古雪椿は勇者である   作:メレク

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遅くなってしまいましたが、棗さんの誕生日回です!おめでとう!!

ちなみに今回は、先日公開された古波蔵棗の章を先に読んでおくことをおすすめします。


誕生日記念短編 絆の先にあるもの

「これはなかなか...」

 

一部のコンビニ限定で売られていたみかんジュースに舌鼓を打ち、脳内ランキングを更新させる。上位には入らないが、期間限定品ということで買いだめしておくのも良いだろう。

 

(今度お金多目に持ってこ...ん?)

 

「よしよし......」

 

帰り道には、知ってる奴がいた。というか棗だった。

 

「棗?」

「ん?椿か?」

「あぁ。どうしたその子?」

 

棗の手の先には、艶やかな茶色の毛並みを揃えた犬が座っていた。撫でられているのが気持ちいいのか、『くぅ~ん』と鳴いている。

 

「どうやら迷子のようだ。首輪はあるから野良ではないようだが...」

「成る程。首輪に名前とか住所は...無いみたいだな。おー悪かった悪かった」

 

首もとを触られたのがお気に召さなかったのか、唸る犬を宥めるために撫でる。銀のお墨付きは犬にも効力があったようで、大人しくなってくれた。

 

「じゃ、探すか。確かあっちに交番あったはずだから、探してる人いるか聞いてくる」

「私は...下手に動き回っても不味いな。そこの公園にいる」

「了解」

 

勇者部で迷子の犬猫の捜索、里親探しなんてのはよくやることだ。慣れた感じで互いの動きを決め、実行に移す。

 

「すいません、すぐそこで首輪を着けた犬を見つけたんですが________」

 

交番で事情を説明するも、飼い主さんはまだ訪れてないらしい。ちょっとだけ周囲を探し回ってそうな人がいないか確認するも、そうした人はいなかった。

 

進展がないので公園に戻ると、ベンチに棗が座り、その目の前に犬がお行儀良く座っている。彼女の飼い犬と言われても信じて疑わないくらいのなつかれ具合だった。

 

(そういえば、犬飼ってたんだっけ)

 

名前は『ペロ』だったと思う。銀(小)が似ているとペロの扱いをうけていた。銀(中)はそうでもないらしい。

 

「棗ー」

「どうだった?」

「収穫ゼロ。もう少し範囲を広くして飼い主さん探してくる。見つからなかったら後で東郷に頼んでホームページ出して貰って、一度こっちで世話しよう」

 

今はもう放課後、もうすぐ夕日が沈む時間だ。流石に何時間もここにいる訳にもいかないし、見つけられない場合を考えれば今のうちに先のことを決めとくのが良いだろう。

 

「それが良いな。私も一緒に行こう。よし、行くぞ」

「ワンッ!!」

「随分なついてるな」

「扱い慣れてるのもある。ペロによく似ているんだ」

「へー...ペロも良い子だったんだな」

「あぁ......そうだな。とても良い子だった」

 

思い出しているのか、空を見上げる棗。

 

「私の言うことは聞いてくれるし、気を使ってくれるし、沖縄にバーテックスが来た時なんかは、天寿を全うするまでずっと星屑の場所を教え続けてくれていた」

「...凄いな。バーテックスの場所が分かるなんて」

「私が敵視しているのが分かったんだろうな。反応していたのはペロだけだった」

 

人間より犬の方が嗅覚は優れているが、バーテックスから臭いがするわけでもないだろうし、ペロが特殊なだけだろう。それほど棗との絆が深く、互いに大切に思っていた筈だ。

 

そして、聞き慣れないが、天寿を全うするの意味は。

 

「...棗?」

「っ、なんでもない」

 

ふいと顔をそらされたが、その瞳は潤んでいたように見えた。

 

(......)

 

「すみません、この子の飼い主を探しているのですが、何か知っていることはありませんか?」

「ん?んー...分かんないなぁ。この辺に住んでるけど見たことないよ」

「そうですか...ありがとうございます」

「......俺も聞き込むか」

 

言葉はなく、かといって何か言うこともなく。俺は角から見えた人に声をかけた。

 

「すいません、あそこの犬について聞き込みをしているんですが_______」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

ペロに似た犬の飼い主は、探しはじめて一時間しないくらいで見つかった。

 

『ケルー!』

『ワンワンッ!!』

『ケル...まさかケルベロスが元じゃないだろうな』

 

椿がぼそりと呟いたことの意味はよく分からなかったが、飼い主の女性はとても喜んでくれていた。

 

なんでもこの辺りに引っ越して来たばかりで土地勘がない時に、長年愛用していたリードが切れて見失ってしまったらしい。

 

再会できたのも、椿が最初に見に行った交番だった。

 

『よしよし。良かったねぇ~。良いお兄さんとお姉さんで』

『ワンッ!』

 

完璧なタイミングで返事を入れるケルは、微笑んでいるように見えた。

 

「棗?」

「?椿?どうした?」

「あぁいや、どうしたって程でも無いんだけど...見つかって良かったな」

「あぁ。喜ばしいことだ」

 

言葉の割りに、自分の声が低いことを自覚する。こう、胸にしこりが残っているというか。

 

(...そうか)

 

「......なぁ。椿」

「ん?」

「私はもうすぐ誕生日だな。プレゼントはもう用意したか?」

「お前が聞いてくるの?それ...ま、まだだけど......なんかリクエストか?」

「そうだ。付き合ってくれ」

「...んん?」

 

 

 

 

 

「いや、ビビったわ...」

「どうした?」

「いえなんでも」

 

いつも来ている海辺には、水平線に沈みそうな夕日によって輝いてみる。心地よい潮風は、どこか私を落ち着かせた。

 

「それで、どうするんだ?泳ぐのか?」

「それもいいが...水着は着ていているしな」

「あ、そう...」

「......手伝ってくれ」

 

少し固い砂と、いくつか石を用意する。

 

椿の時間を貰って付き合わせている理由は、数分して出来た。

 

「これは...」

「あぁ。ペロの墓だ。元の世界で作る前にこの世界へ来てしまったからな」

 

最後の石を置いて、手を合わせる。

 

「ペロ。遅くなってすまない」

 

ペロの物を埋めたわけでもない。好きだった餌も用意していない。だがしかし、さっきの犬を、さっきの光景を見て、こうしなければとならないと感じて。

 

私は、片膝をつき、目を閉じ、頭を下げた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

墓。というには少し小さく、石を重ねて作っただけなので強い風が吹けば吹き飛ばされてしまうかもしれない。それでも、俺が手伝い彼女が建てたものは、そこの前で手を合わせている彼女の前では特に、そんなこと口が裂けても言えなかった。

 

「私は元気にやっている。勇者部という笑いが絶えない部活に入り、いつものように海にも入っている」

 

きっと、さっきのペロに似た犬を相手して、何か思う所があったのだろう。

 

「お前も、どこかで見てくれているだろうか」

「......?」

 

互いの空間を邪魔したくなくて離れようとしたが、袖を掴まれた。

 

「ここに、いてくれ」

「...分かった」

「ありがとう...ペロ。ここにいるのは椿だ。ペロの前では、あまり男子と仲良くしている様子は、見せてなかったからな」

 

少しずつ、彼女の言葉が小さく、途切れていく。

 

「......私は、心のどこかで、受け入れられてなかったんだ。お前と話せないことに、お前と、もう遊べないことに。だから、認めたくなかったから、こうして『墓』を用意する、気が、起きなかった」

 

少しずつ、袖を持つ手が揺れる。

 

「時間がなかったから作れなかった。ではなく、作らなかったの、だろうな。私は...嫌で。この世界に来てからは、タイミングを逃した、ようで......」

 

声に震えが混ざってきても、俺は何も言えず、ただいるだけだった。でも、気持ちは分かる。

 

俺だって、銀の葬式をまともに出れたわけじゃないのだから。

 

「だけど、さっきお前に似た犬と、その飼い主を見て、こうしたいと思った。今も涙が、止まらないが...それでも」

「...」

「許してくれるか?こんなに遅くなってしまった私を......」

波の音が、一度大きくなる。それでも彼女は動かない。

 

その姿はどこか儚げで、この袖を掴んでいる手を離してしまえば、泡になって消えてしまうんじゃないかと思ってしまって。

 

「......ペロ。初めまして」

「椿?」

「俺が言うのも変な話だが、棗の心の整理がつかなかったのは、仕方ないと思う。大切な存在がいなくなるのは、想像出来るものなんかよりずっと辛い」

「っ...」

「とはいえ、こんだけ長い間ってのもあれだしな...もしお怒りだったら、棗と一緒に謝るよ」

 

彼女はその言葉に、目を見開いた。

 

「...すまん、部外者がでしゃばったことして」

「いや、いいんだ。椿らしい...ただ私は、もう少し話したいことがある」

「...ごめんなさい」

「ペロ。お前が椿の話も聞いて、許してくれるのかは分からない。でも、私はもう止まるつもりはない。今日は、そういう意味で、ちゃんと思いを区切るつもりで、こうしている」

 

声に、凛とした覇気が戻ってくる。

 

「お前が安心して見ていられる私でいられるよう、今日からまた頑張る。だから、見守っていてくれると嬉しい」

 

その願いが届いているのか、なんてのは分からない。確かめる術なんてない。でも、きっと__________

 

「椿、もう一つ、お願いしてもいいか?」

「ん?どうした?」

「...これから寮まで、手を繋いで帰ってくれないか?」

「いいけど...はい」

 

差し出した手を、棗が取る。

 

「......椿の手は、冷たいな」

「いや、今のお前が熱いだけだと思うぞ」

「そうか...だが、温かい」

「...行くか?」

「あぁ」

 

涙のあとを拭った彼女を見て、明日はまた、もっとかっこよく見える彼女が見れるのだろう。なんてことを思った。

 

 

 

 

 

「......」

「...なんか、ごめん」

 

唐突に震え出すスマホを、一言謝ってから取り出す。

 

(雰囲気ぶち壊しなんだが......)

 

やらかした相手の名には『風』と書いてあった。

 

「......もしもし」

『あ、椿ー?ちょっと棗と一緒にあたしの家来てくれない?』

「え?」

『ちょっとご飯多目に作りすぎちゃってさー』

「......分かった。今から行く」

『何でそんな暗い声なのよ...まぁありがと。待ってるから』

「椿、どこか行くのか?」

「お前も一緒にな。夕飯は風の家になりそうだ」

 

 

 

 

『椿が足止め的なのすること多かったからねー。警戒される椿も知らない計画を立てようってなって』

 

まぁ、実際行ってみたら犬吠埼家は俺すら出し抜かれた棗の誕生日パーティー会場で、棗がまた泣いてしまったのだが。俺としては。

 

(今日じゃなければ、もしくは俺が誘導役だったら、あの電話かかってこなかったのになー......)

 

棗の手を握りながら、そんなことを考えてしまった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「また来たぞ。ペロ...?」

 

まだ朝日が昇り始めたばかりの頃。ペロの墓に花を添える。

 

今日は私の誕生日。放課後はいつも通り勇者部の活動があるし、学校前に来たかったので、前日のうちに買っておいた。

 

ただ、私はそこで疑問に思う。花束は『三つ』あった。一つは私。もう一つも分かる。気持ちが同じようで、また想ってくれることに嬉しくなる。

 

だが、この場所はまだ誰にも伝えていないのだ。もう一つの花束が__________

 

「......まさか」

 

何かを感じた訳でもないが、海を眺める。朝日が見える水平線に一つ、白い影が揺らいだ気がした。

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