「改めて聞くと、やっぱり信じられないわね。椿がそんな感じだったなんて」
「いやいや!タマ達は嘘ついてないって!」
「いや分かってるわよ?でもねぇ...夏凜もそう思わない?」
「別に。椿本人から聞いてるしね」
「その割にあんたいつもここにいるじゃない」
「う、うるさいわね。いいでしょ話聞くくらい」
風の言葉に反発すると、東郷がくすっと笑った。一方で、若葉やひなたはどこか苦笑いだ。
「つっきーをそこまで思わせるのが勇者部だったということですなー」
「そう言われると恥ずかしいよ、園ちゃん」
「いいえ。凄く大切に思われてましたから。私達もその一員になれてとても嬉しいです。ね?若葉ちゃん?」
「そうだな。椿が帰ってからもこちらで話していたから、ずっと気になっていた」
「そしたら本当に勇者部に入って、椿さんだけでなく園子先生のような素晴らしい方にもお会いできて...!」
突然目を輝かせた杏を、「どうどう」と球子が止める。
(園子のせいでだいぶ染められたわね...)
隣の犯人をちらりと見ると、にんまり顔で私の頬に指を当ててきた。
「なーに?にぼっしー」
「やめなさい」
「えー。こんなにもちもちしてるのに~」
「......腕なら許すわ」
「わーい!」
「夏凜もデレデレじゃない」
「ち、ちがっ!園子は何言ってもやめないから諦めてるだけで!」
「じゃあ私もー!」
「友奈!?」
両隣から二の腕を触られて、少しこそばゆい。
「あんずん、ええか?にぼっしーの腕を揉むとな、創作意欲が沸くんよ」
「本当ですか!?」
「嘘に決まってるでしょ!!」
「むむ...杏、やりたかったらタマでやっていいからな!」
「相変わらず、話が脱線するな」
「うふふ...それだけ長く話せますし、良いじゃありませんか。今日はお休みの方もいますし」
西暦と神世紀301年の四国勇者は、たまにこうして集まって話をする。勿論他のメンバーとしないわけじゃないけど、このメンバーは集まった時だけ、ちょっと特殊な話をするのだ。
それぞれの時代、椿はどんな感じだったのか。
あいつは余計な誤解を生まないためか、直接関わりのないメンバーに対して、過去に行ったことがあると言うことを明言していない。別に話題として隠してるわけじゃないし、気づいてる人もいるが、ちゃんとは言ってないのだ。
それでも、それぞれの話を沢山聞かされた私達は、やっぱりもう一つ過ごした時代がどんな感じなのか興味があって。椿以外の客観的視点の話も聞いてみたかった。
「これ、何度目よ...」
「まぁ皆で話してる所で、たまにあいつの話題が入るだけだし」
だから時々、こうして集まって話をしている。といってもさっきみたいに脱線することが多くて、一度に話すのは凄い少ないけど。
ちなみに今日は、銀と樹、高嶋と千景が休みだ。銀は日用品の買い物をしたいらしくて、樹も用事、後半二人は新作ゲームの発売日なんだとか。千景が話してた所に高嶋が『私も一緒に行きたい!』と言っていたのを部室で聞いてる。
「というかあんた達いい加減にしなさい」
「「えー」」
「えーじゃない!」
両手で二人の手をどけると、今度はその手をつんつんしてくる。
「夏凜ちゃんは照れ屋さんなんだからー...あれ、電話。銀ちゃんからだ。はーい...うん、分かった」
何か言われたのか、友奈がスマホの通話をスピーカーにする。
『もしもーし。聞こえてる?』
「声少し小さいわよ」
『そりゃ小声で話してるから...スニーキングミッション中なんだよ』
「何故そんなことをしているんだ?銀」
『いやぁ...答えの前に確認なんだけど、今日友奈はそこにいるし、高嶋は千景と一緒に出掛けてるんだよね?』
「いるよ?」
「友奈さんについても、そう聞いています」
『じゃあ...園子に送った画像の光景、どう思う?』
『?』
園子がスマホを開いて目を見開く。そのまま私達に無言に見せてくれたけど、見せられた私達も目を見開いた。
画像の中では________椿にしか見えない奴が、高嶋にしか見えない奴にケーキを食べさせていた。
『!?』
『千景も全然見えないし、なんか凄まじくイチャイチャしてるし...アタシ夢見てるのか、皆の意見を聞かせてください』
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「それでどうだった?今月は」
「芽吹さん達が増えてからあたふたする事が多かったですけど、それも結構慣れたかなって感じがします」
「確かになー。俺もそう思う」
チーズケーキを口に運ぶと、舌を通じて体が喜ぶ。
「うまっ」
「ふふっ、オオスメですよ」
「いやーここまでとは...今度春信さんと会う時ここにしよ。ありがとな、樹」
「椿さんに紹介できて、私も嬉しいです」
そう微笑む樹は、二つ年下の後輩とは全く思えない。
(いつも成長を感じさせられるというか、なんというか......)
樹が勇者部の部長に任命されてから、そう期間は開かずにこの世界に来た。俺の意識は西暦時代の半年分が上乗せされてるが、樹から見たら、やっと環境に慣れてきたくらいで知らない人の大幅な増加だ。
それから、彼女は定期的に自分の評価を俺に聞いてきた。二年もすれば習慣に変わり、今は月に一度くらい、こうして集まって話をしている。
副部長の夏凛や姉の風にも聞いてはいるらしいが、学校も別、家も別な奴と二人きりで話すのは、そこまで機会が多くないのだ。
「樹も、もうしっかり者だな」
「もうちょっと頑張りたいとは思いますけどね」
「あの濃すぎる面子纏められてる時点で十分じゃない?」
「いえ!部長としてはまだまだです!お姉ちゃんより良い部長になってみせます!」
(既に姉を越えてるような...)
風もしっかり者だが、ボケ側に回ってる時は酷い。一方、しっかりしてきた樹は面倒を見るって感じではない。
「何かあったら言えよ」
「何もなくても今日みたいに呼びます。そして甘えます」
「...そうだな。好きにしてくれ」
「じゃあ、はい」
「?」
「頭、撫でてください」
「......しょうがないなぁ」
子供扱いしてる感じもしなくもないが、本人の希望だからと頭を撫でる。ふにゃふにゃと何か言っている彼女が可愛らしく、俺はもう少し続きを________
「ん...?すまん」
「あ、はい......」
唐突にかかってきた電話に出る。風だったので樹に見せてから、席も立たずに画面をスライドさせた。
「もしもし。どうした?」
『椿!?あんたどうやって電話出てんの!?』
「はぁ?」
『スマホ持ってすらないし...高嶋と喋りながら何で返事できてんのよ!?』
「......全く理解できないんだが。ユウが何だって?」
『何ってドゥワーッ!?!?』
「え、何、何事?」
変に小声なのにどこか怒ってる口調の風に、俺は首を傾げるしかなかった。目の前でケーキを食べてる樹も、俺の顔を見てきょとんとしている。
『もしもーし。椿?』
「銀?どうしたんだよ風の奴」
『動揺のあまり喋れなくなってて代わりに...というか、アタシも傷が深い。いやまぁ、あそこまでやってくれたから逆に信じられるけど...』
「は?いい加減分かるように説明してくれ」
『うーん...一つだけ確認なんだけどさ。今どこにいる?』
「どこって...喫茶店でチーズケーキ食ってる所だが」
一応樹の相談は、『皆さんが迷惑かけてるかもと思われるのも嫌なので...』と言われているので、伏せて誤魔化す。一方銀は、どこかホッとした息をついた。
『よかった...こっちで起きてることなんだけどさ、見てもらった方が早いだろうし、グループに送るね』
「ん?あぁ」
ものの数秒で、勇者部全体のグループに二枚の画像が貼られた。俺はそれを見て_________
「んぐっ!?ごほごほっ!?」
飲んでいたみかんジュースを吹き出しかけた。樹もそれを自分のスマホで見て、胸元を叩いている。
画像では、俺とユウがケーキを食べさせあっている画像と、白昼堂々キスしている画像が写っていた。
友奈とユウの見分けがつく俺だが、画像の中で微笑んでいるのはユウにしか見えず、俺も俺自身にしか見えない。
「おい!これなんだよ!?」
『いやーアタシ達にもさっぱり。今わかるのは一枚目がさっき隠し撮りした写真で、二枚目が今も行われてるってことだけですねー』
「今!?」
『皆で後追ってるんだけど、椿と高嶋にしか見えないし...ドッペルゲンガー?』
「そんなレベルで済まされるもんなのか...?」
『銀ちゃんこれどういうことぉー!?!?』
「うおっ」
突然通話に割り込んできたのはユウだった。グループの場所で通話してるし、割り込んできた理由なんて明らかだ。
『どうもこうも、今目の前の景色をだな』
『私今ぐんちゃんとゲームの買い物してる最中なんだけど!?つ、椿君と、こんな...こ、こんなことしてないもん!!』
「うん...俺もやった覚えがないし、そう思うには似すぎてるし...恥ずかしいんだが」
『椿さんいよいよ覚悟決めたんですか!?』
『雪花ちゃん!?』
「いや、だからこれはだな...」
『お昼からこんなに人通りの多そうな所で...キャー!』
「誰だ?水都か?」
『椿さん......こんな画像を載せるなんて、どういうことですか?』
「今度は芽吹!?俺があげたわけじゃねぇし!あぁもう収集つかねぇ!!」
あっという間に通話に参加してくる人間は激増し、俺は頭を抱える。樹が心配してくれて、頭を撫でてくれてるが、その優しさも胸に染みた。
(普通にくっそ恥ずかしい...!!)
全く覚えのないこととはいえ、まるで自分がやったことのように思わせてくるくらいには、画像の俺は俺らしかった。
特に、その二人の顔が『幸せです』と思いっきり語ってきてるのが________
「銀!場所教えろ!!絶対捕まえて吐かせてやる!!どうせ別世界の古雪椿とかそういうオチだろ!!」
『!!』
『あ、あー。その考えがあったわな。了解。じゃあ尾行を...あれ?皆、あの二人どこいった?』
『どこってミノさん、あっちに...あれー?』
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「いやー。まさか見つかるなんて思わなかった」
「尾行らしい尾行じゃなかったから上手く撒けたけどなぁ...誰が見つけたのやら」
「折角少しずつ大元から吸いとった力で、やっと行けたデートなのにさー。ぶー」
「まぁまぁ。この神樹の中で作られた世界にじゃなかったら、どれだけ力を蓄えても現界なんて出来ないわけだし。マンネリ防止にはなっただろ」
「ん......」
「......はぁ。大体お前喜んでただろうが。愛の逃避行みたいって」
「バレてる...」
「お見通しだ。いつまで一緒だと思ってる」
「これからもずっとだもんねー?」
「そうだよ。なのに、我慢できないってあんな所でキスしてくるし...いつもしてるんだから我慢しろよ」
「ノリノリだった癖に」
「うぐっ...」
「お見通しだ。いつまで一緒だと思ってる?」
「真似できてねぇよ。このやろ」
「あた...えへへ」
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「じゃあぐんちゃん、おやすみ~」
「えぇ。おやすみなさい」
パタンと扉を閉めて、すぐ隣の扉を開ける。部屋には当然誰もいない。
ぐんちゃんとゲームを買いに行った私は、お昼を食べてからぐんちゃんの家で早速プレイを始めた。本当は、お昼の時に一悶着があったんだけど__________
(......)
発端となった画像を見る。どう見ても私にしか見えない人と、どう見ても椿君にしか見えない人が、ケーキをあーんしてたり、唇を合わせてたり。
顔が真っ赤になってるのを分かっていながら、その画像から目を離せなかった。
結局あの二人は、その後探しても見つからなかったこと。そっくりさんにしては似すぎてるってことから、椿君が言った『別世界の俺達が紛れ込んだ』という結論に纏まった。
(私も、そう思う...でも)
画面の向こうにいる私は、あの人の隣で、幸せなんかじゃ言い表せないくらいに嬉しそうな顔で。
「......私も」
そう呟いて、静かに、自然に、その画像を保存した。