古雪椿は勇者である   作:メレク

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今日は東郷さんと須美ちゃんの誕生日ということで、記念日の投稿です。二人ともおめでとう!!

まぁ、誕生日記念短編としておかないとなかなかその人を当日に出せないんですけどね...書きたい話を書きたい順にやってるので全然合わせられない。

ちなみに200話記念回は、メタ発言ありの振り返り特集を組みたいと思ってます。サブタイをつけてない回も多いので、見たい話を振り返れる目次的な物を作りたいと。



ゆゆゆい編 34話

「おままごとしたぁぁぁい!!!」

 

部室の外にまで聞こえてきた声に、若干嫌な予感がする。

 

「もう俺今日は帰ろうかな...」

「え?どうしたんですか?」

「いや...なんでもないです。樹部長」

 

一緒に運動部の備品チェック依頼をこなしてきた部長に心配されたら、仮病で休みますとは言えなかった。仕方なく扉を開ける。

 

(察知出来ても逃げられないなら、ラノベ主人公のように鈍感な方が良いかもしれない......)

 

「お疲れ」

「皆さんお疲れ様です」

「だだー!だだー!」

「斬新な駄々のこねかたね...」

「......はぁーぁー...」

 

芽吹がどこか誉めてるような言い方をしていて、本当に頭が痛くなる。ともかく元凶と話をするべく、深いため息をついた俺は声をかけた。

 

「園子、お前どうした?」

「つっきー!!私おままごとしたい!!!」

「いや、おままごとって幼稚園児じゃないんだから...」

 

まだお金のかかる物を使った遊びが少ない幼稚園児にとって、おままごとはメジャーな遊びだろう。安価なプラスチックのスコップとかは小道具として十分使えるし、砂場の泥団子はおままごと界の主食料理だし。

 

しかし、中学三年生がやりたいやりたいと騒ぐものではない筈だった。一緒に騒いでる園子ちゃんは小六だしギリギリセーフ_____それもアウトかもしれない。

 

「大体なんで突然?」

「園子達は幼い頃、こうした遊びをしてこなかったらしい。最近幼稚園で園児に混ざってるうちに、やりたくなったと」

「その園児とやってこいよ」

「違うのー!皆とやりたいのー!友達と思い出作りたいのー!だだだー!!」

「......皆は?」

 

俺はなんとなく押しきられる予感がしているが、一応確認はする。

 

「さっきの話聞いてると、ちょっと不憫に思えてね...」

「園ちゃんのためにやってあげたいです!」

「たまには、いい」

 

案外反対意見はゼロだった。普段からカオスを作りまくってるし、一人くらい躊躇うのがいてもおかしくないと思ったんだが。

 

「古雪さんが大体任されるだろうしね」

「聞こえてるんだが加賀城さん」

「ひっ!すいません!」

「ねぇつっきー...ダメ?」

「...はいはい。分かった分かった」

「!うん!!」

 

にぱっと笑顔になる園子。俺のかけた言葉は雑だったが、園子が遠慮なく準備してる辺り、俺自身の態度はそんなに悪いものではなかったんだろう。

 

口では嫌々言ってても、実際には良いと甘やかしている証拠だ。

 

(いつか、ビシッと断れるんだろうか)

 

そんな日は近くないだろうと思いつつ________俺も別に本気で嫌がってるわけじゃないことに無図痒さを感じて、黙って園子の動きを見るしかなかった。

 

 

 

 

 

「私ね、大きくなったらつっきーのお嫁さんになる!」

 

いつもよりもにょもにょした感じで言う園子に、俺も普段より舌足らずになるよう意識して口にする。

 

「いいよ。大きくなったらね」

「わぁーい!嬉しい!!」

 

(...あんま普段と変わんないような)

 

園子と同じ幼稚園、同学年のため同じクラスになり、遊んで仲良くなる。ただ、園子の話してる感じはあまり普段と変わらない気もする。

 

疑問に思うところはあっても、わざわざ楽しそうにしている園子に何か言うこともせず。

 

(やるって決めたからには、楽しませてあげたいしな)

 

基本的にこんな感じで幼稚園児がやるような簡単なのなら楽勝________と、思っていた。

 

「つっきーは私の!」

「いーや、アタシの!」

 

小学校低学年時代、銀と俺を奪い合い。

 

「椿君!これ!受け取ってください!」

「...ごめん。俺にはもう決めた人がいるから」

「それはあたしでもないの?」

「うん。本当にごめんね」

 

小学校高学年時代、 ユウと風の告白を振り。

 

「......」

「おーい、若葉がやってくれないと始まらないんだが」

「何故お前はそんな普通にやれるんだ...っ!古雪椿!貴様を監禁して私の物にする!」

「や、やめてくれっ!そんなこと!」

「ノリノリですね...」

「問答無用!あの女狐には渡さない!!」

 

中学生時代、ヤンデレ若葉に監禁されそうになったり、

 

「体を洗わせてくださいな」

「す、すみません!勘弁してください!」

 

園子の家のメイド、東郷につきまとわれたり。

 

「あんたま姉妹の従者になれ!」

「従者?」

「つ、付き合ってくださいってことです!」

 

高校生時代、球子と杏に若干めんどくさい絡まれ方をされ、

 

「年下はダメ...ですか?」

「小さい子もダメですか?椿さん」

 

須美ちゃんと銀ちゃんに年下アピールされながら誘惑され、

 

「歌で洗脳して...うふふふ」

「私は飲んで次に見た人のことを好きになる薬を...」

「私は木刀で気絶させるわ。おままごとを抜きにしても、一度椿さんには本気で戦ってみたかったのよね」

「なんかお疲れ...ただ芽吹それはやめてくれ。いやホントに。おいダメだって!?」

 

やっぱりヤンデレ感が出てる樹、ひなた、芽吹に襲われ。

 

「おいおい、俺達の部屋で遊んでてただで帰れると思ってんのか?」

「選びなさい。刀の錆びになるか、私達の相手をするか」

「夏凜さん芽吹より物騒なんですが!?」

 

大学生時代、同じ剣道サークルに入ってるシズクと夏凜に合宿を共にしたり、

 

「私(わたくし)、弥勒家の執事になりなさい!」

「俺、別に初代アルフレッドになるつもりないので...」

「アルフレッドの代わりに...って、初代ってどういうことですの。アルフレッドは実在する私の」

 

弥勒さんのアルフレッドにさせられそうになったり、

 

「ちゅんちゅん。私は先日助けて頂いた雀だちゅん。恩返しをしに来たちゅん」

「それ雀じゃなくて鶴では?」

 

加賀城雀の恩返しが唐突に始まったり。

 

(おままごとってこんなに人生追体験みたいなやつだったっけ...)

 

明らかに俺の知る普通のおままごとではなかったが、もう気にした時点で負けだと感じたので思考ごと放棄した。世の中考える必要の無いこともある。

 

そして、気づけば________

 

「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、 悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、 真心を尽くすことを誓いますか」

「...誓います」

「誓いまーす!」

「ふぉっふぉっふぉ」

 

白い髭をつけた園子ちゃんの前で、俺と園子は並んで誓う。何をしているかなんてすぐに分かることだった。

 

「ではお二人さん。誓いのキッスを」

「はーい。つっきー...んー」

「......いや、流石に寸止めだよな?園子??」

「んー......」

「いやだから止まれっておい!?」

 

 

 

 

 

 

キスをねだる園子の負けず結婚式を終えた俺だが、おままごと自体はまだ続いていた。

 

(全く。ホントにもう少し自分の可愛さを自覚しろ...!)

 

距離感が近いのは勇者部の良い所だとは思うが、男は狼と言う言葉があることを知っていてほしい。さっきの園子だって押し倒しかねない。

 

「つっきー、撫でて?」

「...」

 

園子の言葉で意識を外に向けた俺は、何を言うでもなく園子のお腹を撫でる。さっきのキスするまでの時間と比べればまだ平気だ。いや、変な汗は出てるけど。

 

「楽しみだね~。私達の愛の結晶」

「...結晶って言い方は好きじゃないな。物みたいで......新しい命なわけだし」

「そうだね。ごめんね~」

 

園子のお腹がほんの少しだけ動いた気がした_______まるで、本当に命が宿っているように。

 

(...あの、待って、滅茶苦茶恥ずかしいんだが...)

 

周りからの視線を感じながら、自分の嫁(という設定)のお腹(に入っている予定の赤ちゃん)を撫でるという、なかなかにアレな場面。

 

「はーい旦那さんそろそろ離れてくださいねー」

「園ちゃ...園子さんも抑えて抑えて」

「面会終了時間だ」

 

雪花と友奈(ナースらしい)と棗(園子の主治医らしい)によって、俺達は離される。

 

「えー、私もっとつっきーと一緒にいたい~」

「...園子、明日もくるから」

「また女の子引っかけてこないでね?」

「俺どんな設定だったっけ...て思ったけど、確かにかなりやらかしてるわな」

 

一度別れるように部室を出て、数秒してからまた入る。

 

「可愛い三つ子だよ...将来農業王になりそうな子、それにミトりんとちーちゃん」

「ば、ばぶー」

「アスパラガス!」

「何でこんなことに...」

 

(カオス極まってんなぁ)

 

真面目に赤ちゃんを演じている水都が可哀想になるくらいには、酷い有り様だった。

 

(......はぁ)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

「今日はありがとう~」

「別に気にすることじゃ...分かってるから。ちゃんとお言葉に甘えさせてもらう」

「うん!任せて」

 

部室でのおままごと終了後。俺は園子と銀の家に通されていた。夕飯の買い物をしなければと口にしたら、『だったらうちで食べていこうよ~』と言われたのだ。

 

「じゃあちょっと待っててね、あなた?」

「はいはい。園子の料理期待してるよ」

「!ぇへへ......ルンルン~」

「...おままごと、終わったんだがなぁ」

「まぁまぁ。椿、こっち」

 

キッチンから少し離れた部屋に通され、銀はトランプを持ってきた。

 

「待ってる間やろうぜ」

「お前は作んなくていいのか?」

「今日のアタシはお昼担当。大体椿は捕まえとかないと手伝いに行っちゃうでしょ?」

「まぁ...いや、園子の腕ならもう任せられるけどな。早く作るなら人数はいるだろ」

 

貰う弁当の出来は恐ろしい速度で上昇しており、というか既に俺を置き去りにしていて。

 

この前の唐揚げは特に美味しかった。裕翔に奪われかけて半殺しにしたほど。

 

『てめぇ歯ぁ食いしばれぇぇ!!!』

『いや、ちょっと貰おうとしただけぐわぁぁぁ!?』

 

「時間はあるんだし良いでしょ?」

「あぁ。何やる?ポーカー?」

「ババ抜き」

「初手からクライマックスだなおい」

 

後ろの方から聞こえる園子の鼻歌をBGMにして、ババ抜きを始める。残ったのは俺が一枚、銀が二枚。取ったのはダイヤのキングで、俺の上がりが決まった。

 

「...」

「......」

 

無言のままもう何回かしてみる。大体一回二回カードを引いたら勝者が決まった。

 

「...楽しい?これ」

「流石に楽しくない」

「だよな」

 

結局ポーカーを始めるためにカードをシャッフルする銀が、適当な感じで口を開いた。

 

「にしても、今日もお疲れ様」

「おままごとか?まぁ疲れたわ。お前最初ちょろっと出たくらいだもんな」

「でもやる癖に」

「そりゃ...」

 

取った五枚で最高の手を打つ為交換するカードを考えながら、俺は返事をする。

 

「俺自身楽しんでるところもあるし......そうでなくても、園子があんだけ笑顔になってくれるなら嬉しいだろ」

 

おままごとすると答えた時に見せた、喜びを全開にした笑顔。

 

自分のお腹を撫でてとお願いしてきた時の、はにかんだような笑顔。

 

さっき、料理期待してると言った時の、ちょっと驚いてから口元が緩む笑顔。

 

「あいつや周りが笑顔になるんだ。そりゃやるさ」

 

園子に限った話じゃないが、誰かが笑顔だと勇者部全体が明るくなる。周りを笑顔にさせる力を持ってる。

 

確かに色々やらされる時もあるが_________それでも、周りが笑顔に、彼女自身が本当に楽しそうに笑っている。

それを見て俺は嬉しくなるし、もっと見ていたくなるんだ。

 

「そこに理由がいるかよ」

「いやーそれでこそ椿。アタシも椿を楽しませないとね」

「別に何かしなくても、お前といるだけで楽しいから」

「......反則」

「え?」

「反則だー!!」

「なんだよ。反則なんかしてないぞ?はいフォーカード」

「え、つよ!?ワンペアなんだけど...」

 

「ホントに反則ないだろうな!?」と疑ってくる銀をあしらっていると、園子に呼ばれた。食卓には幾つもの料理が並んでいる。

 

「...うまそう。てか絶対うまい」

「だろだろ?」

「気合い入っちゃった~」

 

そう言う園子の頬は、かなり赤い。

 

「園子、大丈夫か?顔赤いぞ?」

「そ、そうかな~?でもそしたらミノさんも赤いよ?」

「え、そんなことないって!」

「いや、銀も赤いけど」

「気のせい気のせい!園子のも含めて気のせいだから!ほら、席につけ!!」

「お、おう...」

 

(...本当に元気そうだし、いっか)

 

「じゃあ頂きます!!」

「頂きます」

「頂きま~す」

 

声を揃えて合掌してから、料理達に箸を伸ばす。

 

きっとこの園子の手料理も、俺が見たい彼女達の笑顔を引き出してくれるだろう。

 

 

 

 


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