古雪椿は勇者である   作:メレク

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今日は友奈ちゃんの誕生日!!お祝いだ!!

...まぁ、今回全然出番無いんですけどね。これからは去年誕生日短編を書いてないキャラを書こうと考えてます。全員やるには誕生日考えるだけで一年終わっちゃうので...友奈ちゃん成分が足りない人はバレンタインデーとホワイトデーを見返してって下さい。


ゆゆゆい編 31話

「そこだぁぁぁ!!」

「負けないわよ」

「頑張れぐんちゃん!」

「ミノさん!やれー!!」

 

テレビに映る自分のアバターを動かす二人に、隣で応援している二人。その後ろのソファーで、私は聞き耳を立てていた。

 

「ふぅ...」

「古雪先輩?」

「......」

「先輩?」

「ん?あぁごめん。なんでもないから」

 

(...やっぱり、明らかかにゃあ)

 

後ろには東郷と椿さんの声がして、聞こえた会話から確信できた。

 

ことの始まりは銀の一言。

 

『最近、なんでか知らないけど椿が元気ないんだよね。皆何か知らない?』

 

椿さんのいない部室で問われた質問に、誰も答えることが出来なかった。

 

実際様子がおかしいと感じていた人は多かったけど、その原因が全く不明とのこと。

 

(この年頃の男の子の悩みなんて女の子関係だって想像出来るけど...椿さんだしなぁ)

 

椿の主な女子関係は、勇者部がメインである。これは間違いない。同じクラスの人も勇者部にいるし、平日の放課後も、なんなら休日のほとんども部員の誰かといる。

 

その誰もが椿さんと特に気まずくなってなくて、元気がない理由も分からない。となれば普通の高校生男子が考えてそうな青春関係じゃないだろう。

 

それで、周りに対して気配りが出来る椿さんが隠せないほど疲れている。ということは、それなりに重い案件であるということだ。

 

(私達が原因の可能性が高い。ってのが辛い話だけどね...)

 

椿さんも男子。今や一クラス出来そうな人数の女子と毎日いれば、色々と疲労が重なるかもしれない。感情を分かってる以上仕方のない子も多いけど。

 

ともかくそんなわけで、今日はその原因を調査する為に椿さんの家へ来ていた。人選は、ゲームの名目を作れる銀に千景さん、その相方である園子に友奈、料理手伝い担当の東郷と、残ったメンバーでポーカーフェイスの作り方がそれなりに上手かった私。

 

もし私達が原因で疲れているなら休ませてあげようと決めているし、そうでないなら何かしら協力したいと思っている。

 

『椿先輩から言ってこないなら、私達に出来ることはないんじゃないかな?』

 

(結城っちはそう言ってたけど...)

 

確かに椿さんは業務的な『ほうれんそう』もしっかりしてるし、それ以外でも悩んだ時は誰かに話してることも多い。

 

でも、同時に誰かを傷つけることも嫌うから、今回の原因は私達にあり、話すと誰かが遠慮するようになるからかもって考えてそう________なんて話も出ていた。

 

(いや、よく見られてますね。椿さん)

 

ただ様子が変かもというだけでこれだけ皆行動する。そんな人は少ないだろう。

 

(かく言う私も、こうしているわけで...)

 

「お前ら飯できたぞ。ゲームは中断な」

『はーい』

 

ご両親は帰ってくるのが遅いらしく、六人向けテーブルが八人向けになるよう広げられ、全員が椅子についた。揃って『頂きます』の声をあげ、好き好きに料理をつまんでいく。

 

「それにしても、椿さん三人家族なのに大きめのテーブル使ってますね」

「昔から銀とか銀の家族が来ることもあったからな。テーブルは展開式にすれば普段邪魔にならんし。椅子は......こっちの世界に来てから買い足した」

「成る程」

 

三つの椅子は一纏めにされてたし、普段は使わないんだろう。でも、それなりに誰か来ていると。

 

(......)

 

「つっきー。あーんしてあげる」

「園子?こぼすからそれは...」

「そうだぞ園子。大体椿は優しく突っ込めば食ってくれる」

「むぐっ」

 

(......やっぱり、椿さんが疲れてる原因って私達じゃないの?)

 

冷や汗が流れる中、私はどうしてもその考えが頭から抜けなかった。

 

 

 

 

 

 

「お前らこれからどうするんだ?まだゲームしてくのか?」

「もうちょっと~」

「ダメなら帰るけど?」

「いや、ダメじゃないが...泊めるわけにもいかないし、流石にこの人数だとバイクで返せないし」

「椿君。私達も自分で帰るし、気にしないでいいよ!」

「寧ろ、まだいて良いのかしら...?」

「......あとちょっとだけならな。一人別になるのは東郷だけだから」

「わっしーは私達が送っていきます!」

「アタシがいれば平気だろ?」

「...まぁ、それもそうか」

 

「じゃあ風呂ためてくる」と言った椿さんに、銀によるちょっと待ったコールが入った。

 

「椿。風呂ならもう出来てるぞ」

「え、嘘」

「アタシを誰だと思ってる?椿の簡単な行動くらい読めます~。というわけでほらっ、入ってきな」

「いや、だけど皿洗いも...」

「洗い物なら私がやっておきますから」

「つっきー、早く入らないと私とたかしーが背中流しに行くからね?」

「...入ってくる!!」

 

早足で消えていく椿さんを見送る私達。聞こえる足音が完全に消えてから、千景さんが銀を見た。

 

「...いつの間にお風呂沸かしてたの?ずっと私とゲームしてたんじゃ...」

「お手洗いに行くついでにちょちょいとです。園子ナイスフォロー!」

「えへへ~」

「ともかく、これで予定通りにいったわね」

 

予定では、何人かが椿さんの注意を引き付け、その隙に部屋に侵入。何か手がかりになる物はないか調査する手筈だった。

 

(強引な気もするけど...)

 

「私はお皿を洗わないといけないので」

「じゃあ私達が...」

「ううん。雪花は別任務を任せたい」

「ほへ?」

 

 

 

 

 

(まさか、こんなところを任されるとは...)

 

「はぁー...生き返るぅ」

 

銀から任されたのは、まさかのお風呂場前での待機だった。正確に言えば、椿先輩がお風呂から出た時捜索している皆に連絡をいれる係。

 

(今日の面子なら適任かもしれないけどさぁ)

 

もし園子を一人だけにしたらお風呂に突撃しかねない。そんな考えもあったのかもしれないけど、私だってうら若き女子中学生。ちょっと緊張してしまう。

 

(壁が何枚あるのかしらないけど音は聞こえるしさ、なんかこれ...盗聴というか、覗き見してる感じがして......)

 

マンガとかでよくある、露天風呂で女湯を覗きこもうとする男子。今の私はそれに近い。

 

「やっぱ風呂はいいよな...先人が命の洗濯とか言うわけだ」

 

ぱしゃぱしゃ音がして、その後静まる。

 

「......流石に、疑われてるのかな」

「っ!」

 

急に確信めいたことを言われ、思わず息が詰まった。

 

(これ、わざと聞かされてる?バレてる?それとも...)

 

「でも、これは俺の問題だし...もう少しポーカーフェイスには自信あったんだがなぁ...思い詰め過ぎてるかな」

「......」

「でも......」

 

それきり椿さんは黙ってしまい、喋りだすことは一度もない。

 

(椿さん...)

 

彼は何かに悩んでいる。それを解消させてあげられる力は、私達にない。

 

いや、少なくとも私には________

 

(...銀とかなら、これ聞いただけですぐ分かるのかな)

 

ひとつ年上の先輩は、誰に関係なく気を使ってくれている。その気遣いに私もなるべく答えたいとも思う。

 

『勇者様。よろしくお願いします......』

『おばあちゃんを助けてくれてありがとう!ゆうしゃさま!』

 

四国と比べて物理的にも精神的にも寒い場所で聞いてきた声が頭を巡る。意味はほとんど変わらないくせに、声の主で、その表現の仕方で大きく印象が変わった二つ。

 

(...メンタル、ずぶずぶだなぁ)

 

極上の日溜まりを知ってしまったからこそ、日陰がより際立つ。そんな日陰の人間である私は、日溜まりを作ってくれる彼に、皆に、何かしてあげられているだろうか。

 

「...はぁ」

「......あの」

「!?」

「何やってんの?雪花。こんなところで」

 

いつの間にか、風呂上がりでほかほかしてる椿さんが私を見つめていた。

 

 

 

 

 

「そんで、どうした?」

「あの...」

 

椿さんのベッドは私のよりちょっと高反発なのか、腰かけても戻ってくるなーなんて現実逃避をする一方で、焦っている自分もいた。

 

聞き耳を立てているのが見つかった私は必死に大声で誤魔化し、その間に皆は椿さんの部屋から撤退していた。本人が疑問に思ってないからほぼ完璧に元の状態にしたんだろう。

 

しかし、この場所に頼れる皆様の姿は見えない。私の様子を心配した椿さんが、皆を家に帰らせ、私の話を詳しく聞こうとしてるのだ。

 

(見方を変えればチャンスではあるけど...えぇーい!もうめんどくさい!)

 

普段であれば物事に対して色々考えて動く性格だけど、なんだがめんどくさくなった。悩みの原因を作った人に悩みを話すって普通ならしない。

 

やった理由は、むしゃくしゃしてたから。これが一番近いだろう。色々考え過ぎてムカついた。

 

「椿さんの話、聞こえちゃったんです」

「俺の?」

「たまたまお手洗いで通ったとき、お風呂の方から椿さんの一人言が...」

「あー...」

 

本当のことを混ぜて話す嘘は一番バレにくい。私はそれで言葉を続ける。

 

出しにくい本心をついでに溢せればいいなと思いつつ。

 

「勇者部には言いにくい悩みがあるんですよね?話してくださいよ」

「いや、でもこれお前らに話したところでどうにもならんし」

「六箇条一つ、悩んだら相談ですよ...そ、それにほら!私口軽くないから皆にバラすようなことしませんし!」

「雪花...」

「私、椿さんにあんまし何もしてあげられてないので」

「...そんなことないけどな」

「へ?」

 

腕を組んでいる椿さんは、真っ直ぐ私に目を向ける。

 

「戦闘でも助けてもらうことあるし、普段も何かとミスした時フォローしてくれるだろ。あとツッコミ頑張ってるし」

「最後のいらないんじゃ...でも、私の方が沢山してもらってますから。恩返しはちゃんとしないと」

「うーん...別に俺は恩を売るつもりでやってないし、貸し借りを作る気も...そもそもな」

 

珍しい怒ってるような顔をしだして、ちょっとだけ驚く。あまり私に向けてこんな顔をしないから。

 

「恩は等価交換するようなもんじゃないし。仲間なんだから困ってたら手伝うのが当たり前だろ?」

「っ!」

 

椿さんの言葉にはっとする。そうだ。この人は。勇者部は。

 

「......そうでした。そういう人でしたね。椿さんって」

「俺だけじゃない」

「勇者部もでしょ?」

「...お前もな。雪花」

 

私に温かさをくれる人達の、温かい理由。

 

「...はいっ!」

 

だから、この日溜まりにもう少しだけ__________

 

 

 

 

 

「って、終わらせちゃうところでした!椿さん、何悩んでるんですか!?」

「え、あぁ...別に良くない?もう帰ろうぜ。送ってくから」

「......話さないと今日はこのベッドで寝ますからね」

「...実は、この間高校の男友達の家で泊まって遊びまして」

「?」

「その時ですね...妙に緊張といいますか、違和感がありまして。気づいてしまったんです......」

「...えーと、何に?」

「......俺さぁ!男子とつるんでるより女子といる方が気が楽なんだよ!いっつも勇者部にいるから!!逆だろ普通ーっ!!!」

「ぁー...」

 

椿さんの悲痛な叫びを聞いて、私は頬をかいた。

 

(それは確かに、皆に言いにくいかな...)

 

「俺は本当に男なのか!?大丈夫なのかぁぁ...!」

「あっはは......」

「なんとかならないか!?雪花!」

「あ、えーと...ドンマイです」

「雪花さぁぁぁん!!!」

 

結局、椿さんの悩みを私は解消出来ず。私は面白半分で勇者部に流し、また『雪花さん口軽くないって言ってたじゃないですかぁぁ!!』と叫ばれるわけだけど、それはまた別のお話。

 

 

 


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