ゆゆゆい原作だと、少しずつ大人になっているというか、成長してる感じがして嬉しくなりますね。
「やめて...古雪君!!」
「許せ千景。俺にはこうする他なかったんだ」
俺は無情にも千景に向けて弾を放つ。俺自身が狙わずとも、これだけ距離が近く、無防備な姿を晒す彼女には間違いなく当たるだろう。
己の欲望の為だけに千景を倒す。そこに後悔はない。達成感と幸福感に包まれた俺は笑みを溢した。
「さぁ。貰ったぞ」
千景の横を通りすぎた俺は________
「ちょっと通りまーす」
「銀さんっ!?」
後ろから来た光輝く銀に跳ねられ、誰よりも早く目の前のゴールを切ることが出来なかった。
「一位~!」
「続けて二位です!」
「何とか四位ね...」
「......八位かよ。はぁ」
華麗な逆転負けを許した俺は、大きなため息をついた。
「あそこでスター突撃とか...」
「妨害なんてよくあることだろー。お前だって千景に赤こうらぶつけてたじゃん」
「くっ...」
「千景さん、イェーイ!」
「えぇ。二人とも助かったわ。思ってた以上に上手いのね」
「椿とやってましたから!」
「アタシも」
「...そりゃ、同一人物なんだから一緒だろ」
運が悪かったと割りきり、ツッコミながらコントローラーを置いた。
今通話しているのは、二人の銀に千景。話題は今やっているレースゲーム。言い方を変えれば通話しながらの通信対戦だ。
「ていうか、もうこんな時間か...銀ちゃんは寝なさい」
「あ、ホントだ...皆さんも夜更かしし過ぎないよう気をつけてくださいね。おやすみなさい」
「アタシも今日は寝ようかな。椿、千景、おやすみ」
「おやすみなさい。二人とも」
「おやすみ」
ヘッドホンから通話を切断する音が二回鳴って、俺は残ったもう一人に備え付けのマイクを使って会話する。
「どうする?このままやっててもいいが...コンピューター10人は流石につまらないよな」
「それなら別のにする?」
「そうしますか。ちょっと飲み物入れてくるから、その間に決めといてくれ」
「分かったわ」
ヘッドホンを置いて自室を出ていき、粉末と牛乳、レンジを使って簡単なココアを用意する。たまにはこういうのも悪くない。引き返すと通話中の画面を映すスマホに、新たな通知が示されていた。
『あとは任せた!』
「へいへい...」
『任せろ』とだけ送って、ヘッドホンをつけ直す。
「お待たせ、決めたか...決まってそうだな。ちょっと待っててくれ」
レース画面を消し、新たなソフトに入れ換える。通話先から聞こえる音で、なんのゲームを入れればいいか分かっていた。
「今日はどこまでやれるかなっ...と」
「頑張って勝って貰わないと張り合いがないわ」
「いや...千景相手に勝率半分近くなってきた時点でかなり頑張ったよ俺」
起動させたのは所謂格ゲー。通信対戦は出来るものの、少し古いソフトだ。
「最初は全敗だったんだぜ?」
「しつこかったわね...あの時は」
「傷つく言い方をしてくれる」
小中学生時代もそれなりにゲームをやっていたが、西暦に行って千景とやりだした頃は勝てた試しがない。エンジョイ勢とガチ勢の違いというべきか。
彼女は俺を排斥したい一心で今より本気だっただろうし、逆に俺は千景と仲良くなるための手段として考えていたから勝ち負けは重要視してなかった。というのもあるだろうが、それでも普通なら心を折るレベルである。
「にしても、そう考えるとホントよかった。今こうして千景と楽しくゲーム出来て」
「...そうね。人が来ないでって言ってるのにバカみたいに何度も何度も部屋まで来て、ゲームでボコボコにされてた人だけど」
「おーい千景さん。さっきから悪意入ってない?」
「でも」
耳に響く声が一段大きくなる。
「私は、そんなバカみたいに諦めない人から、大切なことを学ばせてもらった。助けて貰った...あ、ありがとうね」
「っ......」
「な、何か言ったらどうなのよ」
「...いや、ちゃんと言われるのって、なんか恥ずかしいなって」
「っ~!!」
言葉にならない声が漏れて、頬をかく。恐らく千景と同じように俺の顔も赤い。
(いや、あの...突然言われると)
「...っと、その...」
「......」
しどろもどろになってしまい、更にそれが相手に伝播してるのかまともな返事が来ない。
(き、気まずい...)
「「あの。ぁ、どうぞ」」
譲る言葉さえ被った瞬間、もう耐えきれなかった。
「ぷっ...くくっ...あはははっ!!」
「笑いすぎ」
「いやー、悪い悪い...」
「全く...私だけ真面目に話して、バカみたいだわ」
「はぁー...そんなわけあるか。凄い嬉しいよ。千景からそう言って貰えて」
彼女からそう言って貰えるなら、過去に行った意味も、命をかけた意味もあった。心からそう思える。
だから俺は、思ったことをそのまま口にした。
「お前の力になれてよかった」
「...貴方、いつか刺されるわね」
「何で!?」
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「ここで!」
「あー!!!くそっ、やられたか...もう一回だ千景!」
「いいわよ」
なんだかんだで始まった古雪君とのタイマンは、勝率六割。ただ、今日は二人ともプレイミスが多かった。原因なんて分かりきっている。
(あんな会話するから...!)
でも、そんなミスが嫌とかってわけじゃないし、寧ろ本音をちゃんと言えて嬉しいというか、彼も動揺してるのが分かるから良いというか______
(って、なに考えてるのよ私は!?)
「もらった!」
「あぁっ!」
デスコン最終段をなんとか避け、体勢を立て直す。
「今の抜けんのか!?」
「危ないわね...でも負けないわよ」
「うぐっ...なんの!」
牽制攻撃の隙に出してくる相手の攻撃を読んでガード、ステップ回避するところを遠距離攻撃で追撃。
「読まれてるな」
「何回やってると思ってるの」
「確かに...まぁ、読んでるのがお前だけな筈もないけどな!」
空中に逃げた彼のキャラは追撃位置を正確に読んでカウンターを置いていた。私がどう動くか分かりきった動きだ。
「チッ!」
「舌打ちするんじゃないの」
会話を進めながらも手元は忙しくコマンドを入力して、相手の隙を見逃さないよう動かし続ける。三秒後に決着はついた。
「よし!!」
「あー!!!また負けたかぁ...」
一瞬ヒヤリとしたが、まだ実力差はある。いつ追いつかれるか不安であり楽しみだ。
「もう一回...って時間でもないかな」
「えっ...?」
気づけば二人で戦いだしてから一時間近く経っている。ただ、時間としては日付が変わる直前だった。普段やるときはあと一時間位は長い。
「もしかして、明日やることでもあった?テストとか...」
「いや...やることはあるけど」
瞬間、日付が変わった。
「お、変わったな。んじゃいくぞー」
「え?」
「せーのっ」
『ハッピバースデートゥーユー♪ハッピバースデートゥーユー♪』
聞こえてきたのは、合唱。誕生日おめでとうという意味の_______
(...!?)
「えっ、ええっ!?」
『ハッピバースデーディアちーかげー♪ハッピバースデートゥーユー♪』
「何で!?」
「これだけで終わると思うなよ。全員突撃ー!」
『イェーイ!!』
わたわたしている私の耳が、ヘッドホン越しに外の音を聞き取った。ドタドタと音がして、ガチャリと聞きなれた音がした。
「ぐんちゃん誕生日おめでとう~!!!」
「高嶋さんっ!?」
「千景さんおめでとうございます!!」
「おめでとうございます。...やっぱり、横文字で歌う必要は」
「まぁまぁ須美さんや。バースデーソング日本語版は歌うのにちょっとねぇ...」
「今日は千景さんの為に遅くまで起きてましたよー!」
ぞろぞろと入ってきて話を進めていく皆。一方で、私の混乱はちっとも収まってない。
「い、一体何が...」
「何って、今日お前の誕生日だろ。サプライズパーティーだ」
日付を見れば、二月の三日だった。確かに私の誕生日になっている。
「嘘...」
「嘘なわけないだろ。お前の誕生日節分と同じで分かりやすいし」
「えっと、じゃあ、あの歌は!?」
「バースデーソングだよ!」
「お前がゲームに熱中してる間に、隣の部屋に待機させてた皆を通話に参加させてたんだよ。グループ通話のところだしな。これ」
高嶋さんの返事に古雪君が補足する。ようやく脳が事態を理解してきて、それは新たな感情を呼び起こしてきた。
「サプライズ大成功ー!!」
「んじゃ注意を引き付けておく俺の仕事も終わったし、そっち向かうから」
「さー皆!椿が来る前に乾杯の準備しとくわよー!」
『おぉー!』
「たかしーは抱きついてて~」
「分かった!ぐんちゃーん!大好きだよー!!!」
部屋に入りきるか怪しい人達が、こんな夜に自分の部屋に集まって、誕生日をお祝いしてくれる。私を好きだと言ってくれる人がいる。
きっと、数年前の私が聞けば耳を疑うだろう。どうしたんだと。
何も秀でてない私が、暗くて、周りを気遣うことも出来ない私が、自分の殻に閉じ籠っていた私が。
(...こんな、こんなのって)
でも、それが現実にあって。
気づけば涙が止まらなかった。
「うっ...ううっ...」
「ぐんちゃん!?」
「どうした千景!?椿になんか言われたか?タマがぶっ飛ばしといてやるからな!!」
「タマっち先輩、物騒だよ」
「...そくよ」
「え?」
涙声で、それでも全員に届くように。怒ってるようで、でも溢れる嬉しさを隠しきれてない声で、私は叫んだ。
「...こんなのっ!反則よっ!バカッ!!!」
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「ふぁーっ...はよー」
「おはようさん。随分眠そうだな?」
クラスであくびをしながら挨拶すると、裕翔が反応してきた。
「ん、まぁな...夜に誕生日祝ってたから」
「何でまた夜に」
「察しの良い奴だから当日誰かに会えば気づきそうで、奇襲したかった」
提案してきたのはユウだ。『ぐんちゃん気づいてなさそうだからいけるかも』と。前日のあいつの動きはなんとも怪しかったが________なんとか気づかれなかったようだ。
「へー...うまくいったか?」
「ん?あぁ...」
言われてスマホを開く。さっき皆から送られてきた写真の一つをアルバムから選択。
「...大成功だったよ」
中身は、ひなたが撮った泣き笑いしている千景を写した物。
誰でも、これを見れば成功したと言えるような嬉しそうな顔をしていた。
「うん。大成功。これ以上にないくらいに、な」