古雪椿は勇者である   作:メレク

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久々の連日投稿。そしてのわゆ編完結から約二ヶ月。お待たせしました! 多くの方々からもリクエストされてきたアフターシリーズの投稿です!

前回のを見てない方のために一応注意事項
のわゆ編のネタバレ全開
それぞれifのストーリー
ヒロインはサブタイ通り
ゆゆゆ組との差を出したくなかったので文字数は少なめ

とりあえずこんなところです。はじめは彼女。では、楽しんで頂ければ幸いです。


アフターストーリー 千景

「...っ!っ!!」

「ご飯出来たぞー」

 

テレビに向けて声をかけても無反応。せっかくの飯が冷めてしまうと考えた俺の行動は迅速だ。

 

「はい没収」

「あぁ!!?」

「ほら、飯だよ」

 

ちゃんとポーズメニューにしてる辺り感謝して欲しい。ゲームを途中で妨害された時の嫌な気持ちは理解できるが、愛する人のために作った飯を無下にされる辛さの方が勝っていた。

 

「あとそこだけだから...!」

「ダメです。ご飯が先です。はい座る!」

「...わかったわ」

 

理解の早い彼女の頭を撫でると、嫌そうな感情と嬉しそうな感情をごちゃ混ぜに現していた。

 

「頂きます」

「頂きます...やっぱり美味しい」

「そりゃよかった」

 

毎日毎日食っては同じように美味しいと言ってくれる千景だが、俺が飽きることはなかった。

 

意外と千景は顔に出やすいタイプで、美味しいと言っていても好みが分かりやすい。笑顔だったり口角が上がったり、逆に少し気分が下がったり。

 

それが分かれば後は作り手の技量である。最近の千景は笑顔をよく浮かべるようになった。

 

(...あの頃と比べてもずっとな)

 

あの頃。俺が西暦に来てからはじめの半年間。バーテックスとの戦いは加速し、その過程で千景に武器を向けられたこともあった。

 

精神が病んで、自分のことをコントロールしたつもりで暴走して。辛いことなんて沢山あった。死を覚悟した時もあった。

 

(それでも、俺がこうしていられるのは...)

 

「どうかした?箸が止まってるわよ」

「んー、千景は可愛いなって」

「な、ななななっ!!」

 

バーテックスとの戦いが終わったとき、俺には二つの選択肢が残された。

 

役目を終えたのですぐに帰るか、まだこの世界に残るか。

 

俺は後者を選択した。詳しくは分からないが、『魂年齢』という肉体が衰えるよりずっと長い、寿命とはちょっと違うものがあるらしく、それを西暦と神世紀で使えるように高嶋友奈(神様)に頼んだ。

 

肉体年齢的には40歳まではここに留まり、その後神世紀で高校生の体に戻って一生を過ごす。『魂年齢』はそれでも尽きないのだとか。

 

詳細は掴みきれなかったが、実際長めにここに残れるならなんでもよかった。

 

(決めたからな)

 

彼女を助けたいと思った。支えたいと願った。それはいつしか愛情に変わった。

 

想いを伝えて、答えてもらって_________それが、今プロゲーマーとして四国に名を馳せている郡千景と、主夫となった古雪椿だ。あと少しで郡は古雪になるわけだが。

 

「来週なんだって?」

「大会のこと?そうよ」

 

バーテックスに世界を脅かされ、少しずつその恐怖が取り除かれていっている時代。娯楽は増えつつある。ゲームが出ればかつてのようにプレイし、実況する人も増加する。そして、白熱する試合を提供することで得る収入は意外にも生活できるレベルであるのだ。

 

まぁ、プレイスキルはともかく配信時に勇者の名声もあった彼女に限った話ではあるが。

 

「勇者の七光りなんて言ってる奴らを殲滅してくるわ...」

「...その意気だ。蹴散らしてやれ。当日は俺も見に行くから」

「見てるより、夕飯の準備をしていて欲しいわね。どうせテレビで流れるし」

「...了解」

 

少食のため先に食べ終わった彼女は箸を置く。

 

「ご馳走さま」

「はい」

「......そういえば」

 

千景は、明日雨が降るわよ。とでも言いそうな気軽さで口にした。

 

「一昨日貴方が出掛けてる間に、両親に会ってきたのよ」

「ブーッ!?」

「ちょっと、汚いわよ!」

 

口に含んでいた米を思わず噴き出して、手元のテーブルが汚れた。しかし俺はそんなことを気にしてる暇もない。

 

「いやお前!?あのご両親に会ってきたのか!?一人で!?」

 

千景の両親。千景から聞いた話だが、仕事に夢中な父親とそれに不満を持って不倫を始めた母親。そうして生まれた溝に千景が詰め込めれ、離婚のお荷物となっていた_______らしい。

 

バーテックスと直接戦っていた頃には俺も会ったことがあり、まぁ、何をされたかは記憶している。頭をスパナでゴーン。

 

俺自身あまり良い印象は持ってなかったので、近いうち結婚報告に二人で行こうと話していた。どんな結末になろうとしっかりその場で対応できるよう。

「お前...」

「危ないことも分かってるわ。でも、大赦から話を聞いたらお母さんの天恐も大分治ったと言うし...これは、私の家族の問題だから」

「...バカ。お前の家族の問題は俺の家族の問題なんだぞ」

「っ!」

「少なくとも、そういうつもりで俺はこの指輪をはめてるんだから」

 

左手の薬指から銀色の輝きを放つ指輪を見て、千景は目をそらした。

 

「...ありがとう。古雪君」

「もうすぐ古雪は二人になるんだがなー?」

「っ...!ありがとう!椿君!」

「どういたしまして。千景」

 

 

 

 

 

数日後、大赦主催で結婚式が行われた。タキシードを着る俺とドレスを着る千景の周りには、勇者と巫女と、遠慮がちに寄り添っているご両親の姿があった。

 


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