古雪椿は勇者である   作:メレク

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今日は防人の隊長、芽吹ちゃんの誕生日!おめでとう!

誕生日イラストでワンピース芽吹ちゃんを見て、書きたいなーと思いました(間に合うわけないんだよなぁ...)


誕生日記念短編 辛口ジンジャー

今日、五月九日は芽吹の誕生日だ。この世界に来てから知ったので初めて祝うのだが、彼女が俺に頼んできたのは________

 

「やるのか?」

「はい。全力でお願いします」

「......了解」

 

主役に頼まれては仕方ない。俺は、赤い戦衣を身に纏う。

 

「じゃ、やらせてもらう!!」

 

 

 

 

 

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「ではこれよりぃ!!椿さんバーサァス!!芽吹さんの試合を行いまぁぁぁぁす!!!実況は私(わたくし)、ミノ・ワーギンと!!」

「解説、ノギ・ソノーコがお送りするぜぇ!!」

 

実況席に座ってる二人が叫ぶ。ちなみに、ちっちゃいアタシとおっきい園子だ。

 

芽吹が誕生日にお願いしてきたのは、椿との一騎討ちだった。前々からやってみたいとは言ってたし、ここまでは別に予想できた。

 

予想外だったのは、かつてアタシ達が特訓で使っていた修練場を大赦がまた用意して、ちゃんとした場所として揃えたことだった。

 

「何で大赦はここまでしたんだ...」

「あたし達がやれることないから、やるならド派手にって大赦に頼んだのよ......」

 

風先輩は自分でもビックリしてる様子で客席に座っていた。屋根つきのサッカーグラウンドと同じくらいの大きさがあるから、全員が座っても観客席はがらがらだ。

 

「一番大赦に知られてる夏凜の血の気が多いからかねぇ」

「え!?私なの!?」

「ほら椿、本当か嘘か分からないことは言わないの」

「いや、多分嘘だから本当とか言うなや、銀...」

 

準備体操する椿は、芽吹の方をすっと見た。

 

「お互い勇者服を着て、先にバリアの補助を受けた方の負け。それで良いんだよな?」

「はい。ただの木刀なら何度かやってますし」

「まぁ」

 

椿もよく浜辺で鍛練はしてるから、その時にでも戦ってきたんだろう。他だと若葉とか夏凜とか。

 

(この四人が鍛練組かなぁ...となると)

 

「若葉、よく二人のこと見てるだろ?どっちが勝つと思う?」

「そうだな...私は芽吹に一票だ」

「え、そうなのか?タマはてっきり椿と言うかと...」

「かなり長い間練習を積んでいたようだし、普段の動きを見ても『基本は』芽吹の方が強いと思う」

 

若葉はそこまで言って、一度タメを作った。言う言葉を迷っているのか、それとも何かを思い出しているのか。

 

「ただ、対人戦闘において言えば。椿の意表を突く攻撃は一瞬で状況を変えるからな。芽吹ならいなせると思っての結論だ」

 

『俺はお前や芽吹や若葉達みたく、どこかで誰かに教えられたわけでもなければ、やり込んできた年数も短い。赤嶺はそこからもっと対人に特化してる。そいつらと互角以上に戦うなら、普段の練習だけじゃなく、本番でいかに不意をつくために頭を使っていくかだろ』

 

以前椿がそんなことを言っていたのを思い出した。 昔から戦術を考えるRPGをやったりもしてたあいつらしいといえばらしい。

 

「じゃ、アタシは椿に一票かな。また何かしら見せてくれるでしょ」

「銀は雑だなー...」

「まぁまぁ」

「じゃ、やらせてもらう!!」

「あ、始まる?」

 

話に夢中になってるうちに、二人がそれぞれの戦衣を着込む。

 

「椿ー、いるー?」

「ん、そうだな...頼めるかー?」

「はいはい。そうらっ!!」

 

アタシも勇者の姿になって、二振りの斧を投げつける。地面に突き刺さったそれを、椿は片方だけ抜いた。

 

「それでは、両者見合って見合って...の前に、銃は構えないでくださいよ二人とも!つまんなーい!!」

「「だってバリア使わせればいいんだし」 」

「誰も弾丸が飛ぶだけの試合を見たいわけじゃないんです!!飛び道具撃つの禁止!!」

「はーい」

「仕方ないわね...」

 

(いや芽吹、折角誕生日としてお願いしたやつがそんな終わらせ方でいいのか?)

 

本人の心情を理解する前に、ちっちゃいアタシが開始の合図を告げる。

 

「じゃあ改めて...よーい!スタート!!」

 

 

 

 

 

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芽吹の強さはある程度知っていた。木刀でなら何回か戦ったこともあるし、若葉と夏凜も混ぜてやったこともある。樹海でも何度か。

 

でも、戦衣を纏った状態の、敵として相手する彼女は想像以上の強さだった。

 

「はっ!!」

「ッ!」

 

斧と銃剣が二本ずつ。それぞれが独立した軌道を描いて相手を倒そうとするが、それも互いの武器で弾きあっている。

 

(隙がない...!!)

 

努力によって磨かれた技術と、相手を倒すという熱意。食らいつこうとしてくる牙に対して、俺は防御寄りの動きを取らざるを得ない。

 

(リーチは案外同じくらい、銃まで使われてたらきっと俺はもう負けてただろうな)

 

「だがっ!!」

 

俺だって自分の最強武器。易々と勝ちを譲るつもりなんてない。足を狙って無理矢理振るった斧を警戒して、彼女は一度距離を取った。

 

「...何故椿さんがいつも私より重くした木刀を二本も振るってるのか不思議でしたが」

「普段使えない武器だがな。簡単にはやられないぜ?」

「そうでなくちゃ...行きますよ!!」

 

これまでより速い剣の突きを斧で止める。一本受けきったと思っても、反対の手に握られたもう一本が。それを止めてる間に最初の一本がまた準備している。

 

当たり前の動きではあるが、夏凜と同じ二刀流の練習をしていただけあって、その速さは体をついていかせるのでかなりの集中力を割かざるをえない。一歩二歩と足は下がっていく。

 

(俺のはパワータイプだしな...!!)

 

相手を弾き飛ばせる力があっても、簡単に体勢を崩すまでにはいかないし、その間に一撃入れられても意味がない。

 

(銃の先に剣がついてる銃剣でよくやれる!!)

 

刀と使い方はかなり違うと感じるのだが、彼女の動きにその誤差で苦戦している印象は全くなかった。

 

「どうしました!?攻撃を受けるだけですか!?」

「煽りおる...なぁっ!!」

 

俺が出来ることを模索する。芽吹から勝つためにどうすれば_________

 

(......一か八か、やりますか!!)

 

やることは纏まった。なら、あとは実行するだけだ。

 

「芽吹ッ!!」

 

唐突に、かなり強引に斧を走らせる。自分の一本を犠牲に、芽吹の銃剣も一本弾き飛ばした。

 

あいつは防人として活動していた時、元々一本だったらしいから、これでも動きのキレは変わらないだろう。この世界なら『武器を手元に呼び戻せる』ことを理解しているかは分からない。

 

(戻されるとしんどいが...!)

 

多分、芽吹は一本でも戦えることから、二本に戻すことまで頭が働かないと思う。一種の賭けだ。

 

「くっ!」

 

どちらにせよ、彼女にとって想定していた状況とは違う事態に陥ったのは事実。冷静な彼女はきっと引いてくる。俺は強引な攻めのせいで前に倒れそうなので逃げること自体は容易_________

 

(さぁ芽吹!!ここまで考えといてくれ!!!)

 

斧を弾いた左手を腰まで持っていき、右手に握った斧は地面に突き刺す。そのまま体を預け、両足を空に向けさせる。

 

片腕だけで体全体を支えた棒高跳び。普通の人間なら異常な曲芸だが、勇者ならやること自体は難しくない。

 

「おぉー!?椿さんすげー!?」

「つっきー飛んだー!?」

 

実況者の声を気にも止めず、目線はひたすら相手である彼女へ。

 

「受け取れっ!!」

 

そう叫んで、俺は『腰から引き抜いた銃を向けた』

 

「っ!?」

 

さっき、銃の『撃つ』のは禁止されている。だから俺は、その引き金は引かない。

 

(それでも、突然銃を向けられれば...警戒するよなぁ?)

 

ルール違反ではないかという疑問と、突然銃の向けられたことに対する動揺と警戒心。それは芽吹の思考速度に負荷をかける。

 

「はぁぁぁ!!!」

「!っ、はぁっ!!」

 

それでも、彼女は動くのをやめない。斧を弾くよう銃剣を突き出してくる。

 

ほぼ理想の動きで、無意識に笑みが溢れる。

 

(この瞬間を、待ってた!!)

 

斧と銃剣がかち合う瞬間、俺は斧を手放した。銃剣につつかれた斧は俺の見えないところで甲高い音を響かせる。

 

「!?」

 

驚いた顔をしたまま無防備な状態で懐まで入ってきた芽吹を押し倒した。

 

「はぁー...これで、俺の勝ちだ」

 

手元に呼び出した短刀を首もとに当てれば、彼女は静かに目を閉じる。

 

「...負けました」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「メブー、もう上がっちゃうの?折角の温泉だよ?」

「...思ったより熱かったから」

 

雀がそう言ってくるけれど、私は気にせず立ち上がり、脱衣場へ向かった。

 

大赦が用意してくれた施設についている温泉。椿さんを除いた勇者部全員で入っていて、騒がしくしている側、静かに楽しんでいる側がいる中、一番始めにお湯からあがる。

 

口にしたことも事実だけど、それ以外にも理由はあった。

 

(...)

 

さっきまでの加速された思考が収まらず、まだ熱を発しているように感じる。脳がそんな状態だと、温泉が気持ちよくても長く入れなかった。

 

『はぁー...これで、俺の勝ちだ』

 

私にのしかかって刀を突きつける椿さんの顔は、かなり疲れていて息も荒かった。でも、そんなに苦戦した印象も受けなかった。

 

(あんなやり方で距離を詰めてくるなんて...)

 

強引な前傾姿勢を移動に持っていった斧での高跳び。使用禁止とされていた銃を、銃口だけ向けてきたこと。更には迎撃される斧を手放し、短刀に持ち変える_______リーチを変えることで私の銃剣による攻撃を無駄にしたこと。

 

少なくとも最後のはバーテックスと戦ってるだけなら必要ない技術。

 

(でも、事実それで負けた)

 

普段木刀で練習している時にはまるで見たこともない。刀を何もない所から出せるわけがないから当然と言えば当然だけど。

 

(驚くことばかりで、学べることも多かった)

 

タオルで丁寧に体についた水分を取り、ドライヤーで髪も乾かす。バッグから出していた着替えを着て、赤い暖簾をくぐる。

 

(頼んで、正解だったわね)

 

ちょっとまだ燻ってる部分も多いが、結果としては勉強になった。赤嶺友奈と戦う可能性もある以上、これも十分な成果だ。

 

全て、どんなことでも無駄なんてことはないのだから。

 

「ないのかーい」

「?」

 

声の方を見れば、タオルを首にかけてる椿さんが自動販売機の前で手を頭にあてていた。

 

「どうしたんですか?」

「ん?芽吹?早いな」

「一番最初に出てきました。他の人はまだ全員お風呂です...それで?」

「あぁ。温泉あがったらコーヒー牛乳が相場だと思ってるんだが...ほれ」

 

指を指された自動販売機の中には、コーヒー牛乳がなかった。

 

「大赦に後で言っとこ」

 

本気なのか冗談なのか分からない言い方で、椿さんはジンジャエールのボタンを押した。

 

「芽吹は何かいるか?」

「...では同じのを。ありがとうございます」

「はいよ......あ、辛口って書いてあるじゃん...大丈夫かな」

「辛いの苦手でしたっけ?」

「いや、飲んだことないやつだから辛すぎたらやだなって。芽吹は平気か?」

「大丈夫だと思います」

「ダメだったら俺がどっちも飲むからな」

 

渡されたジンジャエールは、生姜の色をかなり残している。

 

それは、椿さんの言う通りかなり辛そうに見えて_______いや、それ以外の理由があって、蓋を開けることなく、私は椿さんを見た。

 

「......椿さん」

「ん?」

「今日はありがとうございました」

「いや、寧ろ誕生日があれで良かったのか?」

「はい。得るものは凄く多かったです」

「あんま俺の動きで得るものはどうなんだろうって思うけど...」

「そうですか?」

 

椿さんは微妙な顔をしながら、「座ろうか」と言って近くのソファーへ歩いていった。ついていって隣に座る。

 

「だって、銃口だけ向けたり、リーチを短くしてお前の攻撃を避けたりしたんだぜ?」

「......完敗でした」

「そんなことない。たまたま勝率が高い方に転がっただけだからな」

「例えば?」

「えーと...芽吹が銃を向けられた時、迎撃を選んでくれたこととか。あのまま下がられたのを追撃するとなると、持ったままの斧を投げるくらいしか出来なかったからな。流石にバランス崩すだろうし」

 

あれは、確か________

 

「銃を向けられて、『下がっても無駄だ。なら迎撃しよう』って思ってくれるのが理想だったから」

「...凄いですね。まんまと引っ掛けられました」

「やったぜ」

からから笑う椿さんは、すぐに静かになる。

 

「...とまぁ、確かに上手くはいった。ただ、自分でも分かってるが、勇者らしくはないんだよ。本来勇者じゃない俺が、ずっと鍛練して基礎が高い勇者達相手に上手く立ち回るには、そうした搦め手を使っていかないと厳しい」

「...それは、勇者になれなかった私に対する当てつけですか?」

「あ、いや、そんなつもりは!」

「ふふっ。冗談ですよ」

 

椿さんがそんなことわざと言う人ではないことなんて、ずっと前から知っている。本当にちょっとからかいたかっただけだ。

 

「はぁ...話を戻すぞ。確かに俺はそうしたことをやってる。でも、さっきも言ったように勇者らしくはない。勇者は...皆は、真っ直ぐ純粋だから、あんま真似してほしくない......実際友奈が猫だましとかフェイントとかあんましなさそうじゃん?」

「確かに...」

「俺みたいな動きは似合わないから、あんま学ばないで欲しいなって...芽吹もさ」

「......くすっ」

 

その言葉に、疑問とその回答が同時に浮かんで笑ってしまった。

 

「?」

「いえいえ...じゃあ椿さんはどうして今日、自分で言う搦め手を使って私と戦ったのかなと」

「それは...」

「本気で来てくれと言ったから。というのもあるとも思います。誕生日の人のお願いですし。じゃあそもそも何故、そんなにやるのかなって」

「?」

 

この人が、そうやって戦術を考えて、力をつけている理由は。

 

「皆を守るために戦う上で必要だから。じゃないですか?」

「...まぁ、俺がやってる理由はそうだな」

「私は...私は、その姿勢を尊敬しますし、真似したいと思います」

「お前...」

「何より、椿さんの行動を勇者らしくないとは思いません。絶対に」

「!」

 

大切な人を守るために考えて行動する椿さんを、私は否定しない。

 

(私に言われるまでもないでしょうけどね)

 

「...ありがと」

「いえ」

「......」

「......っ」

 

急に来た沈黙を破るため、ジンジャエールの蓋を開ける。二口くらい飲んで、目を開く。

 

(っ!?)

 

耐えられない程じゃないけど、辛い。通られた喉が焼きついたようにジンジンする。

 

「こりゃ効くなぁ...ビックリしたわ」

「確かに、本当...でも、よかったかもしれません」

「え?」

「......なんでもないです」

 

記憶は単体よりも、幾つか繋げていた方が残りやすい。きっと私は今日のことを忘れないだろう。

 

椿さんの戦い方も、思いも。私のこの思いも。そして、ひりついているこの味と熱さも。

 

 

 

 

 

「あー、メブなに飲んでるの?」

「ジンジャエールよ」

「いーなー。頂戴?」

「はい」

「ありがとー。メブ流石...いたっ!?」

「ふっ」

「言ってやりゃあいいのに......」


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