そして今回は DxDさんをはじめとした方々のリクエストになります。
「......」
丸亀城にある石垣の上。刀を握ったまま空を見上げたのは、ここに来た理由と同じ『なんとなく』だ。
(あれから、約半年か...)
大体一年前、この場所で、絶望と怒りの感情を胸に灯していた。感情の奥底には『敵に報いを与えなければならない』という復讐心があった。
今でも鮮明に思い出せる。修学旅行先で現れたバーテックス。バーテックスに喰われた友達。命懸けで四国に逃げ向かう人々。そこから、この生活が始まった。
刀を振るい、一般人が太刀打ち出来ない敵を倒す勇者。その実戦は初めての戦いから約三年。その間に_______私の知る限り一つの町が、一人の勇者が亡くなった。
報いへの思いが強まり、戦闘が始まる。そして______出会った。
雨の中倒れていたあの人は、見るも無惨な勇者服だったこともあって『ゾンビじゃないか?』と球子が言ったこともあった。
しかし、敵を蹂躙した時の怒りは、私達に恐怖を与え。彼自身も、私達(知らない人しかいない場所)に恐怖した。
仲間割れをして、感情をぶつけ合って、命を張って。そうして、絆が生まれた。
私は、復讐の感情を重視することをやめた。今を生きる人々の為に力を使うと誓った。
彼は、私達を仲間だと言った。守るために戦うと語ってくれた。
そんな人が______未来から来たあの人が、あるべき世界に帰ってから約半年。
(元気にやっているだろうか...)
「わ~かばちゃん!」
「ひなたっ!?」
近くで声をかけられてその方を向くと、シャッター音が鳴った。
「佇む若葉ちゃん、頂きました♪」
「またひなたは...」
「いいじゃありませんか。コレクションにも勿論しますけど、未来に残すんですから」
「うっ...」
それを言われると弱かった。いや、そうでなくてもひなたは写真を撮るから変わらないのだが。
300年後の未来まで私達の記録を残す。そう考えた時、意外にも写真は有力だった。
彼の話してたことから推測するに、恐らく文献媒体は大赦の検閲で虫食いのように消されてしまう。今のトップをひなたが牛耳り始めたとはいえ、300年先までは難しいだろう。
その点、何でもない日常を切り取った写真の検閲では、虫食いにされることも少ないはず。黒く塗り潰された本を渡すくらいなら、完全セーフかアウトで消されるかの写真を未来に向けて残した方が良いだろう。
「何か考え事ですか?」
「...いや、思い出してただけだ。そっちこそ会議は終わったのか?」
「えぇ」
今大社から大赦に名前を変えた組織は、相当に忙しい。大人達に混ざる『勇者を導いた』という実績があるひなたと、勇者の代表として杏が発言力を持ち、高位の神官ばかりの会議で話し合いをしている。復興作業、勇者システムの今後、天恐の改善、やることは気が遠くなるほどに多い。
私も参加したかったが『若葉さんはいざという時にスッと現れてくれた方が他の方を威圧できます』と杏に言われ、案外普段は暇していることが多かった。
町を歩いて困ってる人を助けたり、より良いアイデアを出すために球子、千景、友奈と話したりしている。
「上手く通らなさそうです。精霊システム」
「難しいか...」
「戦闘中に声が聞こえ続けるのは、集中出来ないですからね」
「うっ...」
話に出た『精霊システム』も、千景と話した時に生まれたアイデアだった。勇者は身体能力が高い反面、精神面での脆さがある。私達が使ってきた精霊も体の内に穢れを溜めてきた。
そうした精神面のサポートをするため考えたのが、新たな『精霊システム』。勇者がピンチの時『立て!』とか、『負けるな!!』とか、ポジティブな言葉を良い続ける初期案は却下されたようだ。
「ですから、心を砕かれた勇者が現れた時のみに発動する、再生機器のような疑似精霊ならどうだろう...と考えてはいます。プレゼン次第ですけどね」
「むぅ...だが、過度の干渉も良くないか。そのくらいならまだ...」
「それが通っても、聞こえを悪くすれば『心の隙に入り込む妖怪』なんですけどね」
「悪すぎだろう!?」
ひなたがクスクス笑う姿を見て、驚いた顔をしてるだろう私も口角が上がった。元から明るいが、笑うことが増えた気がする。
約半年前は誰もいなくならないでほしいと私の袖を引っ張ったりしていた。今でもたまにするが、回数は減ってきている。
私としては、ちゃんと甘えてきてくれることが嬉しかった。ひなたに甘えることが多かったと感じているから________人に弱みを見せようとせず、弱みを覆ってくれるような性格だから。
「若葉ちゃん?聞いてますか?」
「ん...すまない」
「全く...あ、あとですね。折角精霊にするならうってつけの存在がいるだろうという話になりまして」
「?」
「『ツバキ』さんです」
「!」
一般にはまだ言われていないが、『奉火祭』で予定されていた巫女に関して矛盾が起こると指摘された大赦内では、既に広まっている。『奉火祭』の提唱者にして、神樹様からの使い_______となっている。本当のツバキ(椿)にそんな力がない人間であることは勇者とひなたしか知らない。
「もし椿の元にツバキが行ったら、反応は二通りだな」
『あいつら...なにやってんだ』とあきれ半分に言うか、『うわびっくりした!なんだこいつ!?』と驚くか。どちらかになる確率はかなり高いだろう。
「...でも、楽しそうだな」
「杏さんも賛成でした。この後集まる時に提案しようと」
「私も賛成だ...というか、そろそろ行こう」
「はい」
目的地は喫茶店、今日はそこで落ち合うと決めている。今の勇者は勇者システムの強化のため保持こそしていないものの、武器の携帯は許されている。刀も不必要に刃を出さなければ問題ない。最も、今携帯しているのは私一人だが。
行けば、六人が揃うだろう。
(椿...今頃、何をしているだろうか)
左手につけている青いミサンガに触れながら、もう一度だけ空を見上げる。どこまでも澄んだ空が広がっていた。
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『なにやってるの?』と誰かに聞かれた気がして、答えることにした。
(捕まってます。助けてください)
昼過ぎ、俺の自宅には八人いた。早い話が勇者部だ。両親は他の勇者部員(女子)が来た時点で出掛けた。
休まる場所であるはずのソファーに正座してる俺は、包囲網(女子)に向けて声をあげる。
「なんだよ...別に話すことは終わってるぞ。俺もまだ整理し足りないことだらけだし」
この世界での一夜にして起きたタイムスリップ。本来なら遠く届かない世界の事象に関わって数日。
『俺、西暦の世界に行ってきたんだ』
昨日は園子の家に行って色々手に入れて、半日近くかけて話をした。過去に行ってきたこと、勇者として戦ったこと、どんな思いだったかを全て。
話を終えても信じられないと言いたそうな顔だったが、俺自身突然こんな話をされても信じられないので仕方ない。ひとまず暗くなってきたし整理もしたかったので解散となり、俺は朝までメモリーカードの中身やらサファイアのペンダントやらを見てたのだが。
「そう言われると弱いけど...」
「いや、椿。ちゃんと理由があるんだぞ?」
風がたじろぐのと逆に、銀はわかりきった顔でそう言ってくる。
「なんだよ、理由って」
「まだ椿は言ってないことがある...そう、椿がちゃんとしだしてからの休日の過ごし方だ」
「?」
「...誰かと出掛けなかったか?」
「あぁ...そうだな」
記憶を巡らせる。確かに昨日は夕方に近づいてたこともあって後半は戦いのことばかり話していたかもしれない。
「えーっと...休日だっけ?桜は散っちゃったけどお花見したりしたな。しっかり料理したの久々だったから手元鈍ってなくてよかったよ」
「それ以外は?」
「んー...迷惑かけちゃったから詫びとしてなんかあるかって聞いてったな。壁の外に行ったりゲームしたり買い物したり恋愛話をした...ぁ」
「どうしたのかな、つっきー」
つらつら述べた先でつまる。そのタイミングを逃さなかったのは園子だった。
「えぇと...黙秘権を行使したい」
「面白い予感するからやだ~」
「酷いなおい」
「やっぱり...さぁ話せ!」
仮想のカツ丼を目の前に置かれ、逃げ場のなさを確信してしまった俺は大きくため息をついた。
「はぁ...耳掻きされて、マッサージされました」
「耳掻き...!?」
「マッサージ!?」
女子力王が耳掻きに反応し、ゴットハンドがマッサージに反応する。
(得意分野っぽいけど、そんなに反応することないじゃん...)
「...」
逆に黙ったのが園子。普段なら『ふぉぉぉぉぉ!!』とか言いながら何処からともなくメモを取り出すのだが、今回は無言でさらさらメモを取っている。
「他は?」
「まだ話すの?」
「寧ろ今ので食いつきますよ。古雪先輩」
「何でだよ...後はお前らみたく壁ドンを要求されたりとかだよ」
「べ、別に私達は依頼のためにやっただけよ!」
「はいはい」
夏凜に対応しつつなんとか精神的に余裕を取り戻す。
(ここが正念場...頼むぞ俺!)
今はあくまで『休日にやったこと』を話してるだけ。しかし、さっき思い出したことは絶対悟られるわけにはいかない。
_______決戦前夜にひなたを抱きしめながら寝たり、戻ってくる前に唇に触れたのは________
(いやまぁ、あの時はそんなつもり一切なかったし、最後のは俺の気のせいかもしれないし...)
「まだあるな。吐け椿!!」
「なんだよお前!?」
「何年一緒だと思ってるんだよ!アタシの目を誤魔化せると思うな!!」
戸惑うくらい近くでどや顔を向けてくるの銀。恥ずかしくて目線を外すが、まだかまをかけられてるだけだ。
「もうねぇっての」
「つっきーはイチャイチャしながら一晩を過ごしたのです...と」
「いやイチャイチャはしてねぇから!!」
『...』
「......ぁ」
辺りの空気が冷えてから気づいたが、あまりにも遅すぎた。
「椿先輩...一晩は過ごしたんですね...」
「女性と寝たんですね...」
「い、いや違くて!今のは!!」
「椿...さぁ、全部出しなさい」
見えるだけでも友奈、樹、風の目の光が死んでいる。
「いやホント待って!か、勘弁してくれよぉぉぉぉぉ!!!!」
そこからの記憶はない。ただ_______問い詰められる現場でも、皆の目の光が仕事してなくても、こうしていれることが嬉しかった。
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「......」
辺りがひたすら白い景色をぼんやり眺める。重力を感じないのは長いこと体験してきたことだから今さら気になることでもない。
全てが終わった。私の知る限りは、私の望む形で。
誰一人犠牲になることなく、未来までの安定が保たれた。後の歴史は______直接見てきてよく知ってる。
(...心残りは、ちょっとだけ)
『いいんだよ。それで。なんでもないように笑うのがきっといい』
そう励ましてくれた彼が、最後の温もりをくれた彼が無事に帰れたか。それだけが気がかりだった。私の力はそこまでで使いきってしまったから。
「大丈夫だったかな」
「あぁ。安心しな」
「......!?」
ある筈のない返事が来て目を見開く。いたのは、それこそいる筈のない存在。
「なんで...どうしてここに!?」
「ここが俺の唯一の居場所だからなぁ...って、分かるわけないか」
「椿君!!」
黒髪をかく彼は、すっとつぶっていた目を開いた。何もかも吸い込みそうな黒い瞳が、私を見る。
「椿君がここにいたら、そしたら...!!!」
「安心しろって。椿...お前が神世紀301年から連れてきた古雪椿はちゃんと帰ったから」
「...じゃあ、貴方は誰なの」
「俺は精霊として産まれたツバキさ。精霊ツバキへの信仰心が産み出した残留思念」
「ぇ...えっと?」
「お前が肩代わりした奉火祭を辻褄合わせの為に俺がやったことにしたのさ。神から使わされた精霊...俺のやったことだってな。信じてなかった大社も結果が伴い俺が未来に帰ったら信じることしかできなくなった。それによって生まれた信仰心が俺(精霊)を産んだってわけだ」
少し面倒そうに言う椿君は、がりがり頭をかく。
「つっても産まれたのは精神だけだから、後は消えるのを待つだけなんだがな。意味もなく産まれちまったと思ったが...そうでもなかったみたいだ」
「?」
「...ここは精神が消えるまでの狭間。文字通り『空白』の空間。元の世界に戻る例外はいるが...力を使い果たした俺達にその例外は当てはまらない...いや、こんな小難しい話はよそう。重要なことだけ言うわ」
彼は、右手を伸ばした。
「これから消えるまでずっと一緒だ。ユウ」
「...う、そ」
「嘘ついてどうすんだよ」
恐る恐る手を伸ばす。それは意識してのことじゃなくて、知らず知らずのうちに、少しずつ______
その手が繋がった時、彼は引っ張ったし、私は飛び付いた。
「椿君...私」
「どうした?」
「嬉しい」
死んでも皆の為に力を使い、その後もこうして誰かといられる。
「嬉しいよ...でもいいの?」
私自身は椿君と接した時間はほとんどない。それは私(ユウ)であって私(高嶋友奈)じゃない。
「今の俺はお前専用だからな。好きなだけいいぜ...いや、俺の方こそいいか...?」
「もちろん!」
見つめあった私は、我慢できず唇に触れる。ふわっと甘い味がする。
「っ...」
「いいでしょ?」
「...断る理由がない」
「理由があったらしてくれないの?」
「......その言い方はずるい」
一度離れた私達は、もう一度口づけをした。
リクエスト内容は、
のわゆ世界のその後
神世紀メンバーへの事情説明(修羅場)
神高奈とツバキの登場
でした。三つ目はどちらも単品かつゆゆゆい時空でのリクエストだったので、いずれ出すかもしれません。