今回もリクエストになります。
「すみません!待たせちゃった?」
「私が早く来すぎただけだから...そんなにも待ってないし」
「そっか!よかった...」
普段待ち合わせすることがあまりないので少し早めに来ていたけど、彼女も待ち合わせに指定した時間より早く来たのでよかった。
「じゃあ、目的もあるわけだし行きましょうか」
「今日はわざわざ私のお願いに付き合って貰って...」
「私も興味はあったから」
「!」
(私はあまりしない顔ね。高嶋さんにもこのくらいちゃんと感情を出せれば...いやでも...)
「千景さん?」
「...何でもないわ。行きましょう。彩夏さん」
「はい」
私達はひとまず目的の服屋さんまで足を運んだ。
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「なぁユウ...別に尾行する必要なんて」
「あ、椿君行ったよ!追いかけよう!!」
「おーい......」
普段なら話を合わせるのが上手いユウが俺の話を無視して腕を引っ張っていく。俺は引きずられるわけにもいかずバランスを崩しながらついていった。
ユウが言う追いかける対象は、千景と俺のクラスメイトである郡彩夏の郡コンビ。何も知らない人が見れば姉妹だと疑いそうな見た目の二人が揃って歩いていく。目的地は洋服屋さんの筈だ。
クラスで郡が『千景さんと出掛けられれば...』と呟いていたのを風と棗が聞いたらしく、事情を聞くと『客観的に自分のコーデを見たい』とのこと。要は自分とそっくりの人をマネキン代わりにしたかったらしい。
確かに商品を買うにも試着が推奨されるわけだし、自分が着ただけじゃ分からないこともあるんだろう。ファッションに関心の高い彼女なら尚更。
(確か雪花もそんなこと言ってた気がするし)
そんな感じで、頼むわけではないがとりあえず千景に話してみると、案外あっさり了承し今日の予定が決まった。
(千景がすぐ頷くなんて思わなかった...)
以前『正直しばらく会いたくない』と言っていた彼女が誘われたとはいえ、少しくらいは渋ると思っていたのだが。
で。何故か当日ユウに呼ばれた俺は二人の後を追っている。
「本当、どうしたんだユウ?混ざりたいならそう言えばいいだろ」
「それはそうなんだけど...折角ぐんちゃんが新しい友達と仲良くなろうとしてるのを邪魔しちゃ悪いから」
「じゃあ尾行もやめれば...」
「あ、あそこだね」
わざわざ尾行する理由も分からないが、聞く前に腕をとられる。
(あぁもう...)
何が大変って、ユウが俺を連れていくために腕を組んでいることだ。無自覚に俺の腕を胸元に持っていかないでほしい。こっちに対して刺激が強すぎる。
「ちゃんとついていくから離してくれ...」
「...ダメ?」
「うっ...だ、ダメじゃ、ない......」
今日の俺も、彼女の上目遣いに耐えられなかった。
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「成る程...ありかも...」
「そうかしら?」
爽やかな色をしたチェックの上着を鏡越しに見て、どうにも落ち着かない私がいる。
「うん。可愛く見えます」
「そう...」
普段選ばない服だけど、ほとんど同じ姿の人からそう言われれば悪くはないのだと感じて心強い。
何でもこのお店は混雑してなければ試着をいくらしても快く対応してくれるようで、彼女はメモを取りながら次の服を選んでいた。
「次、この服にこのカーディガン羽織ってください」
渡されたのはもこもこしたカーディガン。
「これでいいかしら?」
「後ろを...はい。はい。うん!似合ってます!もうちょっとガーリッシュでも良いかもしれません。とすれば...これかな」
色々試着して、その度に彩夏さんがメモを取る。服の好みなんかも同じかと思えば、あまりそうではなさそうだ。
今日はあまり人がいないのか、時折店員さんにも見られながら約二時間。みっちり話し込んだ私達は、全身コーデのための一式を一つずつ買った。私が選んだのはダークブラウンに灰色の縦線が細くいくつも入ったワンピース。胸元には白いリボンがついていて、腰にも体のラインを綺麗に見せるための紐がついて、後ろでリボンになっている。
「本当、ありがとうございました!ずっとマネキンみたいにしちゃって」
「確かに少し疲れたけど...新鮮だったわ。こんなに長く服を選ぶことないから」
「私も普段ならもう少し短いんですけどね...お店の方とがっつり話せたので」
「よかったじゃない」
「はい!ありがとうございます!」
「それは私もよ。良い服を選べたし...」
一人じゃあぁうまくはいかないだろう。店員さんから評価を貰うことも。
「そろそろお昼にしましょうか」
「あ、そしたらあそこどうですか?」
「あそこは...良いわね。行きましょうか」
彼女が指をさしたのは落ち着いた様子の喫茶店。断る理由も特になく店内に入れば、外装と変わらない落ち着いた雰囲気の中、ゆったりとした音楽が流れている。
(今度、高嶋さんを誘って行けないかしら...)
メニューも手頃な値段の洋食料理。さっきお金を使ったきたばかりなのでちょっと嬉しい。
「千景さん、決めました?」
「サンドイッチにするわ。彩夏さんは?」
「私はパンケーキにしようかなと」
「じゃあ頼みましょうか」
呼び出し鈴を押してオーダーを済ませる。頼み終わった彩夏さんはさっき書き込んでいたメモ帳を開いていた。
「熱心なのね」
「あ、すいません。癖で...二人できてるのに」
「気にしないで。気づいたことをすぐメモするのは大切だから」
ゲームでも大事なポイントはよくチェックしている。やることは違っても考え方は同じはずだ。
「ありがとうございます...やっぱり、少しでもセンス磨きたいですから」
「分かるわその気持ち。ゲームしててもそう思うから」
「この前古雪君が得意って言ってましたね」
「そうね...彼より上手いかもね」
元の時代ではかなり痛めつけた思い出がある。私自身それどころではなかったからあまり覚えていないけれど。
「じゃあ千景さん、この後ゲームセンター行きませんか?前半は私の好きなところを見たので、後半は千景さんの好きなところに...あ、勿論ゲームセンターじゃなくてもいいですけど!」
そう言われて少し考える。
(...もしかして、この子もゲーム得意なんじゃないかしら?)
「いえ、そこにしましょう。折角だし色々教えてあげるわ。見てるだけじゃつまらないだろうから」
「分かりました。精一杯頑張りますね!」
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「ユウ...」
今日はいつにも増して振り回されている。服屋では二人を見守る傍らユウも試着して俺に見せてくるし、昼は二人の死角になるような位置でパフェを食べ、何故かあーんさせあった。
そして現在、ゲーセンにある格闘ゲームで対戦相手を無双している二人を遠巻きに見ている。
(郡、ヤバ...)
千景から手解きを受けた郡は、自分でもビックリしているのが周りに分かるくらいの成長をしていた。とてもじゃないが初心者の動きじゃない。
(郡一族はゲーム強いのか?)
「うわ、今のコンボエグいな...通るのかよ」
「椿君あれ出来るの?」
「いや...ゲーセンのコントローラーじゃ全然。千景とたまにやってる家庭用のなら、千景相手に勝率四割くらいかな」
「家庭用あるの?私に今度教えてくれる?」
「別に構わないけど...千景から教えてもらった方が良いんじゃ?」
「ううん...上手くなってからぐんちゃんと戦って、ぎゃふんと言わせる!」
謎に燃えてるユウを注意深く見る。普段なら千景相手にこんなこと言わないはずだ。
(もしかして、こいつ...?)
「あ、椿君!」
「ん?どうし...!!」
ユウに服の裾を摘ままれて見てみれば、二人の郡が男二人に絡まれていた。
「なぁなぁ、二人ともゲーム超上手くない?俺らにも教えてよ」
「そうそう。頼むよ~」
「あの、私達は...」
二人の性格に態度からして、状況は好ましくないことくらいすぐに分かる。下手にギャラリーを集めすぎたのだろう。
いやまぁ、可愛い女子が何食わぬ顔で格ゲーやって、しかも滅茶苦茶上手かったら注目もされる。
「ユウ、ちょっと待ってて...ユウ?」
隣にいた筈の彼女はいつの間にか姿を消していた。
「ごめんなさい。でもぐんちゃんに寄らないで」
「た、高嶋さんっ!?」
「何々友達?君も可愛いじゃん」
「君も俺らと一緒にゲームやんない?奢るからさ」
ユウへ伸ばされた腕はその役目を果たす前に払われる。というか、上手く腕を捻っていた。
「いてててっ!?」
「ユウ、そのくらいにしとけよ」
「椿君...」
ユウの肩を叩くと、彼女が男の腕をパッと離した。筋を痛めたのか痛そうにもう片方の腕で抑えている。
「古雪君まで!?」
「何でここに!?」
「なんでだろなぁ...とりあえずあんた達、今のこいつイライラしてるからやめといた方が良いぞ」
「男連れかよ...つまんなっ」
「ちっ!」
嫌な顔を隠す気もなく去っていく二人を見送って、一つ息を吐いた。
「はぁ...とりあえずお前らも移動しようぜ。目立ちすぎた」
昼に訪れたのと別の喫茶店で頼んだコーヒーを口に含むと、砂糖が少なかったのか苦かった。ユウにシュガースティックを取ってもらい中身の半分くらい追加する。
「じゃあ、今日ずっとついてきてたの?」
「ほとんどな...いや、俺はユウに連れ回されただけだから。自分からやろうとは言ってないから」
「うん。頼んだのは私だよ...ごめんなさい。ぐんちゃん、郡さん」
偶然とは言わず、きちんと謝った。特に俺(男子)の場合はストーカー呼ばわりされる可能性もある。千景は俺のことをよく知ってるし大丈夫だろうが。
「ぐんちゃん...?」
「千景のあだ名だ。それで...今日のぶんは変な奴らを追っ払ったってことで手打ちにしてくれると嬉しいです。なんならここも奢るから」
郡彩夏にとって郡千景は古雪千景になっている。ぐんちゃんというあだ名がどこから来たのか分からない彼女に詮索される前に話を進める。
「古雪君、割りと振り回される体質だからね。大丈夫だよ。何も言わないし奢らなくて」
「サンキュー...」
「えぇと...高嶋さんも、気にしない...あ、そしたら今日千景さんがやったみたいに、色々試着してくれないかな?」
「ふぇ?私でいいの?」
「もしいいなら...似合う服多そうだから」
「分かった!やるよ!」
俺だけでなくユウへの結論も決まったらしい。大したことなくて安心してコーヒーをもう一口飲んだ。心なしかさっきよりちゃんと味が舌に残る。
「んぐっ、んぐっ...じゃあぐんちゃん、椿君、行ってくるね!」
「え、もう行くの?」
「早くしないと遅くなっちゃうし」
「...ユウ、せめて一息ついてからにしておけ」
急いで飲んだユウと違って、郡の目の前に置かれてるカフェラテは半分以上残っている。
それから十分くらいして二人は出ていった。残ったのは俺と千景だけ。
「...結局、奢りじゃねぇか」
少しだけ呆れた口調で言うも、目の前の彼女の反応はない。
「...私も早く行こうかしら」
「俺だけ置いてかれんの?マジ?」
「だって、高嶋さんが私に似た人と...いえ、貴方みたく私も高嶋さんの試着見たいもの」
「......今回は付き合わされたって感じなんだが...」
「そういえば、なんで高嶋さんは私達を尾行してたのかしらね。古雪君まで連れて」
「ふふっ」
「?」
思わず笑ってしまって、それを嫌な風に捉えたのか、千景が「何笑ってんの?」とでも言いたげな顔をした。
「いや、な...ちょっと面白くて」
「何が?」
決まってるだろう。今日の始めは分からなかったが、今なら分かる。なんてったって目の前に同じ感情の奴がいるんだから。
「きっと今のお前と一緒だからさ」
「え?」
「『嫉妬』してたんだろ。新しく出来た友達に自分の親友が取られるかもって。今のお前と同じだ」
「!!?」
俺の言ってることを理解した千景は一瞬で面白いくらいに動揺した。
「た、たたた高嶋さんが!?そんな、そんな...」
「ま、あくまで俺が思ってることだけどな」
「高嶋さんが......」
(こりゃ聞いてらっしゃらない)
今にも溶けていきそうな顔を隠しきれてない千景にちょっとだけときめきながら、俺はコーヒーを飲みきる。
「じゃ、俺達も行くか。真相は本人にでも聞いてこい」
「そうね...そうね!!」
その日の帰り道、千景とユウは腕を組んで帰って、一緒に寝たんだとか。
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「た、高嶋さん」
「なぁに?ぐんちゃん」
「...何でもないわ。おやすみなさい」
「うん。おやすみ...」
「あっ...」
「ぐんちゃん、温かいね」
「高嶋さんこそ......」
「えへへ~...」
「「おやすみ」」