というわけで記念短編です(9月だと油断してたタマっちの誕生日ももうすぐということで白目です)
そのっちの魅力とか言いたいこと色々ありますがぐだるのでもういきます。楽しんで頂ければ。
私はずるい女の子だ。
同じ家に住む女の子をはじめとして、彼との付き合いは皆の方が長い。私が一番最後。
それに、自信もない。彼自身が皆可愛いと言っているように魅力があって、私から見ても可愛い。対して自分は、分からない。
でも、おこがましくても、貪欲でも、私は彼が欲しい。例え大切な人を悲しませることになってでも。
だから私は、ずるい女の子だ。
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「...」
夏をテーマにした曲は、個人的にアップテンポな明るい曲が多い気がする。特にこうしたお祭りともなれば尚更。
「...」
ちらりと見た時計は、集合時間の30分前を示していた。
「...我ながら、楽しみにし過だろ」
神樹様の恵みが消えた今、来年もこうしてお祭りが出来るのか分からない。最後と思う人も多いのか、集合場所としてあまり使われないだろう場所を指定したのに人混みはそれなりだった。
目の前を走っていく子供たち、腕を組んでいくカップル。
(...)
俺が着ている紺の甚平はカップルの男が着ている甚平とよく似ていて、少し頭をかいた。
「つっきー!!」
数多の音が鳴るなかで、その声は俺の耳に一番響く。
「早いな園子」
「つっきーもだよ~。まだ30分前だよ?もっと待ってそうだし...」
「こういうのは男が先に来るもんだろ...多分」
「嬉しいな~。あ、どうどう?似合う?」
薄いピンクの浴衣に、纏めた髪をかんざしでとめた彼女がくるりと回る。下駄まで装備の本格さで、カラコロ音を鳴らした。
何より本人の笑顔を最高に引き出していた。
「...俺は好きだよ」
「やったー!!」
「じゃあ行くか?」
慣れない下駄をエスコートしきるのも男の役目だろう。ちゃんとそうした本は読んできたし、抜かりはない。
「うん!行こう行こう!」
園子は俺の手を掴む_____前に、俺の脇に手を通してきた。くっついて出来上がるのは腕を組んだ俺達。
「園子...?」
「いいよね?」
「ははっ...断る理由がありません」
高鳴る心臓の音をバレないよう、出てきた汗を察されないよう、ゆっくりした足取りで俺達は祭りに向かった。
今日は8月30日。園子の誕生日だ。
なにを買おうか、パーティーの内容も悩んだのだが______いざ買い物に行こうとした日、園子自身に止められた。
『それより、やって欲しいことがあるんよ~』
ぽわぽわした笑顔で頼んできたのが『お祭りデート』だった。
元は勇者部皆で行ければいいなと話していたお祭りだが、二人きりでデートしたいとのこと。俺に頼んできた時にはもう他のメンバーから許可を取ったらしい。
小説のネタにしたいのかよく分からなかったが、俺としてはデートを断る理由もない。勿論プレゼントも別途用意して、今日を迎えた。
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「大将!!焼鳥二つくださいな!!」
「あいよ」
出来立てホヤホヤの焼鳥が私の元に来て、早く食べたい気持ちを抑えて振り向く。
「はい、つっきー」
「園子焼鳥好きだろ?俺は気にせず食べていいんだぞ?なんなら自分で」
「あーん」
「買うし...」
「あーん」
「...、あー...」
普段より抵抗しないで口を開けるつっきーに、串を奥までいかないよう気をつけながら運んでいく。
「ん、うまい」
「ホント?あむっ...んー!んー!」
「はいはいよかったな。追加買うか?」
「二本!」
「はいよ」
『はいはい』なんて言うものの、嫌そうな雰囲気はまるで受けないのは、つっきーの言葉の扱いが上手いのか、私が変換してるのか。お店に並ぶ彼を見てふと感じた。
こうした時のつっきーの行動は速い。本人は言わないけど、その行動力、観察眼は人とはかなり離れた高さにある。
「買えましたー。はい」
「あーん」
「わかったわかった。口開けろ」
餌付けされた焼鳥は、自分で食べるより美味しく感じた。
「あっ」
「ほら、混んでるんだから離れるなよ」
誰かとぶつかって離れた体がまたくっつく。
「...うん!」
静かにまた腕を組んで、私達は少しずつ進んだ。
少し前、安芸さんに会った時、つっきーとミノさんの話になった。つっきーの体にミノさんの魂が入っていたのを知っているのは、大赦でも安芸さん、元大赦所属でにぼっしーのお兄さんでもある春信さんしかいない。
『幼なじみがいると話には聞いていましたが、勇者になるとは...』
『驚きだよね~。唯一の男の勇者。大赦の調べでは適性値が一番高かったんだよね?』
『今はほとんどないですが。どういった原理で魂を保管していたのかは分かりませんが...死んだはずの人間の魂と過ごし、勇者となり、おまけに過去を変えてみせた。こんな奇跡、信じられません』
『嘘みたいだよね』
ミノさんに『なんでつっきーと一緒になれたの?』と聞いた時は、『アタシもわかんね!』と答えてくれた。これが神樹様の恵みなのだとしたら、私は一番感謝しなければならない。
でも、春から二人の仲の良さ_____というより、思いが通いあっているのを見れば、『二人だから』という、ただそれだけで奇跡を起こせたんだと思う。
そのお陰でつっきーは勇者になって、皆と一緒に戦って、私も治った。
私と彼を繋いでくれたのは、私の大切な人。一度は命を落としてまで私達を守ってくれた人。
そして________はっきり言う。
私は、そんな大切な人から、ミノさんから、彼を取りたい。
ゆーゆにも、わっしーにも、ふーみん先輩にも、いっつんにも、にぼっしーにも、私の知らないご先祖様達にも渡したくない。独り占めしたい。
黒くて醜い感情は、出会ってまだ一年も経ってない彼に注がれていた。
「つっきー、射的上手だね」
ここまでわたがしを食べて、ヨーヨーを釣って、射的をした。
五発でつっきーが欲しかった小さなお菓子と、私が欲しかった鳥のキーホルダーを撃ち落としたつっきーはご満悦な表情だ。
「過去で東郷の白銀も使ったからな。やっぱ命をかけて使ったものは覚えてるもんだ」
つっきーの言う『過去』は、今から大体300年前のこと。私も始め信じられなかったけど、私のお家からつっきーの写真が入ったメモリーカードが出てくれば、信じるしかなかった。
(そもそもつっきーが嘘をつくとは思えないし)
「でも一番はミノさんのなんでしょ?」
「んー、今一番使いこなせるのは斧だけどな。一番相性が良かったのは槍じゃないかな」
「え?」
「過去で使ってる時一番『上手く使えてる』感覚があったんだよなーあれ。ちゃんと練習を積めば斧より上手く出来そう」
「園子に勝てる気はしないけどな~」とつっきーが続ける。私は彼の顔が少し見えなかった。
彼はどんな風に言っているのだろうか。嬉しそうにか、真面目にか。
明るい口調だけど、ふざけてるようには感じなかった。
それを聞いて私はどうなってるのか。ただ武器の相性が良いと言われただけで喜んでいるこの心は普通なのか。
「確かそろそろ花火だよな。見に行くか?」
「...うん。ゴーゴー!」
「いや園子...ちょいちょい」
怪しげな笑みでつっきーに連れられたのは、祭りのメイン通りから離れた古ぼけた建物。
「お寺...?」
「70年近く前に使わなくなったらしいが、掃除もちゃんとしてるんだと」
座る場所を勧めてきて、二人で座った。
「ここは地元民でもなかなか知らない。運営が設置した観覧場に行くのが普通だが...」
変に溜め込んだつっきーの顔を見たせいで、始めの花火は音が聞こえてから見上げた。
心が直に揺らされたような響きは、私の悩みを吹き飛ばすような。
「嘘...」
「ここからは、ばっちり綺麗に見える。秘密のスポットだ」
「凄い!凄いよつっきー!!」
三年前わっしーと見た景色に負けないくらい綺麗な花火。赤緑黄色、たまにハートが見えて、カラフルな景色に心も彩られていく。
「つっきー、こんなところどうやって見つけたの?」
浮かれてた私は、聞かなければよかったと思い直せなかった。普段なら簡単に気づきそうなのに。
「ここは銀と一緒に来たとき、道に迷って見つけたんだ」
「っ...!!」
小さい頃から来ているなら、ミノさんと見つけた場所というのが濃厚。
そして、それは______
(...ここは、ミノさんとの思い出の場所)
しかも、ここにミノさんがいないということは、完全に譲って貰ったのだ。
『誕生日プレゼントは...夏休みのお祭り、私とつっきー二人きりで行かせて欲しい』
皆に頼んで譲って貰った、今日のデートのように。
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「?」
俺と銀が見つけた場所で、園子と二人で花火を見ていた筈だった。何度見ても綺麗だと感じてた園子と他愛ない話をしてると、急に園子が黙って組んでいた腕の手を絡めてきた。指と指の間という他者には滅多に犯されない領域が支配されている。
「うおっ!?」
疑問に思ってきた俺はそのまま押し倒される。花火が園子の顔を照らす。
彼女は、泣いていた。
「園子...?」
「つっきー...私ね。欲しくて欲しくてたまらないの。つっきーが欲しくて胸が痛いの!!」
小さな子供のように頬を膨らませて、駄々をこねるような声を出す園子。突然言われた俺は動揺することしか出来ない。
「ど、どうした!?」
「わかる?私の心臓の音。つっきーと一緒にいるといつもいつもドキドキしてるの。もう...自分でも抑えられないの」
園子が自分の胸に俺の手を持っていき、そのまま俺に倒れこんだ。彼女の体が分厚めの浴衣越しに確かな存在として感じさせられる。
「そ、園子...」
「...好きなの」
「!」
「私は何よりつっきーが好き。他の誰より...大好きです。私と付き合ってください」
「......」
花火の音にも負けない園子の告白。俺は息を詰まらせた。告白された驚きではなくて______
(園子...どうしてそんな、悲しそうな顔をしてるんだ)
告白した結果に対する不安ではないと確信できる、くしゃっとした顔。涙をぼろぼろこぼし続ける瞳は吸い込まれそうで。
戸惑った俺は何も言えず、少しだけ沈黙が訪れた。
「......っ、ご、ごめんねつっきー。突然こんなこといって...えっと、ホントにごめんね!」
普段飄々とした雰囲気のある園子らしからぬ離れ方。そのまま器用に下駄でここから逃げるように走ろうとする。
(...離すのか?)
彼女の気持ちの吐露を無視して何も言わないなんて間違ってる。ここで彼女に伝えないなんて間違ってる。
情けないことに、彼女の方から告白されてしまったけれど_______
(あぁ。離しはしない。この手で手にいれたい物があるんだから)
園子の腕を掴み、そのまま強く引っ張りこむ。バランスを崩した彼女は俺の胸元に飛び込んだ。
「っ!は、離してつっきー!」
「園子。何で...何でそんな顔してるんだよ。言ってくれよ」
「...私は......告白しちゃったから。本当はミノさん達からとっちゃいけないって分かってるのに、気持ちを抑えられなかったから...」
それは_____俺のことは好きだけど、俺は銀達が好きだから。ということか。
「こんなに準備して、皆で行く予定だったお祭りも断って...でも、私...」
「...」
「だ、だから離してつっきー?もうこんなことしないから...んっ!」
彼女の顔を強引に持ち上げて唇を重ねる。涙で濡れていた唇はどこかふわふわして、現実じゃないみたいだった。
(バカやろう...)
彼女の抵抗しようとする力を奪うように、貪るように口を侵食する。彼女の力が抜けきってから唇を離した。唾液の糸が俺達を名残惜しく繋ぎ、やがて切れる。
「ふぅ...これが、俺の告白の返事だ」
「つっきー...?」
「お前が銀達に申し訳ないとか、そもそも前提が間違ってるんだよ。俺が好きなのは...園子だから」
それをたっぷり30秒近くかけて理解した園子は、驚いた顔から徐々ににやけを必死に抑えてる顔になった。
見たことないその顔が可愛くて、また口付けを交わす。
花火で出来た影は、ずっと一つだった。
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「...とまぁ、こんなところだよ」
「聞いた俺が死ぬほどバカだったよ」
「しつこく聞いてきて第一声それかよ...理不尽過ぎない?」
ブロンド髪であることを除けば俺に似てる少年は、そう言って料理を終わらせた。
「じゃあ...銀さんは空気読んでそこに行かなかったんだ」
「俺から頼んでたからな。園子をあそこに連れていきたいって...というか、俺も告白しようとしてたし」
「それが気づけば押し倒されて...その頃から母さんにしてやられてるな」
「否定できない...」
少年の名前は古雪立夏(りっか)。俺と園子の子供だ。
『私はつっきーのモノになりたいから...』
俺達が結婚する頃には大赦の格式は低くなり、本人の意志もあって乃木家の婿養子として入ることはなかった。
生まれた息子は園子の天才さをふんだんに受け継ぎ、興味のあることは何でも調べ、どれをやるにも上位、俺に木刀で勝負を挑めば中学生の時点で完封された。戦衣で身体能力ブーストまで着けたのに。
まぁ、俺の遺伝子もちゃんと含まれてたようで、容姿と性格はそれなりに似てるし、とある女の子にたじたじらしいが。
「あなた~。準備出来ましたわよ~」
「お、来たみたいだな。じゃあ留守番よろしく」
「...いってらっしゃい。バカップルが」
今日は8月30日。園子の誕生日だ。
俺達の歩く先は決まっている。
「また、一年ぶりだね~」
「前回の掃除には参加しただろ」
「そうでした~」
あの頃のように浴衣でも甚平でもない。あの時のように夜でもない。
「...嬉しいな」
「そうだな」
こうしてここにいれて嬉しい。こうして隣にいてくれて嬉しい。
隣にいる彼女はあの頃から同じで、この場所で、あの時と同じように影を合わせた。
誰より大切な人の名を口にして。
「愛してるよ。園子」
「愛してるよ。つっきー」
普段は周りの人が幸せなことを見ていたい、大切としている彼女が、エゴを貫いてでも欲しがる。そんな物が作りたくてこうなりました。