今回はギア 00さんをはじめとした方からのリクエストになります!
「あ、雪花ー」
「来るの遅いですよ椿さん」
「これでも兄弟の飯つくってすぐ来たんだが...バイクじゃ風が冷たくて敵わんぞ」
顎を覆うほどあげていたネックウォーマーを下げると、緩んだそれと首の隙間に冷気が入り込んでくる。個人的にはマフラーの方が好きなんだが、万一ほどけて運転中に飛んでいくのは嫌なのでネックウォーマーも使っている。
「んで、急ぎの用事って?」
「いえね。この部屋なんですけど」
「オーケー分かった」
ここは異なる時間から来た勇者へ大赦が用意した寮。その一室の住人が誰か考えれば、すぐに理解できた。
「合鍵でもう開けてあります」
「じゃ、入るか。というか起こさなかったのか?」
「起きないんですよ...いえ、一度起きてはいるし、今も起きてはいるんですが」
ドアノブを回して入った部屋は、確かに電気がついている。俺に見つかるために雪花はわざわざ外に出てたようだ。
「寒いなかごめんな」
「詳細を送らなかったのは私ですし、慣れてますんでこのくらい大したもんじゃないですよ」
「流石北海道...いや、具体的な寒さはわからんが」
少し広めな部屋には一人もいない。それでも俺は迷うことなく進み、声をかけた。
「それでこっちは...ほら、学校行くぞ。こたつむり」
「......無理だ。椿」
答えた古波蔵棗は、そう言ってこたつから涙目な顔だけにゅっとだした。
棗は西暦時代、沖縄という四国から南西にある島で勇者として戦っていた。気象的観点で四国と比較すると、沖縄は温暖。
棗曰く、四国の冬は耐えられないらしい。その結果がこたつむり棗(カタツムリのような形態のこたつ&棗)である。去年も似たようなことがあった。
今年はそれを見越して、北国、北海道の勇者である雪花に合鍵を渡し、寒い日には起こしてくれと言っていたのを部室で聞いた。だがまぁ_______こたつの魔力に吸い込まれた棗を動かすには、雪花だけでは足りなかったようで。
「わざわざ俺が召集されるんだから...」
「何故お前たちはそれだけ自由に動ける?死を恐れないのか?」
「まだ12月だから、冬の中では寒くない方だぞ」
俺の言葉を聞いて、棗は顔もこたつの中に戻した。
「んー...こたつのコンセント抜くか?」
「一応電気を通し続けてる時に無理やり切るのは良くないですよね?」
「そりゃな...」
俺としては、冬はこたつでみかんが至高だと思っている以上、こたつに酷いことはやりにくい。こたつは偉大なのだ。マジでこたつの上にみかんを乗せた時の神々しさは神樹様の比ではない。こたつ様。いや、ただ一つの結界『理想郷(ユートピア)』だ。
「今朝は寒かったから海に行ったが、帰って体を洗ったらまた寒くなって...ダメだ。耐えられない」
「海の方が寒いだろってツッコミはしていいのか?」
棗らしいとは思うが、今の俺達からすれば厄介この上ない。
「...こうなら強行手段か。というか雪花もそれ目的で呼んだんだろ?」
「全然動かないですから...ノギーは日直らしくて」
こうしている間にも学校が始まる時間は近づいている。一度許すと更に厄介になるのが分かっているから、俺はため息をついて心を鬼にした。
「ほら、棗。手を出せ」
「断る」
「俺が手を入れて変なところ触ってもいいのか?嫌だろ?」
「構わない。私は動かない」
「マジかよ...」
雪花に助けを求めるも、どーぞどーぞ好きなだけと言いたげな顔をしている。流石に雪花も起こすよう頼まれてこの対応なんだから快くは思わないのだろう。
「...後で怒るなよ」
行動は迅速に。こたつをめくると暖気がぶわっと来て、一瞬心地よさを感じる。
(休みたい気持ちも分からんでもないが、そうさせるわけにもいかないしな)
「ほら、なつめぇ!?」
そこからの出来事はまさに神速だった。こたつから伸びた魔の手が俺の手首を掴み、蟻地獄のように引きずり込んでくる。
「椿もこちら側へ来るといい。一緒に寝よう」
「いや、起きろよお前...!ちょ、まっ」
棗の力が凄まじく、それなりに鍛えている俺がどれだけ力を入れても逆に引きずり込まれていく。
(どこにそんな力があんだよぉ...!?)
「雪花...!助けてくれ!」
「了解!」
雪花が俺の反対の腕を掴み、思いっきり引っ張る。正直体がもげそうだが、棗を引っ張り出すことは敵わない。
「何故そうまでして私を出そうとする...何の意味がある!」
「悪役みたいなこと言ってんじゃねぇぞ!」
「私はここから離れない。絶対に!」
「ふざけんじゃねぇ!絶対ここ(こたつという魔の手)から出してやる!」
「演劇みたいだにゃあ...」
互いに譲らず拮抗した状態。そこから抜け出したのは棗だった。
「......ふん!」
「うわっ!?」
勢い良く手首を持ってかれ、右手が完全にこたつの中に入った。
「棗!?!?」
それだけなら良かったのだが、感じる熱はこたつのなかの暖かさだけじゃない。強い力で手が挟まれ、手首も両手で挟まれる。
俺を拘束しているのは四ヶ所。つまり、今手が挟まれ______指が触れているのは。
「これなら逃げられまい...んっ」
「棗さん!?マジでこれは不味いって!」
「ならば大人しく入るといい...あと、くすぐったいからなるべく手を動かさないでくれ。太ももを撫でられると...あっ」
「え、棗さん手を太ももで挟んでるんですか!?」
「やーめーろー!!」
引っこ抜こうとするも、手に力を込めると棗が妙に色っぽい声で反応するし、もぞもぞ動くしでヤバい。抵抗を制限するしかない俺は、ズブズブ入り込んでいく。
「ん...ふぁ」
「棗さん離してぇぇぇ!!!」
「力強い...!」
気づけば体の三分の一がこたつに入っていた。
「椿さん...もう諦めて良いですか?」
「待って雪花!!待ってください!!」
「雪花。今度ラーメンを奢ろう」
「棗さん本当ですか!?」
「コーンもつけていい」
「私学校行きますね」
「目の前で懐柔されてんじゃねぇぞ雪花さぁぁん!?」
ポイっと俺を捨て玄関まで向かっていく雪花に手を伸ばす。
「だって棗さん起きる気全然無いですしー。頼まれたのにこんなにされら流石に嫌ですもん。ラーメン貰った方が得です。というわけで行ってきまーす」
「椿。いい加減諦めたらどうだ」
「諦めんのはお前だよいい加減起きろ...!!」
なすすべもなく取り込まれた結果、俺達二人が完全にこたつに取り込まれてしまった。
「ここから抜け出したく無くなるだろう?」
「そりゃ暖かいけども...」
「動くな」
「んんっ!?」
手首を掴んでいた手が背中に回され、抱きしめられる。手はホールドされたまま。
「はぁっ..これならば逃げられないだろう」
「ダメだって棗...!」
目の前には涙目の棗の顔。荒い息が狭いこたつの中を反響し、触れている体からは熱が伝わってくる。
「んんっ...うっ...はぅわ...」
脱出しようとすればするほど棗の声は甘くなるし、腕は関節技を決められてるように痛さが増す。脳で処理できない情報量が流れ込んできて冷静な判断力は彼方に消えた。
「...もう、無理......」
「ならば一緒に寝よう。ここで...」
こたつの熱でやられたのか、顔が真っ赤な棗を見た矢先に顔を持ってかれる。力が入らなくなった俺は棗の胸元で抱き留められた。
「......」
「......」
気づけば思考が止まり、目を閉じる。互いにごそごそ動いて良いポジションを取ってから、もう一度くっついた。
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「あら、椿さん一人ですか?お早いですね」
「あぁ、ひなたか...」
部室にいると、ひなたが新たに入ってくる。彼女は鞄をテーブルに置いて、俺のいる窓際に近づいてきた。
「どうかされましたか?」
「いや、な...」
今朝は大変だった。棗を起こそうとしたら逆に捕まり、結局こたつの中で寝ていたのだから。当然授業も遅刻した上に、まともに棗の方を見れない。
大体の経緯をかいつまんで話終わる頃には、ひなたの目は笑ってなかった。
「その棗さんはどちらへ?」
「恥ずかしいから海で頭冷やしてくるって。もう今朝みたいなことはしないと言ってくれたからこれで済むならもういいかなって思うけど...俺もバイクすっ飛ばして頭冷やしてきたからここにつくのが早かったってわけ」
「そうですか...寝ていたというわりに、お疲れみたいですね」
「ちゃんと寝た心地がしないんだよ...流石に」
意識がボンヤリしていたとはいえ、こたつの狭い空間で体を絡ませ合いながら寝てたら落ち着くわけがない。やられた側とはいえ棗に不快感を与えているかもしれないことも、俺に罪悪感を募らせる。
「おまけに、あいつじゃないけどバイクでかっ飛ばせば寒いし。日光を浴びて耐えてる」
「だから窓際にいるんですね。エアコンを使えば...」
「まだ皆揃ってないのに使うのも気が引けてな」
服の上から二の腕をこすり摩擦で温めていると、ひなたが何か閃いたのか自分の鞄を探りだした。
「ひなた?」
「椿さん。そう言うことでしたらこれを使ってください」
「それは...」
ひなたが出したのはミルク色に赤い刺繍で縁をとられたブランケット。冬でも制服(スカート)で登校しなければならない女子の必須品だと同じクラスの女子が話していた気がする。
「いくらか寒さも和らぐでしょう」
「良いのか?貸してもらって」
「構いませんよ?椿さんですもの」
そう言われれば悪い気もしない。「ありがと」と言ってひなたからブランケットを受け取り、丁寧に広げてから膝に被せた。
「ふかふかだ...いいなぁこれ」
優しい温もりが俺の下半身を包む。プラシーボ効果なのは分かっていても心まで癒されているようだった。
「はぁー...ひなた?」
「私も寒いので...御一緒させてください」
隣に椅子を持ってきたひなたが、俺の隣に座ってブランケットの裾を摘まむ。
「いや、寧ろこれはお前のなんだから。ひなたが寒いなら俺は使わないよ」
「ダメです!椿さんも一緒ですからね!!」
「んー...わかったからそんな見つめないでくれ」
彼女の目力に折れ、本人に半分以上だとバレない程度にブランケットを被せる。
「......」
「......」
互いに喋ることもなく、何をするわけでもなく。かといって居心地は良いし落ち着く不思議な空間。
『テレビで見たんだけどな!ただ話しながら散歩だけして帰っても楽しいと思える相手は自分の好きな人なんだって!』
何時だか、クラスメイトが言ってた気がすることが頭に甦る。
(好きな人...ねぇ)
ちらりと隣を見るも、答えなど出るはずもなかった。
(ひなたのことは好きだ。間違いなく。だが、それが皆への好きと違うのかと言えば......判別が怪しい)
美少女であるひなたが俺を好きでいるのかは置いといて、俺自身も感情に確信は持てない。情けない話だが__________
「椿さん」
「ん?」
「難しい顔してますよ」
「え、そうか?」
ひなたが少しだけ椅子を近寄らせるだけで肩が触れ、甘い香りが鼻をくすぐる。今朝あんなことがあったせいで普段以上に動揺してしまった。
「考えることも大切ですし椿さんらしいとは思いますが、休むときはしっかり頭も休ませないとダメですよ?」
「......あぁ。悪い」
ゆっくり。なにも考えずに。ただ背中に当たる光と隣に座る彼女の感覚だけ残して。
(確かに、これは何か考えながらってのは勿体ない......かな)
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「あ、銀ちゃーん!園ちゃーん!」
「しー!」
「?」
私と東郷さん、夏凜ちゃんが先にクラスを出ていた二人に声をかけると、二人とも人差し指を口元に立てた。思わず両手で口を塞ぐ。
「どうしたわけ?二人して部室の前で」
「何かあったの...」
部室には、先客がいた。椿先輩とひなちゃん。二人が日の光に照らされて、静かな寝息を立てている。
ひなちゃんは椿先輩の肩に頭を乗せて。椿先輩はひなちゃんと手を繋いで。幸せそうに寝てる。
「あれを邪魔する気にはなれないね~」
「...そうだね」
園ちゃんの言う通りだった。私達の方が邪魔者なのではと疑うくらいにあの場は完成している。
「ま、それはそれとして起きたらアタシ達もやればいいし」
「そうだね!!やるぞー!」
「賛成~!!」
私の気持ちを代弁してくれた銀ちゃんに最大限(ちゃんと小さな声で)乗った私は、物音で起こさないよう部室をあとにした。
「そういえば園子、いつもみたく『ビュオオオオ!!』ってしてなかったわね」
「え?あー...ネタにするなら自分がやられた時がいいなって」
「羨ましいもんなー」
「そ、そんなこと...あるかも」
(...もー!)
自分にも園ちゃんが感じてるだろうものに似たモヤモヤがあるのを自覚して、首を横にふった。
(ひなちゃんいいなぁなんて思ってないんですからねー!椿先輩!!)
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寮について、長めにお風呂に入って、丁寧に髪を乾かす。そしたら寝る前に課題を一通り済ませて、巫女としての簡易的な作成物も終わらせる。
「んんんっ...」
背中を伸ばしてから、私は電気を消した。ベッドに被さっているのは掛け布団と、ミルク色のブランケット。
「ふふっ...」
ブランケットを手元に寄せて、掛け布団の中に入る。
『んーっ...30分くらい寝てたのか』
これは、放課後椿さんと一緒に寝ていた時に使った物。
『皆に怒られなきゃいいんだが...ありがとひなた。かなり気持ち良かったわ』
『また使いますか?』
『あはは...程々に頼む』
会話を思い出して、少しだけブランケットを顔に近づける。昨日まで使っていた時とは違う匂いが微かにした。
(......)
夜の自分の部屋なのに一度辺りを確認してから目を閉じた。
(......)
考えることなんてない。安らぎを与えてくれるから。
「...椿さん。好きです」
西暦で椿さんと別れた時にもよく輝いていた月が、私を照らしていた。
椿とひなたが寝てるシーンは、2018年の園子sバースデーイラストのような姿を想像して頂ければ...