険がある。
「随分消極的だね。勝てないよ?」
目を慣らすため受け身重視の動きをとってることに気づいたのか、赤嶺がそんなことを聞いてくた。
「さっきも言ったが、これ以上黒星を重ねるつもりはないよ」
「そっか...なら頑張ってね」
そう言った赤嶺は一瞬だけ離れ、次の瞬間には拳を伸ばしていた。十分な速度を得た拳が俺を吹き飛ばそうと襲ってくる。
俺は二つの斧を_______真上に放り投げた。
赤嶺が僅かに驚く。少しだけ目が斧を追う。
(ここで...っ!!)
振り上げた右手を下に戻し、もう一度振り上げる。拳と激突したのは、今や俺だけの武器と言っても過言ではない短刀だった。
「なっ!?」
「...この刀じゃ軽すぎたか」
赤嶺にカウンターを決めたものの、彼女の手を地面につかせることはできなかった。刀が浅く入ったのもあるが、彼女のバランスを崩しきるには重みがなかった。
すぐに刀を消し、上から降ってきた斧をキャッチ。追撃が来る前にバックステップで距離をとる。
「驚いたな。随分器用なことするんだね」
「散々主武装だってことは見せたから、不意を突ければいけるかなと思ったんだけど...もう騙せないな」
武器の切り替えなんかは他の勇者はしない俺なりの戦い方。だが、一度見せてしまえば通用もしないだろう。
(対人にはあっちの方が経験ありっぽいしな...ここは攻めるか)
「じゃ、今度はこっちからやろうか!」
気合いと共に右手を一閃、赤嶺の回避を予想して 左手でもう一閃。大きな武器を遠心力で加速させ叩きつける。赤嶺は回避するか腕でそらすか、まともな当たりはない。
「その斧は邪魔だね...」
「止められるもんなら、止めてみなぁ!」
俺が少しずつ押していき、赤嶺の防御が緩くなっていく。
しかし、こんなことを言っておいて、止められたのはあっという間だった。
「私を...攻撃するの?」
「っ」
一瞬だけ見せた赤嶺の女の子らしい顔。涙目で、子犬の様な仕草で、脳まで溶かしそうな甘い声を流して。
それは以前俺の部屋で、俺の耳元で囁かれた声より甘美で。
(...あ!?)
戦いから日常に戻された思考が元に戻るまでは、赤嶺にとって十二分な時間だった。
右手の斧を蹴り飛ばされ、左手の斧は弾かれる。戦いに戻った思考が弾かれた右手に刀を呼び出すが、両手首を捕まえられた。
「ちょっと、それはずるくないですかねぇ...!」
バーテックスならともかく、人間と戦うなら無意識で躊躇う自分がいるのは知っている。それを承知の上で殺してるつもりだが_____さらに言えば、千景と争った時なんかはひたすら悪意、殺意だけだったが_______こうして俺の心を利用されるのは初めてだ。
(こいつ、全部分かっててやってやがる...)
「ずるくないよ。戦いなら容赦しないって言ったでしょ」
「油断した俺が悪いってかぁ!?」
「そうでしょ?」
「そうだけどぉ!」
全力で力を込めても手首を抑えられては動かしにくい。
(さて。分かれよ...頼むぜ)
『ちらりと後ろを見て』硬直状態を続かせるが、赤嶺はそうとしない。
「じゃあ、お疲れ」
俺の左手をつき離して殴りの構えをとった。右手の刀が左手に来ることを考慮した上で、全てを叩き潰そうとする本気の拳。
「_____」
かくして、吹っ飛ばされる程の衝撃を受けた『赤嶺』が立ち直らないうちに繋いだ手を地面につけさせた。
「...勇者パンチとは言わないんだな」
俺から溢れたのは、そんなどうでもいいことだった。
「なんで...持ってるの?」
左手に握られているのは『斧』。本気で振れば赤嶺の右ストレートの上からぶっ飛ばすだけの力がある。
だが、俺はこの斧の所有者じゃないし、銀ちゃんの斧は弾き飛ばされた。腰をおろした赤嶺が聞いてくるのも当然だった。
「...俺らが全員揃ってる時に樹海化させてればな」
「?...そういうことかぁ」
俺が受け取ったのは三本目。途中から俺達の戦いを見ていた中三の銀は、こっちに向けてピースしている。
あいつは俺の目線だけで、必要なこと_______俺に向けて新たな斧を投擲する______を理解し、完璧なタイミングで実行した。
もし全員が同じ場所に樹海化していれば、俺は銀ちゃんでなく銀から斧を受け取っていた筈だし、俺の戦いや中学を一心同体で過ごしている彼女でなければ意味が分からなかった筈。
「戦ったのは俺一人だし、ルール違反ではないよな」
「...そうだね。負けたよ」
赤嶺は前から自分の敷いたルールを守る。そういう意味で彼女も義理堅いというか勇者というか。
「強いんだね」
「そんなことないさ」
俺は強くない。俺だけの力では本物の勇者には敵わない。
(もし、俺が強いのなら...)
「まぁ、絶対負けられないからな」
俺を支えてくれている多くの人を守りたいから。助けたいから。救いたいから。そう願う魂があるからだ。
「...さてと。今日は帰りな。出来れば次は樹海じゃない場所で」
「それはどうかな...約束は守るよ。こっちも手駒を増やさないとね...」
「返り討ちにしてやるよ。俺達勇者部がな」
「ふふっ...その笑顔を壊せるよう頑張るよ。じゃあね」
どこからか現れた星屑に乗って、赤嶺が消える。
「...またな」
ぼそりと呟いたのは、赤嶺が視界から消える直前だった。
この後勝手に戦いを始めたことを勇者部に問い詰められるが、それはまた別の話。
今回は前半は新リクエストから、後半は一番始めに頂いた旧リクエストをメインにして書いてみました。当時は確か赤嶺の存在も具体的に出ておらず、唯一返信して断り文のようなものを送らせて頂いたものですが...やっぱり人と人との戦いを書くのは難しいけど好きだな。
勇者らしくない搦め手を含めれば椿は単体勇者のトップ争いに食い込めそうです。この世界だと椿の戦衣も皆と同じレベルですし。