今回は雀メイン。攻撃は出来なくても防御に関する才能はトップクラスで強いし、ボケもツッコミも出来る。意外とちゃんと考えてるんじゃないかな...
「メッブ~。また来ちゃった~」
今日は休日。朝食後、いつものようにメブルームにお邪魔する。別に用があるわけじゃなかったけど、自分の部屋と同じくらい落ち着く場所だ。
そんな部屋には先客がいた。
「こう、一回外して...ここをもう一度切るんだな?」
「はい。ゲートはこうした方が綺麗に切りやすいです...って、雀」
部屋主であるメブと、勇者部の唯一の男性、古雪椿さん。二人が手にプラモデルを持ちながら話している。
「何してるの?」
「見ての通りプラモ作りよ。椿さんに教えてたの」
「あー、メブ得意だもんね」
前にメブのお城プラモを壊してしまった思い出まで甦り、必死に頭から消し去った。
「あれ、でも今回はお城じゃないんだ」
「はじめは芽吹に言われた城のプラモを作ったんだがな。作るの案外楽しくて買った二つ目さ。どうせなら自分の気に入ったの作りたいし、上手く作りたいし」
「色々教えて貰おうとな」と言った古雪さんの手元には、ロボットっぽい腕が作られていた。
「私はそういったのはあまり作らないので、少し新鮮です...というわけで雀、悪いけど貴女の相手はあまり出来ないわ」
「いや、俺は別に今度でもいいぞ?」
「いえいえ。私はメブに用があったわけじゃないので。寛いでます」
メブが「好きにしていい」と言うので、とりあえず勉強机とセットになってる椅子に座る。古雪さんとメブは床で作業。確かに二人でやるなら、ベッドの上とか床でやった方が良いんだと思う。
「でも、二回切っても少し白くなっちゃうな...」
「...黒いパーツなので、このペンで塗り潰せば目立たないと思いますよ」
「ありがと...お、確かにいけるな」
やることもないので、なんとなくその二人の光景を見る。
(...そう言えば)
「本格的にやるなら塗装したりやすりをかけたりするんですが、椿さんはそこまでじゃないですし」
「まぁな...ちょっとハマってはいるが、道具一式買うつもりもないし、かといって芽吹から全部借りるわけにもいかないしな」
この二人は、ハロウィンのちょっと前から名前で呼びあってる。お堅いメブが知り合い以上になったからって古雪さんとそうなるのは少し意外だった。
それから________
(...まさか、メブも争奪レースに加わるのかな)
私は恋バナとか結構好きだ。少女マンガみたいな展開は特に。
ただ、古雪さんの向かう先は______どろどろの修羅場になる可能性がある。というのも、私の観察眼だけで恋人候補が片手じゃ足りないのだ。
(いくらなんでも人気過ぎだから。あれは)
友情なのか恋愛感情なのか分かりにくい人は外してこれなのだから驚くしかない。勇者部でたった一人の男性はとんでもなかった。
(まぁ?気持ちはわからんでもないけど...)
私も元の世界から古雪さんがどんな人間か多少は知っているし、納得出来なくもない。恋愛的に好きかと言われれば違うけど。
そして。今目の前でプラモデルの技術を教えているメブは、どちらなのだろうか。どちらになるのだろうか。
(いやいや、問題はどっちかと言うと......)
メブがもし恋愛感情を持っていたとしても、問題はその相手。難攻不落の要塞(古雪さん)にある。こっちは間違いなく異常だ。
なんせ、あの勇者部にいて、周りからの溢れんばかりの思いを浴び続けながら、平然と______いや、慌てたり動揺してる時もあるけど______しているのだから。
『古雪さんって好きな人いないんですか?』
たまたま二人だけになった時、聞いたことがある。古雪さんは誰かと付き合うことで勇者部がギクシャクしちゃうのを恐れてるのではないかと。
特にこの世界だといつ帰れるのか分からないし、戦いにもなるから________
『いるぞ?』
『えぇぇ!?誰です誰です!?』
『ま、人って言うより人達だけどな。勇者部の皆だから』
『...そ、その、恋心...みたいなのは?』
『んー......不甲斐ない話、誰か一人なんて選べない』
ここまでなら、まだ納得出来た。私があややとメブどちらか選べと言われた時選べないだろうというのと似ていたから。
ただ、その先が衝撃的過ぎた。
『でも、どうせ皆とはなかなか付き合えないだろうしな』
『へ?』
『だって...勇者部って美少女揃いな上に性格もとんでもなく良いだろ?そんな誰もが好きになりそうな子達が、別に大したことない俺のこと好き!なんてそうならんだろ』
話す声で本音なのが分かった私は、開いた口が塞がらなかった。この人は、あんなオーラを浴びてこんなことを平気で言うのだ。
(ホントに、どうなってんだろ...)
恐らくあれは、自分に恋愛感情が向けられてないという前提の思考が存在している。せめて勇者部の性格が多少悪ければ、鋭い古雪さん普段の態度と自分への態度の差で気づくはず。
勇者というお役目をやってる以上戦いもあるわけで、吊り橋効果なんかも期待できるだろうに______いや、逆に『吊り橋効果だろ』と整理してしまうのかもしれない。
吊り橋効果みたいな、助けられたことで抱く気持ちは勘違いだと言われることが多いけど、どんなことであれ気持ちに嘘はないと思ってる私からすれば立派な恋愛感情で、複雑だ。
ともかく、そんな恋バナマスター(自称)こと私は、二人のことを見ていた。
(...付き合ってない以上、メブにもチャンスはあるんだよなー。いくら後発でも)
「...よし、両腕完成。後は同じようにやれば自力でやれそうだ」
「そうですか?」
「あぁ。わざわざありがとな。予定がなければ昼食くらいご馳走するけど...」
「雀もいますし、気にしないでください」
「...なら、俺は帰りますかね。完成したら言うわ」
「頑張ってくださいね」
「ありがと、芽吹。加賀城さんもまたな」
「...雀?」
「はひっ!?」
気づいたら古雪さんは部屋から消えていた。メブがこっちを変な目で見てる。
「どうしたの?挨拶もしないで」
「い、いやちょっと考え事をね...」
「そう。先輩に対して無視は失礼だから、出来れば一言いっときなさい」
「あ、うん...弥勒さんにそんなことしたことある?」
「私は見送りくらいちゃんとするもの」
「そっか」
弥勒さんにそんなことしたことないなーなんて考えながら連絡先に一言いれて、携帯をポケットの中にしまう。
「ねぇメブ」
「何?」
「...メブは古雪さんことどう思ってるの?」
「そうね。周りをよく見た気遣いが出来たり、勉学面や戦闘面でも高い能力。尊敬するわ」
「......いや、そうじゃなくて。その...恋愛的にどうなのかな~。みたいな」
私が言うと、メブはちょっとだけ顔を赤くしながら、そっぽを向いた。
「恋愛的にって...別に、そんなつもりはないわよ。身近な異性ではあるけれど......」
「そっかー」
「自分から聞いといて、そんな返事?」
「ひょえっ!」
一瞬で怒りの感情を見せたメブから逃げるため、部屋の外を目指す。室内で逃げてメブのプラモにまた何かしてしまえば、今度は生きて帰れない。
「待ちなさい雀!!」
「嫌だよメぶふぅ!?」
「おわっ...とと」
玄関を開けた先には何故か出ていった筈の古雪さんがいて、私は真っ正面から突っ込んでしまった。
「ふ、古雪さん!?」
「気をつけろよ。次はちゃんと止められるか分からんし、俺以外の奴が通ることの方が多いからな」
「は、はい...」
「椿さん、何かありましたか?」
「渡しそびれてた物をな」
メブに軽く放り、私は直接受けとる。
「あ!みかんジュースだ!!」
「作ってる間の飲み物として用意してたんだが没頭してて。丁度加賀城さんもいるし好きに飲んでくれ」
「いいんですか!?」
愛媛出身の私にとっては願ってもない。普段実家から食べきれない程のみかんを受け取っていたけど、貰えて嬉しくないわけがない。
「あぁ。じゃあまた今度な」
「ありがとうございました!!」
帰る古雪さんに頭を下げ、メブの方を向く。この間に既にペットボトルの蓋を開けていた。
「いやーよかったねメブ...!!」
「......」
言い切ってから、ついさっきまでどんな状況だったのかを思い出した。メブに話しかけてる場合じゃない。逃げないといけない。
でも、そんなメブの顔は何処か呆れてた。
「...メブ?」
「.......」
「あのー、芽吹さん?」
「雀」
「はいっ!?」
「雀は椿さんのこと、どう思ってるの?」
「...と、言いますと......?」
「好きなの?」
「へ?」
「私に聞いて来ながら、自分は話さないなんて...不公平よね」
メブが貰ったみかんジュースをテーブルに置いて、こちらを見る。人の機嫌を伺ってきた私には分かる。
今のメブは、完全に捕食者の目をしていた。
「答えなさい。雀」
「あ、あのー...またの機会に」
「雀!!!」
「ひょえぇ!!!」
今度こそ私は部屋を飛び出した。勿論メブも追っかけて来ている。
いつものように「助けてメブゥゥゥ!!」と叫びたかったけど、今日の相手はメブ本人。咄嗟に私は叫んだ。
「助けて古雪さぁぁぁぁん!!!」
その場で「なんとも思ってない」と言えば追われずに済んだのでは。と考えたのはこれより後のことで__________それが思いつかなかった理由は、ずっと後になっても分からなかった。