古雪椿は勇者である   作:メレク

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今回はリクエストのつもりで書いてたんですが、書いていったらオリジナルになってました。


ゆゆゆい編 33話

「よっこいしょ...っと!ここで良いんですよねー!?」

「大丈夫でーす!!」

 

春信さんよりちょい年齢高いくらいであろう男性からの指示を受け、その通りに必要な物を運ぶ。

 

「それなりの重労働になりそうですね」

「あぁ。単純に作業量も多いだろうな...ちゃちゃっとやろうぜ」

「はい」

 

同じ場所で作業する芽吹と会話しながら、俺達は次の荷物を求めてトラックへ向かった。

 

 

 

 

 

今日は勇者部総出で依頼にあたっている。内容は、桜の花見客を目的とした屋台の設営及び運営の手伝いだ。

 

桜が満開になる季節に予定して行われるお祭りだが、今年は満開と日程が完璧に噛み合った。まだ朝だというのに場所取りに訪れた人が多く見れる。

 

しかし、人が増えると予想されているにも関わらずスタッフの数は変わらず。どうにか補えないかと考えた結果、勇者部に白羽の矢がたったというわけだ。

 

既に幾つかのグループに別れて看板の設置だったり周辺の装飾だったりを始めている。

 

貴重な男手として用意された力仕事担当の俺と、俺と同じように力仕事をしてトレーニングがわりにしたいと言ってきた芽吹は、特務隊としてあっちこっちに出向いては重たい物を運んだりしていた。

 

「にしても、若葉とか夏凜とかもこっち来るかと思ったんだが」

「二人なら屋台の設営ですよ。私も亜耶ちゃんの近くで手伝おうと思ったんですが...」

「ま、あそこは銀がいるしな。亜耶ちゃんが何か力仕事することはないだろ」

 

今頃あいつは看板を片手で持ってたりするんだろうか。

 

とはいえ前の二人は、確かにお店を組み立てるのも重労働に近いとはいえ、少し意外ではあった。

 

「若葉ちゃんの必死な姿!!これは撮影が捗ります!!」

「にぼっしーすごーい!じゃあこっちは出来るかな~?にぼっしーの力ならいけると思うんだけど~?」

 

(あ、うん。納得)

 

若葉はひなたが写真を撮ってくるから動かない場所を選び、夏凜は園子に誉められたり煽られたりして完成型勇者としての力を見せているんだろう。

 

「ていうかそこ二人!!仕事しろ仕事!!」

「「はーい」」

「ではその前に椿さんを一枚!」

「ひなた!」

「きゃっ...分かってます。しっかり働きますから」

 

「そちらも頑張ってくださーい」と手を振ってくる彼女に一応手を振り返し、次に呼ばれている場所に向かう。

 

「なんというか...椿さん、勇者部のお父さんって感じですね」

「お兄さんにしてくれない?まだそんな歳いってないから...というか、芽吹の一個上なんだが」

「分かってます。冗談ですよ」

 

くすりと笑う芽吹を見ると、こっちも「しょうがないか」なんて気持ちも芽生えてきてしまう。

 

「...なんか、柔らかくなったな」

「そうですか?」

「あぁ。前が悪かったって訳じゃないが、俺は良い傾向だと思うぞ?」

「...ありがとうございます」

 

そう言う芽吹の顔は、やっぱり前より砕けた感じがした。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ここの設置にあそこのが必要で、こっちのはそれですね。優先した方が良いのはありますか?」

「特にないなー。運んでくれれば後はそこの人に任せて、そのまま渡して」

「分かりました」

「しかし大丈夫か?全部やってもらうなんて」

「単純に運ぶだけですし、全体的な指示が出来る方は確認しなければならない場所が多いでしょうから。自分も一人ではないので大丈夫です」

 

椿さんと、今回の催しの統括者らしき方との話を聞きながら、地図を頭に入れ直す。

 

会場の準備はアクシデントこそないものの、予定時刻から少しずつ遅れている。大人達が焦り出しているのを感じた。

 

その中で椿さんは邪魔にならないよう必要事項だけ確認して、簡単な助言ならする。

 

「よし芽吹、これ持って行こう」

「あっちですね」

「おう。二つずつ持てるかな」

 

なるべく急ぎ足で道を進み、全て運び終わるまでひたすら往復。

 

「戦衣が使えればなぁ」

「一般の方に見られる状況での使用は控えるよう大赦に言われています」

「いやうん。分かってるよ...部室から逃げ出すために使ったりしてるけど」

 

ぼそぼそ話されたところは聞き取れなかったけれど、椿さんが遠く虚ろな目をしていたので何も触れないでおく。こういう場合聞いても何の解決にもならないことが大半だ。

 

(......)

 

「ん?なんかついてる?」

「っ、いえ」

 

つい見てしまって慌てて取り繕う。「そっか」と、椿さんは気にすることなく私から目を離した。

 

「...桜、か」

「はい?」

「いや...桜なり葉桜なり、見る前には大変なことがあったからさ。天の神とか、西暦のとか...」

 

また後半が聞き取れなかったが、さっきとは違う物憂げな表情をする彼のもとに、桜の花びらが一枚舞った。

 

「それを乗り越えてまたこうして見れることが、なんだか嬉しくてさ」

「今も造反神との戦いですけどね」

「分かってる...とはいえ、この世界はかなり平和だからな」

「...そうですね」

 

勇者候補として選ばれてからこれまでを振り返り、一番落ち着いている期間が長い時はどこかと聞かれれば、間違いなく最近だと言える。

 

「そういや、芽吹達とちゃんと関わったのもこっちに来てからだもんな」

「まだ半年程度...ですね。意外です」

 

元の世界では、仕事仲間といった印象の方が強かった。会うのは四国外への調査時ばかりだったし、会話も事務的な物が多い。

 

それが今では不定期とはいえ一緒にプラモデルを作ったりしているし、勇者部の他のメンバーとも深く繋がっている。

 

「もっと前から一緒だったように思えます」

「俺はもっと最近な感じするな~。あっという間だ」

「椿さん...」

「記憶を無くしてあっちに戻っても、またこうしてやれるといいな」

 

微笑む彼に、新たな花びらがまた一枚つく。

 

「...つきましたよ」

「お、悪い」

 

花びらを取るため黒髪に________頭に触れて、払う。ほんの少し温もりが手に移る。

 

「...また、皆で見れると良いですね」

 

きっと、防人としてのお役目をする前では言わなかったであろう一言を添えて、私は足を進めた。

 

「でも、まずは今回の仕事がありますからね?」

「あぁ。さっさと終わせよう」

「了解です」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「あー...」

「大変そうだな」

「若葉か...」

 

桜の木にもたれ掛かって座っている椿の隣が空いているのを確認して、右側へ座る。

 

「死んだ目をしているぞ?」

「さっきまでの現場を見てりゃ分かるだろ?」

「......いや、まぁ...はは」

「大体誰だよ。あの姉妹に飲ませたアホは...」

 

作業を終わらせた私達は、運営の方々のご厚意で花見をすることになった。余った料理を頂き、終わった人からブルーシートを広げていく。

 

椿も先程終わって花見に加わったのだが、頂いていた甘酒を飲んでしまった風さんと樹の相手をしていた。

 

『椿しゃんがしゃん人になってる!!しゃんにん三人!!あはははは!!!』

『つ~ば~き~!!構いなさいよ!!!あとおんぶ~!!』

 

基本的にアルコール飲料に分類されない程度の度数しか含んでいない筈のそれを、コップ一杯分飲んだだけでこれである。

 

「お正月に余っていた物らしく、多目に頂いたんだ...」

「で、風達だけに留まらなかった結果があれかよ......」

 

死んだ目が向いた先には、歌野がエアマイクを握って熱唱していて、球子や園子が合いの手をいれている。かと思えば、銀が甘酒を一気飲みして周りから拍手されていた。

 

「というか、酔ってないのだって多いだろうに...お前は平気なんだよな?」

「いや、私も入れすぎるとあぁなる。だからこれで最後だ」

「甘酒で酔う奴多すぎじゃない?」

 

私がブルーシートに横になって寝ている犬吠埼姉妹を指差し、それを見た椿がため息をついた。

 

「でもお前、前飲んだ時は全然気にしてなかったよな?」

「え?」

「いや、西暦で初めて俺らが甘酒飲んでた時...飲んでたよな?記憶が怪しい時期だったから違うかもしれないけど」

「まぁまぁ...私が自分の限界を知ったのは、椿が帰った後だったからな」

 

あの時は相当暴れたようで、ひなたが撮っていた写真では高笑いしていそうな姿が写っていた。出来れば二度と見たくない。

 

「そういえば...そうか」

「?」

「椿があの時甘酒を飲んでいた理由が分かったんだ」

 

『甘酒で、酔えると思うか?』

『......だよなぁ。こんなもんで酔えるわけねぇよな』

 

あの時の椿はきっと、甘酒で酔いたかったんだろう。風さんや樹のように_______離ればなれになってしまった彼女達のことを思って。少しでも寂しさを、孤独感を紛らわせるために。

 

その後のことを思い返して最近の椿と比較すると、あの時点で椿は普通ではなかった。思い詰めていた。

 

「大変だったんだな...本当に」

 

初めの頃は、私は寧ろ敵に思われていてもおかしくない。今更そんな思いが生まれてくる。

 

「...大変だったけどさ。よかったよ」

 

しかし、椿の声は柔らかかった。

 

「お前らと一緒に色々あって...あの時出来なかった満開の桜の花見が、こうして一緒に出来る。それだけで嬉しい」

「椿...」

「...なんてな!この話やめだやめ!恥ずかしくてやってられん」

「よっと!」

「お、芽吹じゃん。どうした?」

 

突然椿の左隣に芽吹が座り、話をそらしたかったのであろう椿はこれ幸いにと彼女へ声をかける。

 

「少し眠いので寝ようと思いまして」

「寝るってここでか...って、お前酔ってるだろ。大丈夫か?」

「酔ってません」

「芽吹、それはないだろう...」

「酔ってないわ、若葉」

 

芽吹の頬は熟れた林檎のように赤く、目がとろんとしている。明らかに普段の彼女ではない。

 

「えぇ。酔ってません。酔って、ませ...んから......」

「あらら」

 

桜の木に寄りかかるのかと思えば、彼女はあぐらをかいていた椿の左足を枕にして、丸まってしまった。

 

「......すー」

「...寝つきがよろしいことで」

 

猫を撫でるように芽吹の頭を撫でる椿。「んにゃ...」と本物の猫のような声が私の耳にも聞こえた。

 

(......)

 

「今日は結構動き回ったし仕方ないな...若葉?」

「どうした?」

「いやどうしたじゃなくて、お前...」

 

無言で、椿の肩に頭をのせる。深い理由はなく、やりたかったから__________

 

(...その、はずだ)

 

「なんだよ、酔ったのか?」

「......そうだな。酔ってしまったのかもしれない」

 

甘酒のせいだと決めつけて、頭をすりすり動かす。服越しに伝わる熱は、とても温かく感じた。

 

「......また、見れるといいな」

 

見渡す景色には、沢山の桜と、大勢の仲間がいる。

 

また皆で、桜を。

 

また隣に並んで、桜を。

 

(...また、こうやって......)

 

頭が熱でうなされたのか、安心感からか。急に目蓋が重く、思考がぼんやりしてきた。

 

(でも、悪くない...)

 

「全く...おやすみ。若葉」

「......あぁ。おやすみ」

 

かけられる言葉そのままに、私はその意識を眠らせた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

「二人とも今日は疲れたんだろ。もう少し寝かせてあげてくれ」

 

「分かっています。珍しいスリーショットは無音で撮りますから」

 

「どっちにしろ撮るんかい...」

 

「芽吹先輩、気持ち良さそうですね......」

 

「そうだな。こんなんで満足して貰えるなら、足くらい貸しますよ」

 

「では今度お願いします♪」

 

「じゃあアタシも。よろしく椿」

 

「げっ......はぁ。機会があればな」

 

 

 

 

 


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