皆さん感想評価、本当にありがとうございます。凄く楽しく読ませて頂いています!
下から本編です。
高級旅館で二泊三日。なにやろうが費用は全部大赦持ち。これほど贅沢が出来るのは一生にあるかないかだろう。
「むにゃむにゃ...」
「海ー...」
「全く、何でいきなり寝てるのよ」
「昨日寝れなかったみたいなの」
「遠足前の子供ねぇ...」
男女比がおかしいのは仕方ないが、俺はなんともいたたまれなかった。
(...普段なら、こんな風に思ってたんだろうな)
「椿も寝てる?」
「...」
「おーい、椿」
「え?どした?」
「ぼーっとしてるわよ?」
「...なんでもないよ」
電車は目的地に向けて、俺達を運んでいった。
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「理不尽だ...!」
「海だー!」
「友奈ちゃん、しっかり準備体操してね?」
椿と友奈が同時に声をあげる。目の前には広い海が広がっていた。
「風も強くないし日差しもいい...絶好の海水浴日和ね」
「それじゃあ、パラソル刺せーい!基地を作る!」
「まだ...働かせるのか!」
ここまでパラソルやらなんやらをあたし達の家から運んできた椿は、割りと本気で怒っている。
(でも、こっちの方がいいわね...しめた)
最近の椿は心ここにあらず、気の抜けていることが多かったことを考えれば、怒っていてくれていた方が嬉しい。
「さあ!瀬戸の人魚と呼ばれるあたしに向かってくるやつはいるかしら!?」
『自称です』
「私の体は出来上がってるわ!泳ぎで勝負よ!風!」
「望むところぉ!」
「いや、着替えろよ」
あたし以外のみんなはもう更衣室で着替えていた。あたしはジュースを先に買いに行って、荷物番してたからまだ私服のまま。
(だけど...)
「甘いわね椿!」
「っ!!」
勢いよく服を脱ぐ。中に水着を着ていたあたしに抜けはない。
「あはは、照れてる~!」
「なっ!」
「椿も男の子ねぇ...エ・ロ・ガ・キ!」
椿は同年代の中でもかなり落ち着いているから、こんな反応はレアもの。あたしは笑いながらどや顔した。
顔を真っ赤にした椿は、刺していたパラソルを抜いて閉じ、そのまま構えて________
「え、あ、ごめんなさい許して!!」
「許さねぇぞ風...」
「ギャー!!」
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風を倒してからは、楽しく海で遊んだ。一週間というものは長いもので買い物で東郷と会った時より気持ちも落ち着いて、今日もそれなりに遊ぶことができた。
心は空っぽのままだったけど。
「...で、これは何だ?」
「あたしも知らないわよ!」
戦犯かと思いきや風は何もしらないらしい。
「混雑の影響です。急なご予約で一人で個室を取っていますので...ご了承いただけないでしょうか?」
二泊三日のこの旅行、泊まる旅館のスタッフが言うには、今日は二部屋とれるが、明日は一部屋しかとれないとのこと。
「いや、家族でもない男女が一緒の部屋とか...」
お金は大赦持ちということで遠慮なく「金は積むから部屋を用意しろ」と言うのは簡単だが、そこを予約した旅行客が可哀想だろう。
「椿先輩、いいじゃないですか!」
「いやそうは言ってもな...」
友奈は間違いなくこういうことには疎いと考え、まともな判断ができそうな夏凜と東郷に目を向ける。
「...いいんじゃない?椿一人なら何かされても倒せるし」
「友奈ちゃんが望むなら...手をかけたら消すけど」
「...風、後でそっちの部屋行くから押し入れあるか確認させてくれ。そこで寝る」
その後全員の了承が取れてしまい、明日の泊まりが六人一部屋に決まってしまった。
ひとまず今日は別にということで、案内された部屋にまずは荷物を置き、明日も水着を着て遊ぶだろうということで干してから風呂に入ることにした。
海の近くにあるシャワーで軽く髪を洗ったが、女子としては海の後すぐ体を洗いたくなるのだろう。特に反論することもないので自分も動く。
(大浴場設置に露天つき...豪華だなぁ)
「おまけに貸しきりかよ」
泊まりの予約が多いわりに、露天には誰もいなかった。
「...ふぁー......普段入らないからなー」
確か銀も、勇者としての合宿で温泉に入ったと言っていた______
「......」
視界が一気に灰色じみていき、頭を振った。
「これ以上心配されても、互いに面倒だしな...」
もう、忘れるしかないのだ。彼女という存在はなかった。
でなければ、きっと俺が死ぬ。
「......ふぁー」
脱力すると、最近休んでなかったからか意識が離れそうになる。
「...っ!風呂で溺死とか洒落にならん!」
その後も何度か意識が飛びかけ_________早々に風呂を出た。
(女子の風呂は長いだろうからな)
夕飯は女子の部屋で六人揃って食べる予定になっていた。『夕飯の用意できたらメールくれ』とだけ送り、外の景色を眺める。
旅行中は降水確率が限りなく低い。夕焼けと一緒に見える月は満月から少し欠けている。
「......」
風呂上がりに汗をかくわけにもいかず、ただただ月を眺めていた。
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「凄いご馳走!?」
大赦が用意した旅館は、豪勢過ぎるくらいのご馳走が並んでいた。
「カニカマじゃない!」
本物のカニに興奮して拍手する友奈、刺身の舟盛りに写真を撮る樹、落ち着かない様子の風。
「ごゆっくり」
「よしみんな!食べるわよ!」
皆が座ったついたところで樹がスケッチブックを向けてくる。
『でも友奈さんが...』
「あっ...」
友奈は今味覚がない。豪華な食事もこれでは________
「うーんこの歯ごたえ、たまりませんなぁ!」
「もう友奈ちゃん...いただきますが先でしょ」
「......」
「あたしたちも食べましょ」
『そうだね♪』
風と目を合わせて、両手を合わせる。杞憂だったみたいでよかった。
「いつかこういうの日常的に食べれるようになりたいわねー...自分で稼ぐなりいい男見つけるなりで」
「無理だな。風がおしとやかになるくらい無理だ」
『後者は女子力が足りませぬ』
「椿ぃ!って樹も!?」
風の呟きに即座に反応する二人、樹の方はご飯食べながら高速で文字を書き込んでいく辺り、スケッチブックが慣れてきたのだろう。
「女子力なら東郷を見習いなさい」
私もツッコミをいれとく。斜め前で食べている東郷はおしとやかに味噌汁をすすっていた。
「私もマナーには厳しい方だけどねっ」
言いながらどれを食べようか見回し、里芋に箸を刺す。
「言った直後に迷い箸に刺し箸...」
『夏凜さん、それが既にアウトです』
「はぅ...椿もするじゃない!」
「別にお前らといるときにそこまでマナー気にする必要はないし、女子力をあげる必要もないからな」
椿は刺身を食べきってから喋る。
(こういうときだけしっかりして~...)
「女子力上げたいなら気をつけるんだな。中学男子から言わせればそこ気にする必要はまだないと思うけど」
「椿は相変わらずね...東郷、おかわり!」
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窓を開けると潮風と夏特有の空気が入り込んできて俺の肌を撫でていく。
この部屋を出る前に見た月は遥か上空に昇り、煌々と闇夜を照らしている。
「......静かだな」
六人でご飯を食べてから、一人の部屋に戻ってきて。
「......ここで、二人ならな」
忘れられる筈がない。幼なじみだった七年、共に過ごした二年。俺の魂は文字通り銀と同じだった。
「...忘れられねぇ。忘れられるわけねぇじゃねぇか......」
でも、考えると悔やむことが多すぎる。考えるな、考えるな。考えるな__________
『椿先輩』
「っ!?誰だ!?」
『わわっ!結城友奈です!入ってもいいですか!?』
部屋の外から聞こえてくるのは友奈の声。
「...もう寝る時間だぞ」
「すいません。でも少し話がしたくて...いいですか?」
「......ダメと言っても聞かないんだろうしな。入れよ」
「ありがとうございます!」
招き入れると、友奈は借りてきた猫のように静かになった。
(東郷辺りの入れ知恵か)
「で、話ってなんだ?」
窓際に設置されている向かい合わさった椅子の片方に腰かけさせ、お茶を用意して間のテーブルに乗せる。それから向かいの椅子に座った。
きっと長くなるだろうから____
(...どこか、聞いてもらいたがってるのか?)
「あの...先輩、疲れてませんか?」
「そう見えるのか」
「最近元気無いように見えました」
「そう東郷から伝えられたか?」
「え?東郷さん?東郷さんとは何も...この前、先輩の話になったくらいです」
この前というのは買い物で出くわした時だろう。
「先輩、先輩のこと、話してもらえませんか」
「......」
「勇者部五箇条、悩んだら相談。ですよ!」
どこかで聞いたことのある言い回し。
(...話を聞いて、信じる筈がない。俺だったら信じない)
「...私、一年と少し、皆と過ごしてきました。大切な人が何か悩んでるなら、力になりたいんです」
「友奈...」
「それは先輩にも言えるんですよ。いつもお世話になって...だから少しでも、力になれませんか...?」
『何か悩み事か?話聞くぞ?』
(......ずるいだろ)
別に、銀に似てるから。だけじゃない。
誰かの為に動く姿は優しく、かっこよく見えて大好きだから________その姿を見ていると、心がほぐれていく。
友奈も銀も、それを知らずに迫ってくる。だからずるいと思う。思うところであり______そこが心を更に動かす。
「...信じるか信じないかは自由だ」
気づいた時には、口を開いていた。気づかってくれる彼女たちに甘える自分が情けないと、無意識に舌打ちしながら。
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『椿先輩』
「っ!?誰だ!?」
『わわっ!結城友奈です!入ってもいいですか!?』
みんなが寝静まってから、私は隣の部屋を訪れた。いるのは椿先輩。
「...もう寝る時間だぞ」
「すいません。でも少し話がしたくて...いいですか?」
「......ダメと言っても聞かないんだろうしな。入れよ」
「ありがとうございます!」
最近の先輩を見ていると、ボーッとしていることが多かった。普段よく周りを見ている人だから尚更そう感じる。
「で、話ってなんだ?」
「あの...先輩、疲れてませんか?」
「そう見えるのか」
「最近元気無いように見えました」
「そう東郷から伝えられたか?」
「え?東郷さん?東郷さんとは何も...この前、先輩の話になったくらいです」
『......先輩、何か悩んでるみたいだった。でも私はうまく聞けなくて...』
先週出掛けた時、東郷さんは言っていた。私はそれに任せてくれと答えた。
でも、それだけじゃない。私が、私自身も先輩のことが心配だった。
「先輩、先輩のこと、話してもらえませんか」
「......」
「勇者部五箇条、悩んだら相談。ですよ!」
先輩は口を開いてくれない。
(私は、先輩に元気になってほしい。笑顔になってほしい。だから!)
「...私、一年と少し、皆と過ごしてきました。大切な人が何か悩んでるなら、力になりたいんです」
「友奈...」
「それは先輩にも言えるんですよ。いつもお世話になって...だから少しでも、力になれませんか...?」
先輩の悩みがなんなのか、あまりよく分からない。でも、好きな人の力になれるなら。
「...信じるか信じないかは自由だ」
「!」
そう言ってくれて、私は嬉しかった。
「...どこから話そうか」