古雪椿は勇者である   作:メレク

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原作参戦から約一ヶ月。こちらにも彼女達が_____


ゆゆゆい編 13話

「というわけで、まもなく新たな仲間がこの世界にやってきまーす♪」

 

ひなたのどこか軽い声も、何度か経験してきたからこそだろう。反応するメンバーもどこか慣れた様子だ。

 

「遂に芽吹先輩達がいらっしゃるんですね...ワクワク!」

 

親交の深い亜耶ちゃんがワクワクした様子だった。というか言っていた。

 

「何人くるんだ?」

「四人だそうですが...」

「成る程」

「?」

「いや、今から来るのって本当は32人の部隊だからさ。流石に全員は来ないだろうと思って」

「そんなにいたら部室に入りきらないな」

 

若葉が言うことも最もだが、神樹様の力で呼び出されるならこれまでの倍の人数など無理に決まっている。出来たら逆に不安要素が高かったので安心した。

 

(あのチームだけバリアなしとかだと目も当てられないからな...まずこの勇者部を見て馴染めるかどうかも怪しいのに)

 

元の世界だと四国外調査なんかで共に行動したりもしたが、あの楠さんが猫の里親探しとかを率先してするとは考えにくい。

 

「...なせば大抵なんとなる。かな」

「古雪先輩?」

「なんでもない。迎えの準備は出来て...って」

 

都合悪く鳴り響く樹海化警報。寝る直前に鳴らされたらトラウマになりそうな音が今日も元気よく耳を打つ。

 

(夜中に進行してこないのは赤嶺のお陰だろうか...毎日夜に鳴らして生活バランス崩させるのってかなり有効に思うけど)

 

「戦いに巻き込まれてる可能性もあるな」

「若葉ちゃん、皆さん、亜耶さんのお友達をよろしくお願いします」

「私からもお願いします!」

「任せろ」

 

その言葉を終わりとして、日常から非日常の景色に変わる。視界に入るのはバーテックスだけ。

 

「まずはあいつらを倒す所からかな?」

「ようし!!銀!!タマについてきタマえ!!」

「アタシもいること忘れんなよ球子!!!」

「ちょ、球子さんもアタシも待ってくださいよー!!」

 

突撃組の三人がを援護するため、俺は腰から銃を抜いた。

 

「じゃ、俺達も行きますか」

 

それから数分。敵自体は別段強くもないし、あっさり決着がついた。銀(中)が最後の星屑を叩き潰し、爆散させる。

 

「いやー倒した倒した!」

「皆さんお疲れ様です」

「ありがとー須美ちゃん」

「...でも、楠さん達はいないな。どっかに潜伏してんのか...?」

 

レーダーを見ると、案外近い場所に二つの光点があった。ここを挟んで反対に三人。ひとまず近い方に顔を向ける。

 

「そんなところにいた...五人?」

 

 

 

 

その時、俺の意識はふっ飛んだ。

 

「がっ!?」

「椿!?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

勇者になったことで強化した目が辛うじて捉えられたのは、何かが椿さんの頭に飛んでいって、椿さんを吹き飛ばしたことだった。

 

「椿!?」

「椿先輩!」

「椿さん!!!」

 

私達が椿さんに近寄ると、遠くの方から声がする。

 

「まずは一人!!殺りましたわ!!」

「凄いねレンち...いや、蓮華の子孫の夕海子か」

「赤嶺家と弥勒家は盟友!!このくらいどうということありませんわ!」

 

赤嶺さんと話している人は知っている。弥勒夕海子さん。以前話したこともある。

 

________今は、そんなこと関係ないけど。

 

「それにしても、本当に人間のようですわね。バーテックスとは信じられません」

「こっちの方がバーテックスの見た目だもんね...と言ってて悪いんだけど、全部嘘なんだ。私だけが敵。あっちが味方」

「えぇ!?」

「盟友の子孫を見れたのはいいけど...やるべき作戦じゃなかったね。じゃあ頑張って」

「えぇえ!?突然なんですの!?」

 

赤嶺さんが星屑に乗って______

 

「逃がすと思っているのか、赤嶺友奈」

「逃げれると思わないことね」

「おっと」

「ひぃぃ!?」

 

逃げ始める前に星屑が貫かれて、 赤嶺さんが弥勒さんの隣に墜落する。

 

「いったた...」

「赤嶺友奈。私は怒っているぞ」

「お姉様...それだけ殺気漏らしてればわかりますよ」

「今銃を撃ったのは貴方ね」

「な、何が起こってますの!?それに貴女は...誰ですの!?」

 

千景さんと棗さんが二人の前に立つ。後ろ姿しか見えないけど、きっと目は暗いだろう。

 

「はーい。他のメンバーは出てかないようにねー。あの二人は止められなかったけど...アタシも我慢したし、というか椿も死んでないし。これから仲間になる人に怖い印象持たれてもあれだし」

「うーん...ふぁーぁ。危ない危ない。バリアがなかったらへッドショットで死んでたなこれ」

「椿さん!!大丈夫ですか!?」

「樹?大丈夫。そんな泣きそうな顔するなって」

 

椿さんが頭を撫でてくれて燻っていた気持ちは消えた。

 

「良かったですー!」

「そんな涙目になることないだろ。ほら友奈も。バリアだってあるわけだし」

「それでもですよー!!」

「はいはい...んで、俺を撃ったのはうおっ?」

 

椿さんが現場を確認する前に手で目を覆う。銀さんは音を聞かせないよう「わー!わー!」と叫んでいた。

 

「樹?銀?なにやってんだ?」

「椿さんは耳を塞いでください!お願いします!!」

「嫌でも...」

「いいから!後は全部アタシ達でやるから!!」

「お、おう...?」

 

大人しく耳を塞いでくれる椿さん。素直で良かった。

 

「攻撃したの?」

「ひっ!」

「何で?」

「あ、赤嶺さんに言われたのですわ!」

「確認もせずに?人間を?貴方は古雪君のことを知っているのでしょう?」

「ひぃぃ!!」

「バリアがあって良かったわね。なかったら死んでたわよ。貴女も...古雪君も」

「申し訳ございませんわっ!!!」

「怖いでしょう?でも大丈夫...死なないから!!!」

「赤嶺!!!」

「逃げ切れるかな、これ...」

 

流石に、これは見せられない。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

「申し訳ありませんでしたわ」

「いや、あの...」

「私(わたくし)は事態の確認を怠り貴方を傷つけてしまった。許されざる大罪ですが、命だけは...命だけは!!!」

 

樹海化が解けた後、待っていたのは楠さん達の合流と、着信が入ってるマナーモードの携帯のように体を震わせながら土下座してくる弥勒さんだった。

 

「...俺は別に、気にしてないので...赤嶺に騙されてのことだし」

「ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!!!」

 

ガンガン頭を床に打ち付けて感謝の言葉を機械の様に述べる弥勒さん。

 

(マジで、何があったんだ...?)

 

「それから...こっちも何があった?」

 

さっきから俺の制服の袖をちょっとだけつまんでいる千景は、近寄ることも離れることもせずにずっとそこにいた。

 

「...拒否したら首輪よ」

「なんで!?」

「冗談よ」

 

冗談と口にはしているが、声のトーンがそれを信じられなくさせている。

 

「...まぁ、そのままならいいよ」

「ありがとう」

「それじゃ、自己紹介タイムといきますか。ある程度知り合いはいるけどな」

「その前に、この状況は...?」

 

すっと手が上げたのは楠芽吹さん。防人の隊長であり俺もよく会話してきた人物だ。

 

「そっか、そりゃそうだよな。えーと...ひなた!」

「かくかくしかじかです♪」

 

一番最初にこの世界に来てただけあって、造反神やそれらを取り巻くシステムを端的かつ正確に話すひなた。一通り終わると新たな四人はかなり納得していそうだった。

 

「ま、また防人のお仕事かぁ...でもでも!私達勇者様として認められたってことだよねメブ!!」

「ただの戦力増強として呼ばれただけかもしれないわよ...でも、今さら貴女と一緒に戦うことになるなんてね。 三好さん」

「そうね。私も意外だわ。楠」

「楠芽吹と夏凜が知り合いなのは分かったが...他はどうなんだ?話タマえ!」

「全員古雪さん達とは...元々勇者部にいた人達とはある程度関わっています。雀、挨拶」

「は、はいぃ!加賀城雀です!今さっきメブが言った通りです!!チュン助とでも呼んでくだされば!命令も無理のない範囲で従います!!」

「園子以外言わなさそうなあだ名だな...」

「そんな下から言わなくてもいいのよ?」

「いえいえ!戦闘時には皆さんに守ってもらうのでこれくらいは!!」

「まーた強烈なキャラが入ってきたにゃあ...」

 

相変わらず下手気味に話す加賀城さん。

 

「...山伏しずく」

「あ、やっぱり山伏さんか!」

「...三ノ輪」

「銀ちゃん、知り合いなのか?」

「隣のクラスだったんですよ」

「ちょっと話したことがあるくらいだったから、覚えられてるとは思わなかった...三人がお役目で頑張ってるのは知ってたから、一緒に戦えるのは喜ばしい」

「じゃあ私達とも仲良くしてね、山伏さん」

 

山伏さんに小学生組だけでなく中学生の東郷、園子、銀も混ざっていく。

 

「...」

 

_______一瞬、山伏さんが銀を睨んだ気がした。

 

「?」

「次は私ですわね!弥勒夕海子ですわ!」

「私や楠と勇者の資格を争った仲ね」

「ということは、強いのか?」

「えぇ!勿論ですわ!それはもうばったばったと敵をなぎ倒し...」

「防人内の順位は微妙」

「しずくさんっ!!」

 

おでこを赤くした弥勒さんの言葉には苦笑するしかない。なんせ質問した相手がトップクラスの勇者、伝説を作りし乃木若葉なのだから。

 

「後は西暦メンバーの紹介だな...」

「いえ、その前に...しずく、『シズク』を紹介できる?」

「そう言われると思ってた...せーのっ」

「勇者様達!ヨロシク!!山伏シズクだ!!」

「うおっ」

 

目の前で起こった変化に思わず驚く。静かな印象しかなかった山伏さんの表情が一変、どこか好戦的な笑みに変わった。

 

「ワイルドだ!?」

「しずくさんの別人格ですわ。すぐ慣れると思いますわよ」

「へー...」

「ま、そういうこった。しずく共々頼むぜ」

「それで、古雪さん」

「ん、あぁ...」

 

俺の言葉を遮ったことを気にしたのか、楠さんがこっちに声をかけてくる。俺は口を開きかけて、先に時計を見た。

 

「その前におやつ用意するわ。折角だし歓迎会といこうぜ」

「やったー!」

「わーい!お菓子ー!」

「お前らの歓迎会ではないからな?」

 

皆と仲良くなって欲しいと願いつつ、準備をする。無駄な気遣いだったと思い直すのにそう時間はかからないだろうと思いながら。

 

「よろしくね!皆!」

 

(なんてったって、ここは勇者部だからな)

 

 

 

 




千景と弥勒さんのシーン。会話の間に鎌がバリアをぶっ叩いてます。『ガギィィン!!!』みたいな擬音を想像してお楽しみください。

そんなくめゆ組参戦回でした。椿達とそれなりに交流あるのが意外と書き難かったです。

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