数日前に見た原作ゆゆゆいはかなり好きです。さて、この作品はどうなるかな?
「くしっ...もう9月も終わりか」
軽いくしゃみをすると喉が少し痛み、体調不良を訴えてくる。ここ数日は気温変化が激しく、いつもなら元気で溢れてる勇者部も少し静かだ。
「風邪ですか?ティッシュいります?」
「平気。この位なら早寝しとけば治るし。ありがとな」
隣を歩くひなたは肩掛けバックから素早くティッシュを出し、必要ないとわかるとしまう。こうした細かい気配りは見習いたい。
(そういえば、10月は...)
西暦にいた頃聞いたひなたの誕生日は、確か10月の頭だったはずだ。まだ勇者部ではお祝いムードでなかったが。
「ま、丁度良いか」
「はい?」
「いや。なんでもない。こっちだったよな?」
「えぇ。そこを右です」
ゆったりした足取りで、俺達は目的地まで歩いていった。
今日の外出目的はひなたの付き添いだ。ひなたは生活用具やら小物やらを見て回りたいとのこと。俺が相手なのは何てことない理由で、暇だったからだ。
(荷物持ちなら男手があった方が良いだろうしな)
特訓している若葉や夏凜に比べるとどっこいどっこいな気もするが、二年前くらいと比べると体が引き締まったように感じる。
「んー...」
しかし、ただの付き添いから贈り物を選ぶ人に変われば話は別。ひなたが連れてきてくれた小物屋さんで髪飾りを眺めていく。
「椿さん?どうしました?」
「...そう言えば、ひなたはこうした髪留めつけないなって」
リボンは結んでるものの、長めの後ろ髪は纏めていない。なんとなく近くの飾りがついたゴムを手に取って彼女の背後に回る。
ただ、さらさらな髪を不躾に触るのが嫌で、当ててみるだけにした。
「似合う...かな?」
「椿さん?」
「あ、見えないよな。えーと...ほら、そこに鏡」
ひなたに髪ゴムを渡して鏡を指差す。確認しに行ったひなたを眺める。選んだのは遠目から見て金の縁で覆われた赤い宝石のようで_____なにより、彼女の髪に似合ってるように見える。
(...そういえば)
思考にふけっている間にひなたが鏡の前で色々試し、戻ってきた。
「椿さんはこういうのが好きなんですか?」
「別に、ひなたに似合うかなって」
「!...全く......はぁ」
「え、何でため息つかれてんの」
「気にしないでください!」
声を出すひなただが、結局いくつかの髪留めを買っていた。
「次はどこに行くんだっけ?」
「シャンプーは補充したいですし歯ブラシも先がダメになってきたので換えたいですね、あ!若葉ちゃんのリンスも切れてるんでした!」
「何で分かってるんだお前...」
「若葉ちゃんから聞いただけですよ♪」
「みかん...いや、今日はカフェラテにしよう」
「私も同じものにします」
「了解」
買い物もある程度済み、俺達は喫茶店に来ていた。サンドイッチに続いてかなりの速さでカフェラテが運ばれてくる。
「なんだか懐かしいですね」
「?...あぁ」
ひなたの言葉には思い当たる事があった。
「俺達がはじめて出掛けた時も、似た場所だったな」
「はい。味も似てますね」
ひなたのお気に入りのお店、と言っていた場所に似ていれば、来るのも道理だろう。
「あれから、二年と少しですか」
「...そうだな」
俺達が出会ってから西暦で半年、この世界で一年と少し。月日が経つのは早い。
「そういえばさ」
「?」
「聞く機会なかなか無かったけど...どうしてサファイアなんだ?」
胸元からペンダントを取り出す。西暦で共に過ごした皆からの贈り物。宝石に詳しいわけじゃない俺は、ネットで調べることはしてもその真意は聞いてない。
「単純に宝石の意味から取ってます。平和を祈り、想いを貫く。慈愛や誠実等の意味もあって、椿さんにぴったりではありませんか?」
「...俺がそれを『そうだな!』と言う人間だと思うか?」
「いいえ」
「ですよね」
適当に誤魔化してカフェラテを口に運ぶ。カップで顔が少し隠れるのを見越して少し長めに飲んだ。
「...奉火祭が終わってから時間がありませんでしたから。若葉ちゃんと球子さん、友奈さんは起きないまま、貴方が帰るかもしれない。そう考えたら...何か用意したいと強く思ったので」
奉火祭を止める時、俺は嘘と真実を混ぜて語った。精霊という事実無根の証拠として奉火祭の代わりを務めてるように見せ、代償として消えることを告げた。
「千景さんと杏さんと話あって、用意したのは...間に合いませんでしたけどね」
「...受け取ったよ。ちゃんと」
見つめる宝石は、光が当たって輝いた。
「似合っていますよ。選んだ甲斐があります」
「ありがとうございましたー」
「さて、これからどこ行く?」
「荷物が重たいでしょうし、このまま帰りませんか?ずっと持って頂いてるのは申し訳ないです」
「別に気にしてないけど...分かった。帰ろうか」
俺が気にしなくてもひなたが気にしていては楽しめないだろう。いつでも遊べるし、今日はこれで_______
「...?」
気づいたら隣を歩いていた筈のひなたがいなかった。振り返ると足を止め、お店の中を見ている。
普段から柔らかいその瞳が、輝いて見えた。
「ひなた?」
「!すみません!」
「いや...どうせなら見ていこうか?」
「大丈夫です。行きましょう」
結局そこからは寄り道することなく寮まで帰ってきた。ひなたは自分の部屋へ、俺は自分の家へ戻る。
(...)
家の鍵をポケットから取り出すものの、結局使うことはなかった。代わりにスマホを出す。
「もしもし。ちょっと力を貸してほしいんだが、時間あるか?」
----------------
「ハッピーバースデー!!!」
部室にクラッカーが鳴り響いて、私の誕生日パーティーは始まった。中学生、高校生のレベルとは思えない料理が並んで、一通りお祝いの言葉を受け取ってから「そろそろ食べましょう。冷めちゃいます」と私が言うと次々無くなっていく。
「さて、じゃあそろそろいきますか」
「はい?」
「いいからついてきて。行ってきまーす」
「え、え?」
「いってらー」
雪花さんが私を部室から引っ張り出して、ささっと歩いていく。
「あ、あの!雪花さん!?」
「さて、頼んどいたのは持ってきた?」
「...ありますけど......」
前日に言われたのは髪ゴムと皆を撮るために使うカメラ。
「カメラは部室に置いてきましたよ?」
「いいのよ。さて到着!」
ついた先は、物置部屋となってる筈の空き教室。髪ゴムが必要ということは________髪型を変えて皆にお披露目するためか、私がいない間に部室で準備してるのか。
(ふふ...簡単なことでは驚きませんよ)
「ささ」
「わかりました」
なるべく時間をかけるようゆっくり扉を開けて__________さっきまでの感情が吹き飛んで、目を見開いてしまった。
「ぇ...」
扉を開けた先には、一つのマネキンがあった。とあるお店に飾ってあった、袖がふわふわした灰色のワンピース。それに似合うような可愛げな刺繍の入った白いカーディガン。
「何でこれが...」
出掛けた時に見とれただけで、誰にも話してない筈なのに。
「これは私の一人言だから、ひなたには聞こえてないね」
「え?」
「この洋服は椿さんが用意したんだよ。ひなたはきっと喜ぶって。コーデとか、合いそうなのは私含め他の勇者部メンバーで決めたんだけどね」
「椿さんが...」
「あと、さっき椿さんがポッケに何か細工したの見たなー」
「...あの、雪花さん」
「んにゃ?聞こえてない一人言が終わったタイミングで声かけるなんて凄いね。どうしたの?」
「......これを着て良いのですか?」
「どうぞどうぞ。髪型もお手伝いしますぜ?」
櫛を取り出す雪花さんを見て、私は目頭が熱くなるのを感じた。
「それじゃあ...」
五分もせずに、私は制服から変わっていた。置いてあった鏡に向かって一回転すると、ワンピースの裾がふわりと舞う。
(あ、そういえば...)
小さめのポケットに手をいれると、何かが指に触れた。取り出してみると__________
『誕生日くらい、わがまま言っていいんだからな』
「っ!!」
わくわくが止まらなくて、雪花さんに『纏めにくい』と注意されても、私は体を揺らさずにいられなかった。
少しでも、一秒でも早く。
「おしまい!どうかな?」
「ありがとうございます雪花さん!!」
「ちょ、置いてくことないじゃん!!」
先生がいたら怒られそうなくらい走って、閉まっていた部室を勢いよく開けた。
「お、おかえ」
「椿さん!!若葉ちゃん!!いや皆さん!!!是非写真を!!!!」
「り...」
「さぁさぁ!!!」
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「よく分かりましたね」
「へ?」
夕暮れ時、俺とひなたは学校から寮までの道を歩く。他の皆は片付けだ。
(正直若葉でも良かったんだが...じゃなくて)
「どういう意味だ?」
「私がこの服欲しいなって思ってるなんて。ただちょっと見ただけかもしれないじゃありませんか」
「あー...」
ひなたはプレゼントした服を着ていて、制服は俺が運んでいる。その姿を改めて見直して口を開いた。
「着たとき似合うかなって想像したのと...目がな」
「目、ですか?」
「この前出掛けた時、この服を見てるお前の目がいつもよりキラキラして見えて...喜んでくれるかなって」
あくまで直感、なんとなくだ。
「...椿さんは私のこと、よく見てくれてるんですね」
「そんなことは」
「ありますよ。目でその人がいつもと違うと分かるなんて、普段から見てる証拠ですもの」
嬉しそうに俺の目を見つめてこられるのが恥ずかしくてそらすと、そらした方向にひなたが移動する。二周くらいされて諦めた。
「わかったわかった。降参」
「じゃあ、私のこと見てくださいね。あ!頭も撫でてください!」
「...お前がそれでいいのなら」
わがまま言っても良いと______甘えて良いと伝えた手前、断りにくい。普段から断ることもあまりないだろうけど。
(なんか...違うんだよなぁ)
昔から銀にやってきたのをはじめとして、無意識で頭を撫でる時は何も気にしない。ただ、言われてやる時はどこかぎこちなくなるのを否定できなかった。
「さぁさぁ」
「...わかったよ」
一応幼なじみ認可の技だ。無駄な自信を胸に抱いてひなたの頭をゆっくり撫でる。本人は猫なで声を小さくあげていた。
「気持ちいいですね~」
「そうか?」
「はい。なんだか安心します」
「...なら良かった」
(そういや、雪花も凄いわな)
彼女の髪を後ろで留めているゴムは、ひなたに用意して貰った物だ。雪花は持ってくるものをバッチリ当ててみせた。
『ここで買い物したんですね?』
『あぁ、あそこの服屋さんを通りすぎる前にここで髪ゴムをいくつか』
『...椿さんが選んだのあります?』
『えーと...これだな。ひなたも買ってた』
『じゃあさっきのワンピースとこれに合うようコーデします』
『いいのか?ひなたがこれを持ってくるとは限らないんじゃ』
『...まぁそうですけど。多分なるようになるんで』
『はぁ...』
(あれくらいしか会話してないのに、どうやって当てたんだろ...)
「椿さん、椿さん?」
「あぁごめん。手が止まってた」
「いえ、そうではなくて...一緒に写真、撮ってくれませんか?」
「そのくらい頼まれなくてもするって。普段から言ってくれていいんだからな」
というか、普段は若葉に盗撮紛いのこともしてるのに____とは、言えなかった。そのくらい彼女の笑顔に魅了されていた。
「ありがとうございます!!じゃ、じゃあ...いきますよ?」
自撮りのためかスマホを構えたひなたは、俺の肩と胸の間辺りに体を寄り添わせる。ふんわりバニラの香りが俺の鼻をくすぐる。
「へっ?」
「はい、チーズ」
写真として切り取られたのは、不思議そうな顔をしてる俺と、満面の笑みのひなただった。
「ひなた?」
「椿さん、カメラ見てください。もう一枚いきますよ?」
(...楽しそうだし、いいか)
「すまんすまん。ちゃんと向くよ」
そう言って撮られたのは、微笑む俺と、さっきより弾けた笑顔ではないものの、本当に幸せそうなひなた。
例えこの写真が消えたとしても、絶対に思い出として魂に刻まれてるだろうと思えるような、そんな顔だった。
「...誕生日おめでとう。ひなた」
「ありがとうございます!椿さんっ!!」