古雪椿は勇者である   作:メレク

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振り返りが体感凄く長くやってたので、久々に感じるゆゆゆい編。
...と思って見返したら、最後のゆゆゆい編更新したの一月以上前でした。マジか。


ゆゆゆい編 35話

「加賀城さんが皆にプレゼントを配ってる?」

 

東郷がくれた煎餅を食べてると、芽吹がそんなことを言ってきた。

 

「はい。バーテックスとの戦いで自分を優先して守ってほしいからと...俗に言う賄賂です」

「直球だなー」

「椿さんにもそのうち来ると思いますから、是非断ってほしくて」

「まず加賀城さん、守る必要あるのかな?」

 

正直、防御に関しては全勇者含めて右に出る者はいないと思う。

 

(野生の本能ってのが一番近い表現だろうか...あの盾の使い方は見習いたいもんだがなー)

 

「私もそう思いますが、雀自身は守ってもらわないと死ぬと思ってますから。勿論私も非常時は守り抜きますが...」

「賄賂というか、そういうのは違う。ということか」

「はい」

 

まぁ、芽吹の意見には賛成できる。

 

「分かった。余程のものが来ない限り断るよ」

「余程のもの...?」

「...返金出来ない車とか渡されたら、断るとかの前に心配しなきゃいけないことが多すぎるだろ?」

「あ、あぁ...」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ルンルルンルーン♪」

 

私は今日も勇者部の部室に向かう。あるのは少しの緊張と、多分平気だろうっていう余裕。

 

現在私は皆さんにプレゼントを渡し、対価として樹海で守ってもらえるようお願いをしている。

 

『雀、貴女にも戦う力はあるのよ?』

『そうですわよ?大体、私達防人全体が弱虫みたいなイメージも持たれそうですが...大丈夫ですの?』

 

メブや弥勒さんはそう言うけど、私は自分の力を自覚した結果、一番生き残りやすい選択をしているだけだ。

 

(最近はメブも守ってくれないし)

 

だから、賢い行動だとは思う。お陰でお小遣いがすっからかんだけど。

 

(でも、古雪さんには秘策があるもんね~)

 

これから向かう部室にいるであろうターゲット、古雪さんには、私がお金を使わずとも利用できる話がある。強いて言えば、劇薬になりすぎるかもしれないのが難点なくらいだ。

 

(ふっふっふ...古雪さん。覚悟してくださいね)

 

「お疲れ様でーす!」

「来たわね、雀」

「おぉ加賀城さん。お疲れ」

 

古雪さんとメブ以外には、パソコンをカチカチやってる東郷さんだったり押し花を作ってる友奈さんだったり、大体のメンバーが揃ってた。

 

(よし...やるぞー!)

 

「古雪さん、実は折り入ってお話が...」

「早速かい」

「へ?」

「樹海で守ってくれって話だろ?芽吹から聞いてるぞ」

「ギクッ」

 

ちらっとメブの方を見ると、鬼の角でも生えそうな表情をしてこっちを見ていた。

 

(でも、メブが悪いんだからね~。私を守ってくれないから)

 

「...でも、古雪さんにはとっておきの話なんですよ?」

「へー......一応聞こうかな?」

 

話に食いついた古雪さんに、私は笑みを浮かべた。

 

「へっへっへ...私が古雪さんに差し上げるのは...一生分のみかんです!」

 

どや顔で私が言うのと、古雪さんが持っていた煎餅がバキバキに折れるのは同時だった。というかこの人煎餅粉砕して悶えてる。

 

「椿さん!?」

「お、おぉぉ...!!先に構えてなければ即食いつくところだった......」

「おしかったかー」

「んんっ...ていうかどうやってそれを用意するつもりだよ。言っとくが風のうどん並みとはいかなくともそれなりに食べるぞ」

「あたし引き合いに出す必要あった?」

 

私は私で、この切り札の理由を口にする。

 

「私はみかんの国、愛媛の生まれ。そして両親はみかんを育ててます」

「まさか...!!」

「そう!仕送りとして沢山のみかんが送られてくるのです!!」

 

これが私がお金をかけずにいられる理由。私もよく食べるけど、段ボールで送られてくるからそれでも余るなんてよくあることだ。

 

「さぁ古雪さん!条件を飲めばみかんだけでなく、生搾りみかんジュースだって思いのまま!!」

「なん...だと!!」

「椿さん!?」

「つっきーダウンー!机に倒れ込んだー!」

「そのっち。今は面倒なことになるから静かに...」

 

ほぼ勝ちは決まった。メブがこっちを睨むけど、気にしない。

 

ちょっとして、古雪さんは起き上がった。

 

「......加賀城さん」

「はい!どうですか?」

「......それが、お前の、ために、なるなら、俺も選んだが......」

「歯切れ悪すぎだろ、椿...めっちゃ悩んでんじゃん」

「銀ちゃん、シー!」

「芽吹に先に言われたし...こ、断りたくないけど断る」

「本音漏れてるわね...」

 

(いやー、断るかー...)

 

古雪さんが周りと話してる裏で、私は一人考える。

 

原因は、やっぱりメブの根回しが厄介だった。事実この人は凄く食いついてはいたし 。

 

(私の計画がー...でも、引き際も大事だよね)

 

古雪さんが靡かないなら、もうこの話は必要ない。

 

 

 

 

 

________既に地獄の引き金を引いてしまったことを、私はまだ気づいてなかった。

 

「いや、ホントに提案自体は魅力的過ぎるんだよなぁ...加賀城さん」

「え、ぁはい!」

「樹海での戦闘中ずっと守るってわけにもいかないけどさ。ちゃんと非常時は守るから。芽吹も言ってたし」

「えっ、つ、椿さんっ!?」

「メブぅ...!!」

「...で、こっから相談なんだが...日常生活のサポート全部やるからさ。みかんの一部を頂ければなーと......」

「は。はい?」

「家事とか、とにかく俺に出来ることは全部やるし、護衛なんかもやるからさ」

 

その爆弾が爆発するのは、意図も簡単で、唐突だった。

 

 

 

 

 

「でもあれだな。これだと俺が婿養子に出たみたいだな」

 

 

 

 

 

その瞬間。私は景色が真っ暗に変わった。正確には、真っ暗になったと思うほどにノイズがかかった。声をあげることすら出来なくなったのは、不幸中の幸いと言える。

 

空気が重い。体が重い。この部屋だけ重力が五倍に増えたと言われても普通に信じられる。

 

それほどの『圧』を、私は受けていた。発しているのは、周りだ。

 

(これは...殺される!!!!)

 

今にも泣き叫びたい。今にも逃げ出したい。しかし、許されない。私の生存本能が、指先一つでも動かしたら本当に殺されると悲鳴をあげていた。

 

『圧』が、逃げられない理由、向けられている理由、全てを雄弁に語っている。

 

私は自分からこの話をしてしまった。古雪さんは便乗したに過ぎない。発案者が逃げるのか。そんなことを許されるのかと語ってきている。

 

私は自分からこの話をしてしまった。親の力だと_______自分達では変えられようもない威光を使い、古雪さんを誘ってしまった。そんなことが許されるのかと語ってきている。

 

何より_____周りにとってよく飽きられがちなことで話を持ちかけ、それで古雪さんを魅了してしまった。皆の想い人をかっさらう可能性を産み出してしまった。そこに私の思惑、意志は入らない。やられた彼女達がどう思うかだ。

 

だから私は、何も出来ない。私が自発的に動いた瞬間、一挙一動が彼女達の目につき、 新たな引き金を引きかねない。

 

こんな緊迫感に比べれば、バーテックスなんてこれっぽっちも怖くない。赤ちゃんより可愛く思えてしまう。

 

(助けて...助けてっ!!古雪さんっ!!!)

 

私は、ただひたすらこの状況を打開できる人に願った。

 

爆弾発言をしてくれたこの人が何かしらの行動をしてくれない限り、私は何も出来ない。お願いだから何か言って欲しい。というか是非助けて欲しい。

 

そんな彼は_______この嫉妬に満ちた空気を感じ取ったのか、辺りをきょろきょろして、首を傾げて、それから口を開いた。たったそれだけの動作をするだけの時間で、私は泣かないことに奇跡だと考えてる。

 

「まぁ、それも......加賀城さん?」

「はいぃ!?何でしょうか!?」

「?いや、何か顔青ざめてる感じするからさ。大丈夫?」

「ひっ!!」

 

何の気なしに、本人としては善意だけで、手をおでこに当ててくる古雪さん。黒い空気は、一段と濃くなった。

 

私にとっては悪手過ぎる。おでこ同士くっけられたら、恐らくこの時点で死んでいる。

 

(ひぃぃぃぃぃぃ!!!助けて!!!助けてメブゥゥゥゥゥ!!!!)

 

助けてくれるかもしれない人が死刑宣告を告げてきて、藁にもすがる思いでメブを見る。

 

メブの目は______光がこもってなかった。圧に潰されて、立ったまま固まってる。

 

(......お父さん。お母さん。今までお世話になりました。雀は旅立ちます...)

 

「熱はないか...寧ろ平熱低い?」

「あ、あはは......大丈夫です大丈夫です。大丈夫ですから。本当に」

「三回も...ならいいが...あ、さっきのは冗談だけど、余ったのがあればくれると嬉しいな」

「は、はい。了解しました...!!」

 

ここで辺りを刺激するような大きな反応をしてはいけない。私としてはお詫びの気持ちで大量のみかんを渡しても、それは恐らく悪い意味で取られる。

 

(でも...許された?)

 

辺りの空気がほんの少し軽くなって、それでも膝をつかないよう気をしっかり保つ。帰ったら今日はベッドから一歩も動かない。絶対何があっても。

 

一瞬流れた沈黙は、最近よく聞く警報の音によってなくなった。

 

(バーテックス来たぁぁぁぁ!!!赤嶺さんありがとぉぉぉぉ!!!)

 

「あ、樹海化警報か...樹」

「分かってます。まずは皆さんと連絡を取って合流します......今日は最前線で出てくれる人がいるでしょうし」

「え?」

「何でもないです。ふふっ...」

 

(あ、これは詰んだ)

 

微笑む年下の部長さんにより、私の未来を左右する戦いが唐突に始まった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ウラァァァァァ!!!!」

 

本来敵の攻撃を防ぐはずの盾が、星屑の胴体を抉る。

 

「じゃんじゃん来なさいバーテックスゥゥゥ!!!」

「......何あのバーサーカー」

 

愛用している盾を振り回し、最前線で暴れる加賀城さん。普段の彼女を知ってれば、様子がおかしいことは見なくても分かることだった。

 

(守ってくれーなんて言ってた割には...)

 

「雀もやる気を出したんですね。たまには良いことです」

「やる気とかそういう次元か?あれ」

 

銃で支援する俺としては楽だが、普段であれば『助けてメブゥ!!』を聞くのが当たり前なのだ。

 

「他の皆も妙にやる気だしなぁ...」

 

加賀城さんにぴったりくっつくように前に出てる園子と東郷、他にも________さっき教室にいたのが主に前に出てる。

 

「チュン!?」

「あらごめんなさい加賀城さん。掠めてしまって」

「いえ!ご協力感謝します!!」

「ふふ...終わったら全部見なかったことにするわ。皆そう言ってる」

「!!!!全力全開でやらせて頂きます!!来いやバーテックスゥゥゥ!!!」

「......東郷の友奈写真集でも壊したのか?あいつ」

 

俺の疑問に答える奴は誰もおらず、結局戦いが終わるまで、加賀城さんは一歩も引かずに盾をぶん回していた。

 

「椿さん」

「どうした芽吹」

「...今日、雀のことを考えるなら、近寄らないであげてくださいね。あの子なら大丈夫ですから」

「??」

「ほら雀!帰るわよ!!」

「メェェブゥゥゥゥゥ!!!助けてぇぇぇぇ!!!」

「...あの空間で助けられるわけないでしょう。私だって怖かったんだから...」

「メブは発する側じゃなくてよがっだよぉ......」

「......」

「あれ?メブ?ホントだよね?大丈夫だよね??え?」

 

(......まぁ、大丈夫かな)

 

加賀城さんが本当は強いかも。とかは抜きにして、彼女はちゃんと周りを頼る。それをよく見ている芽吹の判断なのだから、平気だろう。

 

なんだかんだ、よく理解しあってる二人なのだと再認識し、俺は静観するだけだった。

 

(......)

 

 

 

 

 

__________決して、加賀城さんを取り囲む数人の目が怖いからとか、そんなことは全くなかった。

 

 

 

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