古雪椿は勇者である   作:メレク

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ゆゆゆが五周年になりましたね!おめでとうございます!自分もそろそろ新参者から脱却出来たかな?

そして、今回それに伴い公式から新たな五箇条が発表されてます。今決まってるのが、ゆゆゆい新章、新曲を含めたCDの発売。残り三つですが...CDの詳細を見ていただけた方はお気づきでしょう。これは......のわゆアニメ化来るのでは?期待していいのでは?


ゆゆゆい編 43話

(これで一週間連続かぁ...)

 

窓の外を見て、ため息と取られないであろう短く小さな息を吐く。本来であれば外にいる運動部の声にかき消される程度だろうが、今日はそうでもなかった。

 

ここ最近、香川は雨が多い。俺達が住む讃州中学、高校近辺は、その降水量を問わなければ七日連続で雨が降り続いていた。季節的に梅雨だし、仕方ない所ではある。

 

別に雨は嫌いではない。ただ、小さい頃から雨より晴れの方が遊びに幅が出来て好きだったのと、湿度が高くジメジメしてる方が好きではないため、ちょっと気が滅入る。

 

「弱くなった所を見計らって帰るとするか...」

 

そう思い、席を立つ。先生はすぐに許可をくれたので、本の必要ページ分だけ写真を撮る。

 

俺は今讃州中学校にはいるが、いつもの勇者部部室にはいない。歴史の本で調べものだ。高校や図書館にはない本があるので、なんだかんだ重宝する。

 

(こんな所で高校生になっても中学に通ってる利点が出てくるとは、誰も思わないだろ)

 

「よし...帰ってこれを見ればいいか」

 

本を元々あった場所へ戻し、また椅子に座った。机に頬杖をついて、窓の外を眺める。

 

(そういえば...)

 

前に聞いた話だが、俺が西暦に飛ばされた最初。若葉とひなたが倒れてる俺を見つけた時も、こんな雨模様だったとか。

 

(よく風邪引かなかったな...案外飛ばされてすぐ見つけられたのかな)

 

飛ばすにしてももっと良い場所に出来なかったのか、という愚痴は、今更言ったところで意味はない。

 

(西暦なぁ...もう懐かしいかも)

 

自分の意識では二年近くも前。というよりは、この世界にいるのが長いため、大体の記憶がかなり前のことに思える。

 

(じゃあ、若葉達との付き合いも大体二年か)

 

もっと前からずっと一緒だった気もするし、あいつらと知り合ってからまだそれしか経ってないのかと思う自分もいる。

 

(風とかはもう五年くらい、まぁ、銀に至っては何年目だって話だしなぁ)

 

この世界から消えるときに記憶はなくなるらしいから、本来風との付き合いを五年にするには高校を卒業するくらいまで必要になる。

 

(もう、そんなんかぁ...)

 

目を閉じなくとも色んな思い出が浮かんでくるが、辛いことも楽しいことも沢山あった。

 

銀が死んで、あの頃泣くだけだった俺が、今では同じ戦場に立ち、戦っている。

 

(...でもやっぱ、銀には頭が上がらないな)

 

くすりと笑って、俺はもう一度外を見た。

 

雨は、しとしと降り続いていた。

 

 

 

 

 

(止まなかったか...)

 

図書室で待ったものの、下校時間まで雨はあまり弱まらず、結局雨の中帰ろうとしている。まぁ別に、折り畳みの傘はあるから問題ないが。

 

「しまったな...」

 

そんな時、そんな声が耳に入った。見てみれば、見知った相手がそこにいる。

 

「若葉?」

「ん?あぁ椿か。こんな時間まで残ってたのか?高校生というのは大変なんだな」

「いや、帰るタイミングを探してただけだ。若葉こそどうしたんだよ」

「私は剣道部からの依頼を受けて、一緒に練習していた。こんな時間になるまで熱中していまうとは思わなかったが...」

「そっか...まさか、傘ないのか」

 

彼女のさっきの独り言と、状況から察してたどり着いた結論だったが、どうやら正解だったらしい。彼女は微妙な顔をして頷く。

 

「朝、ひなたに持っていくよう言われたのだがな...雨も降ってなかったし、忘れていた」

「ひなたが怒るぞ」

「あぁ...仕方ない。大人しく怒られるとしよう」

「え?大丈夫だろ」

「?」

 

走り出そうとした彼女に、俺は折り畳み傘を広げながら提案する。

 

「これで一緒に帰ろうぜ」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はぁ...はぁ...」

「......」

 

学校からの帰宅で、寮の自室の前にいる私。ただ、その息は荒くなってしまった。対象的に、隣は無言である。

 

椿と二人の帰り道。俗に言う相合い傘で帰っていた私達だが、その空気に緊張していたのは最初の数分だけだった。

 

突如強くなる雨。肩が触れるくらいなのに相手の声が聞き取れないくらいのどしゃ降り。いきなり襲われた私達に余裕は無くなり、ひたすらここまで走ってきた。

 

(ムードが欲しかったわけじゃないが!それは確かに違うが!これも違うだろう...!!)

 

「鍵、あったか?」

「あぁ。今開ける」

 

鞄から取り出した鍵は、いつも通り扉を解錠する。部屋に籠っていた湿気によるむわっとした熱が、少しだけ伝わってきた。

 

「じゃ、風邪引かないようちゃんと体拭くんだぞ」

「いや待て!?椿!?」

 

思わず離れていく手を掴む。拍子で私が持っていた鞄が落ちた。

 

「何?」

「何じゃない!椿こそ体を一度拭いていけ!」

「いや、俺これから自分の家に帰るから無駄だし」

 

そう言う椿は、私よりずぶ濡れだった。髪の毛から頬に水が流れ、制服も体にぴったり張りついている。

 

その理由も、分かっていた。

 

「お前、ずっと傘を私の上にやりながら走ってただろう!」

「そんな余裕あるかっての」

 

じゃあ、何で椿は顔まで全部濡れてて、私は上半身があまり濡れていないのか。

 

こういうことに関しては、椿は平気で嘘をつく。心中どう思ってるのか分からないが、私達の中でそれをよしとする者は多くない。

 

「ほら、お前も早く拭いてこい。じゃあな」

「そういうわけにはいかないだろう!!椿がここでシャワー浴びてかない限り、私はこのまま寝るからな!!」

「強情過ぎるだろ...」

「返事は!?」

「......分かった」

 

部屋に連れ込む直前、椿が何か呟いた気がしたが、雨の音で私の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

「ここに、替えの服と下着を置いておく」

「あぁ...ん?待て若葉」

 

いつも私が使っている浴室で、椿がシャワーを浴びている。少し緊張した面持ちで服を持っていき、足早に去ろうとした私を、椿が止めた。

 

「ど、どうした?」

「下着って...」

「安心しろ、男物だ」

「いや!?だから何でお前が男物を持ってんだ!?」

「!!あ、あぁ!?勘違いするな!!」

 

突然言われたことにハッとする。確かにおかしい。

 

「これは男装する時にひなたに買わされて、結局履かずに置いてあった奴だ!!趣味じゃないしさっき封を切ったばかりの物だ!!!」

「あ、そういう...」

「ズボンもシャツも男装の時の余りだし、まずこの部屋にお前以外の男子が入ったことはない!!いいな!?私はもう行くぞ!!」

「お、おう...ん?」

 

返事を待たずにリビングまで戻り、タオルで水分を拭き取る。

 

「全く...」

 

(椿が出てくる前に、着替えはしてしまおう...それだけで平気だな)

 

手早く着替えて、ふと一息つく。窓の外は、雷が鳴らないことが不思議なくらいにどしゃ降りだった。

 

(これは、帰さない方が良いのだろう...)

 

どうにも落ち着かなくて、冷蔵庫を開ける。コップも出して、冷やしてあった麦茶を二人分用意する。

 

「エアコンもつけるか...」

 

高い湿度を打ち消すため冷房をつける。エアコンは、一度重い音をあげて起動した。

 

「......」

「あーさっぱりした。ありがとな、若葉」

「!!そ、そうか。よかった」

 

いつの間に時間が経ったのか、タオルを首に巻きながら、椿が部屋まで出てくる。私は声が裏返ることなく返答できたことにちょっとだけ驚いた。

 

「お前は入らないのか?着替えまで済ませて」

「あぁ...お陰様でな。後で入ればいい」

「......そうかい」

 

ふいと目をこちらから離した椿は、窓の外を見て口をへの字にさせる。

 

「うわ...これ、帰れるのか」

「帰らなきゃいいだろう」

「え?」

「こんな状態では帰せない...私は帰したくない。ここに泊まれば良い」

「いや、そういうわけにも...」

「何か問題があるのか?」

「ぇー...気にしてるの俺だけ?」

「何を気にするんだ?」

 

この雨に濡れて帰ることより気にすることなんて________

 

「お前な...年頃の男女だぞ?いいのか?」

「......!!」

 

椿に言われて、ハッとする。

 

「いや!違うぞ椿!?」

 

相合い傘に緊張したくせに、何でこれを忘れてたのか。自問自答する前に、話を続けなければと焦る。

 

「私はひなたの部屋に行く!!ここで寝るのは椿だけだ!!」

「あ、成る程...焦らすなよ」

 

(焦ったのはこっちだ!!)

 

突然そんな、意識されてるような発言をされれば、気が気じゃない。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「じゃ、一日借りるな。おやすみ」

「おやすみ...」

「はい。おやすみなさい。椿さん」

 

ひなたの部屋の扉を閉めて、借りた鍵を隣の部屋に差し込む。さっきまでいた部屋と同じ作りだが、受ける印象はかなり違った。

 

(ひなたはかなり模様替えしてるな...)

 

鍵を閉めて、借りていたサンダルを脱ぎ、言われていた場所の歯ブラシの箱を開ける。一日くらいいいとは言ったが、二人に反対された。

 

『そんなことしたら、椿さんが私の部屋でお泊まりですからね!』

 

ひなたにそんなこと言われたら、逆らえるわけがない。

 

「ふぅ...」

 

磨きながら部屋干しされてる制服を触る。半日も経てばかなり乾くだろう。幸い明日は学校もなく、乾かなくても寝坊しても問題はないが。

 

「あひたにややんでるといぃんだが......」

 

歯磨きしながらの独り言は、もごもごして他人には伝わりにくくなる。

 

一応天気は良くなるらしいが、今の景色にその兆候はない。

 

「あ」

 

手早く口をすすいで、玄関前まで歩いて行く。しゃがんでつついた靴は、ぐじゅりと音を立てた。

 

「......こっちはダメか」

 

新聞紙でも入れといても明日には乾かないと躊躇いなく判断できる程で、諦めるしかなかった。

 

(しゃあない...寝るか)

 

本人から許可は貰ってるとはいえ、少し躊躇いながら布団へ入る。暗くした明かりは、外も真っ暗な曇りということで、何も照らすことは出来ない。

 

(......はぁ)

 

ふと頭を過るのは、今日の若葉。

 

『椿がここでシャワー浴びてかない限り、私はこのまま寝るからな!!』

『まずこの部屋にお前以外の男子が入ったことはない!!』

『こんな状態では帰せない...私は帰したくない』

 

少し強引なまでに心配してくれたり、深読み出来てしまいそうな言葉を言ってきたり、真剣な顔で話してきたり。

 

それをふと思い出すのは、彼女の部屋で、彼女の布団で寝ているからなのか、それとも。

 

(急に言われるから、心が持たんなぁ...)

 

突然そんな、意識してしまうような発言をされれば、気が気じゃない。

 

(......それも、悪くはない。か)

 

くすりと笑って、俺は瞳を閉じる。

 

(...おやすみ)

 

そう思った直後、自分でも驚くほどすんなり意識が微睡んだ。

 

 

 

 


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