今回はゆゆゆい編、前半はリクエスト、後半は(おまけのつもりだったのにがっつり書き上がった)オリジナルです。
『千景と彩夏』
「やっぱりバイト頑張らないと...!」
私、郡彩夏は燃えていた。時は休日、場所は大型ショッピングセンター『イネス』、時間はお昼前。
イネスにはいるのそれと疑いたくなるようなお店が揃ってる。みかん専門店もあるし煮干し専門店なんて場所まで。
だけど、メジャーはメジャーで揃えられていた。私がさっきまでいたお店も、安さと品質で女子中高生に人気な服屋さん。
服を見るのも着るのも好きな私は、月に三度はこうしてショッピングを楽しんでいた。最近だと犬吠埼さんとも意気投合している。最も、犬吠埼さんは妹さんの洋服を買ってるみたいだけど。
でも、いくら安いお店でも服を買うのは学生にとってかなりの負担。週に何度か入れているバイトの時間を増やさなければ、シーズンが過ぎてしまう。
(うーん...こういうお店のアルバイトも楽しそうなんだけどなー)
通行人の目に映るように飾られたマネキンは、やっぱりセンスが良い。将来仕事として就くのも良いかもしれない。
(どちらかと言えば、私に問題あるのは対人か...)
特に男の子と話すときは緊張する。
(古雪君とか、大変だったもんなぁ...)
林間学校から話したりするようにはなったけど、身近な人でその程度なのだからもっと練習が必要だろう。
(頑張らなきゃなぁ...笑顔とかかな)
ガラスに向けて微笑むも、意識してるからか歪だ。
(ほんわか笑顔って難しいよね...あぁゆう風に笑えればいいんだけど)
ガラスの反射で見えた女の人は、微笑んでいて________
「えっ!?私!?」
「え?」
「あ、郡じゃん」
「え?」
「あっ」
「古雪君!?」
いたのは、クラスメイトの古雪君と、私によく似た女の子だった。
場所は移ってフードコート。私を含めた三人がうどんを持って席に座る。
「...!」
「...、...」
何か話してるようだけど、聞き取れない_______
「えぇと、はじめましてだよな郡。こっちは俺のいとこの古雪千景」
「っ...よろしく」
「で、千景。こっちが俺のクラスメイトの郡彩夏」
「よ、よろしくお願いします...」
髪型も容姿も他人とは思えないくらい似ている。世の中にはドッペルゲンガーが三人いると聞いたことがあるけれど、びっくりだった。
(よく似てるなぁ...)
「古雪君が前に話してたのって...」
「あぁ。こいつのこと。よく似てるだろ?」
古雪さん______千景さんは、私と同じように私のことをまじまじと見ている。前に古雪君が『お前に似てる人がいて』と言っていたけれど、これは納得するしかなかった。
「凄い似てる...」
「私も驚いてるわ。学年も同じようだし」
うどんを食べながら互いのことを話す。千景さんと私は容姿こそ似てても趣味とかは違って、ゲームが凄い得意なんだとか。
「今日もその帰りよ」
「俺は付き添いってわけだ...御馳走様。ちょっとお手洗い行ってくる」
いつの間にかうどんを食べ終わっていた古雪君が席を立つ。残された私達の間には、変な沈黙が訪れた。
(そうだよねぇ。さっきまで間に古雪君がいたもんね....)
「...郡さん」
「はい!?」
「彩夏さんって呼んで良いかしら?私も千景で構わないから」
「わ、分かりました...千景さん」
「ありがとう」
落ち着いた様子でお茶を飲む千景さんを見て、柔和に微笑んでいたさっきの顔が頭に浮かんだ。
「...どうかした?」
「い、いえ!すいません...」
「敬語じゃなくてもいいわ」
「そうですか...じゃなくて、そっか...」
まじまじ見てると、千景さんは不思議そうな、というかちょっと嫌そうな顔をする。
「...あの、ホントになにか?」
「いえ...さっき見た千景さんの笑顔、凄く魅力的だったから」
「!」
「えぇぇ!?大丈夫!?」
飲んでいたお茶を変なところに入れてしまったのか、胸の辺りを叩き出す千景さんに寄り添う。
「...初対面の人によく言うわね」
「ぁ...あんまり他人って感じしないし」
「それは私もだけどね...」
落ち着いた彼女は、一つ息をついた。
「...私がそんな笑顔だったのなら、皆のお陰ね」
「え?」
「私にはふるゆ...つ、つ...彼をはじめとした、私を大切に思ってくれる仲間がいたからよ。そうなる前の私は...いえ、それに気づく前の私は酷かったから」
最後の呟きだけ、冷たく重たい言葉に感じた。私が想像出来ないくらいの出来事があったことだけが理解できる。
「でも、どうしてそれを私に...」
「本当は言うつもりなんて少しもなかったけど...私も貴女が初対面のように感じなかったのかもしれないわね」
千景さんはそう口にして、また微笑んだ。
----------------
「それじゃあ私はこっちなので」
「あぁ、じゃあな」
郡が別れ、俺と千景の二人になる。彼女も家まで送ろうとしたのだが、『家はすぐだから』と断られた。
「今日はありがとな」
「説明してくれるんでしょうね」
「...説明するまでもないと思うけどな」
千景の考えてることは分かる。千景と彼女の関係だ。
「同じ名字、凄く似てる容姿...乃木さんにとっての園子さん達と同じかしら」
「俺だって真実は分からないが...恐らくな」
咄嗟に郡(千景)を古雪と紹介したのは、もし真実だった時、郡が家系図やらなんやらを調べないようにだ。気のせいだと言い切ることも出来るが、余計なことはなるべく減らしたい。
(負担かかるのは揉み消したりする大赦だが、ここの大赦にはかなりお世話になってるからな...)
異なる時代からくる勇者の支援や、施設の用意をしてもらってる恩は大きい。
「そう」
「...なんかあっさりだな」
『説明してくれるんでしょうね』と言われた割りに、引きが早いように感じた。
「私は、自分の子孫かもしれない人が勇者部にいたら嫌だと思っただろうけど、違うならそこまで重要に考えてないわ」
「そっか」
本人が気にしてないなら良いだろう。彼女が勇者部にいたとき千景が気まずそうにしてるのもすぐ想像できるし。
「というか、正直しばらく会いたくないわ」
「酷いなおい」
「だって...話すたびに恥ずかしいこと言いそうだもの」
そっぽを向く千景の言葉は聞き取れない。
「なんて?」
「なんでもないわ。帰るわよ」
「あ、ちょっ」
千景の方から俺の手をとり歩き進む。その温度は俺より高かった。
「ちゃんとついてきなさい」
「...言われなくても、いますよ」
『園子の夢』
「ねぇ~わっしー。こっちむ~いて~♪」
「いいえそのっち。私はわっしーではないわ」
「?」
「私は...富国強兵!!正義の味方!!全員気をつけ!!私が、国防仮面だぁぁ!!」
「あぁそうだったね!!私は国防仮面二号だった!!」
「そうよそのっち!!二人で世界の平和を守るの!!」
「そうはいかないぞ、国防仮面!!」
「誰!?」
「あ、あれは...!!」
「香川のうどんは日本一!それを証明するためならば...私は悪にも染まってみせる!」
「ご先祖様!」
「違う!!私はうどんの化身、小麦若葉だ!!」
「若葉の気持ちは良く分かるわ...あたしも戦う。うどんの存在を知らしめるために!!」
「風先輩!」
「違うわい!!あたしは...そう、肉ぶっかけ風よ!!」
「そこは二人で統一しないんですね~」
「乃木!いや分かりにくいから園子!!余計なツッコミ禁止!!」
「えー...」
「んんっ...ともかく、私達が手を組めば国防仮面など恐るるに足らず...全ての土地を小麦畑にするのだ!!」
「さて。それはどうかな?」
「なっ...貴様ら、どこから!?」
「にぼっ!にぼにぼにぼっ!!(私達はイネス同盟軍!!)」
「アタシは醤油豆ジェラートをこよなく愛す者...えーと、ほら、国防仮面が最初に出来たときのメンバーだし、それっぽくさせてよ...アタシは!国防仮面零号!!」
「にぼにぼにぼっ!!(私は煮干し仮面!!)」
「そして...!」
「ふっ...うどんだけの世界になどさせない。この俺が貴様らの野望をぶち壊す」
「貴方は...!」
「俺は、国防仮面零号と共に歩んできたみかん愛好者。国防仮面blackだ」
----------------
「っていう夢を見たんよ~」
「相変わらずはっちゃけてるな~園子は」
部室で昨日見たという夢を語る園子に、銀がたはは~と笑う。俺はというと、必死に自分の脇腹をつねっていた。
(ツッコミてぇぇぇぇぇ!!!!)
激しくツッコミたい。だが、園子の夢にツッコミを入れたところでどうしようもないのを知ってるのであまりしたくない。
「なんで私が煮干し仮面なのよ!!しかも『にぼ』しか言ってないじゃない!!」
「乃木!そこは『うどんの化身、女子力王風』って名前でしょう!!」
「いや風!!言うところそこ!?」
完全に不意を突かれて反射的に言ってしまった。
「わ、私がうどんのために悪になるなど...」
「ありそうで怖いよなー。若葉」
「そうね...」
若葉は若葉で球子と千景に言われて落ち込んでいる。
(...ま、楽しそうだし、いいか)
----------------
「どうしたの~安芸先生」
「乃木さん。古雪さんを知りませんか?」
「ぇ_______」
「つっきー!!!!」
「ん~、どうしぐぇっ!?」
朝早く。つっきーのご両親に家へあげてもらった私は、一目散に部屋に向かった。まだベッドにいた彼を押し倒す勢いで抱きしめる。
「つっきー、つっきー!ちゃんといるよね!!つっきー!!」
「そ、園子...!?なんだって急に!?」
つっきーの言葉もまともに理解できず、確かにある温度だけをぎゅっと抱きしめる。
「つっきー...」
「......どうした?怖い夢でも見たか?」
「...うん」
とっても怖かった。突然つっきーがいなくなる夢。どこを探してもいなくて、勇者部の皆が暗くなっていく夢。
起きた私は、隣で寝てるミノさんを気にすることなく、パジャマ姿でこの家まで来てしまった。鳥さんパジャマは動きにくいので違うものでよかった。
「いなくならないで...」
「別にどこにもいかないよ。俺は」
そう言って頭を撫でてくれるつっきーのお陰で、荒れていた息が落ち着いてきた。
同時に、この状況にも。
(......っ~!!!)
大好きな男の人に、朝から抱きしめて貰ってる。頭を撫でられてる。思わず頬がゆるゆるになって、隠すために彼の胸に顔を押し付けた。
(...つっきーの匂いがする)
心臓が凄く大きく音を鳴らしてる。かなり早く、ばくばくって。
「園子は甘えん坊さんだな」
「椿ー、園子来てないかなって、いたな」
「あ、おはよう銀」
「いやー途中で見失ったんだけど、やっぱりここだったか。はい、園子の服とか持ってきてる」
「俺としては服持ってくるより園子を連れて帰ってくれた方が嬉しいんだが...起きたばっかだしもうヤバい」
「やだ!」
「......わかった。わかったからそんな顔しないでくれ」
つっきーは顔を真っ赤にして、私から目をそらした。
(えへへ...)
「銀、いつものところからカセット出して。パーティーゲームでもやろうぜ」
「朝飯は?」
「三ノ輪家は今日俺必要ないし、園子はそれどころじゃないし。銀は俺が暴走したとき殴ってくれなきゃ困るし」
「暴走しても受け入れられると思うけど...」
「え?」
「なんでもない。じゃあやりますか」
もう落ち着いた。夢だと分かったしつっきーもここにいる。
(でも...もうちょっとだけ)
折角だからと思って、もう少しだけつっきーに抱きつく力を強めた。
(嬉しい...幸せ...)
「つっきー...ありがとう」
「はいはい。どういたしまして」
「園子ー、アタシ忘れないで欲しいんだけどー」
「えへ...ミノさんもありがとう」
さっきからぼろぼろ溢してた涙は、いつの間にかひいていた。