...いや、皆さんが言いたいこと分かってるんですよ。
『去年やった東郷さんは誕生日短編書かない』と決めてましたが、『東郷さんと須美ちゃんは別人では?』という自分で決めたルールの抜け穴に気づいて白目向いたのが前話の投稿約一時間前だったんです。許して......
というわけで数日遅れましたが、改めておめでとうを。
「いいんですか?」
「ん?何が?」
「一緒に遊びに行かなくて。椿さんも好きですよね?」
缶特有の音を立てながら、中に入っているみかん飲料を飲んでいく椿さん。
「確かにそれなりに来るし好きだけどさ。今はゆっくりしとくわ。それに須美ちゃんを一人にしておけないし」
「そ、そうですか...」
私は私で椿さんから目を離し、買って頂いたお茶に手をかける。
「んっ...んんっ...!」
「あぁ、貸してみ」
ぱっと取られた缶は、すぐに開けられた。かぱっと大きめな音が私の耳まで届いてくる。
「はい」
「ありがとうございます...力強いですね」
「小学生の女の子より非力な高校男子にはなりたくねぇわなぁ...」
「あ、そういうわけでは!」
「いや分かってるよ。気にすんな」
冷たくて、手から熱を奪っていくお茶。
ただそれが、普段よりも沢山熱を奪われている気がした。
そのっちと銀、椿さんと来ていたイネス。今日は新学期に必要なノートなんかの買い出しだ。
私達三人で行く予定だったのを、保護者的立場として椿さんが一緒になった。提案したのは銀で、私達も椿さん自身も断る理由がなかった。
『小学生はまだ鉛筆にノートがメインだよなぁ...』
『高校生は違うんですか?』
『シャーペンにルーズリーフだなー。俺はノートも結構使うけど、鉛筆は全然触んない。マークの受験に触ったくらいか...』
同学年の方々と比較しても椿さんはかなり頭が良いらしく、部室ではたまに私達に教えることもあれば、風さんや千景さんに教えてる姿もあった。
『塗りやすいんでしたっけ?』
『そうそう。わざとそんな尖らせないようにしてな』
『高校の勉強とか出来る自信ないなー...パンクしそう』
『俺だって大学受験のをパラパラ捲ったが、数年後受ける可能性があるとか考えたくなかったよ。そんなもんさ...園子はもう出来てたけどな』
『園子先輩すげー!!』
『ま、先のことなんて気にしても仕方ないんだけどな。記憶は持って帰らないみたいだし』
『銀、椿さんはこう言ってるけどちゃんと勉強はしとかないとダメよ?』
『まだ何も言ってないのに!?ていうか分かってるよ須美!ちゃんと勉強してるでしょ?たまに寝ちゃうけど...』
銀が自分の発言のせいで椿さんお手製のテストを受けるのが決定したり。
『!これ美味しい!』
『おいしー!!』
『まさか、イネスから出る発想があるなんて...!』
『イネスから徒歩五分のお店はチェックしている。イネスだけじゃなくその周辺も把握するのが真のイネスマイスターさ』
『かっけぇ...!!!』
イネスから少し離れた場所にある美味しい洋食料理屋さんに連れていってもらったり。
「とりゃっ!」
「なんの!」
「はいやー!!」
「ちょいさー!!」
そして今、私達四人は遊技場(ゲームセンター)で遊んでいる組と、飲み物を飲みながら長い腰掛けに座って休んでいる組に分かれていた。
「おー、派手だねー...エアホッケーであんな動きいらないと思うけど」
「......」
私が気になったのは二人の動きじゃなく、その奥に鎮座する戦艦の模型だった。機械を動かして景品を取る物だ。
「......」
「須美ちゃん?」
「あ、はい!?なんでしょう?」
「何か用ってわけじゃ...ボーッとしてたからさ。悩み事?」
「いえ、特に...あの、先のことが気になって」
戦艦をよく見ていましたと言うのは少し恥ずかしくて、とってつけたような言い訳をしてしまう。
でも、口から出たことも嘘ではなかった。
「先の?」
「...私達はいずれ、元の世界に戻ります。そうでなくても、この世界で造反神と戦っています」
東郷さんという二年後の私がいるのだから、なんとなくの予想はつく。私は元の時代に戻ってから一年程度で、友奈さんと仲良くなり、勇者部に所属しているんだろう。
今こうして隣にいる方とも、初対面として話すのだろう_______銀の幼なじみなのだし、中学生になる前に知り合うかもしれない。
「気にしすぎるのは良くないと分かってはいるんですが......」
『最近、皆さん浮かれているんじゃないですか!?』
『須美、根気を詰めすぎだぞ!そんなんじゃ楽しくないし、お前自身も疲れるだろ!』
以前、お役目に対して意識が低いと注意して、逆に球子さんから注意されたこともある。実際は私が八つ当たりに近い行動で、それ以来気負いすぎないようにとやってはいるけれど。
(私は、変に気負うと失敗しやすいから...)
それは、そのっちや銀と一緒にやった最初の戦いの時も。いい加減に見えた二人を見て、私がなんとかしなければと思い込んでしまった。
勇者部がそんな空気を主体としないのも分かっているし、私もこうして明るく楽しくいれることが心の底から嬉しい。
ただ_________
「でも、頭から離れなくて」
「......そっか」
椿さんは私の話にそれだけ返して、みかんジュースを飲んだ。軽く横に揺らすと、中に残った液体が存在を主張するように鳴る。
「でもさ。それってそんなに悪いことでもないと思うよ」
「え?」
「勇者部はそうやって危機感を持ってる奴というか、先のことまで見据えてる奴が多くない。俺も戦術というか、そうした作戦を考えたりするが、未来なんて分かんないし知らない。さっきの大学受けるかもーとかな」
そのっちと銀をどこか遠い目で見て、椿さんは喋り続けた。
「...もしかしたら、明日突然誰かが消えるかもしれない。世の中に絶対はない」
「...!」
張り付いたような顔は無感情で、怖くて。
「だから、一人くらいそういうことを考えてる子がいることは大事だと思うし、気にしちゃうのも須美ちゃんらしいと思う。強いて言うなら...気にしすぎないようにすればいいんじゃないか?」
「気にしなさすぎないように...ですか?」
一瞬でいつも通りの顔に戻った椿さんの言葉を、私は反芻することしかできない。
「あぁ。だってそれを気にしてる理由は、未来をより良いものにするためだろ?楽しく友達と遊ぶための。その努力は誉められても貶されたり止められたりするもんじゃない」
「椿さん...」
「でも、そればっか気にして今楽しめなかったら損じゃん?折角過去の自分が努力したのに」
流れてくる言葉は、すんなり私の中に入ってくる。ふわっと暖かい感じがする。
「それでもダメなら、そうだな...今は俺達もいるし、もっと頼ってくれていい。拒む奴なんて誰もいないだろうし」
「......ありがとうございます」
「お礼まで言われることじゃない」
何でもないようにしている椿さんに、くすっと笑ってしまい。
「須美ちゃん?」
「...では、少し頼っても良いですか?」
「ん、わざわざ言ってくる必要も...?」
私は自分の体を、少しだけ椿さんにくっつけた。服越しに腕から少しだけ体温が吸われていく。
「ちょっとだけ......」
「...了解」
結局、そのっちと銀から遊びに誘われるまで、私は椿さんに寄りかかっていた。
________最後の方、頭を撫でられるのが心地よかった。
『まぁ、銀お墨付きの技だからな』
(...早く、仲良くなれるといいな)
今の椿さんとももっと。元の世界に戻ってから出会う椿さんとも早く。
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「大丈夫ですか?」
「あれ、東郷?」
後ろを振り返ると、東郷がいた。
「何でここに?」
「友奈ちゃんが踊りたいと」
「それで俺のところに来たのか?」
「友奈ちゃんの踊りは一曲目で撮り終わりましたから。それに...それ、誕生日用でしょう?」
「バレバレか。安心しろ。お前のは別で用意してるから」
「しなくてもいいんですよ?」
「バカ言え」
小学生組と一緒に文具の買い出しが済み、しっかり寮に送り届けてから、俺はバイクでこの場に戻って来た。
もうすぐ四月八日。東郷と須美ちゃんの誕生日だ。東郷にはこの準備期間に入る前から気づかれていたが、須美ちゃんはそうでなかったので、保護者役として付き添うついでに一日観察し、目ぼしい物を探した。
商品を吟味し直すため、俺は東郷に背を向ける。
「須美ちゃん、喜んでくれるといいですね」
「そこに関しては心配してない。喜んでくれると思うぞ」
「ふふっ...凄い自信ですね」
「今できた自信だがな」
「え?」
ガラスに反射して映る彼女の顔を見直して、俺は思っていることを口にした。
「今の東郷の顔に、『私も欲しい』って書いてあるからな」
「...っ!?」
例え中学時代を過ごしてきた彼女でも、一度記憶を無くしている彼女でも、好きなものが変わるわけじゃない。性格が大きく変わるわけじゃない。
友達の為に無茶をしがちなところだったり、悩むと自分で抱えがちだったり__________
「ちゃんと取るから待ってろって」
「古雪先輩...分かりました。では、お言葉に甘えさせて頂きますね」
そう言う彼女は、彼女とよく似ていて、そんなに似ていなかった。
「あの、古雪先輩。私あぁ言いましたけどご無理は...」
「東郷さーん!あ、椿先輩も!」
「よぉ、友奈」
「友奈ちゃんも言ってあげて。これで何度目か......」
「東郷。人には得意不得意があってだな...次は。次こそはぁあぁぁ!?」
俺の財布から3000円を吸いとったUFOキャッチャーは、二人が望む戦艦(大和と書いてある)の模型を出すことはなかった。
「頑張ってくれよアームゥゥゥ!!」
「「あ、あはは......」」
倍額に届きそうな時店員さんが二つ取ってくれて、無事手にいれることが出来た。やはりイネスは人の心も育ませる素晴らしい所である。
須美ちゃんに渡す時は、嘘も真実も言わなかった。自力で取ったとは言いたくなかったが、店員さんが取ってくれたとも言いたくなかった。
『ありがとうございます!大切にします!!』
『ありがとうございます。古雪先輩』
______まぁ、それも、彼女達の嬉しそうな顔を見れたから、良いだろう。