古雪椿は勇者である   作:メレク

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久々のリクエスト回!お待たせしました!


ゆゆゆい編 36話

「椿さんが気を失ったって本当ですか!?」

 

病室の扉を開けると、おじいちゃんがビックリしてこっちを見ていた。

 

「銀!隣の部屋よ!!」

「すいません間違えました!!!」

 

慌てて扉を閉めて、隣の扉をさっきより強く開ける。

 

「ここが椿さんのお部屋でしょうか!!」

「銀...」

 

アタシ達小学生以外の勇者部全員がいた。風さんがアタシを見て暗い声を出す。視線の先には、気持ち良さそうに寝ている椿さんがいた。

 

「......階段からこけそうになった子を助けたら、自分だけ落ちたんだって。バカよね...」

「ぶ、無事なんですか!?」

「命に別状はなし。頭をちょっと打っただけだそうよ。だから銀、落ち着いて」

「致命傷であればバリアが発動するはず。大丈夫」

「ぁ...はい」

 

アタシが一人だけ慌ててることに気づいて、一度深呼吸した。

 

「私もそう遠くない場所にいたから、椿を止められただろうに...すまない」

「棗さんが謝ることじゃないですよ!」

 

皆もいつも通り_______いや、ちょっと不安そうだったけど、まだ酷くない。

 

(...)

 

ふと見えた園子さんとおっきいアタシは、顔色を真っ白にして、なんとも言えない複雑な顔をしていた。

 

「ん、んんっ...」

『!』

 

微かな声がして全員で見つめる。椿さんはゆっくりゆっくり目を開けた。

 

「......こ、こは」

「椿先輩!!目が覚めたんですね!」

「ナースコール!ナースコールじゃあ!!」

「どこかおかしなところはありませんか?椿さん」

「......」

 

不思議そうにキョロキョロと辺りを見渡した後、不安げな表示になって、その理由が分かる前に_______爆弾が投げ込まれた。

 

「あの...貴女達は、どちら様でしょうか?」

『へ?』

『...は?』

『あ?』

 

それぞれが、一言くらいしか出ない。きょとんとしたり、聞き間違いか確認したり、冗談はやめてくれと言わんばかりの声を出したり。

 

「えーと...え!?ど、どうしました!?」

 

病室が阿鼻叫喚に包まれたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

「...成る程、成る程」

 

なんとか全員を静かにし終わってから確認したことを、雪花さんが纏める。

 

「つまり、勇者部として活動してきた記憶がごっそり抜け落ちてると」

「そう、なるんですかね...?」

 

自分の名前なんかは覚えてる。ただ、勇者部として生活してきた記憶だけ、狙ったかのようにない。

 

話の途中で、何人か体を震わせていた。アタシもその一人だ。それでも病室から出ていかないのは、心配だから。

 

「......誰か分かる人、います?」

「...すみません。実は一人」

『え!?』

「...だよね?銀?」

 

そう言って椿さんは、アタシを見て__________

 

「あー!!」

 

アタシは小さい頃からの幼なじみ。勇者部の記憶、つまり中学生時代の記憶があやふやでも、小さい頃の記憶はある。

 

「椿!!アタシは!?アタシは分かるか!?」

「えっと...おっきくなった、銀?」

「正解だよこのやろぉぉぉ!!」

「むぐっ」

 

涙を溢しながら椿さんを抱きしめるおっきいアタシ。

 

(でも、この光景も見慣れてきたかな~)

 

本来こんな目線から見ることなんて出来ないから、じっと見るのはちょっと恥ずかしいけどちらっとなら________

 

「そんな...つっきー。恋人である私のことも忘れちゃったの...?」

 

その光景に意識を持っていってたから、園子さんがそんな爆弾発言したことに気づくのが遅れてしまった。

 

「...え?」

『.......えぇ!?』

「およよ...悲しいなぁ。あんなに愛し合ったのに...おままごとで」

「え、えと、あの...」

「キスまでしたのに...ほっぺに」

『!?!?』

 

(え、園子さん、冗談ですか?それとも刷り込みですか?)

 

記憶がない間に言質を取るとかそういうあれなのか。それぞれ後半の部分が全部もにょもにょ言ってて聞き取れないけど、前半の発言がとんでもない。

 

「そ、園ちゃんが言うなら...わ、私は同じ部屋で寝たことあります!」

「友奈!?合宿はあたし達も一緒でしょうが!?」

「え?えぇ??」

「では、私はキスもしましたし、抱きしめられながら寝たこともあります!」

「ひなた!?」

「!?」

「その勝負でアタシに勝てるの?一緒に寝る、お風呂に入るとかよくやってたんですけど?」

「それは『やってた』の通り、幼稚園の頃とかだと思うんだけど...ノーカンじゃない?」

「なぁ!?」

 

次々語られる赤裸々話。アタシのだけ否定されてるけど。

 

(というか、椿さん...ホントに全部やってるんですか?マジ?)

 

今の椿さんに聞いてもしょうがないのに、聞きたくて聞きたくてしょうがない。

 

その間にも、わーわー会話が続いてた。

 

「そ、そんなことしてるんですか...そんなに沢山?流石に冗談じゃ......うっ、...」

『!?』

「椿先輩!?」

「なんか...俺は...!」

「記憶を刺激すると戻るの...!?誰か!誰か強烈に刺激ある話題出して!!」

「では...椿さん、こちらはいかがでしょう?」

「......女の子物の、ワンピース......っ!?あ、頭がっ!?」

「見るだけでこの反応!そうです!椿さんが女装した時に着たやつに似てるんですよ!」

「女装...なんで俺が!?」

「あぁ、いっそ今やれば全部思い出すかもしれません!さぁ!さぁ!!!」

「ま、待って!?それは似合わないって前も言って________」

 

(...アタシは何も見ていない。うん)

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

椅子に座ってスマホを弄る。といっても何か目的を持ってるわけじゃなくて、ホーム画面を横にずらしたり戻したり。それに飽きて、空を見上げた。窓ガラスの先に見えるお月様は、綺麗な三日月をしてる。

 

「......」

 

胸が苦しくて、涙が出そうになる。理由なんて分かりきってた。

 

(つっきー)

 

時間はもう夜。ひなタンはつっきーに怖がられて、ご先祖様に連れてかれたのを合図に皆帰りだした。

 

私だけこの病院に残ってるのは、同じ家に住むミノさんが病室に残ってるから。

 

私達は皆つっきーを心配してる。でも、つっきーからしたら知り合いはミノさんしかいない。そんな環境では緊張する上に、あんなことがあっては、ミノさんと二人だけで話したくなるのも当然だし、私達もそうしてあげたかった。

 

私も本当は、一足先に帰ってご飯を作ったりした方が良いんだろうけど________

 

(...そうだよね。分からないんだもんね)

 

「そーのこ」

「ミノさん?もういいの?」

「椿が『暗くて危ないからもう帰れ』ってさ。全く、まだ八時なのに、あの椿の中でアタシは何歳だっての」

「可愛い幼なじみだからね~。心配になるんさ」

「......そう言われると、悪くないわな」

 

「あ、はい」と言われて、放られた何かをキャッチする。ひんやり冷たいそれはみかんジュースだった。

 

「そう言えば、ミノさんはみかんジュースそこまで好きじゃないよね」

「好きだけど椿ほどじゃないかなー」

 

かしゅっと音を立てた缶を勢い良く口に持っていくのは、つっきーによく似てる。

 

(やっぱり、幼なじみなんだなぁ......)

 

微笑ましく感じながら、私も貰ったぶんを開けて、口にした。

 

「そいえば園子、さっきはありがと」

「え?」

「あの恋人宣言だよ。最初はびっくりしたけど...アタシがはしゃいだせいで変な空気になりかけてたの、防いでくれたんでしょ?」

「......」

「沈黙は肯定だぞ?あそこでアタシだけ喜んじゃって、凄く申し訳なく思った時には遅かったからさ」

「...そんなつもりはなかったよ。だってあれは、ミノさんが幼なじみだったから...小さい頃からずっと仲良くしてきた証だもん」

 

私がつっきーと幼なじみでも、きっと同じことをしちゃう。

 

「...でも、早く記憶を戻して欲しいな~。とは思っちゃったね。私もつっきー抱きしめて、ちゃんと受け止めて欲しい。今だときっと...きっと、困っちゃうから、ね」

「...そだね。うん。あーあ!そしたらひなたの女装止めなきゃ良かったかなぁ?」

「私としてもメモが増えるから嬉しい...おりょ?メモが...つっきーの病室に置いてきちゃったかな」

「え?マジ?取ってきたら?」

「うーん...明日行けばいいかな~って」

「ホントに大丈夫か?それで。椿に中見られたりしたら」

「ミノさんごめんちょっと待っててね!!」

「ほーい。いってらー」

 

つっきーの病室は三階。私達がいたのは一階の受付前だったから、階段を一段飛ばしでかけ昇っていく。

 

(今日のメモは不味いっ!)

 

今日の授業中筆が乗って書いちゃったタマつばが見られてタマ坊に伝わったら、流石に不味い。全力で階段を______

 

「あれ?つっきー?」

「っ」

 

三階の踊り場に、つっきーがいた。

 

「どうしたの...?」

「...あの、これ見つけたから」

「!!」

 

手に握られてたのは、例のメモ帳。

 

「銀に渡そうと思って...だ、大丈夫!乃木さんが心配してた中身は見てないから!!」

「っ...ありがとう」

 

手が震えないよう意識しながら、メモを受け取った。泣くのもダメだ。せめて家に帰ってベッドに入るまでは抑えないと。

 

ミノさんを、目の前にこの人を不安にさせたくなんてない。

 

(でも...乃木さんなんて呼ばれるんだね)

 

初めて出会った頃からすぐ、園子って呼ばれてたから。呼んでもらってたから。凄く、悲しくなる。

 

(ダメ。ダメだよ私。今は...あれ?)

 

「何で私がこのメモ見られたくないって知ってるの?」

「あ」

 

ふと出てきた疑問がそのまま流れてしまって、つっきーが言葉を発した。

 

「......もしかして、さっきの聞いてたの?」

 

ホントは一階まで降りてて、話を聞いてしまって。私がこっちに来るから、急いで病室まで戻ろうとしてたのか。

 

「...バレちゃったか」

「!」

 

つっきーは、もう降参とでも言うように両手をあげた。

 

「聞くつもりは無かったんだけどね。それにしても、本来の古雪椿は相当好かれてそうだ」

「あの、えっと」

「あぁ、別に乃木さんが今の自分を否定するつもりがないってことくらいは分かるから安心して」

 

これまでのつっきーに戻ってきて欲しいと言うのは、今こうして戸惑ってるつっきーに消えてくれと言っているようなもの。そう解釈されるかと思ったら、案外そうでもなかった。

 

「いや、この言い方も違うか...んんっ。あー、園子」

「!」

「大丈夫。すぐ戻るさ」

 

歩きながら話すその言い方は、間違いなくいつものつっきーで。

 

「さっき銀から動画を幾つか見せてもらってな。元々自分なんだし真似くらいなら出来る」

「つっきー......」

「なんで俺の記憶があやふやになったのか分からんが、ここからラノベとかでよくある展開は...同じ衝撃を与える。てところだろ」

「!!」

 

私の横を通りすぎた彼は、立ち止まり振り返った。私と目が合う。

 

「それって!危ないよ!!」

「危なくてもやるさ。だって」

 

 

 

 

 

「園子にそんな暗い顔、ずっとさせたくないから」

 

朗らかに笑って、彼は後ろに向けて足を蹴った______階段に向けて、受け身を取れなさそうな体勢で。

 

「ダメっ!!!」

 

反応が遅れても、必死に手を伸ばす。このまま行かせてしまったら何かを失うような気がして。

 

(もう絶対、誰も離したくない!!!)

 

自分の限界以上の力が出せてるように感じながら、離れていく彼の手首を掴んだ。離れないようにぎゅっと。きっと彼が痛いと思うくらいには。

 

「「!」」

でも、私が出来るのはそこまでだった。重力に引かれるように、つっきーにつられるように、一緒に宙を舞う。

 

それでも私は、決して離さなかった。

 

 

 

 

 

(...あれ?)

 

全然痛みがなくて、瞑っていた目を開ける。見上げると、すぐ目の前につっきーがいた。

 

結局私も一緒になって階段から落ちたけど、つっきーに抱きしめられて無事だったんだ。と分かるより先に、バッと起き上がる。

 

「つっきー!!平気!?」

 

変な体勢で倒れ込んだ筈の彼は、私を庇ったせいでもっと大変な状況だった筈だ。

 

「んぐっ...っつー。いってぇなぁ...あれ?園子?」

「!!!」

「なにこの状況...というか、ここどこだ?学校じゃないっぽいし...というか学校の階段から」

「つっきー!!」

「んぐむ!?」

 

思いっきりつっきーを抱きしめて、止まらない涙を押しつけた。服が出てくる涙を吸いとってくれるけど、それより速く流れてくる。

 

「おかえり...よかった......」

「......なに泣いてんだよ?」

「泣いてないもん!!」

「無理があるんじゃないか?全く...」

 

じゃれる猫を扱う様に、そっと私の頭を撫でてる。ほっとする。安心する。優しさが溢れてどうにかなっちゃいそうな程。

 

私はその手と、体温と_______

 

「泣き止んでくれよ。俺は園子に泣いててほしくないからさ」

 

苦笑する彼が、好きなのだ。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「......いかがでしょうか」

 

最後までスクロールして、その文字達を理解する。私は一息ついて、率直な感想を口にした。

 

「多分本当の私だったらもっと暴れてると思う」

「そ、そうですか...じゃあ、もうちょっと書き足してみます」

 

あんずんはそう言って、私(先生)に見せてた自分の小説を軽く見返していった。

 

「後は何かあります?園子先生」

「う~んとね...後で纏めて連絡するので良い?」

「分かりました!では失礼します!」

 

部屋から一人分の熱が消えて、私はちょっとだけ深呼吸した。

 

「...凄いなぁ、あんずんは」

 

元々文芸少女というのもあって、あの子の吸収力は高い。私としても鼻が高くなるばかりだ。

 

後は________自分の好きな人と、それを狙ってる人の組み合わせで、よくここまで作り込めるな。と。私もつばぎんを書いたりするけど。

 

「......」

 

だから、こんな文章を見せられて、顔から火が出そうなくらい熱いのも仕方ないことだった。

 

「...バレなくてよかった」

 

 

 

 

 

「んくしゅんっ!」

「どうしました椿さん?風邪ですか?」

「いや、今日は健康体そのものだと思ってるが...誰か噂でもしてるのかね、っと。さ、次行くぞ銀ちゃん。今日は依頼はやること多いからな」

「了解です!!」

 

 

 

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