古雪椿は勇者である   作:メレク

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ゆゆゆい編 41話

「何で私がこんなことを...」

「お前が悪いんだし諦めろ。これに懲りたら勝手に俺の部屋に入らないんだな」

 

薄い布一枚向こうにいる彼の顔は、きっとにやっと笑ってる。

 

「じゃあ私達も...」

「入っちゃおうか?」

「お店に迷惑だからこいつの所に入るのはやめろよ?」

「「は、はーい」」

「狙ってたなこいつら......」

 

(はぁ...)

 

シャーっと鳴る音がして、私はもう一度ため息をつき_______仕方なく、服のボタンを外していった。

 

 

 

 

 

『やっほー。お邪魔してます』

 

今朝。彼の部屋に行ったことに特別な意味があったわけじゃない。

 

『......』

 

朝食作りから帰ってきた彼は、てっきり何でここにいるとかツッコミが来るかと思ってたものの、返事は特になく、私を無視してベッドに倒れ込んだ。

 

『え、完全に無視?』

『...九時に起こして......』

『は?何言って...ちょっと、聞いてるの?』

 

私の質問に答えることはなく、すぐに寝息が聞こえてくる。

 

『...全く、なにやって』

 

一応敵が、というかそれ以前に家族でもない人が自分の部屋に突然現れて、それを無視する人がいるのか。詰め寄って叩き起こしてやろうかとも思ったけど、私の手は彼の肩に触れることはなかった。

 

(......)

 

そっと、目元をなぞる。

 

(...随分深いな)

 

目の下に、隈がばっちり描かれていた。

 

(何やってたんだろ)

 

机の方を見てみれば、理由はすぐに分かった。ノートにびっしり書かれた計算式は、私でも簡単に解けそうなものから、解ける気が全くしないものまで。

 

でも、計算式やらメモが多いのは私でも解けるものばかり。

 

(...見てあげてるのかな)

 

後輩に教えられるよう、やり直して、分かりやすく解説出来るように工夫してるように見える。

 

『......』

 

寝息を立てて目を閉じてる姿は、どうしても同じ黒髪の子を思い出させてきた。

 

『...はぁ』

 

結局、私が起こすことはなく、時間はいたずらに過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

私がここに来たのは八時前。それからもう一時間くらい経ったから、彼の指示通りなら起こさなきゃならない。

 

でも、私は起こすつもりになれなかった。爆睡してるし。

 

そのまま更に30分くらい経った。何か、からかえる物がないかと部屋の中を見たけど、あまりなかった。

 

「後は...」

 

充電されっぱなしのスマホに手をかける。男子にとって恥ずかしいものは大体ここに入ってる。

 

「わっ」

 

パスワードがあるか確認しようとしたら、表示されるのはスタート画面じゃなくて、通話画面だった。突然震えて取りこぼしそうになるのをなんとか手元に残す。

 

相手として表示されたのは『結城友奈』

 

「......もしもーし」

『あれ?赤嶺ちゃん?何で赤嶺ちゃんが椿先輩の携帯から?』

 

いつかのように怖い目を向けられないよう、適度にからかわないといけない。かける言葉を考えてるうちに、私の手元からスマホがなくなる。

 

「え?」

「悪い!!もうすぐつくから待っててくれ!!」

『あ、分かりました!』

 

すぐさま通話を切った彼は、急いで準備を始めている。

 

「確かに起こす義理はないが、完全に寝過ごしたじゃねぇか!!」

「君が悪いんじゃないかな?」

「分かってるよ!!お前がいるって油断して目覚ましかけなかった俺が悪い!!」

 

そう言うと、何故かクローゼットの中に入ってた靴を履き、窓を開ける。

 

「来てもらうぞ赤嶺!」

「え、えぇ!?」

 

高速で抱えられた私は、すぐに風を浴びる。屋根をつたって走るのは、普通の人間には難しい芸当だった。

 

「こんなことに勇者の力を使って...というか離して!」

「暴れんなって!大赦にバレなきゃ問題なし!大体お前がいるのにこの格好になってないのもおかしいしな!後は...言い訳に使わせてくれるとは思わんし、遊び相手を増やして許してもらうための納品物だ!」

「何それ、あんた...っ!」

「どうせ俺の部屋で何かするつもりだったんだろ?いいじゃん」

「......いいから、離せっ!!」

「うごっ!!!」

 

 

 

 

 

蹴り飛ばした後は帰ることも出来たけど、結局私は集合場所だったらしい『イネス』にいた。待っていたのは二人の友奈。

 

彼は遅刻したことを謝っていたが、二人は何も言わなかった。私の蹴った後が少し残って痛そうだったのと、私自身を持ってきたからみたいだ。

 

(遊び相手って...)

 

「赤嶺ちゃん赤嶺ちゃん!一緒に映画見に行かない?」

「面白そうなのが公開されてて、見ようねーって話はしてたんだけど」

「......」

「俺は特にどこか行きたいって希望はない。映画は事前に話してた今回のメインだし」

「...じゃあ、そこ行けば?」

「「わーい!!」」

「じゃあ行こっ!!」

「赤嶺ちゃんの分の席取らなきゃ!」

「お前らが話してる間に予約はしといたぞ。元から取ってた分の隣が空いてたから」

「流石椿先輩!!」「流石椿君!!」

 

(それもう決められてるじゃん...あぁもう...)

 

「取り敢えず、離して...」

 

今日はやたら引っ張られる日だ。なんて、まるで自分のことじゃないように考えてる自分がいた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「お綺麗な姉妹さんですね~」

 

タイムスリップものの映画を見て、パスタが有名だというイタリア料理屋さんでご飯を食べながら感想を語り合い、ユウの提案で訪れた洋服屋さんで三人の試着を待つ俺。

 

女物の服だけ取り扱ってる店なだけに居心地は良く感じないが、話しかけてきた店員さんには完全に同意した。

 

(姉妹って点だけ除けば。な)

 

「自分もそう思います」

 

三人の友奈。時代を越えて語り継がれる名。この世界がなければきっと知る筈もない相手。

 

そう思うと、無意識に口角が上がるのを止められなかった。

 

(こんな仲良くなってるんだもんな...)

 

その姿を見ていたい。出来ることならその輪に混ざりたい。そう感じるのは不思議じゃない筈だ。

 

「椿君、これどうかな?」

「椿先輩!これどうでしょう?」

「二人で色違い選んでたのか。似合ってると思うぞ」

「二人じゃないですよ」

「てことは?」

「......なんで私まで」

 

嫌そうにカーテンを開ける赤嶺は、そう言いつつも律儀にお揃いの服を着ていた。

 

「やっぱり赤嶺ちゃん似合ってる!」

「可愛い~!」

「ちょ、やめ...先輩、結城ちゃん!」

 

もみくちゃにされてる赤嶺を見て、ほほえましく思いながら少しだけ胸がつまる。現状、将来的に彼女とは_______

 

(まだ、考えなくてもいいか)

 

「赤嶺も可愛いぞ」

「っ...っ!」

「...赤嶺ちゃんだけずるい」

「おい、そんな風に言わなくたって俺の言葉にそんな価値ないだろ」

 

思考に蓋をして、俺は笑った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「楽しかったぁ...で、お前はいつまでついて来るんだよ?また俺の家来るのか?」

「行ったら不味いの?」

「いや、夕飯追加で買い物しなきゃいけないから」

 

何でもないように言う姿は、私でもよく見る顔だった。

 

「まぁ、飯食って風呂入ったらさっさと寝るつもりだし、楽しめる部分はもうないと思うぞ」

「朝も寝てたのに?」

「痛いところを言うんじゃない...第一、あれ二度寝だから朝は起きてた」

「完璧に屁理屈だ...」

 

小さな仕返しが出来て少し心が弾む。本当だったら今日付き合ってる間も何かしらやってやりたかったけど、二人の友奈がずっと私か彼の隣にいて何も出来なかった。

 

_______後、気になってるのが一つ。

 

「......ねぇ」

「んー?」

「あんなに眠そうにしてたんだし、断っても良かったんじゃないの?」

 

誰かの為に準備して、無理して、遊んで。そうまでする必要はあるのかと思ってしまう。

 

ちゃんと言えば二人だって納得するだろうし。なんなら看病もしてきそうだ。

 

「誰が断るかよ」

「だって眠かった理由だって机に広げてたやつでしょ?」

「それもあるが、今日は色々重なっただけで普段からあんなんじゃない。大した無理をすると怒られるしな」

 

「それに」と一区切りをいれて、彼は話続ける。

 

「さっきも言ったが、楽しいから。あいつらと一緒にいるのはさ。だから約束を破って休むなんてしない。その為の自己管理もちゃんとする」

「ダメだったじゃん」

「アラームかければセーフだったから!」

「ふーん......」

「?どうした?」

「何でもない」

 

夕焼けに照らされる顔には、朝に見た隈が幻のように消えていた。

 

(......)

 

「お、帰るのか?」

「言う通り、これ以上いてもご飯が食べれるくらいだからね」

「別に食ってっても良いけどな」

「遠慮しとくよ」

「...そうか、じゃ、またな」

「......さよなら」

 

踵を返して、彼とは逆の道を歩く。

 

(また、なんて...)

 

次会うときは敵かもしれない相手に言うような言葉じゃない。それが意味するのは_______敵として見られてないのか、それとも。

 

「はぁ...」

 

ポケットに手を入れると、さっき入れてたものが指の先に触れる。

 

『椿君!もうちょっと近寄らないと!』

『いや、俺は外でも...』

『えー...』

『分かった、分かったからそんな顔するな。赤嶺詰めてくれ』

『...こっち?』

『俺に詰めなくていいから!?そっちで固まれっての!』

 

全員で撮ったプリクラの写真、四つに切られたうちの一つを渡されたのだ。キラキラにデコレーションされた中には、笑顔が二つと、微笑が『二つ』。

 

(...私は)

 

見上げた空は、オレンジ色に輝いていた。

 

 

 

 

 

「あれ、そういや、何であいつ俺の部屋に来たんだろ?」

 

 

 




この回書いてからゆゆゆい編4話を見返したら、この頃違和感覚えてたことは当たり前のようにスルーしてる感じがして、仲良くなってきたかなと思いました。

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