俺には三ノ輪銀という一つ下の幼なじみがいた。生きていればお前と同い年だったな。
明るくて、外で遊んだり体を動かすのが好きなやつだった。
ある時、あいつは突然死んだ。別の学校に通ってたが、その遠足の帰り...事故みたいなものだ。
再会する時には死んでるなんて思わなくて、前日まで平和な日常だった。終わりはあまりにも唐突で、残酷だった。
葬式にも出たが、とても生きた心地がしなかったよ。事故の原因を恨んだときもあった。
でも......なんのいたずらか。帰ってきたんだ。あいつ。
中一から、ついこの前まで、俺は銀の魂と一緒に過ごしていた。入れ替わったり友奈も何回か話したことあるぞ?
...でも、奇跡みたいな時間も終わった。
あいつはもう俺の元にはいない。どこに行ったかも分からない。
でも、これが正常な形なんだよな。死人の魂と一緒に過ごしている方が頭おかしい。
夢のような時間、それがいつまでも続くはずないのに...
二回も遠くに行ってしまった彼女に、俺はどちらも別れを言うことはできなかった。それが悔しくて。
もう一度話したかった。もう一度お礼を言いたかった...考える度に苦しくなって。
でも、きっと俺は忘れてしまう。この辛かった気持ちを、全部。
思い出すのが怖い、忘れてしまうことも怖い。彼女がいない毎日に生き甲斐がない_________
(助けて)
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「だから悩んでたのさ...こんな話、信じないだろ?」
俺は自嘲して友奈に目を向けた。うつむいた彼女の前髪が邪魔で顔を見ることは出来ない。
(何言いたいのか分からないし思ったことを口に出しただけだし...おまけに魂がどうとか)
俺自身、こんなことを突然言われたら疑うだろう。いくらお人好しの友奈といえど__________
俺の予想を、友奈は裏切ってきた。
「...信じるに決まってるじゃないですか!」
「え...」
友奈の頬には涙がつたっていた。
「だって先輩、そんな辛そうに話してるじゃないですか!信じない筈ありません!」
「でもお前、こんなでたらめみたいな話」
「それでも!私、銀ちゃんのこと全然わからないですけど...先輩なら」
「っ...!」
友奈の叫びに、心が砕ける音がした。
「...じゃあ、教えてくれよ...どうすればよかったんだ...どうすればいいんだ...」
あの時、これから、止めどなく溢れる気持ちが抑えられなくて涙が出る。
「忘れたくない...」
大切な銀との思い出。
「苦しい...」
言葉をかけられなかったことへの忘れてしまいたい後悔。心がかっぽり空いた俺がどうすればいいのか分からない虚脱感。
「助けてくれ...」
口も心も俺の考えを無視して、ただ泣き叫んだ。
いくら時が経ったのか分からない。溢れる涙が出尽くした時、温もりを感じた。
「...友、奈?」
いつの間にか隣まできていた友奈が、俺のことを抱き締めている。
「受け入れればいいんです。銀ちゃんがいなくなってしまった寂しさを受け入れて、いなくなってことを受け入れて...それで、いつまでも忘れなければ苦しくなんてないです。だってきっと楽しい思い出ばかりですから!」
「...そんなこと言ったって」
「私、銀ちゃんのこと何も知りません...でも、椿先輩が苦しむことを望んでるとは思いませんよ」
「っ!!!」
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友奈にしがみついて泣いて、しばらく。
「...ありがとう」
体を離し、涙を拭った。
(もう気持ちの整理は済んだ...)
あの時意識を失ったことは後悔してもしたりない。本来満開で失うものは俺から出されるべきだ。
でも、あいつに別れの言葉を言うのは_______あいつと同じ場所についたときで、いいだろう。
(問題の先伸ばし...ごめんな、銀。許してほしい)
銀はもういない。前も思ったこと。
だが、だからこそ、銀の幼なじみに相応しく生きよう。誰より勇ましく戦い、誰より愛らしかった彼女の幼なじみだと名のれる人として。
(きっと銀なら、そっちを望んでるだろう)
『やっとか...長過ぎるんだよ。くよくよして』ふと、そんな声が聞こえた気がした。
都合のいい解釈だと言われようと、俺はこれで生きていく。みんなと__________
「大丈夫ですか?」
「あぁ。もう吹っ切れた。話してスッキリしたのかな...」
「ならよかったです!」
「...本当にありがとう。友奈。...今度ちゃんとお礼させてくれ」
「いえいえそんな!いつも先輩にはお世話になってますから!」
「じゃあうどん奢らないな」
「ええっ!?」
「そこは嫌なのかよ。はぁ...早く寝に行け。誰か気づいたら心配するぞ」
「は、はい!おやすみなさい」
「おやすみ」
部屋を出ていく友奈を隣の部屋に入るまで見送る。
「椿...」
「!?びっくりした...風か」
部屋とは反対方向にいたのは、ペットボトル二本を持った風。
「その顔...清々しそうね」
「見てすぐの印象がそれって、最近の俺は相当な顔してたんだな...」
「魂抜けてたわよ。今日は...もう昨日か。まだ普通っぽくなってたけど、今は前よりいい顔してると思う」
「...心配かけた。ごめん」
「前も似たようなこと聞いたわね...いいのよ。誰だってへこむことはあるわ」
こういうことがすらすら出るのは流石女子力王と言ったところだろうか。
「...私が心配しなくても、友奈がなんとかしてくれたみたいね。飲み物無駄になっちゃった」
「...無駄なんかじゃない」
ペットボトルをひったくって、キャップを開けた。
「俺の話、聞いてくれないか?風にも話したいんだ」
「...とりあえず、うるさくなるから部屋入りましょうか」
その後は、風に色んな話をした。銀がどういう人だったのか、見ず知らずの相手が分かるようにたくさん。
どの話も風はしっかり聞いてくれた。「たまに風先輩って言ってたのは銀だったのね」なんて笑ってくれる。
(俺はこの記憶を忘れない。どれだけ忘れようとしても出来なかったんだ。体の一部なんだから)
そして、ここに三ノ輪銀という少女の『魂』を刻み込もう。いなくても、あいつと共に歩んでいこう。
「...ねぇ椿。聞いてもいい?」
「ん?」
「...もしかして、満開の後、銀の意識は無くなったの?」
「...どっかで聞かれてたか。そうだよ。俺に後遺症がないのは、身代わりになったからだろうな」
「...ごめん。私が椿を勇者部に巻き込まなければ......」
「風...」
「あたし...どう謝れば...」
俺は充電させていたスマホを開いた。アプリのボタンを押す。
「風、見てくれ」
「...あんたそれ、勇者の服じゃない!!」
涙目の風が驚くのも当然だろう。今俺は大赦に回収された筈の勇者装束を身に纏っているのだから。
「お前に渡した壊れてんのは代替機の方。大赦から回収されないってことは、旧型である俺のはいらないんだろ」
「旧型?」
「そう。これは先代勇者が使っていた物。勇者の名前は三ノ輪銀」
「は!?」
「俺の幼なじみは勇者だったんだよ。そんで俺も勇者に選ばれた...なんの偶然か知らないが、風が俺を勇者部に入れなくたって、俺がバーテックスと戦うことは決まってたんだよ」
ランダムで選ばれるらしい勇者だが、先代勇者の端末はいわば約束されたチケット。元勇者の魂が入っていれば、当たり前である。
(それに...俺が、銀のお陰で勇者の適性があるのなら。この姿になれるってことは、あいつがまだ俺の元にいてくれてるってことだ)
元から俺自身に適性があるなら別だが、その存在が、例え意識がない状態でも、思い出だけでも、いてくれるなら。
これだけで俺は背中を押され、暖かい気持ちになれる。
「だからお前が気にするな」
「...ありがとう。こんなときも優しいのね」
「こんなときだからこそ。だろ。というかもう吹っ切れた状態なんだから今が一番じゃないと困る。別れの言葉が言えなかったことだけはあれだったがな...風」
「何?」
「ありがとう。こんな俺を心配してくれて。良い仲間を持ったよ」
「...ほんと、吹っ切れたわね」
「じゃないとあいつに怒られると思うからな」
多分俺は、笑顔だった。勇者部の皆が、銀が、笑っているように。
「んー...だいぶ遅くなっちゃったな。寝るわ...はいこれ」
「え、これあんたの部屋の鍵じゃない。あと本...?」
「樹と風用に買ってたやつ。旅行が終わったら使ってみてくれ。そっちの鍵は明日起こしに来てくれってことよ。最近まともに寝れてなかったから起こしてもらわないといつまで寝てるか分からない」
「あんたねぇ...しゃーない。今日はゆっくり寝なさい」
「サンキュー」
ペットボトルの中身はとうに無くなっていて、ゴミ箱に投げ入れてから風は部屋を出る。
「明日になったら皆にもちゃんと言うのよ?」
「わかってるよ。おやすみ」
「っ...おやすみ!」
なぜか顔を赤くしてる風が逃げるように部屋に帰ったのを見て、俺も部屋に戻った。
きっと、今日からまた楽しくなるだろう__________外に見える星は満天に輝いていた。