古雪椿は勇者である   作:メレク

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今回、初期案は彼女のASMRでした。文章で囁きを表現するのが難しくてやめました...


ゆゆゆい編 38話

「ふぁー......」

 

いつもの様に木刀を振り、BB弾の銃を撃った後。タオルで汗ばんでいた体を拭いて、大きめの息をついた。

 

「にしても、良い天気だ...」

 

雨を降らせなさそうな真っ白い雲が漂い、爽やかな風、体を動かさなければ汗をかかない程よい気温。湿度も低すぎず、高すぎない。『快適』という言葉は今日みたいな日にピッタリだろう。

 

まぁ、これだけ好条件な環境で体を動かし終われば、眠気が襲ってくるのも当然なわけで。

 

「やっぱバイクで来なくて正解だったな...」

 

丁度日陰になる木があるのは知ってたし、荷物もなるべく軽くした。平たく言うと、元からここで昼寝する気満々である。

 

(勇者部も今日は何もない筈だし......)

 

座り込み、木に背中を預ける。

 

「...ゆっくりこの景色を見るのも、久々かもな」

 

ゆったりしたリズムで寄せては帰る波は程よいBGMに、そよそよ吹く風は柔らかく俺の肌を撫でる。真上を見上げても、葉と雲に隠れて太陽は眩しくない。

 

(あー、ねむー......)

 

知らず知らずのうちに、目蓋が下がる。もう少し微睡む感覚を楽しみたいと思っているうちに、俺の意識はなくなった。

 

 

 

 

 

「んー...?」

 

ごそごそと違和感したので目を開けると、ひなたがいた。

 

「あ、起こしちゃいました?」

「...頭動かされればなぁ」

「すみません」

「いや、いいけど...今どんな状況?」

 

辺りを見渡そうと顔をあげようとするも、がっつりひなたに防がれた。

 

「...ひなた?」

「場所は移動してませんよ。私が膝枕してるだけです」

「膝枕って...」

 

意識が後頭部に伝わる感触を理解し始めるも、なす術はない。

 

「...なんでやってんの?」

「私がしたいからです。ですので椿さんは、私の為を思うなら動かずもう一眠りしてくださいね」

「なんじゃそりゃ...」

 

口ではそう言いながら、ひなたとの会話が終わると、狙っていたのかと疑うくらい途端に眠気が襲ってきた。

 

「そんなこと言われたら、動きたくなくなるだろ...」

「良いんですよ。ゆっくりおやすみください」

 

優しく頭を撫でられ、そのまま目蓋を閉じるよう促される。伝わってくる温もりは、心地好すぎて病みつきになってしまいそうなくらいで。

 

ただでさえ良かったものが、極上のものに変わっただけだった。

 

(あー、これはズルいわ......)

 

また俺の意識は、あっという間に落とされていく。

 

「...おやす、み......」

「はい。おやすみなさい」

 

 

 

 

 

「んー...んっ」

 

デジャヴを感じるように______起き方にバリエーション持たせる方が難しいとは思うが______起きると、やっぱり視界にはひなたが映った。

 

「夢じゃなかったんか...」

「おはようございます椿さん。気持ちよかったですか?」

「...どのくらい寝てた?」

「30分程」

「......数時間寝た後みたいな感覚になるくらい、良かったです」

 

これを毎日やられたら、睡眠不足なんて一生やってこないだろう。

 

(逆にいつまでも寝てたくなるからダメかもしれないな...)

 

「て、そうじゃねぇ。30分とはいえずっとその体制だったのか?大変だっただろ」

 

木に寄りかかり、俺に膝を貸すためずっと正座というか、よくある女の子座りをしてたのか。そう思って聞いたのだが、彼女はやれやれといった表情をしていた。

 

「全く...寝てる椿さんを起こしてまでやり出したのは私ですよ?怒られるならともかく、心配されたり謝られたりすることではありませんからね?」

「先に釘刺すな...分かった。謝らない。ありがとう」

「はい」

 

ほんわか微笑む彼女に目を離せなくなるのをなんとか堪え、やっと俺は起き上がった。あれ以上あそこにいたらまた寝てしまいそうで、誘惑をはねのけるのも一苦労である。

 

「......いや、体かるっ...」

 

肩を回したり軽く足腰を動かして、自分の状態を確かめる。明らかに良いコンディションだった。

 

「んで、どうしたんだ?まさか膝枕する為だけにここに来たなんてことはないだろ?」

「いいえ?椿さんが今日一人でここにいるというのを聞いたので、来ただけですよ?」

「あれ?」

 

予想が外れて拍子抜けするも、本人もきょとんとしてるだけだった。そのうち「あ」と言って、立ち上がる。彼女のワンピースの裾がふわりと舞い、地面についてた部分を少しはたかせた。

 

「でも、そうですね...折角ですし、歩きませんか?」

 

彼女の指差す先は、綺麗な浜辺があった。

 

 

 

 

 

「さっきも思ったが、なんか不思議だ」

「何がです?」

「よく来るが、景色を見るために来る訳じゃないからな。こんな歩くなんてなくて」

 

さくさく音を立てて歩く真っ白な砂浜は、裸足で歩けば熱いだろうという位にはじんわりした熱さを靴越しに伝えてくる。

 

「ずっとここで練習していれば、バランス感覚が養えそうですね」

「夏凜や芽吹に教わった型なんかやろうとすると、どうしても足持ってかれるからな。踏ん張ってあちこちに負荷はかかりやすいと思う」

「私でも少しくらいはやれるでしょうか?折角この世界では樹海化警報が鳴っても動けますし、今から練習すれば勇者の一員として戦えるかもしれません!」

「勇者システムはどうすんだよ?」

「そこは...神樹様に新しく用意して貰いましょうか。西洋の剣と盾を持った様な方はまだいませんし」

 

自分の想像する一般的な勇者の真似か、剣と盾を持ってるであろうイメージで、彼女が右手を振るう。

 

「そんなよくある感じの勇者がやりたいなら、今度それが出てくるRPGでも貸すよ」

「あぁでも若葉ちゃんとお揃いの刀も良いかもしれませんね!!」

「聞けっての...はぁ。まずな」

 

痛がらないような強さで、ちょんと彼女のおでこをつつく。

 

「ひなたは巫女として十分役目を果たしてるし、敵と戦うのは勇者である俺達の役目だ。それまで奪うなよ。それとも、俺達だけじゃ不安か?」

「...不安ですよ。普段一緒に生活してる皆さんが戦う時、私は何も出来ませんから。初めからずっと」

「......」

「だから私は...ぇ?」

 

俯くひなたの頭を撫でる。申し訳ない気持ちが確かにあった。

 

「ごめん。無神経だったわ」

 

(そうだわな。今のは俺が悪い)

 

彼女がどんな思いで勇者を送り出しているか。昔、というか西暦時代何があったのか。そんなことは俺もよく知ることだった筈だ。

 

(でも、やっぱり)

 

「でも、俺が言えるのは前と同じだ。全部終わって帰る場所で、笑って待っててくれ。俺は、そのために戦うから」

「...全く、椿さんは」

「なんだよ」

「そんなこと言われてしまったら、甘えたくなってしまうじゃないですか」

「今更だろそんなの。お互いに」

 

居心地の悪くない沈黙が訪れて、どちらからともなく笑い始める。これに似たようなやり取りなら恐らく何度目かだ。

 

「はーっ...毎度、変わらないか」

「椿さんが言うんですか?」

「言うって。別にそれが悪いわけでもダメなわけでもないんだから良いだろ?」

「...なんだかはぐらかされた気分です」

「何でだよ」

 

ひなた以外には、海の音と鳥の鳴き声くらいしか聞こえない。必然的に俺は彼女の声を、彼女の動きを普段より多く捉える。

 

だから、一瞬砂に足を取られた彼女にも気づいた。

 

「あっ」

「はいっと」

 

同じ人間とは思えないすべすべして柔らかい手を掴んで、彼女一人分の重さを全身で支える。

 

(女の子、って感じだな...)

 

「大丈夫か?ここなら転んでも痛くはないと思うが」

「は、はい...というか、転ぶ前に助けられちゃいましたし」

「ほっといた方が良かったか?」

「そんなことはありませんよ。意地悪な聞き方ですね」

「すまん」

「いえ。ありがとうございます」

 

ひなたがしっかり持ち直したのを確認してから、手を離し________

 

「......あの、ひなた?」

「はい。なんでしょう?」

「いや、手、もういいんじゃ...」

 

がっちり掴まれた左手は、ひなたの右手と離れない。というか離せない。

 

「良いですか椿さん。まだ先はあります。その間にまた足を滑らせてしまうかもしれません」

「...分かった。分かったから。好きにしろ」

「はいっ♪」

 

横並びになるよう丁寧に手を繋ぎ直し、また歩き出す。嬉しそうにしている彼女を横目で見てしまっては、もう恥ずかしいとは言えない。

 

「そう言えば椿さん、先日こんなことがあったんですよ______」

「なんだ?_______へー、いやそれホントか?若葉平気なのか?」

 

楽しそうに話す彼女の話を聞き、返事をする。そんな当たり前のことが嬉しくて、手から伝わってくる熱を感じながら、俺は微笑んでいた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「あのさぁ。ふざけてんの?」

 

「なんでだよ」

 

「いやだってさ!そんな話ないだろ!!」

 

「お前が昨日何してたって聞いてきたんだろ...」

 

「そうだけど!そうだけど!!そんなトーク返されると思わなかったじゃん!!一日ゲームしてた話をした俺がなんか申し訳ないわ!!!」

 

「俺だってそんな日はあるし...てかお前がやってたのアレの新作だろ?どうだ?面白い?」

 

「そんな話してられっかぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「えぇ......」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「上里さんがゲームなんて珍しいわね」

 

「あぁ千景さん。椿さんが勧めてくださったゲームなんですよ」

 

「へぇ...それ、私もプレイしたけど面白かったわよ。こっちの世界だと有名な作品らしくて」

 

「似たようなことを言われました。今丁度ボス戦なんです」

 

「へー...アドバイス、いる?」

 

「いえ!自力で...というか、普段通りやれば...!!」

 

「『勇者ひなた』の庇う、え、『盗賊友奈』の毒攻撃、『魔法使い若葉』の攻撃魔法、『僧侶椿』の回復魔法...!?」

 

「本人の方たちには許可を取ったので。あ、今度千景さんの名前使ってもよろしいですか?」

 

「か、構わないけど...なんか意外な職業ね」

 

「どうせなら皆さんが普段しなさそうな役職が面白いかなと」

 

「確かにね...って、貴女防御力高すぎない?」

 

「振り切ってますから。攻撃力は僧侶の椿さん以下です。でもそのお陰で椿さんの力だけで全回復!私が皆さんを守りきります!」

 

「...私も久しぶりにやってみようかしら」

 

 

 

 

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