古雪椿は勇者である   作:メレク

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ゆゆゆい続編の発表されましたね...後書きに今後の予定について詳しく書いたので、作品だけみたいという方は最後飛ばしちゃってください。

そして今回は磯辺天さんからのリクエストです!ありがとうございます!


ゆゆゆい編 39話

「お前らなぁ...」

「はーなーせー!椿ー!!」

「アタシもですかぁ!?」

「お前もノリノリだっただろうが!」

 

猫をつまみ上げるように襟首を掴み、動きを止めさせる俺。珍しいことをやらせてるのは球子と銀ちゃんだ。

 

時は放課後、場所は部室。俺達以外には、東郷、ひなた、杏、須美ちゃん、それに園子ズ。

 

「あのなぁ...」

「いいじゃん!!登山くらいさぁ!!」

「普通の登山なら止めはしねぇっての」

 

アウトドア好き、登山好きの球子ではあるが、今回彼女の言っている『登山』は意味が違う。

 

「あの山には!あの巨乳には万物全てを超越する力があるんだよ!椿ぃ!!」

「ばんぶつとかおぼえててえらいなーたまこ」

「冗談でも酷くないか!?タマ中三だぞ!?」

 

これ以上にない棒読みで答えると、また球子は「はーなーせー!」と暴れだした。離したところで彼女の言う『登山』が始まるだけなので、まだ離すわけにはいかない。

 

(ここまでやられると、いい加減お灸を据えた方が良いだろうか...)

 

そう思い、『登山』の被害者側に目を向ける。

 

(さて、何か案はあるかなー...っと)

 

そして、キラキラ目を輝かせてる奴が語ってきてるのが見えて考える。

 

(どこまで考えてるか分からんが...)

 

「あのー椿さん。私球子さんみたいに暴れないしもうやらないので離して貰えませんか...?」

「あぁごめん銀ちゃん」

「銀はそんなあっさり!?タマもは、な、せっ!!!」

「んがっ」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「「あわわわわ......」」

 

さっきまで古雪先輩に捕まっていた銀と球子さんが、態度を一転して震えている。遠巻きに見ていた私達も駆け寄った。

 

暴れた球子さんの裏拳が古雪先輩の顔面を直撃し、二人を離して鼻を抑えてる。

 

「す、すまん椿!タマそんなつもりじゃ...!」

「いってーなぁ...おい」

『!!』

 

その声に、全員の顔が強ばった。古雪先輩のこんな低い声は滅多に聞かない。

 

直接向けられた球子さんは、一瞬で涙目になっていた。

 

「っ!!ご、ごめっ」

「つっきーそれはダメッ!!!」

 

それを止めたのはそのっちだった。誰より強く声を届かせ、古雪先輩はその声を聞いたからか、顔をぐにぐにと弄る。

 

「...球子」

「ごめん椿!!ごめんなさい!!!」

「...別に、怒ってはない」

 

その顔は、普段通りの古雪先輩に見えた。

 

「ただあれだな。折角俺を殴るくらいなんだ。証明してくれよ」

「ぇ...?」

「お前が言う登山の良さを。さ。何度止められてもやりたがる理由を教えてくれ」

 

それから______見たことないような笑みを浮かべた。

 

「球子さん、これって...!」

「あ、あぁ、まだ許されるぞ銀!!椿!!タマに任せタマえ!!魅力を全部教えてやるからな!!!」

「おう、楽しみにしてるぜ」

 

(あら?何だか話がおかしな方向に...)

 

「まず。世の中には持つ者と持たざる者がいる!!タマみたいな持たざる者と、そっちにいる奴らみたいな持つ者が!!」

「タマっち先輩、自分で言ってて悲しくならないの...?」

「うるさいうるさい!持たざる者は持つ者の感覚が分からない!タマも一度くらい『胸が大きくて肩凝っちゃった~☆』なんて言ってみたい!!」

「見事なまでの暴走具合ですね...」

 

須美ちゃんが完全に引いていた。球子さんの顔を見れば無理もない。

 

「そんで?」

「そしてだ!男子は大体でかいのが好きだ!!揺れるおっぱいが大好きなんだ!!」

「最低ですね」

「タマ坊、それはフォロー出来ないかな~...」

「タマはそれを理解しているからこそ!!魅力をより理解するために登山に励むんだよ!!椿!!!」

「......」

 

はっきりいって下らない話に、古雪先輩は顎に手を当てて真面目に考えてる仕草をする。

 

「...それはあれか?モテるためにやってるってことか?」

「あとは制裁だ!持たざる者のことを理解せずにいる持つ者に対しての恨みを!!怨念を!!」

「ふーん...まぁ、やってみれば分かるか」

『!!!』

 

古雪先輩からこぼれた信じられない一言に、煽っていた球子さんさえ固まった。

 

「球子さんヤバイですよ!やっぱりさっきの裏拳で椿さんの頭のネジ飛ばしてますって!おかしいですもん!!」

「...えぇい!まともなこいつだったらただ怒られるだけなんだ!!椿!!やろうぜ!!」

「そうだな。たまには...やるのも良いかもな」

 

とんとん拍子で話を進めていく二人に、戸惑う私達。

 

「目指すはあのエベレスト!!」

「えぇ、私!?」

「分かった」

「古雪先輩!?」

「球子の理解を深めるためだ。大人しくしてろよ東郷」

「そ、そんな...」

 

突然狙われ、様子のおかしい古雪先輩が私の元まで歩き、両手を私の胸まで伸ばしてくる。

 

「古雪先輩、やめっ、やめてください!」

 

私が言っても、先輩は止まらない。あと少しというところで、私は目をきつく閉じた。

 

(こんな形でやられるなんて...!)

 

せめて、先輩が正気の時に_________

 

 

 

 

 

「待つんよつっきー」

「...そのっち?」

 

瞑っていた目を開けると、伸びていた手を止めて守ってくれてるそのっちが見えた。

 

そして、その奥に______さっきのとは違う、いたずらを楽しむ子供のような笑みを浮かべる、古雪先輩も。

 

「なんだよ園子。俺はエベレストに挑むんだ。邪魔しないでくれ」

「つっきー?よく考えるんよ。タマ坊はつっきーなんかより遥かにスペシャリスト。これまで幾つもの山を踏破してきた者なんよ。それに比べてつっきーは赤子同然の初心者」

「そうだな」

「そんな初心者が最初からエベレストなんて登ったら、遭難間違いなしだよね?」

「うん...成る程。それで?」

「まず初心者は、初心者らしく...低い山から挑戦するべきだと思うんだ」

「...ん?」

「で、初心者向けの山は......そっちに」

「確かに優しそうだな」

 

振り返った先には、不思議そうな顔をしている球子さん。

 

「...つ、椿?」

「まずは低い山からだな...球子、動くなよ?」

「え、ちょ、ダメだって椿!!」

「俺に登山のなんたるかを教えてくれるんだろ?じゃあ動いたらダメじゃん」

「ぅ、うぅ...」

「さぁ、さぁ!!」

「うぅぅ...ごめんなさぁぁぁぁいっ!!!!」

 

部室の扉を開け、球子さんは涙目のまま慌てて駆け出していった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ふぅ......案外長かった...」

「つっきーお疲れ~。イェーイ」

「お疲れさんっ」

 

球子が走り去ってから五秒程度。一息ついた俺はハイタッチを求めてくる園子と手を合わせた。

 

「あ、あれ?いつも通りの椿さん?」

「ずっとそうだよ。裏拳くらいで記憶飛ばされてたまるかっての」

「ということは...さっきまでのは、演技だったんですか?」

「まぁな。かなりガバガバな計画だったが......球子を怖がらせるというか、被害者側の嫌な気持ちを分からせるには十分だっただろ」

 

普段ならあんな話、少なくとも球子からの話題には乗らない。俺以外の勇者部部員がいなくて、裕翔からされた話なら付き合うくらいするだろうが。

 

「ていうか東郷、悪かった。怖がらせちゃって」

「い、いえ...私自身は大丈夫ですから。本当におかしくなってしまったのかと心配しました」

「ごめんな...俺は大丈夫。安心してくれ」

「完全に騙されましたよ~!」

「敵を騙すにはまず味方から。ってな」

 

まぁ今回銀ちゃんは敵寄りだったわけだが。この子は自分からやりだす訳じゃないし。

 

「てか、凄いのは園子だよ...」

「つっきーの名演技のお陰です!」

「いやまず何で分かった......」

 

俺の目的を目だけで理解し、成功まで持ってくよう動いてくれた。俺も園子に合わせて行動を調節したりしたが、それでも異常だ。

 

(最初のやり過ぎた時も、東郷に向かうのも止めてくれたしな)

 

初めのは流石に声のトーンを落としすぎたんだろう。

 

(慣れないことはするもんじゃねぇな)

 

「最近タマ坊やり過ぎかな~って思ってたから。そのぶん私は抑えてたし~」

「流石園子...あれ、お前抑えてたっけ?昨日俺色々聞かれたような」

「つっきー良くできました~」

「うおぉ...やーめーろー」

 

突然わしゃわしゃと頭を撫でられ、否定しながらも動かず目を閉じて放置しておく。楽しそうだし良いだろう。

 

「タマっち先輩も私達の反応も、お二人の掌の上だったというわけですか......」

「結果としてそうなった。ってのがしっくりくる言い方だけどな。まぁこれで球子が控えてくれれば良いんだが」

「...少なくとも暴れることは無いでしょうね」

「そうですね。さっきの椿さんは少し...」

「?」

「迷子の猫探し組、帰りましたよー」

「お、雪花、お疲れー」

「......なんで椿さん撫でられてるんです?」

「実は」

「私がなでなでしたかったからかな~」

「それはちが...くもないのか。そんな理由だ」

「なんですかそれ」

「あはは...」

 

雪花の微妙な反応に、俺は苦笑で返すしかなかった。そのまま視線を前へ戻して______大きく震えてしまった。

 

「!?!?」

「つっきー?」

「そ、そろそろ恥ずかしいからな!園子!!」

「え~。もうちょっと~」

「終わり!な!?」

 

園子を引き剥がし、逆に頭をぽんぽんとする。

 

「むー...はーい」

「よしよし。いい子だ...」

 

さっき。身長差があるので園子は俺の頭を撫でるのに普段より近寄り、俺もまた頭を少しだけ下げていた。すぐ目の前に来るのは年齢的に不相応と言えるマウンテン。

 

雪花との会話終わり、不意に意識してしまったため、動揺が隠せない。いや確かに、このくらいならもっとヤバい場面はあったし、抱きしめられたりとかしたこともあるけど________

 

(......もう、球子に強く言えないかもしれない...)

 

「つっきーもうちょっと...」

「変な甘え癖ついてないか?お前」

「今更なんよ~」

「お、おう...」

 

今日全部が終わった後でよかったと思いながら、俺は園子の頭を撫で続けた 。

 

 

 




ゆゆゆい二周年記念放送にて、きらめきの章が秋ごろ開始とアナウンスがありました。冒頭の展開も実際に見ましたが、花結いの章の終わりから繋がってるようです。

ツイッターの方では軽く言ってるんですが、今自分は花結いの章完結編として新章を作ってます(現在五話目)。予定ではきらめきの章と被る要素がほぼありません。

きらめきの章にスムーズに繋ぐにはやらない方が良いとは思ってもいますが...折角作ってますし、ifとして出すのもありかなと思っていて、現在投稿しているものと平行して作り、完結まで作ってから投稿したいと考えてます(あくまで予定ですが...)

何か意見だったり、第三の案を提示出来る方いらっしゃいましたら、感想やリクエストの方に是非お願いします。

長くなりましたが、今後もこの作品を楽しんで貰えれば嬉しいです!

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