古雪椿は勇者である   作:メレク

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二話 勇者の役目

「は?」

 

時が止まった。と言えばいいんだろうか。周りから聞こえていたノートをとる音は消え、チョークを刻む音も消え、石化したかのように動かなくなる。

 

「...どうなって」

「あんた動けるの!?」

「風?」

 

唯一、近くの席で授業を受けていた風だけが俺以外で動いていた。

 

「やっぱり...ついてきて。あとスマホ忘れないでね!」

「?...どうなってんだホント...」

 

わけのわからない状況の中、銀が呟く。

 

『樹海化...!』

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

銀が『勇者』というお役目を務め、死んで、俺の中に入り込んでから、俺は銀のやっていたことを聞いた。

 

『アタシ死んだらしいし時効?だろ?』

 

確かに死んだやつから聞きました。と言えば大赦につれてかれてもそのまま病院送りだろう。

 

曰く、四国以外の世界を滅ぼしたのはバーテックスなる異形の怪物。そいつらに対抗するため、神樹様と大赦は勇者システムを開発し、バーテックスと戦う力を得た。

 

勇者システムというのは神樹様から力を受けとるらしく、人間離れした力で外から神樹様に迫るバーテックスを追い払う。というのが、お役目らしい。

 

その時世界に直接的影響を及ぼさないよう神樹様は時を止め、特殊な世界を作る。これが樹海化。

 

(...つまり、迫るバーテックスを止めなきゃ四国滅亡。止められるのは選ばれた勇者のみ...ゲームかよ)

 

「お姉ちゃん!」

「樹!よかった...」

「大丈夫か?」

「古雪先輩も!?皆が固まっちゃって、それで...」

「よく聞いて。アタシたちが当たりだった」

 

その時、辺りが白く光る。瞬きした後には、一面が樹木に覆われ、おとぎ話にでもでてきそうな空間が広がっていた。

 

「...なんだここは」

「椿も樹も、疑問はあるでしょうけど...まずは友奈と東郷と合流しましょ」

 

スマホを見つめて動く風についていくと、二人を無事に見つけることができた。

 

「風先輩!?皆!」

「一体何が...」

「ふぅ...皆よく聞いて。勇者部の部員にダウンロードしてもらったアプリ。その隠し機能は、この事態が起きた時に作動するようになってる」

「隠し機能...風先輩は何か知っているのですか?」

「アタシは...大赦から派遣された人間なの」

「大赦って...神樹様を奉ってるあの?」

 

(全員の頭に疑問マークがついてそうだな)

 

俺は前から銀の話を聞いていて、なんとか普段の冷静さを保ててはいるが、他は無理もないだろう。

 

「ここは神樹様の作り出した世界?」

「バーテックスを倒さないと世界が終わる?」

「そう。世界の恵みである神樹様の元にバーテックスがたどり着けば、世界は滅ぶ」

「っ...」

 

(...!)

 

風達の話には一切入らず辺りを見ていると、異形の怪物が姿を見せた。

 

「なんだありゃぁ...」

 

(あれがバーテックスだよ!)

 

「へぇ...」

「あんなの...どうして私達が...戦えと言われても無理よ!」

「戦う意志を示せば、アプリの機能がアンロックされて、勇者になれる」

「勇者...?」

 

突然バーテックスが動きだし、地面を揺らした。

 

『キャー!』

「無理よ...あんなのと戦うなんて」

 

東郷が始めに弱音を吐く。

 

(俺も、異常なことが起きすぎて逆に冷静になってるだけだがなぁ...)

 

勇者部に入ったとき入れたアプリを開くと、確かに以前は見なかったボタンがでかでかと表示された。

 

(...これで、勇者になれるのか?)

(前のとはちょっと違うけど、間違いないよ!)

 

先代勇者からのお墨付きは得た。あとは勇者となるかどうか。

 

(...なるに決まってんだろ)

(椿?)

 

「友奈は東郷と樹を連れて逃げて!」

「は、はい!」

「お姉ちゃん!私は一緒に行くよ!」

「樹...」

「何があっても一緒に...」

「っ...椿は?アンタは」

「なるよ。勇者。ここで動けてるってことは、俺にも素質があるってことだろ?」

「え、えぇ...男の勇者なんて聞いたことないけど」

「...よしっ」

 

一呼吸して、アプリのボタンを押した。

 

辺りがさっき見たように白く光る。中学の制服から、燃えるような赤い装束に変えられる。

 

光が弾けて消えた時には、俺は見たこともない衣装に身を包んでいた。同じく風は黄色、樹は黄緑の衣装に身を包んでいる。

 

(うぉー!これアタシが使ってた奴じゃん!)

 

「どうやったらあれ、外に追い返せるんだ?」

「追いかさなくていい。この場で倒せばいいのよ。ダメージを与えればバーテックスは御霊を吐き出す。それを破壊するのよ」

 

(アタシ達の時は追い返すことしか出来なかったけどなぁ...倒せるようになったのか!!)

 

「今は精霊が力を貸してくれる...行くわよ!」

 

風はどこからともなく大剣と犬の様なゆるキャラを作り出し、切り込んでいく。樹も後から続いた。

 

(...落ち着け。落ち着け)

 

「フォローくらいしろっての...結城、東郷、安全な場所まで連れていくぞ...といっても、どこが安全なのかはわからないけど」

「古雪先輩、私のことはいいから友奈ちゃんを守ってあげてください」

「東郷さん!?」

「車椅子の私はご迷惑に...あたっ」

「アホ言ってる暇あったらさっさと逃げるぞ。見捨てるくらいなら肉壁になった方がましだ」

「っ...」

「そうだよ東郷さん!」

 

一応樹海の中でもバーテックスから影になっている場所まで連れていく。

 

「じゃあそこで待ってろ。俺も前に出る」

「先輩...」

 

何か言おうとしている結城を置いてひたすらバーテックスに向かう。

 

「俺の武器は...」

 

念じると、手元に二つの斧が出てきた。武骨なそれは確かに強そうだ。

 

『アタシの武器じゃん!もうこれアタシのなんじゃね?』

「お前にはやらん!精霊は...いないのか」

『アタシの時もあんなゆるキャラいなかったなぁ...新しいシステムなのかも?』

「へぇ...まぁいいや」

 

全力で動いていたからか、風達が慎重に進んでたのか。あっという間に風達の元にたどり着く。

 

(ここまできたら...もういいよな)

 

「椿!」

「あのバーテックスを倒せばいいんだろ?周りの白いのは?」

「バーテックスが吐き出した取り巻きよ。初めてだし慎重に__________」

「了解」

「あ、ちょっと!」

「古雪先輩!?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

『なぁ椿、アタシの方が慣れてるし代わるぞ?』

「いいから黙ってろ。銀」

 

バーテックスを見た瞬間、ある希望が見えた。勇者になった瞬間、それは現実となった。

 

「よぉ。バーテックス」

 

異形の怪物に挨拶する。勿論返事はない。

 

ある種の興奮、ある種の希望。

 

この力があれば______銀の敵が討てる。

 

「お前を許すつもりはない」

 

弟思いで、友達思いで、トラブル体質で、優しくて、綺麗で、かっこよくて、かわいくて、好きだった銀はもういない。

 

確かに俺の元には今、銀の人格が存在する。だが『三ノ輪銀』という一人の少女の人生は終わってしまった。神と化け物の戦いに巻き込まれたせいで。

 

「さっさと死ね」

 

だから俺は、敵をぶちのめせることに笑顔を作りながら__________両手の斧を振り回した。

 




ゆゆゆシリーズはヒロイン力高いキャラが多くて誰の話を書こうか悩みます。

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