内容はサブタイ通りです。
「また無理をして...これでよし」
「っー!!ねぇ、前より荒々しくなってない!?」
「気のせいだ」
救急キットの箱を閉めて、改めて相手の手を見る。治療した傷はしっかり包帯を巻いてあるし、なんなら前より器用に、完璧に出来るようになった。
「そう感じるのは、お前がもっと優しくやって欲しいって願ってるんだよ」
「なっ!そ、そんなわけないでしょ!!」
「どうだか~?」
そう言って顔を赤くする彼女との関係は、かなり前に遡る______
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俺、古雪椿の親は、大赦と呼ばれる組織で働いていた。人類をウイルスから守ってくれた神様、神樹様を崇め奉る組織だ。
といっても特別な役職についているわけでもなく、本人達曰く中の下辺りの位だとか。そのせいか昔から引っ越しが多く、かなりの転校を繰り返している。
そんな大赦では、何でも世界規模の大きなお役目が一つ終わったらしい。『勇者』という男の子なら一回くらい憧れただろうフレーズは、俺の心も動かした。
そして、『勇者』は引き継がれるそうで。先代勇者様の力?を引き継ぐ人を決めるらしい。詳しい話は何も知らないが、それなりの数の勇者適性者を集め、一番を選ぶ。神樹様に関わるお役目の中ではトップに近い仕事らしくて、秘密でありながらかなり大がかりなんだそうだ。
で、そんな秘密の話を多少なりとも知っていて、こんな話をしているかと言えば。
「...今日もこないな」
大赦管理の施設の一室に俺がいて、小さな小さなお役目をしているからだった。
大赦は組織の知名度のわりに人が少ない。少数精鋭と言ってしまえば聞こえは良いが、大切な神様を奉っている組織としてはいかがなものか。
俺は両親にある仕事を提案された。内容は件の勇者という仕事で発生するだろう怪我人の手当て。近い役割は保健室の先生か。勿論重病なんか処置出来ないが、擦り傷や打撲の処置を施すと言ったところ。
こうした神樹様に関する特別な知識もいらない末端の仕事は、四国中で募集がかかったらしい。
この時代は中学生でも働く事ができる。扱いはアルバイトとして俺は親からすすめられたこの条件を飲み、昼間は学校、夕方はこの部屋で怪我人を待つことになった。飲んだ理由は二つ。末端とはいえ家族が大赦と接することで親の給料が少し上がるから。もう一つは______
(にしてもこんなに暇とは...バンバンこられても困るが、俺の役目がなぁ)
始めて一週間が経つが、来たのは消毒液を借りに来たおばさまだけ。勇者ではないらしい。
給料泥棒という言葉が脳裏をよぎり、払拭するべく治療方法なんかが書かれた本を暗記し始めた。そして終わった。この部屋に何があるのか調べた。全部終わって掃除も済ませた。
(......暇だ)
勇者といえば、同じクラスの犬吠埼が作った部活も『勇者部』なんて名前だったなーなんて連想してた時、ガラッと扉が開かれた。
「絆創膏あるかしら」
「いっぱいあるから好きなだけどうぞ...って」
中に入ってきたのは一人の少女だった。ツインテールがぴょこっと揺れる、十人いたら九人は美少女と答えそうな同い年くらいの女の子。
ただし、打撲が遠目から見ても何ヵ所かあり、右膝を擦りむいて血を流してる女の子だった。
「ここにあるのね。ありがと」
「いや!?そんな小さなやつでどうするつもりですか!?」
「膝に貼るのよ。怪我したから」
「いや、消毒もしないでやったら膿んじゃうだけだって...!!しかも砂までついてるじゃないですか!」
「大したことないわ」
「いやあるから!?あーもーこっち座ってください!!!」
「はぁ...」
(本の中身暗記しといて良かったぁ...)
打撲箇所は冷やし、膝もしっかり消毒を済ませてから絆創膏を貼る。初めてのことだったが手順や道具の場所を暗記してたお陰でかなりスムーズに出来たつもりだ。
「良いですか?安静にしてください」
「嫌よ。治療は終わったでしょ?なら行くわ」
「ダメです!!それだけ傷ついて動いたら体の治りが悪くなる!!」
「...」
睨まれる俺は負けじと部屋の扉を守り、やがて彼女の方が折れた。
「...分かったわ。今日はここにいる」
「で、何出してるんです」
次に何をしだしたのかと思えば、怪しげな錠剤が入った瓶をいくつも並べだした。フリーマーケットごっこでも始められるレベル。
「なにって夕食。帰ってから特訓するために今食べとこうと思って」
「っー...帰ってから特訓するつもり満々なのはこの際置いときますが、それは食事じゃないでしょう」
「は?必要な栄養は全部取れてるでしょう?」
「......」
言いたいことは分かる。普通にそこら辺のジャンクフードを食べるなら、こうしてちゃんと成分表示されてるサプリをバランス良く食べた方が良いのだろう。
ただ________それは。
「それは、食事というより補給だ」
「え?」
色んな味も出てることを知ってる上で言うが、これは『味を楽しんでない』。温かかったり冷たかったり、柔らかかったり固かったりする様々な料理を、その味覚を楽しむ『食事』じゃない。
「...いつも、こんなことをしてるんですか?」
「そうよ。勇者になれるチャンスが出来てからはずっと」
(こんな子が、こんな傷だらけで、こんなの食べて...)
勇者の役目を理解していない俺は勇者の適性あるもの全員が同じことをしている風景を想像してしまい、ぼそりと呟いた。
「勇者なんて、くそったれじゃないか」
「っ!!!」
瞬間、彼女から悪意を感じた。今でこそ殺気だと分かる明確な悪感情。未知の感覚に背筋が凍り、体が固まった。
「なにも知らないくせに、何上から言ってんの!?うるさいわよ!!!」
彼女が立ち上がり、バッグをかっさらって出ていく。彼女の体を冷やしていた保冷剤だけが床にカランと音を立てて落ちた。
彼女と次に出会ったのは、前回と同じこの救護室だった。
「......冷やすの、頂戴」
凄く嫌な顔を隠そうともせず入ってきた彼女は、それだけ言って椅子に座った。
「...どうしたんです?」
俺は彼女の神経を逆撫でしないよう、歩み寄るように声を発した。
だって、俺がしたいのはこれだから。数日空いたお陰で冷静になれた。
「担当に、安静にしないと特訓を禁止しますって」
「成る程」
前回の半分の時間で作業を済ませたが、冷却箇所が増加してて前回とさほど時間は変わらなかった。
「...あの」
「なに」
「この前はすいません。自分は勇者がどんな役目かも知らないのに、頭ごなしに否定するような口をきいてしまって」
「...私も、悪かったわ。それに聞いたけどあんた私より一つ上なんでしょ?敬語いらないわよ」
「...わかった」
互いのぎこちなさがどことなく消えていく。一つ下らしい彼女はつんとした口調で言ってきた。
「名前は?」
「え?」
「名前はって聞いてるの」
「ふ、古雪椿」
「そ。三好夏凜よ。よろしく」
俺達の、この救護室での関係はここからスタートした。
傷を作っては俺が手当てする。他の子が来ることもあったけど、圧倒的に一番多いのは彼女だった。
三好夏凜。十二歳。大赦で重役につく兄がおり、本人は勇者の適性が高い。現在行われている勇者の選考では一二を争うレベル。もう一人楠さんという人がいるらしいが、彼女とはまだ会ったことがない。
ちなみに勇者候補全員がサプリに怪我だらけの生活を送っているわけではなく、物珍しいだけらしい。あと、極度のにぼし好き。
「勇者ってのがどんなことをする役目なのか知らないけど、こんなに怪我するなんて大変なんだな」
「ここの仕事は知らなくても出来るもんね。あんたも大赦の役員じゃなくてただの一般人でしょ?」
「まぁな」
その雑談は、半年近く経ったある時のものだった。
「なんでここに来たのよ?全然知らないのに」
「大赦に勤めてる親の給料が上がるのが一つ。もう一つは...」
変にためたせいで夏凜が注目してきている。言うのが少し恥ずかしかったが、きちんと喋った。
「誰かを守る仕事をしたかった」
「?」
それは、小さい頃からの目標。仮面を被って悪と戦うヒーローのように、自分も誰かを守ってみたい。助けてみたい。幼稚園児が七夕で短冊に願いそうな夢を、俺は未だに持っていたのだ。
「こうして裏方じみた物でもいい。夏凜の傷をこうして手当て出来るような仕事をしてみたかった...それだけだ」
「あんた...」
「あーっと!じゃあお前はどうなんだ!なんで勇者になろうと思ったんだ?夏凜」
俺の恥ずかしさを誤魔化す大声に一瞬つまった彼女は、同じように口を開いた。
「私は...兄貴に追い付くためよ」
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古雪椿。私より一つ上の中学生で、勇者選考者が利用できる救護室の担当者。勇者のことは全然理解していなくて、だから悩んだ。勇者の詳しいことを何も言わずに私の目標を話すのは難しいから。
すんなり喋ろうと思えたのは______今でも分からない。
「...勇者って言うのは、命に関わるお役目なの。その分、どんな仕事よりも功績が大きい。手柄を立てれば兄貴に追いつける」
「お兄さんに追いつくって...」
「私の兄貴は大赦の中枢で働いているってのは言ったわよね?成績優秀、スポーツ万能、品行方正の完璧超人で、若くして大赦に入った期待のエース...そんな兄貴は親からも誉められて...家族で話題にあがるのは、いつも兄貴だった」
「......」
「私が何をしても、上に兄貴がいる。兄貴の絵は廊下に飾るけど、私のは一つもない。兄貴のテストは誉めるけど、私のテストが誉められることはない...それが、悔しかった」
誰にも話したことのない私の原動力。椿は私の言葉を待ってくれている。
「そんなときにチャンスが来た。私には勇者の適性があるってね。兄貴にはなれない、私だけが出来る大きな役目。そこから私は鍛え続けてる。才能で敵わないなら努力するしかないから」
「夏凜...」
「それが、私が勇者を目指す理由よ...はー。話したらなんかスッキリしたわ」
椅子にもたれた私は、椿の顔をちらっと見る。いきなりこんな話をされて、快く思う人はいないと、話しきってから思ってしまったから。
でも、椿の顔は引きぎみというより、前のめりだった。
「そっか...頑張ってるんだもんな。お前」
「そ、そうよ!」
「...でも、勇者って命に関わる役目なんだ......なぁ、俺の意見、言ってもいいか?」
「何よ?やめないわよ」
「分かってるよ...夏凜には目標があるわけだし、止める権利なんてない。お兄さんの本音も分からないしな」
ここまで言って、椿は私と目を合わせた。何もかも見透かしてきそうな黒い瞳が映る。
「応援はする...でも、無理はしないでくれ。家族が傷ついて何も思わない人なんていないだろうし...俺が嫌だ。命に関わるなら尚更」
「なっ!」
「ここで治療出来るくらいの小さな怪我にしてくれよな」
私のことを案じてくれてる優しい言葉。物心ついてから受けた覚えのない温かさ。
私は変に揺さぶられて、顔が熱くなる。
「...ぁ、当たり前よ!私は完成型勇者になるんですからね!!!」
照れてるのが絶対バレないように、声を張り上げた。
「そんな照れるなよ勇者様」
「うっ!うるさいうるさいうるさい!!!」
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夏凜を始めとした勇者候補生達を治療し続けること数年。俺は中三になった。
勇者を決める選考会は既に行われたらしい。俺は_______大赦から追い出され、平凡な中学生に戻っている。
勇者の選考が終われば候補生達の治療役など必要ない。ようはやることが無くなったのだ。
『勇者は...勇者は誰になったんですか?』
『...勇者になられたのは、三好夏凜様です』
まぁ、必要なことは聞けたので別に良いのだが、彼女と最後に話すことなく終わってしまったことだけが心残りだった。
(元気にしてるかな...あいつ)
「おい古雪、授業始まるぞ?」
「あ、マジか...悪い。先行っててくれ」
皆から遅れて準備をし、次の授業場所である移動教室へ。階段を一つ降りて左________
「ギリギリかな...!!!」
そこにいたのは一人の少女だった。ツインテールがぴょこっと揺れる、十人いたら九人は美少女と答えそうな同い年くらいの女の子。
学生鞄を持ち、辺りを見回してる子だった。驚く俺と目が合い、見開かれる。
「な...な!」
「おい...!」
「「何でここにいるんだ(わけ)!!?」」
チャイムに負けないくらいの声量で、俺達は互いに指をさした。
完成型勇者であり、手柄を立てるために戦い、後に勇者部として戦う三好夏凜。
誰かの役に立つことを夢見て、勇者のサポートに任命され、後に夏凜の為に命を張る俺。
これは、互いを認めあい、夢を共有し、背中を合わせ支えあう、そんな俺達の物語。
この話はくめゆ組のゆゆゆい参加間近ということで、くめゆ組をメインに書くとしたら椿とは違う主人公にしようと考えていた設定を椿に落とし込み、夏凜ifとしたものです。園子ifと同じく銀は憑依していません。
しかも続きそうな感じですが、全く続く予定ないです。二人がどんな風に戦っていくかは皆様のご想像にお任せします。ぎんつばもですがifでも本編でも共闘したり背中合わせで戦うのが似合う二人に感じました。流石どちらも赤の勇者。