古雪椿は勇者である   作:メレク

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今日みーちゃんこと藤森水都ちゃんの誕生日!おめでとう!!

おまけに七夕、更には勇者部オンリーイベントもやっていましたね!行った皆さんは楽しんだでしょうか...聞くまでもないかな。自分は最近星空を見てないので確認しようとしたら、雨でした。


誕生日記念短編 貴女にとっての星空は

「椿さぁぁぁぁぁん!!!!」

「離せ歌野ぉ!!は!な!せぇぇ!!」

 

一つ年下の後輩、白鳥歌野に襟を掴まれ、滅茶苦茶な勢いで振られる俺こと古雪椿。異常事態と捉えられても不思議じゃない状況だが、彼女を止めるのは誰もいなかった。

 

まぁ、理由が理由だけに分からんでもないが、巻き込まれてる当の本人なので本気でやめてほしい。

 

「みーちゃんへの誕生日プレゼント!!考えてくださぁい!!」

「分かってる!!分かってるから離せってぇぇぇ!!!」

 

きたるべき七月七日。この日は歌野の大親友という敬称すらぬるい、藤森水都と誕生日である。勇者部でもいつものようにお祝い事を企画してるし、俺も考え始めている。

 

だから、この揺さぶり攻撃は全く意味を成さないのだが______歌野は話を聞かず、俺はひたすら振り回されるだけだった。誰か止めてくれと言う願いは、誰にも届かず消えた。

 

 

 

 

 

「はぁ...それで、水都の誕生日ねぇ...」

 

崩れた襟元を整えながら、振られまくった頭の意識をなんとか保とうとする。

 

勇者部は元々あれが欲しいこれが欲しいと言ったわがままを言う人間が少ないが、水都はその中でも上位に入るだろう。

 

(強いて言うなら、『歌野』だが...)

 

ちらりと見ても、本人は首を傾げてくるだけだった。なんなら「私はもうみーちゃんの物です!」って言われても不思議に思わない。

 

「どうかしましたか?」

「い、いや、なんでも...パッと思いつくものはなかなか無いなって」

「そんなぁ!!」

「おいやめろもう揺すらなくていいからな。アイデアもお金も落ちないから」

「じゃあじゃあ、はい!」

 

固まってしまった俺達に向けて手をあげたのは、銀ちゃんだ。

 

「折角水都さんの誕生日が七夕なんですし、それにちなんだ物とかどうでしょう?」

「あー...七夕ねぇ」

 

七夕。短冊に願いを書き、笹に吊るすイベント。その由来は、織姫と彦星という人物がベースになる。

 

愛し合い、互いの仕事が疎かになってしまった二人は、天の川により引き離され、会うことを許されたのは一年に一度となった。それから二人は再び仕事に精を出す_______ざっくり話せばそんな感じだ。

 

ただ、その天の川等は、星である。俺達からすれば別に何てことないが、西暦の人間はその限りではない。

 

(水都はどうなんだろ...天恐)

 

天恐(てんきょう)。正式名は天空恐怖症候群。突然現れた星屑に恐怖し、奴等が来た空を見上げるのを躊躇うという精神病だ。外出する時は傘や帽子が必要だという人から、そもそも外出が困難という人も。

 

巫女である水都もこの世界ではバーテックスが現れても動けるし、空を見上げるのに苦しそうにしてるのを見たことはないが_______星を見上げることに抵抗があるのかは、今一分からない。

 

(かといってな...)

 

本人に聞くわけにもいかず、確証のないまま七夕を使うのも気が引ける。

 

(まぁでも...)

 

「?」

 

歌野がこの反応なら、平気だろうか__________

 

「あ、悪い」

 

突然震えた携帯を片手に部室を出る。着信の相手は水都。

 

(今日は大赦に行ってるんじゃ...?)

 

「もしもし」

『あ、古雪さん...』

「どうした?大赦で何かあったか?」

『いえ、そうではないんですが...後で来てほしい所があるんです。お願いできますか?』

「?」

 

 

 

 

 

ドアを開けると風鈴っぽい音がなり、開いたことを周囲に知らせる。

 

「いらっしゃいませ~!何名様でしょうか?」

「あそこの連れです...お待たせ」

「あ、いえ」

 

待ってもらったカフェには、ミルクティーかカフェラテに見える飲み物を飲んでる水都がいた。

 

「でも、いいんですか?先に飲んじゃって...」

「気が引けるなら自分で払ってくれ。わざわざ払わせることは謝るし、嫌なら奢る」

「じゃあ払います」

「...分かった」

 

『出来れば、勇者部の皆がいないところで...』

 

はじめ、彼女は公園で待ってると言ってくれたのだが、今日は風が強かったので室内を希望したのだった。俺の家は水都だけで入れず、水都の住む寮は歌野がいる。妥協案としてのカフェだった。

 

最も、こっちから指定したので奢ると言った俺に、彼女は遠慮したが。

 

「すいません、みかんジュースを」

「かしこまりました」

「......さて。で、話って?」

 

店員さんに注文して、去っていく姿を見送ってから先に促すと、彼女は頭を少し下げた。

 

「謝ることじゃないって言われると思うんですが...大赦の用事が早く終わって、さっき、部室に行って......すみません」

「......え?それだけ?」

「はい」

「...??」

 

俺の疑問が顔に表れていたんだろう。彼女がまた口を開く。

 

「あの...さっき、部室に行ったんですよ...?」

「それがどうして......ぁ」

 

 

念を押す言い方に、合点がいった。彼女は部室に行き、何事も無かったように去ったのだ。さっきの俺達の会話を聞いてたから______合点がいった俺は、自力で気づかなかったことに片手を頭に当てる。

 

「成る程、サプライズがサプライズじゃなくなったってことね...確かに水都が謝ることじゃないし、寧ろ俺らに非があるわ」

 

大赦にいるはずと部室で話していたのは俺達だ。

 

「でも、なんで俺だけに?」

「...楽しんで準備してるうたのんにはバレたく無いんですが、多分私の態度で気づかれちゃいますから。古雪さんなら上手くフォローしてくれるかなって」

「あー...」

 

水都の態度がちょっと変になれば、歌野は疑うかもしれない。その時俺に歌野と一緒に水都を気にするのではく、歌野にバレないよう水都の支援をしてくれということだ。

 

「分かった。やらせてもらう」

「ありがとうございます」

「おう...あ、折角なら聞いとこうかな」

「?」

「さっきも聞いてたと思うけど、お前、誕生日が七夕と同じ日だろ?だからそれにちなんだものにしたいって話になってたんだが...お前は星ってどうなのかな。って」

「星、ですか?」

「......星空を空から襲ってきた星屑と思っちゃって、空を見上げられなくなる。なんて人がいたからな。もしお前がそうなら、やめさせた方が良いだろうと思って」

 

天恐を噛み砕いて言うと、彼女は少し黙り込んだ。

 

「......私、星を見上げるのは好きだったんです。でも、諏訪に星屑が出始めた頃は、確かにそうなってました。見上げたら、白い星屑を思い出して...ちょっと、苦しかったです」

「じゃあ」

「でも今は...今は違うんです」

「え?」

 

でもその瞳は、光を灯したまま揺るがない。

 

「星屑が現れた時は、うたのんが飛び出して行くから。星空は怖いだけじゃなくて、うたのんを思い出させてくれるから。頑張る姿を見れるから。そう思ってたら、いつの間にか昔みたく好きになっていました」

「...愛の成せる技か」

「あっ!?や、やめてください!」

 

恥ずかしそうにブンブンと腕も顔を振る水都を見て、俺は微笑んだ。

 

「なんだよー。恥ずかしがることないだろ?寧ろ良いことじゃん」

「で、でもその言い方は恥ずかしいです!普段あんな古雪さんにそんなこと言われるなんて!」

「おいそれってどういうことだ。ちょ、水都さん?」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「改めまして!!みーちゃんお誕生日おめでとうっ!!!」

「あはは...ありがとう、うたのん」

 

私の部屋に、クラッカーの音が鳴る。いるのは私とうたのんだけ。

 

『めっちゃ重いんですけど...!!』

『椿さんファイトー!』

『アタシがやろうか?』

『......そんなこと、させられっかよ!』

 

皆とはさっきまで部室でお祝いして貰った。七夕がモチーフで、部室におっきい竹が飾られて、短冊も作って願い事を書いた。

 

残念ながら天気は雨で、今も星空を見ることは叶わないけど。

 

(ちょっと残念、かな)

 

「それにしても騙されたわ。まさかサプライズに気づかれてて、みーちゃんに隠されてたなんて」

「うたのん達、楽しそうだったから」

「椿さんもみーちゃんとグルだったし...やっぱりもうちょっと揺さぶってた方がよかったかしら」

「あ、あはは......」

 

今度、もしかしたらまた部室で悲鳴をあげるかもしれない先輩に心の中で合掌する。

 

「でも、私は凄く嬉しかったよ。うたのんが私のために一杯考えてくれて」

「みーちゃん......照れるわね」

 

思ったより恥ずかしがって頬をかくうたのんは、話題を逸らしたかったのか「そ、そういえば!」と続ける。

 

「皆はみーちゃんにどんなプレゼントをあげたの?私にも見せて!」

「へ?あ、うん...いいよ」

 

勇者部の一人一人から、となると、最近は物凄い量になる。勿論嬉しいけど、ちょっと持って帰るのが大変だ。

 

(幸せの重み、ってやつかな...ぇへへ)

 

「?これ、やたらビッグね」

「それ?あぁ、それは古雪さんがくれたやつなんだけど...なんだろう?」

「開けていい?」

「うん」

 

古雪さんに「誕生日おめでとう」と渡されたのは、両手で持つのがぴったりな立方体。多分何かの箱なんだけど、綺麗にラッピングされてて中身は分からない。

 

「「......!!」」

 

包装紙をうたのんが外すと、私達は目を開いた。無言でがさがさ準備をして、頷く。

 

「電気消すね」

「お願い...じゃあいくわよ!」

 

うたのんの掛け声と一緒に、真っ暗にした筈の部屋が輝いた。

 

「わぁ...!!」

「綺麗ね...」

 

部屋を埋め尽くす、星のような光。私の目には、本物の星にしか見えない。

 

「部屋で使えるプラネタリウムって、こんなに綺麗だったんだ......」

「良かったわねみーちゃん!椿さんも、今のみーちゃんの顔見たらガッツポーズくらい出そうよ」

「うん...凄く嬉しいもん、私」

 

古雪さんが、この前の話を聞いて、これを選んでくれたこと。

 

これを好きになった理由であるうたのんが、今ここにいてくれていること。

 

急に込み上げてきた感情がぐるぐる回って、整理できないくらい幸せな気持ちにさせてくれた。

 

(ありがとうございます、古雪さん。そして、ありがとう、うたのん...っ)

 

「!?みーちゃん泣いてるの!?」

「な、泣いてないよ!!うん!」

 

泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、咄嗟に誤魔化す。星空を映し出すくらいの光しかないからバレてない__________そう思っていた私は、後日うたのんが皆に話してて恥ずかしくなるけれど、それはまた、この先の話。

 

 

 

 


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