古雪椿は勇者である   作:メレク

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今回はホワイトデー短編。折角なので、前回のバレンタインデー短編の続きにしました。それ何って人はいないと思いますが、いたら一月前のバレンタイン短編を先にご覧ください。


短編 想いを告げるホワイトデー

「はぁ......」

 

ベッドに寝転がるも、眠気は一切出てこない。お昼時だし昨日も十分寝たし当然ではあるんだが。

 

読みたかった本も集中できない。一月くらいずっとだ。本を読み出すと、中身より挟んでいた桜の栞に目が行ってしまう。

 

(友奈...)

 

送り主の彼女のことを考えると、どうにもこうにも集中できない。

 

『いつもありがとうございます!!大好きですっ!!おやすみなさい!!また明日!!!』

 

バレンタインデーに言われたことは今でも完璧に覚えている。それと、唇に触れた甘い感触も。

 

その後他のチョコを食べたが、正直あの甘さに勝てるものはなかった。

 

(友奈......)

 

くれた本人は次の日から、俺と距離を取るようになった。別に露骨に避けるようになったわけでもない。喋らなくなったわけでもない。周りから何か言われることもない。

 

しかし、俺達が二人きりになった時はこの一月で一度もない。目も基本合わない。流石に異常だ。

 

(友奈...)

 

キスされ、告白されればどんな男でも気づく。相手に何の感情を抱かれているかなんて。

 

だからこそ解せないのが、その後の対応だった。告白したかっただけなら避ける必要もないし、返事が欲しいなら二人になろうとしたり、何かしらのアクションをするはずだ。少なくとも好きな相手への対応ではないように感じとってしまう。

 

となると、俺と別れてから次の日までに心変わりがあって、俺のことを嫌いになった_______なんてのも視野に入るが、友奈がそんな風な人なのかと聞かれれば、そうではないと断言出来るし。

 

ただ、心の片隅にそんな考えがあるからなのか、俺から友奈に連絡をしていないのも事実だった。

 

(......)

 

日に日に友奈のことを考える時間は増えていき、頭の中が一色になる。考えれば考えるほど迷路の奥に入り込んでしまったようで、拭えない不安が滲み出てくる。

 

「...どうしろっての」

 

答えは未だ、隠れていた。

 

 

 

 

 

時はバレンタインデーから一月後。ホワイトデー。人によっては三倍返しを強調する輩もいるようだが、そもそもそんな定義はいつ出てきたのだろうか。

 

『古雪君、バイクを持ってきてくれる?』

『いいけど、なんでまた』

『...高嶋さんを、ドライブに誘うのよ』

 

まぁ、勇者部のホワイトデーはほとんど終わっている。イケメン4なる計画が進んで千景にバイクを貸したり。(危ないから運転はさせてない)

 

『...失礼しました』

『待ってください古雪先輩!誤解なんです!!』

『東郷君、何が誤解なんだい?僕は上司として...』

『もう演技しなくていいですから!勘違いされてますよ!?』

 

OL風衣装の東郷に芽吹が迫っている現場を目撃してしまって、慌てる東郷とノリノリの芽吹に弁明されたり。

 

『ハッピーホワイトデー。私からのプレゼントだよ』

『おー赤嶺。今度うちに来てくれよな。まだ準備してないんだ。前も来てたしいいだろ?』

『ここでそれ言われると皆の目が...どうして今言うの......』

 

赤嶺がバーテックスをチョコをあげてた友奈ズヘのお返しとしてくれたので撃退したり。

 

数日前から色々準備していたことも多かったため、計画の前倒しがありホワイトデーとぴったり被せられたのは俺のクッキープレゼントだけだった。男装組は今日も男装しているが。

 

(イケメン4に呼ばれなかったな...)

 

元からの男が一人いるんだが、俺に召集がかかることはなかった。少し悲しい。今回の件は『男装する女子』がメインであって『男子』は違うと言われたので多少納得しているが、それでも複雑である。

 

(まぁまぁ、少なくとも容姿はあいつらほどイケメンでもないしな)

 

個人的に芽吹の男装は凄かった。春信さんを越える有能イケメンオーラが出ている。あれに年を重ねればどう足掻いても勝てる気がしない。

 

「ふぁーあ...」

 

ともかくホワイトデーも終了した。いや、終了してしまった。

 

友奈を含む全員に力作のクッキーを渡したし、それ以外にもやれる対応はやった。写真を撮ったり女装をしたり抱きしめたり。注文されたこととはいえ良かったのかは分からないが、彼女達が笑顔だったから良いだろう。

 

「...友奈」

 

今日も彼女は笑っていた。でも、辛い。その笑顔を遠まきに見ることしかできないのだから。

 

ホワイトデーだから何かあるかもと夜中に考えていたせいで寝不足になっているからか、少し頭も痛い。

 

「帰って、寝るか...」

 

結城友奈。その名を少しだけ忘れてしまいたいとすら思って。

 

 

 

 

 

(...あのさぁ)

 

ベッドに横になって、多分一時間かそこら。そろそろ夕飯を準備しないといけないが、体は言うことを聞くつもりが全くないようだ。親が作れと呼びにくるか、作ってもらって呼ばれるまでは動かないだろう。

 

(忘れられるわけないじゃん)

 

彼女を忘れられるわけがない。一瞬でもそう考えてしまった自分が恥ずかしい。そんなに簡単ならずっと悩んでいない。こんな、寝ていたかどうかも曖昧なくらいになるなんて__________

 

「はぁ...」

「っ!」

「?」

 

自室に他人がいる気配がして、ごろんとベッドの上で回転させる。

 

そこには友奈がいた。

 

「......」

「あの...おはようございます。椿先輩」

 

(何で男装してんだ?)

 

真っ先に出たのはそこだった。友奈が知らない間にいることもおかしいのだが、芽吹が着ていた筈の服を友奈が着ていて、俺の部屋にいる。恥ずかしそうに俺と目を合わせる。

 

(あぁ、夢か)

 

どうやら俺はまだ寝ているらしい。でなきゃこんなよく分からない状況にならないし、避けていた筈の友奈が一人俺の部屋にくる筈もない。

 

(...夢ならいっか)

 

「友奈」

「は、はい!」

「何でお前、俺のこと避けるんだよ。好きって言ってくれたのに」

「!!っ、その...っ!」

 

俺の脳内友奈は完璧に近いのだろう。わたわたしてる姿は彼女らしさを存分に引き出している。

 

「......くて」

「ん?」

「椿先輩と二人になりそうだったり、目があうと、つい、その...バレンタインの時のことを思い出しちゃって。それが恥ずかしくて......」

「なんだ、よかった。嫌われたのかと思ったわ」

「嫌うなんてことないです!!椿先輩のこと大好きですもん!!寧ろ、私の方が、突然あんなことして嫌われたんじゃないかって...」

「俺は...」

 

忘れたいと思っても、嫌いたいとは少しも思ってない。忘れたかったのも彼女が離れていくのが辛かったからだ。

 

いなくならないで欲しい。側にいて欲しい。ずっと隣で、笑顔を見せてほしい。

 

「だから、男の子の格好になれば、椿先輩と男友達のように話せるんじゃないかと思って、芽吹ちゃんに貸してもらったんですが...うまく、出来ないですね。あはは......」

「俺は...」

「っ!?」

「嫌うわけない。俺が友奈を嫌う筈がない」

 

抱きしめた友奈の心音がばくばく感じられる。

 

「好きな人を嫌うわけないし、好きでもない人を抱きしめるもんか」

「...椿先輩、それは、その、私に対する好きは......きっと、皆への好きと同じなんですよね」

「...?は?そんなわけあるか」

「......え、えぇえ!?」

 

時間は一月もあった。うやむやになってた己の感情を知ることくらい出来る。

 

なぜ俺は友奈をそんなに気にするのか、なぜ楽しく話せないことを苦痛と感じるのか、あのバレンタインを忘れることが出来ないのか。

 

そんなの決まってる。

 

「俺はお前のこと、一番好きだ...友奈」

「っ!!!椿、先輩...っ!!」

 

しっかり目を合わせた俺達の次の行動なんて、分かりきっていた。

 

 

 

 

 

「あぁぁぁあ......」

 

数分後。俺は布団にくるまって震えていた。緊急地震速報を怖がる子供みたいだが、なりふり構っていられない。

 

「くそ...めっちゃ恥ずかしいぃ!」

「あは、あはは...」

 

小説なんかであれば、二人は幸せなキスをして終了_______なんだが、ここは現実。飯が出来たと言ってきた母親にバッチリ現場を見られてしまった。

 

『お父さんと二人で食べちゃうから、そっちの二人でご飯食べてきてね。お幸せに~』

 

あのニヤニヤ顔は、本当に忘れてしまいたい。というか頼むから忘れさせてくれ。

 

(てか、何で夢じゃないの...)

 

夢だと考えていたが、普通に現実だった。

 

「......」

「?」

 

布団から顔だけだして友奈を見るも、本人は見つめられて首を傾げている。

 

(...多分、気づいてないんだろなぁ)

 

もう付き合っている状況に近いというか、告白してることを意識してないんだと思う。俺が気にしすぎてるだけかもしれないが。

 

「...そういやお前、どうやってこの部屋に来たんだ?母さんに開けてもらった?」

「そうですよ。椿先輩にメールを頂いたんですって伝えたら...」

「俺にメールを?」

 

メールした覚えなんて一切ない。しかし、スマホを掴んで履歴を確認すると確かに、ちょっと前に送っているメールがあった。題名は無題で、中身は__________

 

「......」

「椿先輩?どうしたんですか?」

「...いや、何でもないんだ。何でも」

 

今日は何回苦しくなって、恥ずかしがればいいのか。

 

(なんだよおい、『会いたい』って。無意識にメールで『会いたい』だけ送りつけるって)

 

たった四文字だが、なんか、凄い重い奴みたいだ。

 

「でも良かったです。私だけだったら、何もできずここにも来れなかったかもしれませんから」

「っ...友奈」

「はい!」

「とりあえずうどん食べに行こう」

「はーい!!うっどん!うっどん♪」

 

かけていたコートを手早く着こんで、親にちょっかいかけられない速度で出ていく。

 

「初デートですね?」

「っ...それはもうちょい待ってくれ。ちゃんと告白するから」

「!!じゃあ待ちます!!」

 

と言って、腕を組んでくる彼女。

 

(なんだよ、分かってるんじゃん)

 

他人のことなんて、顔を見たり仕草を観察するだけで分かるわけもない。当たり前のことを今更のように確認する。

 

(......でも)

 

せめて、好きな人のことは目線だけで分かるように。

 

「友奈。今度一緒に出かけよう。どっかいい景色の場所に」

「分かりました。予定、あけときますね?」

「頼む」

 

これから三月も後半、桜が見頃の時期だろう。一月前は雪が降っていた。

 

(...あぁ。そうだな)

 

今度は、桜が見れるだろう。隣にいる彼女と一緒に。

 

 

 

 

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