古雪椿は勇者である   作:メレク

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誕生日記念短編 思う二人 後編

「断ると思ってた」と言うと、「好きな相手選びなって言ったのは俺だしなぁ...言った本人が断るのもおかしいだろ」と返事が返ってきた。

 

「ご予約の古雪様ですね。こちらへどうぞ」

 

アタシに苦労させないためか、予約やらなんやらは椿が全部やってくれた。そんなことだけなのに、嬉しくなっちゃう自分がいて少し恥ずかしい。

 

「すげー!須美の家にありそうな和室!」

「えーと...ほっといて説明しちゃってください。自分が聞きます」

「は、はい...大浴場の場所は______」

 

高台に作られた旅館の部屋から見える景色は、遠くまで見渡せて綺麗だった。沈んでいく太陽がオレンジ色に燃えて、町全てを彩る。

 

「ふぁぁぁ...!」

「確かに、いい景色だな」

「だろ!?だろ!!」

「そんな興奮すんなっての」

「とか言いながら、自分だってウキウキしてるくせに」

「なっ...勝手に言ってろ」

 

隣でアタシに顔を見せないようにした椿の耳は、少しだけいつもより赤い気がした。

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「っ...はー...」

 

全身を覆う熱に思わず声が漏れる。『風呂に入る』という動作は普段からしてるが、大型露天温泉に一人きりとなれば格別感も出る。

 

「いいもんだこりゃ...」

 

効能なんて詳しく知らないが、星が瞬く夜空が一望出来る開放感と、外ならではのひんやりした空気と熱い温泉の差を味わえただけで体が軽くなった気がする。

 

「......」

 

既に体も洗って、後はのぼせないようにこの場所を堪能するだけ。そうなると、どうしても頭が回転しだしてしまった。ここ最近はずっとそうだ。霧がかったようなのに、考えることをやめられない。闇雲に答えを探しているような。納得できる回答はまだでない。

 

(...ホント、なぁ)

 

文化祭のイベントを利用して手にいれた温泉旅館のチケット。それを俺は銀にプレゼントした。

 

二人分のチケットだった為『好きなやつを誘え』と言ったわけだが、銀が誘ってきたのはなんと俺だった。予想では高めの確率で園子、後は同じくらいの確率で勇者部メンバーと睨んでいたわけだが________

 

(結局、俺だったもんな)

 

正直、普通に嬉しい。俺達は幼なじみだが、こんなに長いこといるのも、仲が良いのも珍しいだろう。最も、同じ体で過ごしてたことの方がよっぽど珍しいわけだが。

 

でも、同時にちょっと不安が。

 

(なんで俺なんだろなぁ...)

 

当たり前のことだが、俺と銀は異性。別々の部屋を取れないことを伝えても、銀は俺から変更することはなかった。

 

俺は高校生になり、銀も来年受験をしなければならない年になった。昔とは違う。

 

別に昔の方が良かったとは思わない。だが、思春期である男女が二人で泊まるなんてことになって______それを悩むことなく承諾されると、男としては複雑である。

 

(男子として見られてないってことだろうか...)

 

色んな感情が無数の糸のように絡まって、一つ一つにほどこうとも上手くいかない。自分の抱いている感情が理解できない。

 

「...はぁ......ぁー」

 

目をきつく閉じ、無意識に入っていた体全体の力ごと抜ききった。体が沈んで、顎までお湯につかる。

 

「おぉ!!誰もいない!ラッキー♪」

 

そんな時、いかにも嬉しそうな声が聞こえた。ちゃんと聞かなくても分かる。俺は人生ではこの声を聞いていない日の方が少ないのだから。

 

とはいえ同じ湯船にいるわけではなく、竹で作られあ敷居の向こうからの声だった。思ったより男女の露天風呂の距離が近いようだ。

 

「椿ー!いるー?」

「...もう少し大人しく入ったらどうだ?」

「あ、いたいた。いいじゃんアタシ一人だしさー。椿もでしょ?」

 

俺はわざわざ答えなかった。流石に俺も銀も人がいたらこうして話さない。その事を互いに分かってる。

 

「...いい景色だねー」

「こうして見ると、またいいもんだよな」

 

よく思えば、去年の夏も、西暦時代に行った旅館でも、こうして景色を楽しむ余裕なんてなかった。

 

「なんだか一緒に入ってるみたいだな。話してるし...そっちの方行こうかな?」

「いやこえられ...なくは無いのか。お前なら」

 

今の銀なら敷居くらい飛び越えられるだろう。

 

「でもそんなことすんなよ」

「昔は一緒に入ったりしただろー?」

「何年前だと思ってんだ」

「...だよねー」

 

(全く...一緒に入りたきゃ女子を誘えっての)

 

どこか浮わついた心は、しばらくそのままだった。

 

 

 

 

 

「あ、待たせちゃった?」

「気にすんな」

「ありがと」

 

温泉へ続くのれんから銀が出て来るまでに、10分ちょっと。頭を冷やして整理するには十分だった。浴衣姿と少し濡れたままの髪に一瞬息がつまったものの、それ以外にはなにもない。

 

結局、俺はそんなに気にしないことにした。気にしすぎてると俺も楽しめないし、それは俺を指名した銀の望む所じゃないだろう。

 

とりあえず今を楽しむため、俺は事前に辺りを見ていた。

 

「それじゃあ...夕飯までちょっと時間あるし、あれでもしてかないか?」

「ん?あ、いいねぇ!」

 

温泉にあったり無かったりする卓球台。ラケットなんかも無料貸し出しのようで、準備はすぐに出来た。

 

「なんなら勝った方は負けた方に一つ命令出来るってのは?」

「乗った!」

「よし。負けねぇぞ...」

 

身体能力的には負けているが、俺は高校の体育でやってる最中。勝機はある。

 

「じゃ、俺からな...せいっ」

「なんの!」

「ほい」

「はいっ」

「もらった!」

「甘いわ!」

 

コースギリギリの球を膝を曲げてすくいとられる。

 

「甘いのはそっちだぜ!」

 

しかし、このくらいは想定内。容赦なく反対側に叩き込み、ポイントをもぎ取った。

 

「よし...このまま勝ちは貰うぜ」

「手加減はしないのかよー」

「そんなのしたら怒るくせに」

「確かに...よし!まだまだぁ!」

 

 

 

 

 

「うまっ」

「はわぁ...」

 

夕飯までに決着がつかなかった試合に不満はあったものの、部屋に運んで貰った豪勢な料理の数々を前にどうでもよくなった。銀は蟹の身を食べてほっぺたを落としそうになっている。

 

「キノコも時期だしなぁ...」

「椿!!これ美味しい!!!」

「お前の顔見てれば分かるよ。どうにか家で作れないかなぁ...材料費を抑えてなんとか出来れば」

「やめて。こんな凄いの毎日出されたら椿のご飯無しで生きていけなくなっちゃう」

「へっへっへ......楽しみにしとけ。絶対唸らせてやる」

 

楽しい時はあっという間で。気づけばご馳走は全て平らげ、夜もそれなりに深くなっていた。

 

 

 

 

 

「じゃあ...そろそろ、寝よっか?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

畳の和室に敷かれる二つの布団。その距離はぴったりくっついてる。

 

パパっと敷いたのはアタシだけど、椿は何も言わない。予約の時点で散々言って、アタシが『それでもいい!』って答えたから、事前に覚悟を決めてきてくれたのかもしれない。

 

不思議と、ゲームをしようとかそんな話にはならなかった。

 

「電気消すぞ」

「ぅ...うん」

 

アタシもちゃんとしてきたつもりだったけど、声は少しだけ裏返ってしまう。

 

「...」

「...」

 

お互いの目と目が合う。アタシはそらすことが出来ない。

 

「......流石に、後ろ向くわ」

 

椿が動いたけど、浴衣は胸元がはだけやすくて、サファイアのネックレスがキラリと光るのが一瞬だけ見えた。

 

ただそれ以外は、互いの息遣いと、もぞもぞと動く音だけが外から感じる刺激。

 

アタシは、恐る恐る手を伸ばして、触れる直前に引っ込めた。

 

(わかってる、筈なんだけどな)

 

もやもやした感じ。不安な感じ。

 

椿はこの誘いに乗ってくれた。昼寝とかじゃない、アタシと二人きりで一晩を過ごすためにここに来てくれた。

 

椿のことを知っている。アタシをちゃんと女の子として意識してくれてることを。だから体を反対に動かしたし、顔を赤くしてくれた。

 

ただ、そうだとわかっていても_____ちょっと息が苦しくなって、喉がかわく。ドキドキする。

 

だってそれは、普段の椿だから。勇者部の皆といるときの椿と変わらないから。

 

(椿は...誰が好きなの?)

 

椿の口から、証が欲しくなる。

 

「...椿」

 

自分でも聞き取りにくいくらいの小さな声。

 

「...どうした」

「何で、アタシと来てくれたの?」

 

少しの沈黙があって、椿はむず痒そうに動いた。

 

「銀だから...じゃねぇの」

「それは...同じ体で一緒に寝てきたから?それとも、アタシが女の子っぽくないから?」

「...それ、本気で言ってるなら怒るぞ。少しは自覚しろ美少女」

「び...っ!!」

 

一瞬で体が熱くなったけど、椿は止まらない。

 

「ホント...でも、うん。そうだな」

「え?」

「俺は銀だからここに来た。きっと他の勇者部に同じように誘われても来ない。うん」

「え?えぇ?」

「...何でもない。さっさと寝ようぜ」

 

想像していた以上の答えが返ってきた気がして、頑張って理解する。

 

「...っ!?!?」

 

理解出来た瞬間、溶けるんじゃないかと思うくらい体が熱くなった。

 

(やめてよ、椿...)

 

そんな風に言われたら、椿がどう思っていようと勘違いしちゃう。

 

(アタシ...アタシは)

 

欲しい。椿が欲しい。アタシだけの物にならなくていいから、アタシを見て欲しい。

 

浮わついたままのアタシは、もう止められない。

 

「おい、銀?」

 

遠慮していた手は椿の浴衣の袖を掴んで、そのままお腹まで回す。距離は近くなるわけで、背中に顔を当てる。足を絡ませる。片方の布団に二人が入る。

 

「銀!?ちょっ、それはやめろって!」

「...や」

 

はじめの方は暴れてた椿も、数分したら大人しくなった。

 

「...はぁ。寝れないだろ、こんなことされたら」

「寝れるよ」

 

二年間は、ずっと一緒に寝てたんだから。それより前は、こうして仲良く眠りこけてたんだから。

 

「緊張することなんてないんだよ...アタシだもん」

 

アタシだって緊張してる。椿の心臓の音が聞いて、鼻は椿の匂いを嗅いでて。

 

でも、言える。

 

「大丈夫だから...」

 

だって、幼なじみだから。ずっとずっと、貴方のことを見てきたから。

 

それは、昔と変わらない__________変わるのは、感情が溢れてしまったことだけ。

 

 

 

 

好きです。アタシと結婚してください。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「...ん」

 

一度目を開くと、窓の向こうから日の光が覗いていた。

 

(......そうか。寝れちゃったのか...俺)

 

昨日の夜の記憶が薄くて、勝手に朝になっている。言いたいことは分かるだろう。

 

(えーと...確か)

 

銀に抱きつかれて、寝れないと言ったら寝れるよと返されて。

 

恥ずかしかったが、やがて安心からか、不思議と意識が遠退いて、最後には_________

 

『好きです。アタシと結婚してください』

 

(...あれ?言われたっけ?それとも妄想?)

 

考えていると、ふと体が軽いことに気づいた。体を起き上がらせると、抱きついてきていた筈の銀が大の字で寝ている。

 

「ぷっ...風邪引くぞ」

 

はだけた浴衣から胸元が見えそうになり、直視しないよう布団で隠す。

 

「うーにゅ...それ以上食べれなぃ」

 

(何を食ってらっしゃるんだか)

 

銀の顔を見て、思わず頭を撫でる。途端に、彼女はデレッとした顔になった。

 

「えへ...好き......椿、大好きぃ」

「...っ!!!」

 

銀の告白されて体に衝撃が走った。

 

「ぁ...!!」

 

(俺...!!!)

 

ただ、昨日なんかと違って『迷っていない』という発見。誰かがいたら何を言ってるんだと言われるだろうが、俺にとっては今最も重要なことだった。

 

俺が迷っていたのは_______自分が誰のことを好きなのか、整理しきれてなかったから。だが今銀を見ればストンとくる。

 

俺は、ずっと銀が好きだった。だからドキドキするし、二人きりで寝るのに想像以上に戸惑った。文化祭でも銀に俺が努力してるところを隠して、カッコいいところを見せようとした。

 

それは全て_______銀を好きな誰よりも愛していた。その感情をやっと理解出来た。

 

「お、俺は...」

 

動揺していた手を頭に持っていく。

 

「そっか...そうか...!」

 

自覚したことが体に染み込むと、俺の手はもう一度銀に向かって伸びた。今度は猫を撫でるように、首もとへ。

 

「銀...俺は、お前が好きだ」

 

誰でもない君を、他でもない幼なじみを、俺は愛している。

 

「......」

 

体は高揚し、出ているおでこに唇をつける。

 

(ファーストは随分前にこいつに取られてるんだっけ...って)

 

「...寝てる相手にやるもんじゃないだろ。なにやってんだ俺...」

「寝てないから!!!」

「んぐっ!?」

 

景色がぐるりと回る。思わず瞑った目を開ければ、銀が俺の上に乗っている。

 

「何でおでこなんだよ!!口にやれよ!」

「いやお前、寝てるところ襲われたことに怒れよ...」

「椿だからいいんだよ!!好きな人からなんだから!!このやろう!!」

 

呼吸の暇なく二度目の口づけ。今度は、唇同士。

 

「ぷはっ!好きです!結婚してください!!」

 

気恥ずかしくて、出来れば『結婚は早くね?』みたくからかいたかった。ただ、告げたのは別の言葉。

 

「...喜んで」

 

まぁ、どうせそうなるんだしいいだろう。

 

「やった!!もうやめたなんて言えないからな!!」

「別に、言うつもりないから」

「つーばーきー!!!!」

 

涙を溢しながら笑う銀は、数日前に見た笑顔よりもっと愛しく思えた。

 

 

 

 

 

数年後、古雪銀はこの年の誕生日を振り返りこう言う。

 

『パパはね、ママにパパ自身をプレゼントしてくれたんだよ』と。

 

 

 

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