古雪椿は勇者である   作:メレク

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うたのんハッピーバースデー!明日投稿出来るのか分からないので今日しておきます。

それからこの作品をツイッターの方でも拡散してくださってる方が...この場でも感謝を。ありがとうございます!

更に、この作品総合評価3000を突破しました!!これからも頑張ります!

今回もリクエストです!


ゆゆゆい編 23話

「うどんだ!」

「そばよ!」

「うどんだ!!!」

「そばよ!!!」

 

部室の扉を開ける前から、そんな声が耳まで届く。

 

(またやってんのかぁ...)

 

「あ、古雪さん」

「椿さん。こんにちは」

「おっす。二人とも」

 

部室に入って手前にいた二人に挨拶するも、奥の二人はまだまだ言い争っていた。

 

「またいつものか...あれ、何回目?」

「数えたことないです...無駄だって分かってるので」

「西暦の頃からずっとやってますからね」

 

うどんを愛する者、乃木若葉に、蕎麦を愛する者、白鳥歌野。普段から仲が良く連携もバッチリな二人だが、こと麺類に置いてはその限りではない。

 

なにかあるごとにやれうどんだやれ蕎麦だと互いの好きを譲らない。彼女達をよく知る二人の巫女も呆れ顔だった。きっと俺の顔もかなりうんざりした感じを出してるんじゃなかろうか。

 

「やっほー!って、またやってるのね...」

「混ざらないのか?風」

「確かにあたしはうどん派だけど、上級生がどちらか一方につくのはちょっとねぇ」

「成る程」

 

風がそう言うも、無駄である。何故なら_______

 

「椿はどう思う!?」

「椿さんはどうかしら!?」

 

(やっぱり...)

 

この論争がいつもめんどくさいと感じるのは、二人の会話だけでは決着がつかず周りに飛び火することである。二人とも普段はそうでないだけあって、好きなものを大事にする熱意を感じると同時に厄介でもある。

 

「俺は」

「みかんは無しだぞ!!」

「そうよ!みかんは麺類にあらず!今このうどんそば論争に出すべきものではありません!!」

 

随分前は『みかんなど邪道!』とほざかれたせいで戦争になりかけた。互いに譲れぬものはある。

 

「絶対決着つかないし、ほっといていい?」

「ダメだ!!」「ダメです!!」

「ですよね...」

 

周りを見ても、目を剃らされるばかり。

 

「椿はダメか...ならば風さん!風さんはうどんだろう!?」

「ずるいわよ若葉!!香川県民から票を得ようとするのは!!」

「えーっと...あんた達!そんなに白黒つけたいなら、椿に好きだと言わせなさい!作ってあげるとかして!」

「「!!!」」

「おい」

 

必死で考えた言い訳を叫ぶ風に言った風の言葉で、二人の熱い眼光が俺を射抜く。しかし、そのまま喰われることはなく部室を出ていってしまった。

 

それは迫ることを止めたわけではない。むしろ逆。

 

「...ふ~う~?」

「あ、あたしだってあの二人から攻められたら逃げたくなるわよ!椿も助かってるし無事でしょ!」

「これからが間違いなくヤバイだろ...」

 

恐らく二人は、隣の家庭科室でうどんと蕎麦を作り出していることだろう。食って評価をするのは十中八九俺である。食べたからにはどちらかを言えと強く迫ってくるだろう。

 

「はぁ...」

 

若葉の作るうどんも歌野が作る蕎麦も美味しいことはずっと前から知っている。かといって、それを甲乙つけるのは話が違うように感じる。

 

「____食いてぇなぁ」

 

ぼそっと呟いたなんとなくだったのだが、今一番食べたかった。

 

 

 

 

 

「完成だ!」

「完成よ!」

 

場所は移って家庭科室。俺の目の前に置かれるのはうどんの皿と蕎麦の皿。それぞれをつけるつゆまで用意されている。

 

ちなみに逃げるという選択肢はない。俺にそんな選択権はないのだ。きっと目が死んでる。

 

「さぁ食べてみてくれ!椿!」

「そして感想を!!」

「...他のやつは?」

 

一緒に移動した勇者部部員は誰一人首を縦にふらない。

 

「...頂きます」

 

取る順番は、利き手である右側にあったうどんから。

 

(女子の手料理をこんだけ食えるのは、嬉しいことなんだがなぁ...)

 

自分で料理が出来る癖に、昼飯として食べるのは園子か風が作った弁当。高校になってから付き合い出した友人からは冷やかされたが、その頃から二人の美味しい弁当を食べてることの方が重要だった。

 

そして、今は放課後はこうして振る舞われる。

 

(相対評価をしなければなぁ...)

 

「ん、美味しい」

 

俺の言葉に、若葉の顔がにやにやしだした。ひなたはいつも通りシャッターを切っている。

 

うどんらしいもちもちした食感が、噛むと跳ね返ってくる弾力感がうどんを食べていることを強く意識させる。これだけのコシを残すための茹で時間の把握は流石若葉と言うしかない。

 

「じゃあ次こっち...」

 

うどんの容器を少し遠ざけてから、蕎麦を取る。つゆの入った受け皿に麺を遠し、ずぞぞぞっと音をたてて口へ入る。

 

「...うん、こっちも美味しい」

 

蕎麦の風味とつゆとの相性が良く、どちらも尊重しあった風味が俺の口一杯に広がる。以前食べたこともある歌野が育てた蕎麦だろう。農業王Tシャツは着ていないが、その実力は折り紙つき。

 

「...」

 

結局、あっという間に半分ずつ食べきってしまった。残りの箸をつけてない部分は皆に分けよう。

 

「じゃあ椿!!」

「判定を!」

「あー...」

 

厄介なのはここからだった。どちらも美味しいが、ここでどちらかを選ぶと角が立つ。いつも言い争っている二人だけに、どちらかが有利ととれる状況を作ることは避けたいが______

 

「......」

「......」

 

目の前で黙っている二人は、それを許さないだろう。

 

うどんか、蕎麦か、両方か__________

 

(...覚悟を決めるか)

 

「分かったわ。奥の手を使いましょう」

「?」

 

口を開こうとした時、歌野がそう言って家庭科室から出ていく。

 

「おい歌野?どうした?」

「な、なんだ?」

「さぁ...」

 

全員が困惑して数分、何事も無かったかのように戻ってきた。

 

「これでどうかしら!」

 

歌野は、何故か制服姿からメイド服姿になっていた。

 

「...へ?」

「歌野、なにをやっている!?」

「椿さんは料理だけでは蕎麦の方が良いと言ってはくれない...なら、蕎麦以外の所で選ばせるしかない!サービス精神よ!!」

「今回の主旨から外れてないか!?」

 

思わず言ってしまったが、歌野は首を横に振る。

 

「ノンノン!蕎麦を扱う人は誰しも心が優しくなる。つまり!蕎麦を頼めばこのくらいはセット!!これは蕎麦の力なの!」

「無茶苦茶だ...」

「うたのん、どうしても蕎麦って言って欲しいんだね...」

 

常識はずれの歌野の言葉に頭を抱えるも、それで止まる彼女じゃない。

 

「はい!椿さん!あーん!」

「いや、俺はもう...それに、前こんなことしたらもう食べないって」

「あーん!」

「言った、よな...」

「あーん♪」

「...ぁ、あーん...」

 

俺の声を聞く様子がちっともないので仕方なく口を開けると、優しく蕎麦が入ってきた。味は正直変わらないのだが、気持ち的に変化はある。

 

「恥ずかしいんだが...」

「ノープログレム!椿さんはなにもしなくて良いですからね。私が全部食べさせてあげます!!」

「若葉ちゃん!!ここは若葉ちゃんもメイド服になるしか!!!」

「ひなた!?」

「あわわ...」

「失礼しまーす」

 

混沌としてきた状況に、別の声が混ざる。

 

「はい椿。口開けて」

「え、ぎんむっ」

 

口の中に何かを突っ込まれ、それに気づいた俺は目を見開いた。

 

「どう?美味しい?」

「...あぁ。いつも通りの安心する味だ。やっぱ銀の作る焼きそばが最強だな」

「「......え?」」

 

主犯の二人は、間抜けな声を出していた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

俺が決めなければならなかった第_____いくつなのか数えるつもりも起きないうどん蕎麦戦争は、第三勢力焼きそばの勝利で幕を閉じた。

 

『焼きそばもそば!!よって蕎麦の勝利!!!!』

『いやーそれは違うでしょ。いつも歌野が言ってる蕎麦に焼きそば入ってないじゃん?』

『蕎麦ぁぁぁ!!!』

 

まぁ、一悶着はあったわけだが。それでも二人のうちどちらかの味方につくことは避けれた。

 

「にしても、偉いタイミング良かったな」

「弟達に持っていこうと思って」

「あぁ、だからこっちに来てるわけね」

 

銀は時々三ノ輪家に行っている。三ノ輪銀としては死んでいるためお姉ちゃんと呼ばれることはないし、少し複雑な思いもあるが、本人はそこまで気にせずちょくちょく遊んでいるらしい。

 

俺もタイミングが合えば一緒に行っている。

 

「家で作って部室に寄ってみれば、歌野と若葉がいつも通りより酷かったからさ。出来立てだし美味しかったでしょ?」

「文句ないです」

「やたっ!これフライパンで出来たんだよね」

 

銀の焼きそばは鉄板でやるのが主流だった。幼い頃、まだキッチンで料理するのは危ないからと言われていた頃に、うちの家族も巻き込んでやったバーベキューで親に付きっきりで(というかメインで)作ったのがはじめての料理。

 

それから、銀が焼きそばを作る時は鉄板でやっていた。本人曰くその方が味のクオリティが安定してる上に扱いやすいから。フライパンで同じ味を出せるようになったのは、練習の成果だろう。

 

「これからはわざわざ鉄板出してやらずに済むな」

「今までだって本気で作りたい時だけだっただろ。それ。でも椿はフライパンでも結構うまく作るからアタシもやってみてさ。ちゃんと園子も納得してくれたんだ」

「園子は作らないのか?」

「作ってるよ。『ミノさんから焼きそばの作り方学べる!やった~!!』って」

「似てねぇな...」

「分かってるよ!!」

 

ぷくーっと頬を膨らませてる姿が面白くて、右手で突っついてみる。

 

「やーめーろー」

「ごめんごめん。でも今日はホントに助かったよ」

「感謝してるなら、今度アタシ達の家に来て一緒に作れ。アタシも椿が作るの食べたくなってきた」

「そんなに技術は上がってないぞ」

「いいのいいの」

 

笑う彼女を見ていれば、俺は何も言えない。

 

「...了解」

 

返せたのは、そんな二文字だけ。それでも、銀は嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 




年内更新はこれで最後になります。良いお年を...

ちなみに今回はうどん蕎麦で争いましたが、皆さん年越しは何派ですかね?自分はうたのん派ですけど。

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