古雪椿は勇者である   作:メレク

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最近ハーメルンのゆゆゆR18作品群を見たんですが...椿も好感度的に考えれば何でR18展開にならないの?ってレベルなんですよね。据え膳食わせたい。

かといって、描写力がえらいことになりそうなのと(本番どころか彼女いたこともないんですが...)、何人分も書ける気がしないのも事実。ゆゆゆい編20話と同等かそれ以上のR17.9ならここでも書けるしいいかな。リクエストあれば是非(ifっぽくするかもしれませんが)。シーン問わずクオリティ上げたい。

今回は前半がオリジナル、後半が祈願花さんのリクエストになります。


ゆゆゆい編 24話

『その髪の理由』

 

 

 

 

 

「ミノさん」

「んー?」

 

ぱぱぱっと朝食を用意して、ぽけーっとしてる園子と食べる。食べ終わる頃には園子が覚醒してお弁当を作り出すから、アタシは着替えて髪を整える。園子が声をかけてきたのはそんな時だった。

 

「すっかり速くなったね~」

「あー、確かに...椿や風先輩が卒業する時なんか何回もやり直してたからな」

 

答えながら長くなった後ろ髪で三つ編みを作る。この世界に来てからずっと繰り返してるだけあって、どのくらいの髪を取ればいいのか、どう結ぶのがいいのかなんて手に取るように分かっていた。

 

(最初は鏡も必須だったっけ...)

 

三つに分けて、左側のを真ん中に、右側のを真ん中に。個人的に好きなちょっときつめにしっかりと。纏まったら小さなアレンジゴムで先端のちょっと手前で一纏め。

 

「...よし!終了!」

 

鏡の前で回転してみて、違和感がないか確かめる。背中の七割まで垂れ下がっている髪は、アタシの動きに追従していた。

 

「でもミノさん、その長さ維持してるよね。少ししたら切るのかと思ってた」

「あははー...元は短いしね」

 

元々は肩に届くか届かないかくらいしかない髪を一纏めにして後ろでくくっていたし、それより長くなったら切っていた。

 

突然長くなったのは、体を取り戻した時。新しく手に入れた時って言った方が正しいかもしれない。その時のアタシの髪は、二年間伸ばし続けたかのように長かった。

 

それを整え、今に至る。

 

「アタシも、髪の長い女性に憧れたのさ...手入れとか園子に習ってばかりだけどなー」

「私は前から長いから、慣れっこさんだよ」

「昔はわんぱく少女でしたから...」

「今もじゃない~?」

「そうでした」

 

だからこそ動きやすいよう三つ編みかポニーテールにするか、めんどくさくて何もしないかになる。

 

そんな、ちょっと面倒な手間をかけてまでこうしている理由は__________

 

 

 

 

 

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(ふわぁー...おはよ~)

(おはようというかもう夕方だが)

 

頭が夕焼け景色を理解して、もう一人の声の意味も把握する。

 

(結構寝ちゃってたんだね...今どんな状況?)

(部活動が終わって帰り道)

 

数分もしないで真っ暗な家について、体は夕飯の支度をしだした。まだ荒削りな所が多い印象を受ける。

 

「今日は二人とも食べてくるって言うから、簡単な奴にするな」

『何?』

「カレー」

 

椿は朝ごはんはともかく、夕飯のレパートリーはまだ少なめ。サラダも冷蔵庫に入ってた出来合いの物だろう。

 

『あ、始める前にテレビつけてー』

「はいよ」

 

外部に伝える声で話してる方が互いに楽なのは同じ体を使いだしてからすぐに分かってるので、誰もいない場所ではこうして話している。外から見れば椿が一人呟いてるだけに見えるだろう。

 

『今日の活動何してたの?』

「幼稚園で遊んでた。おままごと」

『椿は何の役?』

「それがなぁ...娘役」

『ブフッ!』

 

思わず笑ってしまった。

 

『椿が...椿が娘役っ...!』

「幼稚園児に出来た中学生の娘カッコ男って、もうわけわかんねぇよなぁ...あの子達不思議すぎる」

『娘役志願者はいなかったのかよ?』

「父親、母親、不倫相手」

『不倫相手!?』

「昼ドラでも見たんじゃないか?今時の幼稚園でのスタンダードだったら怖すぎる」

 

ルーをかき混ぜながらぼやく椿がため息をついた。

 

『不倫相手役だったら面白かったのにな』

「なんで父親役は除外されてるんだよ...話したら風も顔ひきつらせてたぞ」

『そりゃひきつるって...』

 

会話を続かせてればあっという間で、炊いたご飯に出来立てカレーを乗せていく。サラダもセットでテーブルに並べて準備完了。

 

「頂きます」

『アタシはいいや』

「了解」

 

食べなくても満腹感は得られて本当によかったと思う。そうじゃなかったら食べる量が凄く増えて椿を太らせちゃうところだった。

 

つけていたテレビも番組が変わって、女子力特集になる。

「風が張りついて見てそうだな」

『髪型をより簡単にやれるかつ、複雑に見える。かー...椿は好きな髪型何?』

「それはやる側?見る側?」

『見る側に決まってんだろー!どうせ椿は髪の毛そのままなんだから』

 

寝癖とかは直すけど、かといってワックスをつけたりもしない。アタシもあまりベトベトするのが好きじゃないから良いんだけど。

 

『ほら!映ってるお団子とかさ!』

「んー...俺は、人それぞれ似合うのがあると思うから」

『それじゃ意味ないだろー!!』

「でっすよね...んー......」

 

それなりに悩んだ椿は、「あっ」と声をあげる。

 

『お、何々?』

「あー、うーん...普段と違う髪型、とか?」

『何だよそれ』

「例えば、長い髪した女子がいきなりばっさり切ったのを見たときとか、三つ網みしてるのをバサッとほどいたりとか」

『イメチェンって奴か?』

「多分それ。もしくはギャップ萌え?」

『じゃないだろ!髪型を聞いてるんだけど!?』

「えー、これもダメかー?じゃあな_______」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

結局、椿からそれ以上有益なことは掴めなかった。だが、アタシにしか出来ない有効手段がある。

 

椿が無意識にどんな子を目で追うことが多いのか、同じ視界を共有しているアタシには丸分かりだった。数日間、見続けて________よく眺めていたのは、少し長めの三つ網みだった。

 

勿論これを椿に報告なんてしていない。当時はアタシがまたアタシとして生きれるとは思ってなかったし、単なる興味というか、からかうネタの補充のつもりだった。

 

(それが、今ではこうしてるとはねぇ...)

 

短い髪ばかりだった自分のイメチェンも出来る、中学生になってから学びたいと思ってた女子力の一端も鍛えられる。長くしても、纏めればあまり邪魔にならない。

 

それでも、この髪型にしてる一番の理由は、椿が比較的好きな髪型でアタシに対するギャップ萌えを狙ってるからだ。

 

(元はセミロングのアタシがやってりゃ、萌えるかはともかくギャップはありでしょ)

 

「ミノさーん」

「はいはい」

「お弁当届けて貰っていい?私も準備しちゃうから~」

「お任せを!」

 

椿本人すら自覚してない好み(多分そう)を用意して、アタシは今日も家を出る。

 

(さてさて。椿は今日も見てくれるかな?)

 

幼なじみの反応を想像して、楽しみにしながら。

 

 

 

 

 

『山もなく谷もなく、ただひたすら椿と芽吹がプラモデルを作る話』

 

 

 

 

 

『芽吹、本当によかったのか?色々貸して貰って...』

『女子の間で広まりにくい趣味なのは分かってますので、折角椿さんが興味を持って頂けて、もう少し凝った物を作りたいというなら喜んでお手伝いさせて頂きます。一人分なら大したこともありませんし』

『なんか悪いな...』

『そのぶん、指導もしっかりさせて頂きますね』

『...分かった。お願いします』

 

先日、芽吹とそんな会話をした。面白くなってきたプラモ製作をより深くやるため、こっちに来てから道具をほぼ揃えたと言う芽吹のお世話になることに。

 

そして、俺は芽吹の部屋のインターホンを鳴らした。

 

「はーい...椿さん。どうぞ」

「ありがとう。お邪魔します」

 

他の寮の部屋と比べると物が少なく、一角をプラモデルが占領しているくらいの場所に通され、荷物を降ろす。

 

「ちょっと意外だな」

「何がですか?」

「夏凜みたくトレーニング器具を沢山用意するものかと」

「それをするには少し狭いですし、私の部屋には何故か他の防人が来ますから。それに、機械に頼らなくてもトレーニングは出来ます」

「確かにな」

 

いらないと言うわけではないが、ないなら別の手段で鍛えればいいと思っているんだろう。最悪夏凜の部屋に行けばいいし。

 

「それで、本題ですが...」

「あぁ。今回は折角だし新しいの買ってみました」

「随分厚い箱ですね」

「フルアーマーセットだからな」

「フルアーマー?」

「あぁ...最終決戦仕様として装甲と武器を増し増しにした奴よ。男は皆決戦仕様とか漆黒な機体とかが好きなもんなのさ...」

 

後は大型ランスとかパイルバンカーとか二刀流とか。そこには意味はなくてもロマンがある。男には本能的に求める理想がある。

 

「これも重装甲にしたのに、ボロボロになるまで戦って最後は勝つために残骸になる...って、分かんないよな普通」

「い、いえ...でも、詳しいんですね?」

「昔銀と一緒に見てたアニメのロボットなんだよ。それなりに前だから売られてるとは思ってなかった」

「そうなんですか...少し興味ありますね」

「見るときあったら一緒にレンタルでもしようぜ。俺も久々に見たい」

「分かりました」

「んじゃ...今日はよろしくお願いします。先生」

「先生ではありませんが...なるべく頑張ります」

 

芽吹先生に礼をすると、彼女は苦笑していた。

 

 

 

 

 

「二度切りするのは良いが、破片が吹っ飛んでくのは勘弁して欲しいな。箱に入れようとしてもダメだ」

「ある程度は仕方ないです。私も掃除しますから」

「そう言ってくれるとありがたいけど...」

「それより、これを」

「前も使ったペンだな。了解。これを白くなった所に使って誤魔化すと...」

「いえ、二度切りした箇所にも使って欲しいですけど...溝がありますよね?そこに線を引いて欲しいんです」

「分かった。やってみる...っとと」

「はみ出したらすぐ綿棒かティッシュで拭き取れば消えますよ」

「ありがと...」

 

芽吹の指示は的確で、指示通り動けば失敗しないので安心する。

 

「おぉ!立体感出てるな!」

「基本、モールド線と呼ばれている場所ですね。キットの出来が良いのでこれだけでグッとくると思います」

「確かに確かに!」

「後は...部分塗装もしてみましょうか。次のこのパーツ、二度切りの後をやすりで削ってから、このペンで塗ってください」

 

渡されたのはやすりとマーカーペン。今まで使ってきた墨入れペンよりも太い。

 

「やり方は絵の具で絵を描くのと同じです。一方向から何度も繰り返してください」

「てっきり筆とかスプレー缶でやるもんだと思ってたけど、違うんだな」

「筆は洗う手間が出来ますし、缶は少し高めでまだ買う余裕がないので...艶消しくらいしか買ってません」

「成る程な」

「突然あげるって渡されたら、怒りますからね」

「俺の行動先読みしないでくれよ...分かったから。しないから」

「なら良いです」

「んっ...し、こんな感じかな」

 

パーツを色んな方向からまじまじ見る。こうして自分で手間隙かけた物が形を成していくのは嬉しい。

 

「楽しいなこれ」

「外装パーツに隠れてしまう内部の墨入れはお任せします」

「?やらなくてもいいのか?」

「大工の娘としては内部を怠ることを許しませんが、単純に作業が増えるので椿さんのやる気次第だと思いますから」

「ならやるよ」

 

やってる作業の繰り返しが増えるわけだが、彼女の目の前でその意思を踏みにじるようなことはしない。

 

「それに、楽しいしな。こうして作るの」

「そうですか...良かったです」

 

 

 

 

 

「よし!後は乾かすだけ!!」

 

出来上がった機体は、芽吹指導のもと艶消しスプレーというのを吹いている。 光の反射を均一にしてよりリアルっぽさを出すためらしいのだが、そんな理屈は抜きにしても自分が手塩をかけて作り上げたものがかっこよくなるのは嬉しかった。

 

「ありがと芽吹!本当助かった」

「椿さんのやる気があればこそですよ。正直、こんなに集中するとは思いませんでした」

「え...あ!!」

 

気づけば午後四時を回っていた。完全にお昼をすっぽかしている。

 

「やっちまった...ごめん!」

「いいですよ。言わなかったのは私ですし...嬉しかったですから」

「芽吹...」

 

もう一度だけ感謝を告げてから、少しだけ考える。何か芽吹にお礼がしたい__________

 

「......お前、昼は抜く?」

「え?は、はい。早めの夕飯にしようとは思ってますけど...」

「よし。じゃあ出かける用意してくれるか?」

 

スプレー缶特有の臭いを充満させないよう換気していた窓を閉め、コートを羽織った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「あ、メブ遅かったね」

「雀...弥勒さんまで。またですか」

「私も、いる。楠」

「失礼しています、芽吹先輩...」

「しずくに亜耶ちゃんも?どうしたの?」

「いやね、買い物してたあややから、メブが古雪さんのバイクに乗ってたって聞いたからさ~」

「っ!」

「その反応...何かありましたの?」

 

雀の言葉に一瞬だけ狼狽してしまい、弥勒さんが見逃さない。

 

「別に...ただ、プラモデル作りを手伝ったお礼にとご飯をご馳走になっただけです」

「んだよ、つまんねーな」

「シズク...私は事実を言っただけよ」

「すみません芽吹先輩...私が喋ったせいで」

「亜耶ちゃんは悪くないわ。それをネタに集まった皆が悪いんだもの」

「ヒッ!すいませんでしたぁ!!」

「雀さん!?ずるいですわよ!!!」

 

一睨みすれば、雀と弥勒さんが走って部屋から出ていった。静かな空気が一気に取り戻される。

 

「...んで、じゃあなんでビクついたんだよ。堂々とすぐ言わないなんて楠らしくねぇ」

「......なんでもないわ」

 

『お店の方が美味しいだろうが、高いとこ奢るってのも芽吹は遠慮しちゃいそうだしな...食べたいもの言ってくれ。全力で作らせてもらう』

 

「うん。なんでも、ないの」

 

『お待ち。本気出して芽吹のためだけに作った。食べてってくれ』

 

「楠?」

「芽吹先輩?」

「お、美味しかっただけよ!それだけ!!」

 

『芽吹のためだけに______』

 

無意識に頭が振り返るのはその言葉で、その時の椿さんが見せた優しい笑顔で。

 

(な、なんだか...恥ずかしいっ!!)

 

熱い顔を手で隠して、二人から目をそらした。

 

「...へー、面白いことになってきやがったな」

 

その熱さの理由を、私は知らない。

 


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