古雪椿は勇者である   作:メレク

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ゆゆゆい編も二桁に突入!

今回はリクエストになります。質問共々どしどし募集中です。


ゆゆゆい編 10話

「...」

 

部室にほとんどの人が集まっていたのに、誰一人音を発しない。普段勇者部の部室はぎゅうぎゅうで騒がしいけど、ぎゅうぎゅうで静かというのは違和感しかなくて怖い。

 

「......」

 

何を考えているのかは大体察しがついた。恐らくアタシも同じだから。

 

皆が食いついて見てるパソコンには、一つの依頼が届いていた。

 

『一般的な男の子の好みを教えて貰えませんか』

 

そのあと多分依頼人が好きな人の魅力がつらつら書いてあったけど、スクロールされないから誰も見てない。

 

「......い、いやー。あたしが中学の頃にね!あたしのチア姿に惚れた男子が」

「風さん。それを聞くのは我々も五回目だ」

「...」

 

風さんの武勇伝を若葉が止める。

 

どこか重苦しい雰囲気が部室を包んでいた。

 

それをぶち壊したのは案の定というか_______

 

「つっきーの好みはどんなかな」

 

バーテックスと戦っている時のような、脳が焼ける感覚。走った衝撃は何人かが同じようで、表情が変わった。

 

「...」

 

よく考えたら、アタシもあまり知らない。プールの前にそういった本を読んでるのは見たけど、あれ以来持っても買ってもないようだ。

 

(...椿のタイプ)

 

「銀ちゃん、何か分かる?」

「んー...アタシもそこまでかな。意外と知らない」

「そっかー......」

 

再び重くなる空気。ぶち壊したのは______アタシにとっては案の定だった。

 

「お疲れー」

「確保ぉぉぉ!!!」

「え、え?え!?」

 

(椿に不幸体質移してる説あるな...いや、これは不幸じゃないかな?)

 

アタシに言えることはただ一つ。椿、ドンマイ。

 

「なんなんだよぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

(部室に来たら紐で拘束され椅子にくくりつけられた。突然どうしたと思うだろう。俺も思う)

 

異常事態に混乱してた俺は誰に話すでもなく、なんとか言葉を捻り出す。

 

「マジでこれはなんなんだよ。俺も怒るぞ」

「いやーごめんごめん。外すわ」

 

銀が縄をほどいてくれたが、事態の謎は解けないまま。

 

「実はこんな依頼がきててね」

 

『一般的な男の子の好みを教えて貰えませんか』とパソコンに書かれたのを見れば、今までの勇者部を見てきたら逃げたくなるし、それを防ぐため捕らえるだろうとどこか納得できた。

(前は確か、似たようなことで壁ドンが始まって...)

 

「...それで、部内唯一の男である俺に聞こうと言うわけか」

「そうそう!」

 

ここで逃げ出せば多勢に無勢で捕まるだけ。煮るなり焼くなりされてしまう。

 

「...答えるけど、あくまで俺の意見だから鵜呑みにするなよ」

 

だから俺は、皆を刺激しないようなるべく従った。今更だけど適当に返信すればいいのではないだろうか。

 

「はーい。じゃあ誰から質問する?」

「え、えーっと...はい!」

「はい部長!」

 

銀主体の元、まず手をあげたのは樹。

 

「椿さんは年下好きですか?年上好きですか?」

「...上でも下でもいいけど、離れすぎてると嫌かな。プラマイ五歳くらい?」

「そ、そうですか!」

「人によっては年上が良いとかあるみたいだから、その人の好みを知ってそれっぽく振る舞うのがいいんじゃないかな」

 

俺の意見を聞いてハッとした表情をした東郷がパソコンに返信を打ち込んでいく。

 

(今回の目的それだよな...?)

 

「じゃ、じゃあ次!好きな髪型!」

「髪型ねぇ...特にこだわってない」

「え、それはどうなの?坊主でもいいわけですか?」

 

雪花(ファッションリーダー)からすれば納得いかない答えだったようで、俺は補足する。

 

「いや、そんな極端なのは嫌だけど...その人に似合うなら割りと自由でいいのかなって。夏凜なんかいつも二つで結んでるけど、一つに纏めてても降ろしてても似合いそうじゃない?」

「なっ!なな...」

「成る程...流石だにゃー」

「?」

「じゃあ椿さん。好きな性格いきましょう」

 

次に手をあげたのはひなた。いつもより目がキラキラしてる感じがしたが、恐らく気のせいだろう。

 

「むー...んー」

「難しいですか?でしたら明るい感じの子と大人しい感じの子、どちらが良いでしょう」

「ぁー...それなら明るめの子かな?」

 

きっと昔から明るい銀とはしゃいできたからだろう。

 

「......そうですか」

「ま、俺は部屋でのんびりするのも好みだし、それこそ好きな人となら何でもしたいかな。だから、一緒に心から楽しんでくれる人なら大人しい感じでも全然」

「そうですか!」

「ほんとですか!?」

「お、おう...」

 

若干食いぎみで聞いてくるひなたと杏に、変な冷や汗をかきながら答えた。

 

「じゃあ、椿の好きなものだな...と思ったけど、それはみかんか」

「そうだな」

「そう言えば、愛媛はみかんジュースが蛇口から出るらしいけど、本当なの?」

 

千景かそんなことを______

 

「愛媛生まれのタマから言わせて貰うけどな。そんなのは...って椿、どうした?」

「いや。ちょっと愛媛に引っ越す準備してくる」

『!?』

 

部室の扉をあける。愛媛のどこが良いみかん脈なのだろうか。

 

「ちょ、ちょっと待て椿!!」

「なんだよ若葉。俺隣の県にそんな幸せ空間広がってるなんて知らなくて凄く後悔してる最中だからあまり触れないで欲しいんだが」

「いや!引っ越しの準備って!?」

「安心しろ。バイク登校だから早起きすれば支障なし!!」

 

俺は希望を胸に灯し、一歩を_____

 

「つっきー!」

「椿先輩!!」

「椿君!!!」

「ぐえっ」

 

踏み出したところで友奈ズと園子に押し潰された。

 

「な、何...?」

「椿先輩は私達とみかん、どっちが大事なんですか!!」

「何で修羅場みたいになってんの...友奈、お前は俺の妻か」

「妻...っ!!」

 

背中の声が急に黙るので気になるものの、振り向くことも動くことも叶わない。流石に三人は重かった。

 

「ていうかみかんとお前らは比較するもんじゃないし...引っ越しても勇者部には出るから」

「引っ越す前提で話が進んでる...椿君。みかんジュースなら私が買ってあげるから」

「いやいや、後輩から奢って貰うつもりないし。なんでそうまでして」

「だって~。皆なるべくつっきーの近くにいたいんだもの~」

 

現在ゼロ距離にいる園子はもぞもぞ動き、呟いた。

 

「好きな人なら尚更。ね?」

「ふぁふっ!?」

 

変に高い声が漏れる。園子が耳元でこそこそ喋ったせいで、背中の辺りがぞくぞくした。

 

「やっぱりここが弱いんだ」

「そ、園子...なんでっ」

「知ってるよー。赤嶺ゆーゆにやられてデレデレしてたもんね」

「な!?」

「でもさ...」

 

この距離でしか絶対に聞こえない掠れた、消え入る声。息だけで鼓膜が揺れる。

 

「これは、やられてないよね」

 

そう言った園子は、小悪魔みたいな表情をしてるように思えた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「だぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

飛びあがってそのまま顔と地面がキスをする。

 

「いってて...何がどうなって...」

 

『つっきー...つっきーって甘くて美味しぃねぇ』

『椿先輩ここが弱いんだ...あむっ』

 

「っ!!」

 

咄嗟に耳を抑えるも、そこには口の温かさも息の振動も、唾液の感覚もない。

 

深呼吸してもう一度目をあければ、そこは草と川が見えるだけだった。

 

「......」

 

『ねぇ、私達と一緒に、このままドロドロに溶けちゃおうよ...ね?椿君』

 

つまり、あれは______

 

「...夢?」

 

口にした途端変に力んでいた力が抜け、呆然とした。

 

「......っ、はぁ~」

 

 

 

 

今日は休日。バイクでドライブしてた所気持ち良さそうな河川敷があったので寝転がり、そのまま寝てしまった。

 

そして、それで夢を、見た。

 

(あんな夢を...今度園子と友奈、ユウにどんな顔して会えばいいんだ)

 

夢の内容は起きて数分で記憶がおぼろ気になるものだが、今でも顔が暑くなるくらいにはしっかり覚えている。

 

(しかも何が問題って、今部室に向かってることなんだよな...)

 

寝てる間に風から連絡が来ていて、来れるなら部室に来てほしいと。正直行きたくないのだが、断る理由もない。

 

(心の中で皆に謝っとこう)

 

あんまり、皆をそういう目で見たくない。勿論可愛いし、好きなのだが______大切な彼女達を穢すようで、好きじゃない。

 

「お疲れー」

 

だから俺は、極力冷静を装って部室の扉を______

 

「確保ぉ」

 

銀が言い切る前に全力で閉める。同時にスマホの戦衣を起動させた。一般人に見られたら不味いとかそんな思考は働いてない。

 

(正夢にしてたまるかぁぁぁぁ!!!!)

 

常人離れのダッシュで部室から離れる。

 

「ちょ、椿!?」

「なんなんだよぉぉぉぉ!!!」

 

俺の悲鳴は、誰にも理解されず消え去った。

 

 

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