今回もリクエストになります。
正しいのかなんて知らないが、人は自分と似た匂いの人が近くにいると安心するらしい。
真偽はともかくとして、今俺個人の話で言えば滅茶苦茶ほっとしていた。まだ覚醒しきってない頭が隣の温もりを抱きしめさせる。
(...あれ、誰かと寝てたっけ......)
最後の記憶は夜に一人自室でベッドに入った状態。特に何もない、いたって普通の睡眠だ。
(じゃあ、これは......)
間違いなく普段の俺のベッドの上にはない『温もり』を確認するため目を開き、そのまま固まった。
艶のあるストレートな黒髪を腰まで伸ばし、小さな小さな寝息を立てている小柄な少女。
(いや、待て待て待て待て!?!?)
自分の部屋。自分のベッド。その上で寝てる見たことない少女。
姉や妹はいない。よく一緒に寝てたから銀じゃないのは分かってたし、やりそうな園子や他の勇者部メンバーでもない。
この少女は、まるで知らない。今まで見たこともない。
「誰だよ、これ!?」
「んにゅ...」
俺の悲痛な叫びを聞いて少女が重そうな目蓋を開ける。首だけ動かして俺と彼女の黒い目が合い______少しずつ顔を青ざめた。
「...」
「......」
「きゃー!!!!ヘンタイッ!変質者っ!!!」
「ちょっ、やめろっ!」
そこそこのお値段を奮発させた枕でボコボコ殴られ、ダメージはないが話が出来ない。
「なんで私の部屋にいるんですかっ!?ていうか誰ですかっ!?」
「んなのこっちが聞きたいわ!!あんた誰!?何で俺の部屋に...今私の部屋って言った?」
「そうですよ!!私の部屋じゃないですか!!!この枕も...あれ、こんな枕だったかな」
唐突な沈黙が俺達を襲う。互いに辺りを見渡し、相手をじっと見つめ、何故か二つ置いてあったスマホで日付を確認。ちゃんと正常な筈の時間を示している。
「「銀(君)からのメールだけ......あの」」
「そちらの銀の本名は?」
「三ノ輪銀君。今の名前は?」
「乃木銀。一緒に住んでるのは?」
「乃木園子君。勇者部所属?」
「所属してる。勇者?」
「例外の女勇者。みかん好き?」
「大好き。納豆は?」
「あのネバネバ感が嫌い。オクラは可」
「「......古雪、椿?」」
質問ラッシュから三秒。
「「男(女)版の俺(私)じゃん!?!?」」
ハモった二つの声が、俺達の部屋に響いた。
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「いや、まさかねぇ...」
隣で歩く少女。身長的にはひなたと似ている彼女。名前は『古雪椿』
「こっちもびっくりだよ。起きたら別世界なんて」
「でも分かってからは結構冷静だよな」
「もう一回造反神のいる世界に呼ばれてるから」
「あー、分かる...」
部屋の物や家族の反応から、どうやら俺の世界に異なる世界の古雪椿(女)が来たらしい。纏めても意味が分からない。
原理なんて知るよしもないが、神樹という神の集合体が造反神と戦うために俺達を異世界から召喚しているのだから、出来ない話ではないのかもしれない。
「これだから神樹は...」
「確かにこれは言いたくなる...朝から疲れたわ」
一応休日なのだが、朝から大騒ぎで大変だった。 恐らくこれからも大変になるし。
大赦と一番連絡を取り合っているひなたに事情を軽く説明したところ、とりあえず部室に来てくれとのこと。俺もそこそこ連絡をとってるが、大赦というより春信さんと。だ。
「こっちの世界でも造反神とか変わらないの?」
「多分な」
「どこもかしこも神様はめんどくさいね」
「力を借りて助けてもらってる俺達の言える立場か怪しいけどな」
西暦に行かせてくれたことも結果的に感謝しているが、あれは神樹ではなく神様(高嶋友奈)のおかげだし。
(そういや、あいつは『勇者となった古雪椿は俺だけだった』みたいなこと言ってたような...女だから分かんなかったのかな)
俺自身判別する手段なんてないので、切り捨てるしかない。
「今のところ明確に違うのは俺達の性別と、基本的に勇者になれる性別が逆ってことだな」
「あ、そっちは男が例外なんだ?」
「勇者部も女ばっかだぞ」
「こっちは逆だよ」
「「...はぁ」」
互いの苦労が理解できるのでため息が出る。誰が悪いでもないが、もうちょっと例外が増えないものか。
「わっとと」
「おっと。大丈夫か?」
「うん。自分って分かっててもドキッとするね」
「同一人物であることを除けば、ベッドの上で初めましての異性だからな...いや、バカなこといってんじゃねぇよ」
今の彼女には比較的小さめな俺の服、靴を使ってもらってるが、やはり男物はサイズが合わないらしい。
「部室行く前に最低でも靴屋には寄ってくか」
「いいの?」
「金なら大赦が出す」
「全く褒められたことじゃないね」
「まぁ、非常時くらい贅沢しても文句は言われないさ」
「「椿ぃぃぃぃ!!!」」
近場の靴屋を思い出していると、遠くから呼ぶ声がする。続いて振動と突風。まるで上から何かが落ちてきたみたいだ。というかそのままだった。
「聞いてくれ椿!なんかアタシと園子の家に知らない奴が!」
「よかった椿!電話しても出ないから心配したぞ!」
「あ、気づかなかった」
「アタシもメールしたんだけど!?」
「ごめん、完全に忘れてた」
「「...で、その女(男)誰?」」
明らかな状況に、俺は頭を抱えた。流石にそれはまだ予想してなかった。
「...こちら、乃木銀です」
「......同じく、乃木銀です」
「「はぁ...」」
「え、どういうことだよ椿?」
「椿?そっちも椿なのか?」
「で、これで全員?」
「はい。全員ですが...なんというか、緊張しますね」
「それもそうだろ。この部室にこれだけ男子がいるのは初めてだろうしな」
俺と銀の異性版以外には、六人。神世紀300年の勇者がそれぞれ二人ずつになっていた。人数による圧迫感と、過去最高の男子の数で数人緊張しているようだ。
(男の若葉や芽吹達がいなくてよかったぜ...)
もう一人の俺曰く、彼女達が今いるのも造反神がいる場所で皆いるらしいので(この古雪椿は西暦時代に行ってはいないらしいが...)、全員が呼ばれていたらぎゅうぎゅうでヤバかった。この部室に50人以上入ったら大変なことになる。
「男の私かー」
「面白いね東郷君!」
「そうだね友奈さん...貴女が東郷...俺と同じ?」
「そ、そうね...」
「友奈さんは?」
「好きよ」
「語りましょう!」
「えぇ。存分に!!」
あっちこっちで本人同士の会話が広がっている。
「肉ぶっかけは正義」
「分かる」
「お、男のお姉ちゃんより背が高い...」
「男のお姉ちゃんってのがもうよくわからなくなるね。僕にとっては兄さんだから」
「へー。この世界は芽吹も女なのか!よしよし」
「えっ、あの...」
「ちょ!仮にも初対面でしょ!」
「「......」」
お互いの好きなものを語り合う姿、この状況を楽しんでる姿、無言でお互いのメモ帳を交換して読みあっている姿。
(やっぱり、園子はどの世界でも園子なんだな...)
「なんか、思ったより楽しそうだね」
「そうも言ってられんだろ...ひなた、これどういう状況なんだ?」
「信託や大赦の判断を簡単にお伝えすると、偶然二つの世界が交わり、半日程度皆さんがこちらの世界にお邪魔してるといった形です」
「お互いの今後に影響とか出るんですか?ひなたちゃん」
「ひなたちゃん...椿さんに言われると新鮮で良いですね」
「いや、椿であるが俺じゃないんだけど」
変な方向に行きかけたひなたは一度深呼吸をする。
「...はい。大丈夫です。今後の影響はどちらの世界も特にないようですよ。特にこれといって気になることもないですし、たまたま会えたくらいの気持ちで良いかと」
「成る程ね。じゃあ勇者部と遊んでくなり外に行くなりで好きにすればいいんじゃないか?買い物も済ませたしな」
俺じゃない椿はここに来る前に買い物を済ませており、焦げ茶のブーツにしていた。服はお金が勿体ないからとそのままだ。
「外に行っても別に景色とか一緒だし、ここにいるよ」
「折角同性が増えたわけだし、それがいいかもな」
「椿さん!アタシのこと分かりますか!?」
「えっと...もしかして銀ちゃん?」
「はい!三ノ輪銀です!」
「わー!可愛いぃ!!」
「むぐっ...なかなかのマウンテン...」
「私のことお姉ちゃんって呼んでいいからね?」
「椿お姉ちゃん」
「キャー!!」
声の高さまで同じじゃなくてよかったと思う。女の見た目で俺と同じ音程でキャーとか叫ばれたら違和感しかない。
「こっちの世界の椿はゲーム強いのか?」
「えっと...風か。もう一人の俺は弱いのか?」
「昔から銀とやってたらしいけど、滅茶苦茶弱かった」
「へー...千景、部室にゲーム置いてあったっけ?」
「通信対戦のであれば私のと合わせて二つあるけど...貸してあげるわ」
「よっしゃ。じゃあやるか」
こっちのやることが決まったので手早く準備する。
「やっちゃいなさいあたし!この犬吠埼風こそ最強よ!」
「お姉ちゃん...じゃあ私は椿さんの応援しようかな」
「僕は兄さんにつくよ」
「おうよ!見せてやるぞ男の椿!」
「お手柔らかにな」
「...頑張りなさい」
「千景といつもプレイしてるし恥をかかせるわけにはいかないからな。頑張るよ」
「「え」」
「っしゃ、いくぜ?」
男の風との格ゲー対戦結果は、五戦全勝だった。相手の風と樹が机に突っ伏している。
「千景とやってるなんて聞いてない......」
「僕達の方じゃ誰も勝てたことないもんね...」
「あんたこんなに強かったの?」
「途中の指の動き凄かったですよ。椿さん」
「普段戦ってるのが強すぎるから、これくらいやってもまだまださ」
謙遜ではなく本当にそう思う。千景のプレイングと比較すると精度が低いのが自覚できるから仕方ない。
「千景、ありがとう」
「べ、別に...」
「ぐぬぬ...こうなれば、先生!東郷先生!!」
「そっちの東郷はゲーム強いのか?」
「一時期友奈さんがハマって、相手になるために練習して...」
「友奈ブーストはどこも同じなわけか......」
千景もユウに関したお願いは叶えようと必死になるし、俺も甘えられたら断れきれないことが多いし、友奈族は特別な誰かに対して特効性能でも持ってるのか。
『!!』
日常を終わらせる警報が部室いっぱいに鳴り響き、全員が一瞬震えた。慣れた音源とはいえ急になるのはびっくりする。
「こっちでもこの音なんだね」
「今日は更に人数多いのにバーテックス側もやるなぁ。今のタマ達にとったら餌でしかないぞ」
「皆さん、ご無事のお帰りをお待ちしています」
亜耶ちゃんの言葉に思い思いの返事をして、見慣れすぎて飽きてきた樹海が広がった。
「相手の数もそれなりだな。そっちはどうする?」
「うーん...適当に割り振ってくれていいと思うよ。私はどうせ最後尾だし」
「へ?」
俺の改造された赤い戦衣ではなく、防人と同じ若草色の戦衣に身を包んだもう一人の俺は、どこからともなくマイクを取り出した。
マイク。基本的にカラオケやテレビに映る歌手が使う、音声機器だ。
「......は?」
「あ、もしかしたらそっちの皆にも効くかもね。じゃあ始めるよ!」
一呼吸して、何故か樹海の上で歌って踊り出す彼女。テレビに出ているアイドルみたいな動きだが、いかんせん場所が場所だけに誰もついていけてない。
というかこう、さっき銀ちゃんに抱きついてた時も思ったが、女の自分の異性らしさ_______俺がしないようなことを見せつけられると、軽く目眩がする。樹並みに上手いから尚更。
「おぉ!?体がいつもより軽いぞ!?」
「他人の強化が私の力なんですよ」
「じゃあ椿さん!頑張ってきます!!」
「いってらっしゃ~い!」
「...ねぇつっきー。つっきーもやらない?」
「やるか!目を光らせんな!あといい加減メモをしまえ!!」
俺は余計なことをこれ以上言われないよう、男子チームに混ざって突っ込んでいくしかなかった。
一応、普段より良く体が動いてたから、効果はあったんだと思う。
「んー!!!風呂上がりのみかんジュースさいっこう!!」
小学生は寝静まるような時間帯。みかん好き同士で飲む機会はそんなにないので新鮮さがある。
「気持ちはよく分かるが、風呂入んなくてもよかったんじゃないか?どうせあと数分で元の世界に戻るんだろ?」
「女の子はいつでも綺麗でいたいの!」
たった半日の付き合いは、ひなたや水都、亜耶ちゃんの巫女曰くそろそろ終わるんだとか。最後は彼らと彼女が決め、同一人物の場所で過ごすことにしている。
(にしても...似てるなぁ)
男として、女としての部分は真逆に近い。だからこそ、それ以外の態度や雰囲気がより似ているように感じる。
「妹がいたらこんな感じだったのかな」
「えー?双子じゃないの?」
「身長的にどっちにしろ妹に感じる。周りからも年上っぽい扱い受けてないだろ」
「うっ...逆にお兄ちゃんっぽいよね......」
「最高学年だしな」
彼女は納得いかなかったのか頬を膨らませるが、すぐに気にしてないと言うように「あ」と声をあげた。
「でも確かに半年くらい年上なんだよね」
「え?そうなのか?」
「私が飛ばされた時って、神世紀300年の秋くらいだったから。他の子が言ってたけど、もう少し後なんでしょ?」
「.....成る程」
「私は後輩だね」
それはつまり、まだ天の神の事件に巻き込まれていない時間であり。西暦時代にも行っていない時間。
勿論俺と同じ歴史を辿るとは限らないし、他人のフォロー専門の彼女が過去で戦えるのかは分からないが________別世界の俺がいるんだ。別世界の志半ばで倒れて神の力の一端を得た高嶋友奈がいる可能性もある。ややこしいけど。
(俺が気にしたって仕方ないか)
未来なんて不確定で曖昧だ。誰かが死ぬなんて絶望があれば、誰かが生き返るなんて希望もある。後者は滅多にないというか普通あり得ないが。
「...じゃあ、一つ助言」
それでも、言えるのは。
「大切な人がいるなら、絶対諦めんな」
誰かのために戦う意思を持つ。それは俺達にとって忘れちゃいけない大切なことだから。
「......そんなの、分かってるよ。守りたい人がいるから、私は皆と同じ世界に立てるんだもん......というか、一緒でしょ?」
「...それもそうか」
言われるまでもなかったかもしれない。同じ勇者として生きてきた『古雪椿』だし。
「そうそう...っと、時間かな」
そう言う彼女の体は淡く光だした。確か俺が西暦から神世紀に帰るときも似たような光を出していた気がする。
「じゃあな。また会ったらよろしく」
「今度はこっちの世界に来れたらいいね?男ばっかで楽しいんじゃない?」
「楽しいだろうが、俺は女子だらけの部活に慣れてきたんでな。こっちには勝てないだろ」
「確かにそうかも。私も今日は違和感あったしね...じゃあ、またね」
「あぁ」
最後に握手でもしようかと思ったが、提案する前に彼女は消えてしまった。
「......ま、また交流があれば。そんときはよろしく」
異性の俺が今後どんな風になるかなんて分からない。自分のことさえ分かってないんだから。
でも少しでも良い方になるよう願いながら、俺は残っていたみかんジュースを飲み干した。