ということで今回も記念短編となります。そのっちと続けてというのもあるけど今回何が辛かったって、タマっちのアフターストーリーのネタを考えてる時に書いたこと。
今回の時空はゆゆゆいです。
「椿...ごめんな...」
「気にすんなっての」
家庭科室で料理をしていた所、球子に驚かされて熱湯をこぼしてしまった。咄嗟に避けることは出来たけど_____球子にかかりそうならば、庇うわけで。
左手の一部が火傷で皮が剥けてしまったが、料理で火傷をしてきた身としては数週間もすれば痕も残らず消えると経験で分かっている。それでも普段料理をしない球子は理解できない。
責任を感じて謝ってくるのは、小さな子供のいたずらがバレて反省してる様だ。
いっそ俺の戦衣に回復能力があれば良いのだが_____この世界は精霊バリアのある最新システムになった代わりに、治癒向上能力は無くなっていた。西暦の時の異常な回復力は高嶋友奈(神様)のバックアップがあればこそだし。
「このくらい唾でもつけときゃ治るさ」
「ホントか...?」
「いやそこで唾出さないで。自分の唾だから」
動転してる球子が口をもごもごさせ始めたのを必死に止める。そんな事されたらどうしたらいいのか分からなくなる。
「...よし!!決めたぞ!しばらくタマは椿の手伝いをする!!」
「えぇ...」
(まいったなぁ...)
「はい椿!あーんだ!」
俺は右利きだし、ご飯を食べさせられる必要はまるでない。だが、箸を取られて球子が返さないのではどうしようもない。
というか、優しさ全開の球子を必要ないと断る術など俺は持ち合わせていなかった。
「ん、あー」
「どうだ?美味いか?」
「...これ、市販品だしなぁ」
ちょっと小腹がすいて買ったサラダだったのだが、買ってから後悔した。箸を使わず食べるパンにしとけば何も問題なかったのだ。
(右手は自由だから油断してた...というか)
そうであれば________
(きっまず!)
こうして部室で周りの視線を受けながら食べることも無かったのだから。なんとなく熱があるというか、刺さるというか。
「火傷の治し方。火傷の治し方...」
「......」
「......」
「......」
こっちをじっと見つめてる者数名。治療法等が載ってる本を漁り続けてる者数名。何でもないようにいつも通り過ごしてる者数名。それらを見てニコニコメモしてる園子ズ。おい最後。
「...ご馳走さま。ありがとな球子」
「いやいや、タマに全部任せタマえ!」
「そういうわけにも...ひとまず依頼を」
「いーや。椿は座っててくれ!椿の分はタマが全部やるから!」
「球子、無理は...」
「今日のタマは椿の手足だ!」
「......ぁー分かった。お願いするよ」
「了解だ!!!」
依頼内容だけ確認した球子は、猛ダッシュで部室から消えた。
「...おい、誰か止めてくれないか?」
俺の声に反応する者はいなかった。
「いや、球子、別に家までついてくることは...」
「いーや!!」
「...はぁ」
家のソファーには両親がいて、軽い事情説明をする。俺と球子を見てニヤニヤしてる母親と『火傷か、大変だな』とどうでもいい感じの父親。多干渉されるよりは良かったので特に何か言うことなく部屋まで向かった。
「...さて、お前どうするつもりだ?」
夕食の準備は終わっている。手伝えるのはご飯を食べさせる位だろう。親の目の前であーんされるとか高校男子からしちゃある種の拷問である。
(今日でよかった...)
一番の問題はひなたをはじめとした他のメンバーがなんとかしてるようで、正直助かった。
「椿にご飯を食べさせる。着替えをさせる。あと風呂にも入れないとな!」
「...風呂!?」
「善は急げだ!行くぞ!」
いきなり予想外のワードに動揺したのを知ってか知らずか、ぐいぐい押してくる球子。
「ちょっ、まだ湯船溜まってないし!それ以前にそれはダメだろおい______」
自分の風呂は基本家族しか使わない場所であり、 遊びに来る友達でも入ることも見ることもない。
「...」
そこに美少女がいるってのは、大事な何かが蝕まれてるようでどこか緊張した。
(あーもー無心だ俺)
「背中流すからな?」
「任せる」
互いに裸なんてことはなく、俺は水着を、球子は濡れてもいいよう着ていた制服の上に俺の服を被っている。体格差で少しぶかぶかだが、服を着られないなんかより全然良い。というかこれを条件に風呂に入っているのだから。
(...にしても、強引だな)
確かに球子は納得いくまで自分の意思を貫くタイプだが、今回は意固地と言うか、より強引だった。
「強さは平気か?」
「ん、気持ちいいよ」
高校生にもなると背中を洗って貰うことなんてそうない。自分なら届きにくい場所も力を入れて擦って貰えるのは嬉しい。
「背中の次は前だな!」
「前は俺がやるから。絶対俺がやるから。頭やってくれ」
「わ、わかった」
有無を言わさぬ俺の言い方が効いたようで、彼女は手にシャンプーをつけだす。特にワックスなんかをつけてるわけでもない髪は、すんなりシャンプーと球子の手を受け入れた。
「お、意外と上手いな」
「だろう?杏の長い髪をやったりしてきたタマからすれば楽勝だ」
「へー」
正直意外だった。髪は女の命とも言われる。杏と球子が仲良しとはいえ、ちょっとがさつなイメージがある球子に杏が髪を洗うのを任せるとは思ってなかった。
(まぁ、球子の髪もそれなりに長いからな...)
普段お団子のように髪を二つ結んでるが、それをほどけば俺より長い髪になる。何回か見たことあるが、大体そうした時の球子はギャップがある。杏の恋愛小説のキャラをやらされてたりするから。
普段の球子を知っているからこそ珍しいし、髪を結んでる女子はおろしただけでどことなく特別感が出る。
「髪濡れちまったなー。タマも頭洗うか」
だから、唐突に特別な格好の球子が鏡越しに見えれば、考えていたからこそ動揺した。
「ん?どうした椿?」
「なんでもない!」
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「あぁーいい湯だった!」
「シャワーで頭洗っただけだろ...」
タオルに髪についている水を吸わせていると、どことなくそわそわした椿が言ってきた。ちなみに、椿も結局沸かした湯船に入ってはいない。
「さて椿、ご飯にするか!タマが食べさせてやるからな!」
「...ふぅー。球子、いくらなんでも強引すぎないか?」
「そ、そんなことないぞ!」
「どもるなよ...流石に全部介護みたくしてもらわなくたって平気なんだが」
「...そうだよな......で、でもタマはお前が心配で!」
「その気持ちは分かってるって」
「そんな頼りないかぁ。俺...いやまぁ...」と悩んだように声を出す椿。タマは否定するために口を開く。
「いや!椿はいつも頼りになるぞ!でも...」
「でも?」
椿をちらりと見る。不思議そうに聞いてくるこいつの顔は、こちらの答えを待っていた。
タマは、椿が強い存在だと思っていた。はじめは違う。西暦にいた頃の椿は変だった時期が長いし、タマと杏を庇って腹に穴を開けたりして、それでもがむしゃらに進んでいく姿を見ていたから。一緒に、がむしゃらに戦ったから。
でも、この未来の世界で一年と少し。勇者部の最高学年だったり、バーテックス相手に一番に突っ込んでったり、赤嶺と全力で戦ったりする椿を見て、どこか自分とは違う強い存在だと無意識に線引きをしていた。
『あっつ!!』
だから、タマを熱湯から庇ってくれた椿の『痛がっている顔』を間近で見たら、変な勘違いをいつの間にしていたんだろうと思ってしまった。
椿だって痛がるし怖がる。それでも誰かのために動ける人なんだ________杏を守りたいと思うタマにとって、かっこいいと思うような、憧れのような、尊敬するような存在なんだ。
だから、椿に暗そうな顔を、痛そうな顔をしてほしくない。『誰かの』ために笑顔でいて欲しい_________
「でも...本当に心配したんだ」
「......」
消え入るようなタマの声を聞いてか聞かずか、椿は息を吐き出した。
「別に火傷くらい心配されるほどでもないよ...でも、ありがとな」
そう言って、タマよりごつくて大きな手が頭を撫でてくる。
その顔は、微笑んでいた。
「んにゃー...」
思わず目を閉じる。『タマの』不安を削ぐためにしてくれた顔が特別のように感じて、心がぽかぽかした。
「っ!」
「?...どうかしたか?」
「な、なんでもない!!」
「おう...まぁ椿。今日は何しようとしてもタマが代わりにやってやる!どーんとタマに命令しタマえ!!」
「あ、あぁ...じゃあ球子、とりあえず外行くぞ」
「...おう?」
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(というか、この後出掛けるからって言って風呂回避出来たんじゃね?)
今さら考えても後の祭りで、俺達は犬吠埼家へ向かっていた。残暑厳しい時期でも流石に風が吹けば寒さを感じる時間だ。にわか雨の可能性もあってバイクは留守番させている。
「......」
隣を球子は髪を普段通りに戻していた。つい頭を撫でた時に見せた幸せそうな顔に心を揺さぶられて落ち着かなかったので、元に戻してくれたのはありがたい。
(それでも、まだ心臓が速い気がするんだけどな...変に緊張するな。俺)
「それで、なんでまた風と樹の家に行くんだ?」
球子から話題を振ってくれたのでそれに集中する。
「それはお楽しみということで」
かといって話題を広げることも出来ず、インターホンを押した。
「来たぞ」
「はいはーい。いらっしゃい。椿もタマもよく来た!」
勢い良く出迎えてくれた風がどんどん入室を促して来て、球子が連れ去られる。
俺はメールで指示された位置にあった物を取り、玄関のドアを閉めた。
「風?なんかちょっと暗くないか...」
球子が指摘した瞬間部屋の明かりがつく。そして______
『ハッピーバースデー!!』
「うわわっ!?」
「おっと...」
クラッカーと声に驚いて体勢を崩した球子を支えてやった。案外軽い重さが俺の腕に伝わってくる。
「え、え?」
「誕生日おめでとう。球子」
「おめでとう。タマっち先輩」
「...今日タマの誕生日か!!!」
杏の言った通り球子は自分の誕生日を覚えてなかった。彼女曰く覚えてる年と覚えてない年があるらしいが、見事的中した。
ちなみに俺が家庭科室で作ろうとしていたのはケーキだったのだが、球子が俺にくっついて来たため役割を逆にして皆に作って貰った。今は堂々とテーブルの中央を陣取っている。
「...みんなー!!」
「ちょっ!?」
涙で顔をぐずぐずにした球子が支えてた俺の首に腕を回して抱きしめてくる。ふわっと柑橘系の匂いが鼻をくすぐった。
「皆はあっち!反対!」
「こんな顔見せられるかー!」
「拭くなおい!」
ひとしきり騒いだ球子は、弾ける笑顔を作った。
「皆ありがとう!大好きだ!!」
「土居さんは騒がしいわね」
「そう言うわりにノリノリで準備してたじゃないか。千景」
「乃木さん!?」
「そーなのかー千景?そうなのかー!!」
「やめてっ、抱きつかないで!」
「げふっ...杏ー!!!」
「はいはい...」
「元気だなおい...」
呆れたように言ったものの、口角は上がってるのを自覚していた。
「嬉しそうですねー椿さんや」
「そうですなー」
「るせぇ。銀も風もニヤニヤしてんな」
仕方ないだろう。球子は反省してるような顔より笑顔の方が何万倍も似合っていたのだから。
一つお知らせです。そのうち作ろうと考えているオリ紹介3に向けて、質問箱を作りました。自分に質問したいぞと言う方は是非。詳しくは作者欄の活動報告にて。