古雪椿は勇者である   作:メレク

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アフターストーリー 若葉

「はーっ...」

 

吐いた息は周りとの温度差で白く見える。毎年見る光景ではあるものの、大人と呼べる年齢になっても続けている子供らしさでくすりと笑った。

 

(園子もやりそうだ...そういえば、このままだと園子は俺の子孫になるのか?マジか...)

 

「どうかしたか?」

「んー...いや、何でもない。ちゃちゃっと行こうぜ」

 

俺の髪と同じ黒いマフラーを首に巻いて、キャスケット帽をつけて。

 

彼女はメガネと長いコートを着て。

 

手だけは離さないようしっかり握って、歩きだした。

 

 

 

 

 

今日は新年の始まりの日、元日だ。俺こと乃木椿は妻であり人類の英雄、乃木若葉と共に神社に来ている。

 

「あまり人はいないようだな...」

「寒いからなぁ...」

 

今にも雪が降るんじゃないかと疑う位の寒さ。人がいなけりゃ変装がバレるリスクも減るし、参拝に並ぶ時間も減るしで嬉しい限りではあるが、風邪もひきそうだ。

 

「ここだな」

 

案の定並び出してから参拝まで時間はかからず、五円玉を放る。

 

神社は自然を神様とする神道と呼ばれる宗教に準ずる場所で、仏様の場としてあるお寺とは若干違う。それをややこしくしているのが神宮寺(じんぐうじ)だったりするのだが、神様の集合体とも言える神樹様は木の形をしてるわけだし、神社にお参りすれば良いのだろう。

 

というより、神世紀に入ってから少しずつ神社をリニューアル工事してるようだし。

(まぁ、詳しい違いなんて俺も知らないけど)

 

二礼二拍手一礼の動作をこなし、列から抜ける。

 

「椿は何をお願いしたんだ?」

「俺がお願いすることなんてもうないよ。感謝を伝えるてるだけ」

「感謝?」

「あぁ...ご縁をくださりありがとうございますってな」

 

勇者部との縁をくれた。高嶋友奈(神様)との縁をくれた。西暦勇者との縁をくれた。

 

そして_______今隣にいる、彼女との縁をくれたことに対してのお礼。

「椿...」

「さーって。湿っぽい話は終わりにして帰ろうぜ?年越しうどんの次は雑煮だ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。その前に...寄り道してもいいか?」

「?」

 

 

 

 

 

どちらかと言えば効率を重視することの多い若葉が寒い中誘って来たのは、俺達が住む家と神社の丁度中間辺りに位置する公園だった。ベンチは冷えきっていて、ズボン越しに体温を奪っていく。

 

「それで、どうしたんだ?」

「椿...お前にこれを」

 

渡されたのは二重に施された箱。丁寧に戻していくと、白い生地が見えた。

 

「これは...マフラー?」

「ほ、本当はクリスマスに渡す予定だったんだがな。どうしても納得いく完成度に出来なくて...ひなたにも手伝って貰い、昨日作り上げた」

「若葉...ありがとう。大切に使わせてもらう」

 

せっかくなので今つけているマフラーと取り換えてみる。ひとまきふたまき_______

 

「...長くね?」

 

それは誰に言うわけでもない一人言だった。頑張れば七巻きくらい出来そうな、そんな長さである。

 

若葉を見るも、彼女は顔を下に向けたまま。

 

「若葉?」

「こ、これはだな...目を瞑れ!」

「へ?」

「いいから!」

 

若葉の指示に従って目を瞑る。完成しかけのマフラーが取られ、首もとが震えた。

 

その後、氷のように冷たい何かが触れる。恐らく若葉の手。声をあげそうになるのをグッと堪えていると、再びマフラーが俺の首に当たった。

 

ごそごそと動き、全体の長さから思い返せば巻きが足りないのではと考えていた時。

 

「い、いいぞ...目を開けてくれ」

 

やけに近い声の指示通り目を開ければ、しっかりマフラーが巻かれていた。その先は繋がって______

 

「...」

「...何か言いたそうな顔だな」

 

顔を真っ赤にした若葉が、不満げに言ってくる。

 

その首もとには、白いマフラーが巻かれていた。

 

恐らく元からこうする(二人で使う)予定で作られたマフラー。制作者は俺の嫁。人類の英雄、生きる伝説、乃木若葉。

 

もう一度言おう。これを作ったのは乃木若葉。普段はお堅い俺の嫁である。

 

「いや、死ぬほど可愛いなって」

「なっ!?」

 

紅白を狙ってたのか、白いマフラーが林檎の様に赤い顔に似合っていた。

 

「うん。可愛すぎ」

 

自分の本能と公共の場であると告げる理性の折衷案として、彼女の手をしっかり握る。

 

「か、可愛いなど...」

「否定はさせないぜ?」

 

ショートする若葉と、いじる俺。手を繋いだまま、俺達を繋ぐマフラーが緩む程寄り添いながら帰った俺達は家につくのが一時間後になった。

 

彼女の手は、もう冷たくない。

 

「......椿の手は、温かいな」

「...いくらでも温めるよ」

 

この手が届く限り、ずっと__________

 




のわゆアフター、最後の若葉でした。喜んで頂けてれば嬉しいです。

今後ですが、再びリクエストやゆゆゆいを混ぜながらいこうかなと。ゆゆゆいで続き物も考えましたが保留です。

それから質問の答えを含めたオリ紹介3(仮)ですが、折角なのでメモリアルブックを読んでから投稿したいと考えていますのでしばしお待ちを。とりあえずそこまでは質問募集中です。

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