古雪椿は勇者である   作:メレク

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すぐ下から本編です。


十五話 もう戻らない

「それじゃあ、みんなよくやった!!勇者部大勝利を祝って、乾杯!!」

『乾杯ー!!』

 

椿先輩の病室にて、風先輩から音頭がとられて缶ジュースを思い思いにぶつけた。

 

いくら大赦が用意してくれた個室とはいえ、病院で騒いでいいのかは悩みどころだけど。

 

(...あれ)

 

「...売店でお菓子も買いました!」

 

ジュースを一口飲んで覚えた違和感を拭うように、声を出す。

 

「いやー目標を達成した後のジュースは格別よね」

「みかんジュースうまい」

「ホント好きねぇ」

「今年は収穫量が少なくなる見込らしいから、今のうちに飲まないとな」

 

みんな私の違和感には気づいていなかったみたいで、祝賀会はどんどん進んでいった。

 

「椿、退院は決まった?」

「さっき検査終わったばかりだぞ...」

『私とお姉ちゃん、友奈さんは今日には退院出来るそうです』

「樹?...あぁそっか、声が出ないんだったな」

 

樹ちゃんは疲れで声が出なくなっちゃってて、スケッチブックに書いて会話している。

 

『お姉ちゃんのアイデアです♪』

「丁度売店にあったからね。治るまでの辛抱よ」

「いいお姉ちゃんもったな。樹」

『はい!』

「ちょ、やめなさいよ!」

「古雪先輩はどこにも異常はないですか?」

「っ...今のところはな。内臓のどっかが止まってたら分からないけど」

 

一瞬だけ椿先輩が困ったような顔をしたように見えた。

 

「確かに大変だ!」

「心臓とか止まってたら死んでたなー。今でこそ笑い事ですむけど」

「こ、怖いこと言わないでちょうだい!!」

「悪かったって」

 

みんなで話す時間はとても楽しくて、あっという間に終わってしまう。勇者として頑張ったから、今もこうして平和に過ごせる。

 

(よかった...)

 

 

 

 

 

「友奈ちゃん?」

「あ、ごめん東郷さん。なに?」

 

私は東郷さんの車椅子を病室まで押していた。パーティーはもう終わって、私は暗くなる前に家に帰らなきゃならない。

 

「友奈ちゃん、体、どこかおかしいところあるよね」

「......」

 

私の大親友はなんでも分かっちゃうみたいだ。

 

「さっきジュース飲んでたとき、おかしかったから」

「東郷さん鋭いなー。でも大したことないから」

「話して」

「...味、感じなかったんだ」

 

ジュースだけじゃなく、お菓子の味も分からなかった。そのことを伝えると、東郷さんが悲しそうな顔をする。

 

「すぐ治るよ。風先輩や樹ちゃんと同じじゃないかな?でもお菓子の味分からないなんて人生の半分は損だなー」

「そうね。友奈ちゃんらしいわ」

「えへへ」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「......」

 

病室でただ時計を見つめる。さっきから心臓の音がうるさくて、止まって欲しいとさえ感じた。

 

結局、あのパーティーの後病院から出たのは犬吠埼姉妹と夏凜と友奈で、東郷と俺は次の日である今日も入院である。

 

だが、そんなことはどうでもよかった。

 

「......頼む」

 

俺自身が起きてから丸一日が経過するまで、あと一分。これを過ぎると、銀が意識ない状態の最長記録になる。

 

昨日見えていた月明かりは雲に隠れ見えない。かといって部屋の明かりをつける気にもならず、暗闇の中時計を見る目だけが冴えていく。

 

「頼む...」

 

残り五秒。

 

「銀...」

 

残り三秒。

 

「......っ」

 

そして、一日が回った。

 

「......ま、疲れであれなら仕方ないだろ...風の眼とか樹の喉とかもあれだしな」

 

そう思って寝ることにした。そうでないとあれこれ考えてしまいそうだから。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

夕焼けが見える空の元、病室で左耳にイヤホンを当てる。音楽はまだ流れていない__________ように聞こえた。

 

「...」

 

パソコンに記入していく。「回復の兆しなし」

 

「...これが本当なら」

 

気合いを入れて電話をかける。三コール目直前に繋がった。

 

「東郷?わざわざ電話なんかしてどうした?」

 

四つ隣の個室で寝ているはずの古雪先輩は、いつも通りの声だった。

 

「あの、伺いたいことがあるんです」

「?」

「古雪先輩、体のどこかに異常はないですか?」

「......それ、昨日も聞いてたよな」

「っ...はい」

 

一瞬、心の底から冷えた声が電話越しで伝わって、身震いした。

 

(古雪先輩...そんな声、出せたんだ)

 

「なんかあるのか?探偵東郷さん」

「...風先輩は眼、樹ちゃんは声帯。勇者とした戦った疲れだと思われてますけど......私は左耳が聞こえず、友奈ちゃんには味覚がありません」

「それは...!!!」

「逆に夏凜ちゃんは今のところ何もありません。私は、これが満開の後遺症なんじゃないかと、考えています」

「...だから、満開した俺に聞いてきた。と」

「はい」

 

まだ予想の範疇でしかない。大赦もこの事実を分かっていたかも分からない。でも、せめて原因くらいは突き止めて起きたかった。

 

「...現状、俺に異常はない。何かあったらすぐに連絡する」

「分かりました。ありがとうございます」

「......逆に、よかったこと考えようぜ!例えば東郷、足動くようになったとかないか!?」

「え、私ですか...?」

 

突然のことに戸惑いながら足をあげようとしても、ピクリともしない。

 

「ダメですね。二年前の記憶もないままです」

「________」

「古雪先輩?」

「あぁごめん、少しでもいいことあればと思ったんだけど...ごめんな」

「気にしないでください」

『東郷さーん、いる?』

「!友奈ちゃんが来たので失礼します」

「あぁ...」

「友奈ちゃん、大丈夫よ」

 

通話を終了させ、友奈ちゃんを招き入れる。

 

「失礼しまーす。東郷さん元気?」

「お見舞いありがとう友奈ちゃん私は元気よ__________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「あぁ...」

 

東郷からの電話を切って、そのままスマホを投げつけた。代替機は意図も簡単に割れる。

 

「あぁ...あぁ」

 

頭が最悪のケースを作り上げ、それ以外の選択肢を消していく。

 

「ふざけんな......ふざけんなよ!」

 

俺だけない満開の後遺症。未だに目覚めない銀。

 

更に付け加えるなら_______

 

『二年前の記憶もないままです』

 

つい先程の、東郷の言葉。東郷のことを『須美』と呼んでいた銀。

 

先代勇者は二年前、乃木園子、鷲尾須美、三ノ輪銀が勤めていた。そして、両足と二年前の記憶がなく、『乃木園子のリボン』によく似た物を大事につけている東郷美森。

 

繋ぎ合わせれば、一番しっくり来る解答が__________満開すると肉体、精神問わず一部が使えなくなる。その傷は治らない。ということ。

 

「またなのか...」

 

銀はもう、戻ってこない。一緒に過ごせる奇跡の時間は終わった。その事実を認めるのが、何よりも怖かった。

 

「また、お前は俺の前から消えるのか...なにも、言わずに...」

 

あの雨の日、銀の葬式の日がフラッシュバックする。あのときもあいつは、何も言わずいなくなってしまった。

 

「俺は...また、何も言えずに...」

 

そして、せめて言いたかった別れの言葉も__________言えなくなってしまった。

 

銀が満開したとき、消えるとき、意識を失ってた俺はなんだったのか。俺の体なのにも関わらず何故そんなことをしていたのか。

 

何故満開の代償が俺の体でなく銀なのか。

 

「持ってくなら俺の体を持っていってくれよ...いくらでもやるから...だから頼む」

 

だから、だから。

 

「返してくれよ......うわぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

あたしは、目の前の扉を開けられなかった。

 

「風先輩?」

 

先に東郷の部屋に行っていた友奈がただならぬ空気を察して黙りこむ。

 

「くそっ!くそっ!くそっっ!!!」

 

聞こえるのは、扉一枚隔てた先にいる椿の叫びだけだった。さっきからずっと叫び続けている。

 

「あの、風先輩、椿先輩は...」

「分からない。あたしが来たときには...」

 

何かを悔やむような言葉を呟いて、聞くに耐えないくらいの呪詛が飛んでいる。

 

「...私、行きます」

「ダメ、今日は出直しましょう」

「でも、先輩がこんな苦しそうな声出してるのに」

「あたしたちじゃ多分、何もできないから...」

「っ!」

 

あたしは涙を流しながら友奈を止めた。

 

「ひとまず来て」

「......」

 

談話室までついてから、友奈に口を開く。

 

「さっき、椿ね。こう言ってたの。『銀を返してくれって』」

「銀?」

「多分人の名前。なにがあったのかは全然分からなかったけど...その銀って人じゃないと、今は無理だと思う。悔しいけど...」

 

クラスにそんな人はいないし、誰のことなのかは分からない。出来ることならあたしが慰めてあげたい。でも、あの状態の椿には、きっとなにもしてあげられない。

 

「...少なくとも今はまってあげて。落ち着いたら大丈夫なはずだから」

「わ、わかりました」

 

さっきの声がショックだったのか、いつもなら「それでも行きます!」とでも言いそうな友奈が頷く。

 

「......ひとまず帰ろうか」

「...はい」

 

帰り道、あたしたちの顔は暗かった。

 

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