今回は毒蛇さんからのリクエストになります!何度かリクエストの友奈短編を書いてますが、この方のは全部まとめて友奈ifにした方がいい気がしてきました。少しずつ椿との仲が進んでる感じがいいし、なにより可愛いんだ友奈...
「友奈、これなんてどうだ?」
「いいですね椿先輩!いやーお目が高い!」
「あんま誉められてる感じしないけど。それ...」
今日は友奈と一緒に紅葉狩りに来ていた。まぁ紅葉(もみじ)に限らず紅葉(こうよう)シーズンということで、彼女の趣味である押し花の素材採集の付き合いというわけだ。
「景色も綺麗だが、こうして落ちてるのを探すってのも新鮮でいいな」
葉っぱではあるものの枝についているのを無理やり取るのは気が引けて、地面に落ちてる綺麗なのを拾っている。友奈も同じようで『どこだー...どこだー』と辺りをうろついていた。
その姿を見て笑いそうになるのをこらえ、同じ動作を再開する。相当厳しい審査をしているつもりだが、二時間もするとかなりの量が揃った。旬の花としては、サザンクロス(名前かっこいい)やパンジーもあるらしいが、友奈の様に判別は出来ない。
「こんなもんだろ...帰ろうか。友奈」
「はい!今日はありがとうございます!」
「俺も割りと楽しめたし全然。なんなら押し花も作ってみるかな...」
「私が作った桜の栞、ダメでしか...?」
「いや、そういうつもりじゃなくて...うん、友奈のがあればいいから作らないよ」
「そうですか!」
「おう...って、あれ?」
辺りを見渡すと、赤と黄で彩られた森があった。全部森。
「...友奈、俺達どっちから来たっけ」
「え?あっちからですけど...あれ?あっちだっけ?」
道らしき道はなく、木々以外だとちょっと遠くに洞穴があることくらいしか確認できない。
「...迷子?」
「...かもしれない、ですねー......」
友奈の困惑気味な言い方で確信した俺はスマホをつけた。ものの見事に圏外で意味はない。
「あちゃー...どうしたもんか...?」
更に不幸は続くようで、スマホに水がついた後、続くように雨が降り______数十秒でどしゃ降りに変わった。
「嘘だろ!?銀でもここまで不幸体質じゃないぞ!?」
「あわわ...つ、椿先輩!とりあえずあそこに!!」
友奈の指した場所は洞窟で、俺は即決した。これだけ急に降りだす通り雨ならば、そう時間もかからずやむだろう。
「はーっ...びしょびしょだな」
「タイミング悪かったですねー...」
友奈の方を見ると、俺と揃ってずぶ濡れだった。着ていた上着から水が滴り地面を濡らす。
「...とりあえず脱ぐか」
「え!?」
「あ、いや、このままだと風邪引きかねないし」
戦衣は西暦から帰ってきた時のままでズタボロで服としての機能は果たせない。助けを呼びに行こうにも、出口も分からなければここに帰ってこれる可能性も高くない。友奈をおぶって連れ出すには雨が強い。
「素直に雨やむまで待つのが得策かなって」
「そ、そうですか...」
「友奈も上着は脱いどきな。勿論他は脱がなくていいから」
脱いだ服を軽く絞ると短時間で受けた量とは思えない水がにじみ出た。ゲリラ豪雨も大したものだ。
友奈もいるし下は脱がないが、上だけなら水着と似たような格好だろう。
「...椿先輩、私も脱いでいいですか?」
「えっ」
「あ、あのですね!?私も風邪引いちゃいそうですし...椿先輩も脱いでますし......」
数分後。
「...」
「......」
(流されたからとはいえ、ヤバい状態だなこりゃ...)
俺達は互いに背を向けた状態で座っていた。俺は上を脱ぎ、友奈も恐らく服を脱いでいる。後ろを見てないのでどこまでかは分からない。
誰もこないような場所で、薄着で仲の良い異性の後輩と二人きり。どことなく緊張が走る。
「雨、やみませんね」
「そうだな...」
会話もすぐ途切れて、外の雨の音だけになる。すぐやむと考えていた予想は裏切られ、それなりにがっつり降っていた。
(なんか話題...)
うしろにいる友奈の状態をちゃんと知るのが怖かった俺は、脳をフル回転させる。
「そういえば受験勉強はどうだ?うちに来れそうか?」
「やめてください......」
「あ、なんかすまん」
友奈の声からしてあまり芳しくないのだろう。
「まぁ、もうすぐしたら部活も休みになるだろうし、その時教えてやるよ。友奈は一度集中すれば凄いしな」
「え、勇者部活動しないんですか?」
「俺と樹と風はそう考えてるぞ。人数的にメインの三年組が集中できるようにしたいからな」
約一名、活動してても余裕で合格しそうな奴もいるが。
(園子は複素数の行列だって出来るもんな...俺も知らんぞそんなの)
「まぁ、園子に聞けばなんとかなりそうだが、受験の範囲なら分からないところあればちゃんと教えるから。どうせ東郷辺りには迷惑かけないよう聞かなかったりしてるんだろ?」
「うっ...正解です」
「やっぱり」
「...先輩、よく見てますね」
「同じ部活で三年もいればなぁ...」
知ってるし知られてる。大事なところまでほとんど。
「おまけに勇者なんてやってたし...っくしゅん!!」
「大丈夫ですか?」
「あぁうん。ちょっと寒気がしただけ」
上半身裸なのだから仕方ないが、びちょびちょの服を着るのも問題がある。
(ボロくてもいいから戦衣着とくべきなかぁ...)
ぼんやり考えていた俺の意識は急に戻された。背中から温かさを感じたからだ。
「...へ!?友奈!?」
「はい!?」
「いやはいじゃなくて!お前なにやって!?」
「寒そうだったので...体で暖め合う方がいいかなって」
背中にはもちもちした感触がついたままだった。背中合わせを自覚した途端、一気に体が熱くなる。
「いやでも」
「ダメですか...?」
「...あぁもう、わかったよ」
彼女達のお願いに対する弱さを知っていながら、上手く断る術を未だに確立出来てないことが少し悲しかった。
「......」
「......」
手持ちぶたさでなんとなくスマホを眺める。相変わらず圏外とだけ俺に伝えてくるのを見て、大人しくしまった。ただ、やることがないと意識が持ってかれそうになる。
(いっそ寝るか...寝れる環境じゃないな)
「椿先輩」
「ん?どうした?」
「いえ...ちょっと」
「?」
「不思議だなって思ったんです。もう三年も一緒にいるんだなって」
「...長いようで、あっという間だったな」
初めて会ったのは部活勧誘の時。東郷と行動してたのを見つけ______当時銀と一緒だった俺は東郷ばかりに注意がいったが、勇者部の理念に強く共感したのは彼女だ。
「勇者部で色々やって...本当の勇者になって」
依頼に全力で取り組む彼女と、敵と全力で戦う彼女の姿は同じだった。笑顔で、周りを鼓舞させるような明るさ。
そんな彼女の笑顔が曇った去年の冬。天の神と地の神の騒動に『御姿』として巻き込まれ、生きることを諦めかけた。
今でも思い出せば力がこもってしまう。他でもない、今俺の後ろにいる彼女の為に、俺は、俺達は命をかけて神に喧嘩を売ったのだ。
死に物狂いで抗い、小さな灯火を必死で守り、結果は__________俺達自身がよく知っている。
「......ホント、色々あったわ」
気づけばどこか緊張してたのが消え、背中の温かさも安心だけになった。
いつだってこの温もりを取り戻すために、俺は諦めなかったのだから。諦めてももう一度と立ち上がったのだから。
「そうですねぇ...」
友奈も同じように思い返しているのか、ゆっくりと返事してくれる。
「......せんぱい」
「んー?」
「ありがとうございます」
「...それはこっちにも言えることだ。ありがとな」
色んな思いがつまった『ありがとう』を口にする。俺の前方にいたら、無意識に頭を撫でてた頃だろう。安らかで、落ち着いてて__________
「いえいえ...勇者部に入ってから、初めてのことが一杯ありました。でも、それと同じくらい......」
背中の熱が薄くなる。思わず声を出しそうになったが、次の瞬間確実な声をあげた。
「いっ!?」
「椿先輩と出会ってから、初めての感情ばかりでした」
「友奈っ!?」
脇から腕が伸ばされて、俺の腹をきつめに囲む。同時に足先も俺の足の外側に伸びてきて、背中の熱は増すばかり。
腹部の腕がしまっていくのに比例して、背中の熱はより大きくなる。首筋に何かが当たる。
「な、なにして...!」
「お願いです...少しだけ、こうさせてください」
「っ...」
「それとも、ご迷惑ですか...?」
そんな言い方されたら、断るなんて出来ない。
「...迷惑なんて思わないけど、少しだけだからな」
「先輩ならそう言ってくれると思ってました」
(少しだけだから...持ってくれよ!)
「落ち着くなぁ...」
「そ、そうか?」
「はい。ドキドキして、少しきゅっとなって、たまに苦しくて...でも、嬉しくて、安心して、ふわってなって」
友奈らしい言葉使いが呟かれるが、耳の近くで話されてるため全てきちんと聞こえる。普段なら聞き取れない吐息まで全て。
とくん、とくんと鳴る心臓の音まで。全部。
「私...幸せ」
「......」
その、愛らしい声が________
(...あぁもう!!)
両手で頬を叩いた。洞窟に音が反響する。
「椿先輩!?」
「なんでもない!」
気合いはいれた。大丈夫。
彼女の気持ちの吐露に、恥ずかしいからと言って逃げている方が絶対に間違っている。こんな状況で煩悩に負けるなんて間違えまくってる。
「友奈」
「はい!」
「...これからも、ずっと笑っていような。絶対幸せにしてやるから」
「...!!!?え、つ、椿先輩...それって!?ぷ、プ!?」
「ま、少なくとも良からぬ奴が来たら東郷辺りが始末して俺の出番なさそうだけどなー」
「...」
「え、友奈痛い痛い!!」
「...椿さんのバカ」
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気づいたら雨が止んでいて、椿先輩に送ってもらった。寒かったぶんお風呂が熱いくらいに感じる。
長めに入浴したから、部屋で新聞紙に敷いていた葉も花も乾いている。もう押し花として作り始めても問題ないとは思った。
ただ、そんな気分にはなれず。頭からベッドに入り込んで足をパタパタさせる。
(あぁ~!!!!)
頭が沸騰したみたいに熱い。きっと他の人が今の私を見たら、ゆでダコとかリンゴとか言うんだろう。
『 ...これからも、ずっと笑っていような。絶対幸せにしてやるから』
椿先輩を抱きしめてふにゃふにゃしていた所に、こんな言葉を囁かれてしまったら。
(プ、プロポーズだと思った...)
思い返して、耐えられなかった。
「あぁもう...椿先輩のバカー!」
今だって、お風呂に入った温かさよりも、布団に入ったほかほかよりも、椿先輩とくっついていた方がずっとぽかぽかしたと思ってるから。
今日は、全然寝れそうにない。