古雪椿は勇者である   作:メレク

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ゆゆゆい編 42話

「......」

「ふん、ふんふ、ふ~ん」

 

小さく流れる鼻歌と、目の前で鳴らすタイピングの音が耳に入る。一区切りさせた俺は、うんと背伸びをした。

 

「んー...あと少しってところかね」

「お疲れ様です。つっきー先輩」

「お疲れ。園子ちゃんは順調か?」

「結構良いペースです!」

「...よかったよかった」

 

本当はあまり良くないことなのかもしれないが、屈託のない笑顔を否定する訳にもいかず、目を逸らしたついでに時計を見る。

 

「あー、そろそろ昼か。俺弁当持ってきちゃったんだが......」

「私もあります~!」

「分かった。一緒に...食べるか。うん」

「はい!」

 

俺の言葉の前に、可愛いお弁当箱を持って俺の目の前に座った彼女を見て、ノートパソコンを端にやった。

 

「ちょっと待ってな...あったあった。じゃあ食べよう」

「は~い」

「頂きます」「頂きま~す」

 

今日は休日。勇者部の活動自体はない。 他の皆は普通に趣味の時間として使ったり、買い物に出掛けたり、ダラダラ過ごしたりといったところだろう。俺も普段ならそうする。

 

そう思って珍しく遅めに起き、家で本を開く前に、バックの中に入ってる宿題のやり残しと、勇者部が教師や生徒会に出す簡易的な書類を作ってなかったなと思い出した。

 

ならば今日一日は復習なり読書なり、色々部室でやればいいという考えになった俺は、荷物を持ってバイクで来たのだが_______そこに、先客がいた。

 

『あれれ?つっきー先輩?』

 

小学生の園子ちゃんは、俺を見て目を丸くしていた。きっと俺も似たようなものだっただろう。

 

『園子ちゃん?どうしたんだ?今日は活動ない筈じゃ』

『それはつっきー先輩もですよ~?』

『俺は図書室代わりに使いに来たようなもんだよ。園子ちゃんは?』

『私は小説を書こうと思いまして。ここで書いてると普段の皆さんを思い出して色々アイデアが浮かぶんです~!』

『......そ、そうか』

 

この時の俺は、動揺を隠せていただろうか。

 

(俺らをネタにするんだと堂々言われたらな...)

 

正直なところ、彼女の進捗が順調と言われても、素直に喜びきれない。園子程ではないにせよ、園子ちゃんも色んな意味で十分凄いのを作るのだ。

 

「つっきー先輩?」

「あ、ごめん。ぼーっとして...って、口元汚してるぞ。ほら」

「あっ、ぅ~ん...」

 

ティッシュで口の横についてたソースを取ってあげる。

 

「ありがとうございます~」

「食べ終わってからやってあげれば良かったかな。二度手間だし」

「また拭いてもらうので平気です!」

「いや、ちゃんと自分で拭きなさい」

 

頭に軽くチョップを入れると、えへへと笑われた。

 

(全く...にしても、珍しいかもな)

 

普段彼女は小学生組で行動してたり、そうでなくても俺と二人だけってのはそうそうあることじゃなかった。

 

(...もうちょっとお兄さんっぽくした方が良いんだろうか)

 

結局、その後二回彼女の口元を拭いた。

 

 

 

 

 

「これ、何をやってるんですか?」

「報告書...簡単に言うと、勇者部が何をやってきたかってのを皆に教えられる日記みたいなのを書いてるんだよ」

「成る程ー」

 

二人で昼を食べた後。俺が何をやってるのか気になったのか、園子ちゃんが聞いてきた。

 

見やすい場所に来なと言ったら、俺の膝の上に座っている。若干パソコンが見にくいのと、目の前に園子ちゃんの小さな頭があって少し緊張する。

 

「まぁ、これももう終わるけどな。部費とかは大赦のバックアップがあるから、本当に何やったか書くくらいで良い」

「終わったらもう帰っちゃうんですか?」

「いや、終わったら軽く復習して、後は何しよっかなって」

「じゃあ遊びましょう~!」

「分かった。何するか考えといてくれ」

「は~い!!」

 

手をあげる彼女の頭を撫でて、膝から降りて貰った。

 

(じゃあ、さっさと終わらせますか...!)

 

俺は普段より集中して早く頭に叩き込ませるため、ペンを走らせる。

 

「でもつっきー先輩、ここ脱字してますよ?」

「え、ホント?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「へー。昨日そんな感じだったんだ」

「うん。その後はね~。つっきー先輩が持ってきてたゲームを一緒にやったの~」

千景先輩とやってるのを見たことあるそれは、見てるのも楽しかったけどやってみるのも面白かった。自分でも欲しくなるくらいだ。

 

「それならアタシも部室行っときゃ良かったなー」

「いや...」

「つっきー先輩優しいんだ~。全部教えてくれるし、遅くなってからも私がもう一回!って言うと『じゃあもう一回だけな』って言ってくれて。帰りも送ってもらっちゃった」

「あの...」

「へぇー。流石椿さん!」

「ここでこっちに話しかけるの?」

 

私の真上から声をあげるつっきー先輩は、ミノさんに話しかけられて微妙な反応をした。

 

「というか園子ちゃん」

「はーい?」

「返事は大変よろしいが...なんでここに?」

「ダメですか?」

「普通に考えて良くはないと思うぞ。もうすぐ中学生になる年だし」

 

昨日と同じようにつっきー先輩の膝に乗って、ミノさんと話してただけ。なのに、つっきー先輩はあまりそれをよしとしてないみたいだった。

 

「昨日はしてくれたじゃないですかー!」

「いや、あれは画面見るためで...あと、皆がいる前は流石に恥ずいし......」

 

ごにょごにょ側にいる私にも聞こえない声で何かを呟いた後、「とにかく!」とこっちを向いてくる。

 

「おしまい!」

「えー!!嫌ですー!!」

「頬を膨らませるな。子供じゃないんだから」

「まだ子供だもん!」

「あぁ、おい...」

 

大人しく座ってたのを一度降ろされて、今度はコアラみたいにしがみつく。つっきー先輩の匂いが鼻をくすぐった。

 

「はぁ......分かった。座ってていいからこの体勢はやめなさい」

「やったー!!」

「全く...わがままなんだから」

 

そんなことを言いつつ、仕方ないといった風にしつつ、頭を撫でてくれるつっきー先輩。私よりおっきい手は優しかった。

 

(嬉しいなぁ...)

 

暖かくて、触られるだけでほんわかした気持ちになる手。側にいるだけで心地よくなれる空間。

 

勿論ミノさんやわっしー、他の皆さんでもなるけれど、安心感だけでとってみたら、つっきー先輩は破格だ。

 

でも、私がこうしているのは、それだけじゃない。

 

「むー...」

 

ちらりと横目で見た相手は、頬を真っ赤にして膨らましてて、ちょっと可愛かった。

 

私は小学六年生だ。少なくとも、私達がいた時代でつっきー先輩とはまだ会ってない。どのくらいおっきくなってからなのかは分からないけど、遅くてあと二年くらいで会えるんだろう。

 

そして__________あんなになるまで、好きになる。

 

「んー...でも私、もうやめます」

「そっか。よし、いい子だな......おい」

「なーに?つっきー」

「何で交代でお前が座るんだよ。園子」

「そのっちにやってあげて、私はダメなの?」

「いや、俺は園子ちゃんは許しただけであって」

「私だって園子だもーん!!」

「いや寄りかかるな動くな頭擦り付けてくるなっ!?」

「えっへっへ~」

 

小さい頃の私の行動にさえちょっと不満げになって、少し悲しそうな顔をして。この人に甘えてる時は、凄いにやけた顔になる。

 

そうなるくらい、私達にとってお気に入りスポットになっている。

 

「つっきー成分ほじゅ~」

「俺から出る成分なんて汗くらいだっ!!お前らみたいに良い匂いはしないっ!!」

 

他の皆の時も、怒ったり、悲しんだり、一緒に喜んだり。

 

小説では、見たことも書いたこともある。恋をして、振り回されるように一喜一憂して、成し遂げていく。そんなお話。

 

「ねぇつっきー。離れてほしい?」

「あぁ。どいてくれ」

「本当に、離れてほしいの?嫌なの?」

「うっ...嫌ってわけ...いや、いいから離れろ!!」

「んー...じゃあ、条件。園子って呼んで~」

「園子さん、どいてくれ」

「もっとちゃんと感情込めて!呼び捨てで!」

「えぇ...」

 

二年後、自分がそんな話に出てきそうな人になるのが、ちょっと楽しみだった。

 

(私は、そうならないかもしれないけどね~)

 

「ただいま戻ったわよーって椿!?何やってんの!?」

「椿先輩、園ちゃん...あわわわ」

「いやお前ら誤解だ!!俺は何もしてない!!!」

「つっきーが許してくれたんだよ?ここに座ってもいいって」

「だからそれは園子ちゃんに!」

「椿、あんたそれ許してんじゃない!!」

「ひっ!?」

 

つっきー先輩の取り巻く環境は、今日も今日とて平和である。

 

「園子先輩、つっきー先輩と一緒にゲームすれば、そこに座ってても許してくれますよ?」

「本当?つっきー?」

「いやあれは園子ちゃんが小さいから画面見えてただけだし、お前じゃ見えないから」

「いい加減、離れろぉぉぉ!!!」

 

 

 

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