古雪椿は勇者である   作:メレク

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ゆゆゆい編 9話

「ここは遥か遠い理想郷。照りつける日射しの苦痛を感じさせない神の領域...!!」

「大きな水の城がそびえ立ち、安らぎを与える波には誰一人いない...」

「そう...!!!」

「ここは...!!!」

「「ウォー!!ター!!!アイランドォォォ!!!!」」

「なに騒いでんだお前ら」

 

謎の言葉を羅列しながら両手を天高く掲げてる銀ズを見て、一つため息をついた。作った弁当を詰め込んだクーラーボックスを施設で用意してあるパラソルの下に置く。

 

「だって椿!プールだぞプール!しかも貸しきり!!」

「そうですよ!テンション上がりますよ!」

「いや、それにしてもテンション高過ぎだって」

 

予め水着を着て来た俺より先にプールサイドにいて叫んでればこうもなる。

 

「中一の椿は一緒になって騒いでただろうなぁ...なぁアタシ?」

「あれですね。子供の心を忘れてしまったんですよ」

「言いたい放題だなお前ら。弁当抜きに出来るんだぞ」

「「ごめんなさい」」

 

完璧なシンクロで腰を90度曲げる二人に免じて許すと、二人して喜んで跳ねた。

 

「お前ら滑るから気をつけろよ」

「おやおや、椿さんは成長したアタシのボディーが揺れて気にならないんですか~?」

「滑るからって言ってんだろ」

 

大きい方の銀にチョップすると、それなりに痛がっていた。こちらもかなり痛かったが、これで痛がる所を見ると少しずつ普通の人間の様に戻っているのだろう。

 

(良かった...)

 

「つ、椿さん...アタシはどうですか?」

 

小さい方の銀ちゃんは結局俺が買い物で『これが良いんじゃないか?』と言っていたやつだった。強めのピンクにリボンがついた水着。くるりと回ってもピタリと肌についていた。

 

正直、その数年前まで一緒に風呂に入ってたし、赤の他人のサイズより判断がつく。

 

「やっぱり似合ってるよ」

「あー、アタシはどうなんだよ椿!!」

 

銀の方は勇者服の様に赤い水着で、胸元にフリルがついていた。彼女は再び体を手に入れてから可愛い服なんかを選ぶことが多かったが、水着も例に漏れなかった。

 

(元から、結構可愛いもの好きだもんな...)

 

ちゃんと全身を見て、俺はしっかり口を開いた。

 

「可愛いと思うよ。銀がよく映える」

「っ!?」

 

一瞬で顔を赤らめた彼女を見てるのが気恥ずかしくて目をそらす。

 

「そ、そっか...」

「ぎ、銀さん!こっち!」

 

気まずい空気を感じてくれたのか、銀ちゃんが銀を引っ張ってくれた。それなりに距離があけば次の人が来るまで静かにしてればいい。

 

(だが...結構上手くいったな)

 

これまでの俺なら全身見ることなくこちらから顔を赤くしてただろう。露出度の高い水着、しかも付き合いの長い彼女達のなんかいっぱしの高校男子には毒薬以上に刺激が強い。

 

頬を赤らめれば銀や園子にからかわれるわけで、回避するに対策を取るしかない。

幸いこうしてプールに来ることは事前に決まっていたこと。先週須美ちゃんの水着でドキドキしたのも事実。対策する他ないし、その時間はあった。

 

(今回は感謝しといてやる...)

 

こういうことを相談できる同性と言えば、あいつしかいない。次点で春信さんだが、夏凜の話を出そうものなら消し炭すら残らないだろう。いや残る筈がない。

 

そうしてあいつ、倉橋裕翔に渡されたのは一冊の雑誌だった。水着の女性が大量に収録された物_____グラビア雑誌だ。

 

『これで耐性つけろ。椿ならこれで十分だろ』

 

もう一冊さらに露出の多い本もあったが、先生に没収され郡に見られていた。一応俺を思っての行動なので罵倒はせず彼の背中に敬礼したのだが。

 

抵抗はあったが園子に突っつかれる方が辛そうと感じた俺は一週間でその雑誌を読み込み、今に至る。

 

(ここまで効果があるとは思わなかったが...いけるぞ。俺の理性)

 

「くくっ...」

「お、おかしいですよ銀さん!椿さんがあんな堂々言うなんて!」

「だ、だよな...何日か前からエッチな本持ってたし......どうしたんだ」

「...お、大人の女性に目覚めてしまった?」

「それはアタシ達にとって不味い...ってそうじゃないや。まぁ、そのせいで皆気合い入った水着選び直してたし...大丈夫かな。椿」

 

ぼそぼそ言っててよく聞こえない二人の会話を切り離して、集中する。この二人はまだ始まったばかり。俺はあと約20人の水着を耐えなければならないのだ。

 

(だが、これならいける...!)

 

強くなった理性はそれなりに頑張るだろう。

 

「ふ、古雪先輩...」

 

後ろから声をかけられ、振り返る。いたのは東郷だった。柔らかそうな白い肌は太陽の光を反射し、既に暑さで出てきた汗が体を伝う。

 

そして、どことは言わないが暴力的なそれが、『強調されていた』

 

「......」

 

 

 

 

理性が、音を立てて完膚なきまでに砕け散った。

 

(理性さぁぁぁぁん!?!?)

 

「に、似合いますか?」

「いや、あの、その...!?」

 

普段の東郷なら選びそうもない、胸元がぱっくり空いた水着。普段なら隠そうとする彼女が寧ろ押し出してきて、目線を離そうにも叶わない。

 

「やっぱり似合いませんでしたか...頑張ったんですが」

「そ、そんなことない!」

「ぇ?」

「そそ、そんなことはないから...」

「は、はい...」

「大丈夫よ東郷、椿はあんたの胸見てるわ」

「「っ!?」」

 

その一言で俺も東郷も動揺して体を震わせる。

 

「か、夏凜!」

「なに?変態」

「そうだぞ変態」

「ちょっ、お前...いやお前ら!」

 

夏凜と加勢してきた風もそれぞれ赤と黄色の可愛いビキニタイプを着てきて、心臓がうるさい。もはや対策など無意味に等しかった。

 

「皆ー!」

「遅れましたー...」

 

友奈と樹はまだ平和的で参照していた雑誌の方が際どかったが、最早俺には関係ない。美少女揃いの勇者部が水着になれば、俺の心臓は破裂しそうになるのも当然だった。

 

(なんなんだこれ。どこ見ても可愛いとか...こんなの持つわけ...!)

 

「つっきー!」

「...」

 

うろたえていた俺は、条件反射で声の主に顔を向ける。既に開いていた目は限界を越え、口まで開いた。

 

 

 

 

 

園子は水着を着ていなかったのだから。

 

頭のどこかが、切れた。

 

「園子っ!!!」

 

彼女の両肩を掴む。彼女は水着と言うことすら憚られるくらいの布を身に付けていた。どこか切ってしまえば全身が露になってしまいそうな。

 

「あっ、つっきー...」

 

息が荒くなって、目の前の彼女で頭が支配されていく。園子は怯えてるような喜んでるような______他人の心配が出来る程の余裕なんてなく。

 

肩を掴む力を強めて抑え、俺は叫んだ。

 

「服をきろぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はぁ...」

「お疲れ様です。大丈夫です?」

「...更衣室の時点で止めといてくれよ」

 

持ってきたブルーシートの上で鼻にティッシュを詰めた俺は、そう雪花に言う。

 

園子を更衣室に追い返してから興奮で鼻血が出てきて、休憩中。あと少し見ていれば襲っていたかもしれない。

 

(可愛いのを自覚しろ...それに、男子のこともうちょっと考えてくれよ...)

 

役得でしかないのだが、大切な仲間とそんなことになって気まずくなんてなりたくない。

 

ちなみに園子はちゃんとした普通の水着も持ってきてたみたいで、その上で俺の用意していたパーカーを被せた。それを脱いだら今日はもう遊ばせないと条件付きで。

 

「誰かしら目のやり場に困ると思ったけど、ホントにやらかす奴がいるとはな...」

 

もうプールで遊んでる園子ちゃんは白を基調にしたワンピースで、見てて和んだ。二年後にあんな(俺にとっての)怪物になるなんて信じたくない。

 

「私達も流石に止めたんですけどねー。見せるまではわからない!って」

「椿さん、ご無理はなさらず...」

「亜耶ちゃんは優しいな...涙が出てくる」

「はわわっ!?」

「止められない雪花達とは違うわ...」

「うわー...こりゃ完全にやられてますね」

 

一つよかった所は、もう周りを見ても動揺しないことだった。単に疲れたというのもあるし、園子という超毒薬を摂取すれば、多少の毒薬で反応することもなかった。水着って面積多いじゃん。多いよね。絶対多い。

 

「血が治まったら俺も遊ぼうかな。ウォータースライダー乗りたい」

「血まみれにしないでくださいね」

「つーばきー!!乗るぞー!!」

 

手をブンブン振る球子はスポーツタイプで、さっきまでプールに入っていたのに水の重みはなさそうだ。

 

「血が治まったらいきますよー」

「椿さん、平気ですか?」

「気まずいのは分かるけどね...私も周りが皆異性だったら嫌だわ」

「分かるか千景...」

 

千景や杏はスカートまで巻き付けてて、今の俺から見たら余裕だ。

 

遠くでビーチボールを使って楽しんでる若葉、棗、歌野はそれぞれ勇者服の色をした水着に身を包み、かなりの速さでやりあっている。

 

「うぼわっ!?」

「あ」

 

言ってるそばからビーチボールが銀の顔面に入った。

 

須美ちゃんと水都はそれを見ながらのほほんとしている。

 

「うきゃー!」

「わっはぁー!」

 

ユウと友奈は既にウォータースライダーを楽しんでいた。お揃いの水着にしたようで、知ってる人が見ても双子に見える。

 

「...さて、行くか」

「大丈夫ですか?ご無理は...」

「無理なんかしないって」

 

皆の水着姿で緊張することはあれど、結局俺は______

 

「折角のプール、無理して体ダメにしたら勿体ないからな!」

 

大切な仲間と夏の遊びをするのが楽しみだったのだから。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

楽しい時間はあっという間だった。ビーチボールで風の顔面にボールを叩きつけたり、逆に叩きつけられたり。

 

何故か若葉と球子と一緒にウォータースライダーに乗ったり。それを見た小学生組と銀にせがまれたり。

 

反省した園子に園子ちゃんの指示でお昼を食べさせてあげたり。

 

帰りの頃には日がくれかけ、バスの中は静かだった。

 

「たくさん遊んだから、やっぱり寝てるわね」

「そうだな」

 

起きてるのは、俺と風だけ。あまり水に入ってなかった亜耶ちゃんや雪花も小さな寝息をたてている。

 

「...皆、楽しめたみたいだな」

「一番大変だったんじゃない?」

「そう思うならあの園子止めといてくれよ。正直あれが一番きつかった...」

 

よかったけど。とは口が裂けても言えなかった。

 

「...それにさ」

「?」

「嬉しいんだよ。お前には過去のこと話したけど、西暦は大変だったし、神世紀も神樹様がいなくなってこうした娯楽は少なくなる。こうして集められた異世界とはいえ、皆が楽しく過ごせるってのは...人数多いと楽しいしな」

 

例えこの世界の記憶がなくなるとしても、幸せな思い出が増えてほしい。

 

そうした笑顔を守るため、誰かを守るために戦っているのだから。

 

「...キザっぽくて言えないな」

「椿?」

「何でもない。お前もよく周り見てくれてサンキュー」

「あたしは勇者部の元部長よ?でも...よく見ると、樹もちゃんと見てるし、銀も意外と気にしてるのよね」

「...流石現部長、流石俺と一緒にいた奴。ってとこかな?」

「それ自分の自慢か?お?」

「突っつくなー...おいやめろー」

 

風に突っつかれながら、窓の外を見る。この夕焼けがこれからも見られるように願いながら、俺は目を閉じた______

 

「...」

「...」

「...つんつんやめてください」

「い☆や」

「...潰す」

「ごめんなさい」

 




なんとか夏が終わる前に水着回出せました。かなり急いで作ったので粗があるかもしれませんが...

そして、やっぱり1度に20人以上の水着描写は無理でしたよ...水都ちゃんとか、許してくれ...

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