「ジングルベール、ジングルベール、鈴がーなるー」
耳に入ってきた音に合わせて小さな声で歌う。周りに知り合いはいないから大きな声で歌ってたら変なやつだ。
「さてさて...」
ご存知『イネス』のおもちゃコーナー。入り口には先客がいた。
「お待たせ。悪いな」
「ううん。今来たところだから」
「嘘つけ。手赤くなってるだろうが...何分前から待ってんだよ。今だって集合時間10分前だぞ?」
ここは外に繋がる扉と近いため、店の中にまで行かないと寒い。俺につめられた彼女は「チッ」と舌うちした。
「10分くらい前からだよ。アタシだって寒いのやだし」
「じゃあ中にいりゃいいのに」
「『ごめん待った?』『今来たとこ!』ってのやりたかったんだよ」
「なにを今更...」
「うるさいなー!」
「はいはい」
だだっ子を落ち着かせるように頭を撫でると、彼女は俺の手を自分の手で掴んだ。
「温めて?」
「...はぁ。分かったよ」
手を繋げ直して満足げな笑みを浮かべて歩く銀の顔を見てから、俺も歩き出した。
今日は聖なる夜、クリスマスの前日、クリスマスイブである。 外国にあった宗教の教祖、キリストなる人の誕生を祝う日らしい。ハロウィンもだが、西暦組も知っているところからするにかなり日本でも長くメジャーなお祭りなのだろう。
うちの部活にパーティーをやめたいなんて言うやつはおらず、この後俺の家でチキンとケーキ、その他色々を食べる会を予定している。
「確かに自分の家で作るから移動させなくていいし楽だがさ...チキンは買ったやつとかじゃなくていいのかよ?」
「寧ろケーキは作ってもいいんだな...椿の料理は美味しいからダメなんだよ。買うって発想が消滅される」
「何言ってんだか...大体、園子だってもう俺より料理上手いだろ」
銀が一緒に住んでる園子は料理の腕をどんどん磨き、風と交代で貰う昼の弁当を食べる度に(俺が教えたんだが...抜かれてるなぁ)と感じる。
朝や夜も銀と交代交代でやってるらしいが、そんな二人をはじめ、東郷や須美ちゃん、ひなたに風______樹も得意ではないだけで自炊出来るので、ほとんどの部員が料理を任せても平気なのだ。
「わかってないなー。椿の料理が食べたくなるんだよ」
「んー...」
そう言われると俺に反論など出来ない。俺だって銀の焼きそばを食べたくなる時があるし。
「って、そんなこと言ってられないよな。早く選んじゃおうぜ!」
「あ、おい引っ張るなよ」
おもちゃ屋さんに来たのは勿論理由があって、銀ちゃんへのクリスマスプレゼントを買うためだ。俺として渡す物ではなく、サンタとして渡す用の。
クリスマスには、サンタさんが夜な夜なプレゼントを枕元に置いていく。真実を知らないのは小学生組と亜耶ちゃんだけだった。
「アタシは椿と一緒だった時にバラされたからな...」
「こっち見ないでくれ。俺は悪くないだろ」
そこで今回は、知ってるメンバーで彼女達の夢を守ろうと話が広がり、俺達の担当である銀ちゃんのプレゼント調達をしに来たというわけだ。
前日_____というかプレゼントを置く実施日に買いに来たのは、銀ちゃんの欲しいと言っていた物が今日発売だったから。
「これだよな」
「それそれ」
すごろくをしながらミニゲームをこなし、ゴールを目指すパーティーゲーム。
「最近千景とゲームしてたし、このシリーズは人気高めらしいからな。買ってこうぜ」
「...大赦のお陰で買えるけど、いい値段するよねこれ」
「言うな」
金遣いが多少荒くなったのは否定できないため、俺個人の出費は最近抑えている。微々たる差かもしれないが、良心の呵責から逃れるためだ。
難なく目的を終えた俺達は醤油豆ジェラートとみかんジュースの誘惑を避け家へ向かう。
「これからパーティーなんだから...でも...ねぇ、椿」
「ダメ。帰るぞ。さっき金の話もしただろうが...!」
「うー、はーい...サンタの衣装はあるし、後は何も買わなくていいよね?」
「あぁ。追加注文の連絡もなし」
ここ数日は幼稚園で行われたクリスマスパーティーにサンタとして登場し、今回はその衣装が使える。一応スマホでお使いを頼まれてないか確認してから、ポケットに戻した。
「しかし、こうしてると懐かしいな......」
「あ、椿も?」
四年以上前は、毎年のようにイブに二人で集まって欲しいものの話をして、クリスマス当日サンタさんから届いたものを見せあい遊びあった。
「あの頃は、椿が隣にいるのが当然だったからね~」
「そんなの俺もだし...」
銀がいて、俺がいる。逆もそう。信じて疑うことのなかった日常の世界。
「手、繋いで帰らない?」
「ん」
「はい...なんならあの頃みたいにお風呂も入る?寒いし」
「バカ言ってないで寒いならさっさと歩くぞ」
「うーん...他の人が言ったら動揺しそうなんだけどな~」
銀の最後の声は、風に流されて聞こえなかった。
「じゃあ、侵入っと」
既にパーティーも終わり、良い子は寝静まっている筈の深夜。勇者の住む寮を管理している大赦の人から合鍵を受け取り、銀ちゃんの部屋へ侵入する。
本当は同じ寮のメンバーに任せた方が良かったのかもしれないが、俺はバイクを使えばすぐ帰れるため、夜遅くまで女子が起きてるなら俺がやると志願した。
かといって全員分配るのは納得してくれなかったようで、須美ちゃんの所には若葉が、園子ちゃんの所にはユウが、亜耶ちゃんの所には芽吹が行っている。
(部屋の明かりは...消えてるか)
豆電球もつけずに寝てる銀ちゃんは、暗闇だろうと大体分かる。とはいえ間違って踏んだりしないようスマホのライトを頼りに彼女の枕元まで移動。
大きめの赤い靴下と手紙が置いてあるのを確認して、まずは手紙を見た。
(もし欲しいもの変わってたらヤバいもんな)
今更用意を変えられる筈もないが、一応確認。前日部室で話してくれたままの内容で安心しながらゲームのカセットを靴下にしまった。
(...あれ)
表面だけだと思ってた手紙は、裏面にもちょろっと書かれている。
『サンタさん。アタシ、良い子で寝てるので...元の世界にいる椿にも、プレゼントをあげてください。お願いします』
「...ふっ」
思わず笑みがこぼれる。良い幼なじみを持ったものだ。椿(俺)は。
(俺はあげれないけど...銀、お前がプレゼントを持ってってくれ)
銀が生きていてくれること。過去の俺はなんとも思わないだろうが、今の俺からすればそれが最大のプレゼントだ。
(...帰るか)
手紙を回収してささっと部屋を出る。音をたてないよう合鍵を回し、任務終了だ。
「お、ユウ。お疲れ」
「お疲れ様椿君」
「お前も早く寝ろよ?かなり深夜だしな」
「言われなくても寝るよ~。すっごく眠いし...椿君こそ、これから帰るんでしょ?」
「別にすぐ帰れるからさ」
「夜の運転は危ないんだよ!」
「分かってるから...」
「うーん...あ!椿君も朝までここで寝てればいいんだよ!私の部屋入る?」
「は、入りません!おやすみ!」
バイクを少し押して寮から離して起動させる。ここで起こしちゃ申し訳ない。
「よし」
ユウの言う通り安全重視で、俺はアクセルを入れた。
「...ん?」
今日はこれで終了。無事家に_______は帰らず、ちょっとだけ寄り道していた。
「......」
「凄いでしょ?」
言葉を失っている俺に、彼女はそう言う。
「この前たまたま起きたら、夜中なのに光ってる場所があって」
街灯も消えるような時間。そんな中、恐らく太陽の有無でついているのだろうイルミネーション。青と白の二色だけが、光の全くない暗闇の世界を照らす。
「折角だし...って、聞いてる?」
「...聞いてる。聞いてるよ」
とても人工的にセットされたとは思えない景色が、世界に俺達しかいないと錯覚しそうなくらいの魅力的な空間が、この場に作られていた。
「だが、こんな夜中にメールしてくるとは...」
「園子は寝てるし、椿も普段なら呼ばないよ。アタシもいつもは家から眺めるだけ」
「見える位置だっけ? 」
「うっすらね。毎日やってたら園子に怪しまれるし、皆に心配されちゃう」
「ただ、今日は眠くもならなくて」と言った彼女は俺の手を掴んできた。見なくても互いの指を間にいれるのは難しくない。
「えいっ!」
「あぁもう...」
彼女のポケットまで突っ込まれて、外の寒さとは隔絶された暖かさが俺の手を伝う。それを拒むことはない。
「...」
「へへっ」
「...っ」
イルミネーションの明かりで見えた彼女の笑顔を思わず見つめてしまって、ふいっとそっぽを向いた。
凄く、引き込まれる笑顔だったから。
「...メリークリスマス。銀」
「メリークリスマス。椿。これからも一緒だからね」
その一言に返す言葉は、感情をありったけ込めて。
「お前こそ離れるなよ」
離さない。例え離れたとしても救ってみせる。絶対に________とは、キザっぽくて言い切れなかった。
クリスマスの夜は更けていく。いつも通りに、明日に向かって________
こっから先は後書きなので、あしからず...
さて。なんとこの作品、投稿開始からぴったり一年経過しました!!つまり去年のクリスマスはアニメ勇者の章の苦しみに耐えられずボッチでこの作品の五話か六話を書いてたんですね...悲しくなんてない。
え?今日?男友達とエクバしてたら日がくれました。女子?知らない子ですね...夢でそのっちとラインしたぐらい。ぐすっ。
三月には終了だと思っていたものが、気づけばゆゆゆい編も20話を越えており、自分でもどれをネタにしたかちゃんと覚えてられないくらいに。
今では信じられない量のお気に入り数、評価数、感想数となりました。ここまで続いてきたのは間違いなく応援し続けて下さった皆様のお陰です。感謝しかありません。
これ以上話すにしても長々しそうなのでこの辺で。何かありましたら感想や直接連絡をくだされば...結局一周年記念で何かというのも考えてないので、そちらも案があれば。といった感じです。
終わりみたくなってますが、まだまだ投稿は続ける予定なのでどうぞよろしくお願いします!!